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「経営者保証に関するガイドライン」を活用して事業承継をスムーズに!

株式会社は本当に有限責任?

「株主は,株式についての払込みまたは給付という形で会社に出資する義務を負うだけで,会社債権者に対して何ら責任を負わない〔有限責任〕」(神田秀樹『会社法第八版』8頁(弘文堂,平成18年)。会社法第104条)。私が学生時代に使っていた会社法の教科書にはこのような記載がありました。

確かに,法律上,株式会社の債務について株主が自分の財産で弁済する義務はありません。しかし,株主が社長でもある(以下「経営者」といいます。)株式会社たる中小企業においては,金融機関からの借入を自分の財産で弁済しなければならないことがしばしばあります。これは,金融機関から行った借入の債務について,経営者個人が保証債務を負担していること(すなわち,経営者が保証人となっていること。以下「経営者保証」といいます。)によるものです。

経営者保証が事業承継のネックに

中小企業は財務基盤が脆弱であることが多く,経営者保証によって信用を補完することができるため,経営者保証が中小企業の資金調達に寄与する面も少なくありません。事業が順調であれば経営者保証が何か問題を生じさせることは少ないでしょう。

しかし,事業承継を考えるとき,経営者保証がネックになることがあります。例えば,経営者がその地位を後継者に引き継がせたとしても,経営者保証を引き継がせるためには,金融機関の了解が必要となる場合などです。なぜならば,経営者保証とは,経営者と金融機関との間で締結される契約(保証契約。民法第446条第1項)であるためです。後継者の信用が不足するとして,金融機関が経営者保証を引き継がせることに難色を示すことも十分考えられます。

また,そもそも後継者が多額の責任を負う経営者保証を嫌がり事業承継を拒むこともありえます。そのような場合,事業承継自体を断念せざるを得なくなります。

経営者保証に関するガイドライン

事業承継に限らず,経営者保証にはさまざまな問題点があります。そこで,経営者保証における合理的な保証契約のありかた等の準則として,平成25年12月に『経営者保証に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」といいます。)が策定され,平成26年2月から運用が開始されています。このガイドラインは,日本商工会議所と全国銀行協会が有識者とともに協議を重ねて策定したもので,法的な拘束力はありませんが,実務において参考とされているものです。

事業承継の場面におけるガイドラインの内容

ガイドラインでは,前経営者の負担する保証債務について,後継者に当然に引き継がせるのではなく,金融機関は,保証契約の必要性等について改めて検討し,適切な保証金額の設定に努めるものとされています。保証契約の必要性等の検討や適切な保証金額の設定の際は,以下の内容について,考慮するものとされています。

【保証契約の必要性等の検討について考慮するもの】
イ)法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ)法人と経営者の間の資金のやりとりが,社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ)法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
ホ)経営者等から十分な物的担保の提供がある。
【適切な保証金額の設定の際に考慮するもの】
保証人の資産及び収入の状況,融資額,主たる債務者の信用状況,物的担保等の設定状況,主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等

(出典:『ガイドライン』5頁・6頁)

いずれについても,中小企業が保有する財産だけで,債務の弁済がどの程度可能なのかがポイントとなります。そして,このことの前提として,中小企業や経営者個人が金融機関への十分な情報提供や説明をすることが重要になります。

ガイドラインの特則について

令和元年12月には『事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則』(以下「ガイドラインの特則」といいます。)が策定され,令和2年4月から運用が開始されています。ガイドラインの特則では,以下の内容が定められています。

① 事業承継時において,原則として前経営者,後継者の双方から二重に保証を求めないこと。

② 令和2年4月1日施行の改正民法により事業のために負担した債務の保証契約について制限が規定されたこと(※)や,経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえ,前経営者が実質的な経営権・支配権を保有しない場合は,保証契約の適切な見直しを行うこと。

※ 実質的な経営権・支配権を保有しない者が保証契約を締結する場合は,所定の要件のもとで保証債務を履行する意思を公正証書で表示していなければ効力が生じなくなりました(改正後民法第465条の6第1項)。

事業承継に備えた中小企業の財務基盤の確立を!

ガイドラインやその特則は,実は,中小企業に借入を返済できるだけの十分な財産があることが明確ならば,保証人を求める必要性はないというある意味当然のことを定めたものだと考えられます。

長期的な視点をもって,中小企業の明確な財務基盤を確立していくことが,結局は事業承継における経営者保証の問題を解決する一番の方法といえます。

なお,ガイドラインでは,中小企業が倒産した場合や事業再生を行った場合の経営者保証のありかたについても定めています。ガイドラインは,一般社団法人全国銀行協会のウェブサイト等で入手できますので,一読することをおすすめします。

弁護士・中小企業診断士(登録予定) 武田 宗久

スタートアップのM&Aの進め方(買手の立場で) ―株主間の利害をひも解こう―

M&Aを円滑に進めたい。買手も売手も互いにそう思ってはいても,利害の一致点を見い出すまではどうしても疑心暗鬼になりがちです。このような場合は,買手がM&Aの入口に立つ前に売手である創業オーナー(経営者)や外部株主が何を考えているのか、その一端を知ることによって売手に寄り添った提案が検討し易くなり交渉のスピードアップが図れるのではないでしょうか。

スタートアップのM&Aの特徴

通常の株式会社の場合、株主は創業オーナーやその一族、創業時のメンバーなどいわゆる「身内」株主がほとんどです。一方、スタートアップの場合は、投資リターンを狙った投資家株主やシナジーを狙った事業会社が株主となっているケースが少なくありません。スタートアップのM&Aにおいてもこの外部株主の存在が重要なファクターになります。

具体的に、あなたが買手としてスタートアップにM&Aを提案したケースを想定して会話形式でシミュレーションしてみました。創業オーナーや外部株主の反応をちょっと覗いてみましょう。会話の中には,初めて聞く専門用語もあるかもしれませんが,のちほどご説明しますので,まずはご一読ください。

(あなた)この度は、M&Aの提案をご検討いただきありがとうございます

(創業オーナー)M&A後も私の経営権を保証していただけるとのこと。有難いご提案です。しかし、ご提示いただいた買収価格が550万円では、私は創業時に出資した100万円が1銭も回収できないのです。

(あなた)どういうことですか?社長が増資により外部株主から資金調達した金額は

1,000万円ですよね。外部株主と社長でM&Aの買収対価を分け合えば社長も外部株主も投資回収率は550万円÷(1,000万円+100万円)=50%。5割は回収できるのではありませんか。

(創業オーナー)外部株主には全額種類株式で出資して貰っているのです。株主間の契約で約束した「みなし清算条項」により、M&Aがあった場合には種類株主である外部株主が普通株主である私に優先して買収対価の分配を受けることになるのです。

(外部株主)我々としてはM&Aのご提案に応じたいですね。会社は成長していますが、事業計画で想定するほどのスピードではなく,株式上場までにさらなる時間を要することから,M&AによるEXITをせざるを得ないからです。

(創業オーナー)外部株主の皆さんがそういうのでしたらやむをえません。私が反対してもDrag Along権(外部株主の強制売却権)を行使されたらM&Aに応じざるを得ませんから。私も今後も社長として続投できる条件を提示してもらっていますし、M&Aの提案を前向きに検討します。

どうやら、M&Aの提案が前向きに検討されるようです。勿論、実際にはこんなシンプルな形で話は進みませんが、株価と株主の権利が実際のM&Aの場でも重要な判断材料になっているのも事実です。

なぜ、こうした話になるのか、会話の用語解説もかねて読み解いてみましょう。

株主の保有株価と権利に注目

創業オーナーの保有株価と権利には特徴があります。株価面では創業オーナーは他の株主と比べて低い株価で株式を保有しており、権利面では創業オーナーは経営権を確保するために株主総会の決議に必要な議決権シェアを確保しているということです。

したがって,買い手が創業オーナーの保有株価を下回る額を提案しない限り,創業オーナーは,M&Aで保有株式を売却すれば利益を得ることができるため,創業オーナーはM&Aに応じるか否かの意思決定を主導的に行うことができます。

ところが、近年こうした状況に変化が見られます。シリコンバレーに見られる種類株式を活用した増資が行われるようになったためです。

外部株主の意向に留意しなければならない裏事情

近年の種類株式活用の広がりによりM&Aの際の外部株主の発言力が格段に強くなりました。要因は2つあります。1つめは優先的に財産の分配を受ける権利が設定されるため、2つめはDrag Along権という他の株主も巻き込んでM&Aに応じさせる権利が設定されるためです。

もう少し詳しくいうと、スタートアップの資金調達に活用される株式は,会社を清算した時に種類株主が優先的に残余財産の分配を受領できる種類株式とされています。しかし,実際には清算時には会社はほぼ無価値になってしまうことが多いため、「みなし清算条項」といってM&Aの時も同じように外部株主が優先的に分配を受けられるよう会社・創業オーナー・外部株主間の契約(以下、株主間契約)で合意します。これにより外部株主は回収可能性を高めることが可能となり、リスクの高いスタートアップ投資に応じやすくなっているのです。

さらに、この株主間契約には外部株主主導によるM&Aを容易にする仕組みが組み込まれています。株主間契約において,多数の外部株主がM&Aの提案に応じる場合には創業オーナーも含めた他の株主も同条件で買収に応じなければならないというDrag Along権が規定されているのです。

M&Aを円滑に進めるために―どうやったら知ることができるの?

孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉はM&Aにおいても重要な視点です。すでに説明したように,特にスタートアップのM&Aの場合は,売手の創業オーナーだけでなく,外部株主もM&Aに応じるかどうかについて相応の影響力を持つため,検討の対象に含める必要があるという点に留意が必要です。

円滑にM&Aを実現するためには、株価水準に応じて各々の株主にどの程度の損益が発生するのかシミュレーションしておくことが重要なのです。

実は、公開情報だけでも、かなりの調査が可能なことはあまり知られていないようです。

履歴事項全部証明書(いわゆる登記簿謄本)は誰でも取得することができますが、株式の発行時期、種類株式の有・無や、種類株式の権利などの確認ができます。また、資金調達総額や外部株主の名称はスタートアップ業界でよく利用されているサイト(注1)で検索すれば容易に知ることができます。

ちょっとした知識は必要となりますが、サイトで入手した資金調達額の情報と登記簿謄本で入手できる情報があればどの株主がいくらで株式を保有しているか、会社の直近の株式時価総額がいくらか等は推定可能なのです。

むすび

スタートアップのM&A市場は拡大しつつあり、一歩踏み出せば最新の技術や成長性の高いビジネスモデルを短時間で獲得するチャンスが広がっています。しかし、株価の算定方法や株主構成など、事業承継系のM&Aと異なる点があるため参入しにくさを感じる方も少なくないと思います。

実はこんな方々も、専門家に相談することで、最初の一歩を踏み出すハードルを大幅に下げることができます。バトンズのようなM&Aプラットフォームの登場により専門家とM&Aニーズのある皆さんとの距離が近づきました。

コロナ禍でビジネスモデルの転換やデジタルトランスフォーメーション化の必要性がますます高まっています。シナジーの高い新規事業の検討の選択肢として、一度ドアをたたいてみてはいかがでしょうか。

中小企業診断士 伊藤一彦

(注1)
「テッククランチ」      : https://jp.techcrunch.com/
「SPEEDA」(有料サービス):http://www.uzabase.com/speeda 
「PRTIMES」       :https://prtimes.jp/

【ぼくたちのM&A】事業譲渡という手法

みなさまこんにちは。厳しい残暑が続きますので体調管理には特に気を配りたい季節ですね。大阪府堺市であなたのちょっとした変化を応援しています。堺なかもず経営支援センター山本哲也です。

いつものように、M&Aで社長を目指す“ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。

ツナグ:ぼくたちビジネスパーソンだからビジネスのことはわかるけど、簿外リスク?さっぱりわからないけどリスクは嫌だ。リスクを避ける方法として「事業譲渡がおススメ」だって聞いたことがあるけど・・。「そもそも事業譲渡の事業の定義ってなんだろう?」商品?顧客名簿?スタッフは?

事業譲渡って? 会社全体を売買する場合との違いは?

事業譲渡とは、その言葉の通り事業を売買する手法でM&Aの一手法です。
会社法では、単なる物質的な財産(商品、工場など)だけではなく、のれんや取引先などを含む、ある事業に必要な有形的・無形的な財産を一体とした上での譲渡を指す。とされています。

二つのスキームの違いを大雑把に言うと、その売買範囲の決め方にあります。
株式の移転を伴う売買(いわゆるM&A)の場合、法人が持つすべての権利債務が移転します。視点を変えると株主が変わるだけであとはなにも変わらないということです。一方、事業譲渡は、契約によって個別の財産・負債・権利関係等を移転させる手続きなので、会社が営んでいる全ての事業を譲渡することも、一部の事業のみを譲渡することも双方の話し合いで決定することができます。

またもう少し細かく言うと、 その事業に活用する有形財産はもとより、無形の財産である人材、事業組織、ノウハウ、ブランド、取引先との関係、債務などマイナスのものも含むあらゆる財産が取引されます。株式譲渡と違い、これらの取引財産の範囲を契約書で定めることになり、かなりの手間と時間のかかる作業となります。

ツナグ:なるほど・・すべて契約書で決めるんだ。なんだか大変そう。

事業譲渡方式のメリット

ツナグ:でも、その会社の欲しい部分だけを売買できるのは確かに便利な気がするなぁ。

そうですね。買手にとっては、契約の範囲を定めることで、帳簿外にある債務(簿外債務、偶発債務など)やリスクを遮断することができるのが大きな利点の一つです。例えば、未払い残業代や帳簿に載せていない借入金などが代表的な例ですが、デューデリジェンスですべてのリスクを調べつくすことは困難ですから。そのような場合にも事業譲渡方式はメリットがあると言えます。
また、買い手は、譲渡会社に対して、一定期間同じ事業を行うことによる競業禁止を求めることができます(競業避止義務)。 つまり、買い手からするとその地域で競争他社を一社減らしつつ、事業を継続して取り組むことができる。と言うことです。事業の譲り受けが完了して、「さぁスタート」と言うときになって取引先や顧客が、売り手の会社に仕事を依頼するなどのトラブルを防止する意味合いもあります。

デメリットは?

ツナグ:じゃぁみんな事業譲渡でやればいい気もするけど・・・。

当たり前のお話ですが、事業譲渡にはメリットと同じくらいデメリットも存在しています。先述した契約範囲の設定に相応の手間と時間が必要になります。それ以外にも・・
①行政からの許認可は改めての申請が必要になります。
②定款変更などの手続きが必要な場合があります。
③債権者、取引先や従業員との個別の交渉(契約)が必要になります。

株式の譲渡による売買であれば、デューデリジェンスの内容を加味した上で、譲渡の方法をどのようにするのか、時期、金額、などの折り合いがつけばすぐにでも引継ぎがスタートできます。そのあたりの違いを踏まえて譲渡スキームを検討する必要がありますが、事業規模が小さい場合、事業譲渡がより現実的な選択肢となると考えられています。

まとめ

ツナグ:やっぱり、どちらも一長一短なんだね。ぼくたちみたいな個人M&Aには親身になってくれる専門家に相談するところから始める必要がありそうだね。それにしても、まだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさんありそうだ。

本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。
中小企業診断士 山本哲也

本当はこわい表明保証条項

M&Aの際,売り手の企業がどのような状態であるのかということは,買い手にとって最大の関心事となります。しかし,売り手の企業がどのような状態であるかを知ることは,買い手にとって容易なことではありません。当然のことながら,売り手の企業の情報は売り手に集中しているからです。

この点について,M&Aにおいては,売り手の企業の状態を知るために,財務・税務や法務等に関する調査であるDD(デューデリジェンス)を行うこととなります。しかし,時間や費用等の観点から調査には限界もあります。特に中小企業のM&Aでは,売り手の企業の規模がそれほど大きくないこと等から,多額の費用をかけたDDが困難な場合もあります。 このようなことから,基本合意や最終契約において表明保証条項が広く用いられています。

表明保証条項とは

表明保証条項とは,契約の一方当事者が他方当事者に対し,一定の時点における一定の事項が真実であり正確であることを「表明」し,かつその内容を「保証」する条項をいいます。

【表明保証条項の例】

第○条 乙(売り手)は,甲(買い手)に対し,本契約締結日及びクロージングにおいて,以下の各号が真実かつ正確であることを表明し,かつ保証する。

⑴ 乙は,日本の法律に基づき適法に設立され,有効に存続している株式会社であること。

⑵ 簿外債務等が存在しないこと。

⑶ 知的財産権(使用する商標等)について,権利侵害等の主張を受けたことがないこと。

⑷ 業員及び雇用関係に重大な問題が存していないこと。

⑸ 訴訟等の当事者になっていないこと。(以下省略)

このように,表明保証条項を用いることにより,売り手に一定の事項が真実かつ正確であることを保証させ,DDによる調査コストを軽減し,DDでは確認できないような事実関係の真実性・正確性を確保することができます。

売り手が表明保証条項に違反していた場合

では,売り手が表明保証条項に違反していた場合,すなわち,売り手が真実かつ正確であると表明し,保証した事項が,実は事実とは異なっていた場合は,買い手はどのような措置をとることができるのでしょうか。
この点について,基本合意や最終契約において,補償条項を規定すること等によって,買い手は表明保証条項違反を理由に売り手に対して補償請求・損害賠償請求をすることが考えられます。

【補償条項の例】

第○条 甲は,乙による第○条(注:表明保証条項)各号に定める表明及び保証の違反があったことにより損害を被った場合は,乙に対し補償又は損害賠償を請求することができる。

表明保証条項は万能ではない

ここまでこのコラムを読んでいただいた方のなかには,表明保証条項で多くの事項を売り手に表明保証させれば,DDのコストが削減できてよいのではないかと思われた方もいるかもしれません。しかし,裁判例では,表明保証条項に関する事実に相違があるとしても,買い手が売り手に責任を追及することを認めていないものがあります。

例えば,表明保証条項は,企業買収に応じるかどうか,あるいはその対価の額をどのように定めるかといった事柄に関する決定に影響を及ぼすような事項について,重大な相違や誤りがないことを保証したものに過ぎず,売り手に表明保証条項違反による責任を追及できるのは重大な相違や誤りがある場合に限るとしたものがあります(東京地判平成19年7月26日判タ1268号192頁)。これは,売り手に関する考え得るすべての事項を情報開示やその正確性を保証の対象とするというのは非現実的であるという考えによるものです。

また,売り手が表明保証を行った事項に関して違反していることを買い手が知っていたか,わずかの注意を払いさえすれば,知り得たにもかかわらず,漫然とこれに気付かないままに株式譲渡契約を締結した場合(すなわち,買い手が売り手の表明保証違反につき悪意・重過失である場合)は,売り手は表明保証責任を免れる余地があるとした裁判例があります(東京地判平成18年1月17日判タ1230号206頁)。これは,買い手が売り手の企業の実際の状態を知っていたか,容易に知りうるような場合まで売り手の責任を認めることは公平の見地からして相当ではないという考えが根底にあります。

このような裁判例を踏まえると,買い手が売り手に損害賠償を請求するためには,重大な相違や誤りがあることや,売り手の表明保証条項違反について買い手が重大な過失なく知らなかったこと(すなわち,善意無重過失であること。)などといった必ずしも契約書には書かれていない要件が求められることがあることに注意をする必要があります。

そうすると,やはり売り手の企業の状態を知るためには,まずはDDによることを検討すべきで,表明保証条項はあくまでもDDを補完するものとして位置づけ,安易に用いるのはリスクがあると考えておいた方がよいのかもしれません。

 

弁護士・中小企業診断士(登録予定) 武田 宗久

 

経営支援引継ぎ補助金について

みなさまこんにちは。暑い日が続きますので体調管理・食事管理には気を配りたい季節ですね。大阪府堺市であなたのちょっとした変化を応援してます。山本哲也です。

今日は、ちょっとした変化どころか一大行事である事業承継に関する国の支援についてお話いたします。事業の“売り手側”と“買い手側”と両方への支援が登場するので少し読みづらいと思います。あなたが、これから、または今、どちらの立場に置かれているのかを明確にしてからお読みいただくとよいかもしれません。

経営資源引継ぎ補助金とは?

経営資源引継ぎ補助金とは、令和2年度の補正予算に盛り込まれた雇用の維持と事業の継続対策のひとつです。
ここ日本では、中小企業経営者の高齢化はますます進んでおり、2018年度には61.73歳(東京商工リサーチ調べ)となっています。また、70代以上の高齢経営者が率いる企業では、減収減益など業績の低迷も目立つ状況です。このような中小企業の事業承継を促進し、雇用の維持や技術の伝承、組織再編による企業の効率化を支援するための制度として設置されました。仲介手数料やデューデリジェンス費用などM&A関連の費用が補助金の対象となるため注目が集まっています。

補助金の額はどれくらいなのか?

売り手には最大650万円、買い手には最大200万円が一括支給されます。

【補助上限額、補助率】

タイプ 補助率 補助下限額(注1) 補助上限額
買い手支援型(Ⅰ型) 補助対象経費の3分の2 50万円 ①経営資源の引継ぎを
促すための支援100万円
②経営資源の引継ぎを実現させるための支援200万円
売り手支援型(Ⅱ型) 補助対象経費の3分の2 50万円 ①経営資源の引継ぎを促すための支援100万円
②経営資源の引継ぎを実現させるための支援650万円(注2、注3)

注1 補助額が補助下限額を上回ることとする。
注2 補助事業期間中に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合、補助上限額は100万円とする。
注3 廃業費用の補助上限額は450万円とし、廃業費用を活用しない場合の補助上限額は200万円とする。
ただし、廃業費用に関しては、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間に実現しなかった場合は補助対象外とする。

どんな経費が支援を受けられるのか?

経費ならなんでも認められるわけではありません。大まかにいうと以下の通り
①使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
②補助事業期間内に契約・発注をおこない支払った経費
③補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費
※廃業費用に関しては、補助事業期間より前に契約・発注していた場合でも、補助事業期間内に再開したことが分かる覚書等を提出することで、補助事業期間内に支払った経費を補助対象経費とします。
※本補助金の交付申請にあたっては、補助対象経費について原則として2者以上の相見積もりが必須となります。

さらに、売り手と買い手では支援を受けられる経費に違いがあります。

【支援類型別の経費概要】

支援類型 対象費用の区分
買い手支援型(Ⅰ型) 謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料
売り手支援型(Ⅱ型) 上記に加え、廃業費用、廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費などが追加

出典: 経営資源引継ぎ補助金事務局ホームページ

売り手と買い手と共通の支援対象経費

この補助金では事前の準備経費も補助対象として認められています。
例えば、
1. 謝金・委託費とは、士業などへの相談費用や書類作成を依頼した場合の代行費用が当たります。
2. 旅費とは、先方との打ち合わせなどで移動する際に生じた経費のこと。
3. システム利用料とは、マッチングプラットフォームへの登録料や利用料がこれに当たります。
その他、外注費や委託費などの項目もあり、かなりいろいろなものも含めて補助を受けることができそうです。

一方、事業承継の場面では、売り手側だけに生じる費用があります。事業譲渡をした際の会社や個人事業の廃業に関わる費用です。これらにも補助が受けられます。
1. 廃棄登記費とは、登記事項変更にかかる登録免許税や、士業へ委託した場合の申請資料作成費などがこれに当たります。
2. 在庫処分費、解体・処分費とは、事業に利用していた在庫や設備の一切を引き継いでもらえればよいのですが、引き継ぐ資産が顧客や従業員だけの場合や、まだ新しい設備だけに限定して引き継がれるケースなど、すべてケースバイケースです。そのような場合で、手元に使わなくなった資産が残り、廃棄処分するようなケースを想定した支援です。
また、賃貸物件では、原状復帰工事が必要になることが一般的ですが、そのような費用も支援が受けられます。

経営資源引継ぎ補助金の目的

このように大きな支援が受けられる補助金ですが、その目的はというと、「事業再編・事業統合等に伴う中小企業者の経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する事業を行うことにより、新型コロナウイルス感染症の影響が懸念される中小企業者に対して、①経営資源の引継ぎを促すための支援、②経営資源の引継ぎを実現させるための支援によって、新陳代謝を加速し、我が国経済の活性化を図ること」となっています。国の方針もとにかく事業者をなんでも守るところから、“一定の合理的な規模への再編”や“新規開業者の支援”を進め日本経済を活性化させる方向へと変化していることが感じられます。

公募期間は以下の通り。
オンライン申請の場合の公募期間・・・2020年8月22日(土)19時まで
郵送による申請の場合の公募期間・・・2020年8月21日(金)までの間の消印有効
交付決定は、9月中旬頃となっており、公募期間終了後に事務局による書類審査と選考が行われます。

▼お問い合わせ先
経営資源引継ぎ補助金事務局
電話:03-6629-9134
経営資源引継ぎ補助金ホームページ
令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 公募要領
☆本ページの情報は、細心の注意を払って作成しておりますが、必ず公募要領をしっかりとお読みいただき不審な点は、上記の担当局へ問い合わせ先の上、申請ください。

まとめ

今回の新型コロナウイルスの感染拡大による事業環境の悪化の影響は、これから本格化する見通しです。私たちにとっても今後の事業の方向性についてしっかりと見つめなおし、事業計画の見直しが必要になっています。このような補助金があったことを頭の片隅においていただき、必要に応じて活用いただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

中小企業診断士 山本哲也

パートナー紹介:武田 宗久

武田 宗久(タケダ ムネヒサ)

 

プロフィール

弁護士・中小企業診断士

1978年生。大阪府出身。京都大学大学院法学研究科修了

これまで,債権回収などの一般民事事件や離婚等の家事事件,刑事事件とさまざまな事件を担当してきました。また,地方公共団体に職員として勤務していた経験もあり,自治体法務やまちづくりについても携わってまいりました。

大阪の中小企業や自治体を元気にするため,法務・労務を中心とした支援に日々取り組んでいます。お困りごとがございましたら,何なりとご相談ください!

 

主な執筆活動

  • 『事業承継における会社法の活用』(平成26年,岡山商工会議所会報』
  • 『離婚事件財産分与実務処理マニュアル』(平成28年,新日本法規,共著)
  • 『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年,第一法規,共著)など

 

主な講演活動

  • 岡山商工会議所経営指導員研修『個人情報について』(平成24年度)
  • 岡山商工会議所事業承継セミナー『わがまち岡山の企業を残す!』(平成26年度)
  • 河内長野市役所『コンプライアンス研修』(平成27年度~令和元年度)など

 

大学非常勤講師

  • 近畿大学『民法総則』・『債権総論』(令和2年度)など

 

パートナー紹介:伊藤 一彦

アナタの財務部長合同会社 代表社員
伊藤 一彦(イトウ カズヒコ)

プロフィール

神奈川県横須賀市出身。1991年  東京大学(経済学部)卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。製造業・サービス業を中心とした法人融資営業などに従事した後、傘下のみずほキャピタル株式会社でスタートアップ支援を行うなど、30年間一貫して法人向けの資金調達支援に携わ

現在は中小企業診断士資格と金融機関の経験を活かして「アナタの財務部長合同会社」を設立中小企業、スタートアップの経営者が、“お金の問題に悩まされず事業に専念できる”をモットーにコンサルティング支援に取り組んでい

https://www.zaimubuchou.com

 

主な活動

①パートナーCFO業務:IPO準備支援、予実管理・KPI設定、資金繰り管理等
②ファイナンス支援業務:エクイティファイナンス、融資、補助金等の支援
③健康経営の推進支援
④事業承継、事業再構築等にかかるM&Aの仲介、FA
⑤事業計画策定支援・経営管理の仕組構築支援
⑥研修、セミナー等による人材育成、教育事業、講師業の受託

 

最近の執筆等

近代セールス「資本性借入金の基本と活用方法」(2020/8/1号)
「財務の基本で備える!二度目のコロナ融資対応」(2021/1/15号)
「自社株の承継対策『株価の算定・把握を切り口に経営者や会社に資金ニーズを喚起する』」(
2022/2/1号)
「このような決算書を受け取ったらどこに注目する!?」(
2022/12/15号)
「改革プログラムを踏まえた経営者保証の説明・対応方法」(2023/2/1号)など

 

資格等

経済産業大臣認定「中小企業診断士」
東京商工会議所認定「健康経営エキスパートアドバイザー」
日本IPO実務検定協会「認定上級IPOプロフェッショナル」
一般社団法人全国第三者承継推進協会「バトンズ認定パートナー」

登録機関等

中小企業庁「M&A支援登録機関」(202110月登録)

所属団体等

日本パートナーCFO協会
東京都中小企業診断士協会 スモールM&A研究会、健康ビジネス研究会
埼玉県中小企業診断協会

パートナー紹介:山本哲也

合同会社カツヤ書房
<なかもず経営支援センター>
山本 哲也(ヤマモトテツヤ)

プロフィール

日本で最も早くフランチャイズチェーンシステムを取り入れ普及させたフランチャイザーに1989年から勤務。長年,清掃衛生管理グループに所属し,ハウスクリーニングスタッフを皮切りに,全国のフランチャイズ店の育成・指導,法人営業,営業企画の策定,事業計画の策定,新規事業開発,などを経験してきました。“リーダーの能力を超える事業成長はない”と考え,人の成長ありきの支援を実施。趣味は,ゴルフ、釣りなどアウトドア全般と飲み歩き。とにかくじっとしていられない。

大阪府を主な活動拠点としており、専門は、仕事と趣味の経験を活かせる、サービス業支援(役務系、飲食系)です。

ホームページ:https://nakamoz.com/

 

主な活動と執筆実績

  • 商工会議所向けセミナー開催
  • 補助金申請支援
  • 事業計画策定支援
  • 兵庫県立大学非常勤講師

 

  • 月刊企業診断「特集 満点答案を探せ!」「特集 Intervew」など多数
  • 東京東信用金庫「東京イースト中小企業の未来」
  • 経営技術センター 「NKCRadar」
  • WEBサイト「BIZヒントコラム」           など

 

変化を迫られるスタートアップのEXIT戦略 ―IPOからM&Aへのシフト―

1.活発化するスタートアップのM&A

事業承継と並んでスタートアップのM&Aは注目株です。取引先等への株式売却も含めるとスタートアップのEXIT全体のうちM&Aは約4割を占めています(注1)。スタートアップは成長スピードを重視するため、IPO(Initial Public Offering:新規株式上場のこと)でキャピタルゲインを狙うベンチャーファンドやシナジー効果を狙って協業を図る大企業から出資を受け入れて事業展開を図っています。

このため、スタートアップは5年~10年程度で事業の成果を求められます。投資家の資金回収極大化や大企業の事業シナジーの強化を実現するためスタートアップのM&Aは今後さらに拡大していくと思われますが、その要因について売手・買手双方の視点で考察していきましょう。

 

2.スタートアップのM&Aが増加する売手要因とは?

M&Aの主な売手要因としては次の3点があげられます。

(1)期限到来に伴うベンチャーファンドの売却ニーズ増大

多数のベンチャーファンドが今後2、3年で償還期限を迎えます。アベノミクスを背景に2013年以降、多数のファンドが設立され投資が活発に行われました。2013年から2018年の6年間に累計342本・1.3兆円のファンドが設立され、5,752件・5,613億円の投資が実行されています。(注2)

しかし、これらのファンドの多くは運用期間が10年です。2023年以降迎える運用期限を前に、既にこれらのファンドによるIPOできない投資先の売却先探しが始まっています。2013年から2018年の6年間における国内IPO社数は572社に過ぎません。

IPOできない多くのスタートアップは、投資家や起業家自身の出資金を回収するための出口(=EXIT)として、M&Aを余儀なくされる可能性が高いのです。

 

(2)コロナ禍を契機に進むスタートアップの選別

大企業やCVC(Corporate Venture Capital:投資活動を通じた事業シナジー獲得を目的として大企業等により設立されたファンド運営会社)は、コロナ禍を契機として投資先との出資・提携関係を見直しはじめています。大企業にとってオープンイノベーションニーズが消失するわけではありません。

しかし、ここ数年右肩上がりだった国内CVCの投資金額が2020年1月から3月については19.8億円と直前四半期比11.4億円減・前年同期比4.8億円減、とマイナスに転じており、影響は顕在化し始めています。(注3)

 

(3)起業家のM&Aに対する価値観の変容

起業家にとってIPOは有力なゴールです。しかし、メルカリの山田進太郎氏などシリアルアントレプレナー(連続起業家)が成功者として認知されるようになり、M&Aを通じて大企業に買収されることはステータスとなりました。M&AはIPOと比肩しうる有力な選択肢となったのです。

 

3.スタートアップのM&Aが増加する買手要因とは?

メディアで耳目を集めるのは大企業へのM&Aですが、中小企業や個人も含めM&Aの参加者に変化がみられます。

 

(1)M&Aプラットフォーマーの登場によるM&A参加者層の拡大

「Batonz」をはじめ、多数のM&Aプラットフォーマーが登場し、手数料負担の低下や中小規模の案件情報の拡充により、M&A参画のハードルが下がり市場参加者が拡大しています。事業拡大を目指す中小企業や、創業目当ての個人まで幅広い層が参加者となったのです。

 

(2)人材獲得手段としてのM&A(=アクハイア)の普及

コロナ禍で、求人倍率は低下したかもしれませんが、企業にとって高度な技術・ノウハウを持つ人材の確保は引き続き大きな課題です。スタートアップの有能な人材を会社と一緒に丸ごと確保する手法として、大企業やスタートアップによるM&Aの活用が増加しつつあります。

 

<むすび>

これまで注目されつつもなかなか広がらなかったスタートアップのM&Aですが、ベンチャーファンドの大量償還という循環要因に加えて、M&Aプラットフォーマーの登場などの構造要因、起業家意識の変化などの質的要因も相俟って、スタートアップのM&A市場は今後2,3年で着実に拡大すると思われます。

さらに、M&A先進地域のシリコンバレーの先行事例にならって普及した「種類株式やと株主間契約」を活用した投資手法(次回以降に詳述予定)などもこの動きを後押しすることになるでしょう。

次回は、これらの動向を踏まえた上で、買手・売手双方の視点でスタートアップのM&Aを成功させるためのポイントについてひも解いていきたいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

(注1)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「ベンチャー白書2017『ベンチャー投資先のEXIT件数推移』」より
(注2)一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会「2018年ベンチャーキャピタル市場動向」より
(注3)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「直近四半期投資動向調査」(2020年第1四半期(1月~3月)より

6月23日 ZUU Onlineウェビナー登壇「第2弾 買収経験者と語る!スモールM&Aで夢を叶えるには」

こんにちは。木下です。

大変久しぶりの更新になってしまいました…。コロナ禍のなか、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 

この度、バトンズ様にお声がけいただき、ZUU Online様のウェビナーに登壇させていただくことになりました。

昨年2019年12月に買収したネイルサロンのお話を中心にさせていただく予定です。

よろしければご覧ください!

 

ウェビナー概要

第2弾 買収経験者と語る!スモールM&Aで夢を叶えるには【ウェビナー】
【日時】2020年6月23日(火)18:00~18:45
【受講料】無料
【申込】下記URLよりお申込みください。

https://zuuonline.com/archives/216818?fbclid=IwAR2LObjOb1UPyq-nGw4foGGtCG9gT-XAvhJSHNu0FfvAl19bIBwCeOirUtQ