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M&A後の経営統合での失敗事例

「PMIとは、買収後の経営統合のこと」と、その1・その2でもお伝えしてきました。そして、数年後に「あのM&Aは成功だった」と評価されるために、PMIは最も重要なフェーズです。しかし、売り手経営者との基本合意が取れた後の作業を軽視する買い手経営者が多いと感じています。具体的には、担当者任せにし、時折進捗報告を求めて叱咤激励や思いつきの助言をするケースが散見されます。

もちろん、経営者が本来の業務や他の案件発掘に時間を費やしたいという考えは理解できます。しかし、M&Aの目的は経営課題の解決であり、統合によるシナジー効果の創出がその本質です。

本日は、私が実際に目にした事例をご紹介します。いずれも「そんなことが本当に?」と思えるような話ですが、実はよく耳にする事例です。ご自身の周りで同じようなことが起きていないか、ぜひアンテナを立ててお読みください。

 

失敗事例1:計画立案が遅れ、準備不足によって新たな問題を生み出したケース

あるケースでは、経営者がM&A交渉に全力を注ぎすぎて、買収後の経営統合方針の立案を後回しにしてしまったことが問題の原因でした。「どの程度のシナジーを求めるか」といった意思決定が全くなされていなかったのです。

経営統合の方針は、「吸収型統合」で買収先を完全にコントロールするのか、それとも「連邦型統合」で相手の独自性や自立性を尊重するのか、といった重要な意思決定です。しかし、この大きな方針が決まっていないと、経営統合の担当者は業務の各項目で都度経営層の意思決定を仰がなければなりません。担当者側からすると、精神的にも、時間的にも、業務量的にも非常に大きな労力が必要になります。

例えば、従業員の処遇や人事制度、システム統合の有無、取引先や金融機関への対応など、さまざまな意思決定が後手に回りました。結果として、買収先の企業も業務に支障をきたし、特に大きなプロジェクトや広告活動などの判断が遅れ、次第に取引の失注が増え、業績が大幅に低迷しました。

文章では「多少の準備不足くらいすぐに巻き返せるだろう」と考えるかもしれませんが、現実はそう甘くありません。M&Aの現場は常に動いており、大きな方針を後から策定しながら進めるのは非常に困難です。なぜなら、統合過程で新たな情報や短期的な利益・損失など、意思決定を妨げる要素が次々と現れるからです。

繰り返しになりますが「事前準備は入念に」という基本原則が再認識させられる事例です。

 

失敗事例2:情報共有の遅れが従業員の不安を引き起こしたケース

次に、統合後のコミュニケーション不足が原因で、買収先の従業員に不安や不信感を与え、結果的に重要な人材を失ったケースです。

このケースでは、統合計画自体はしっかりと立案されていたものの、「新たな情報が入れば柔軟に対応しよう」と、コミュニケーションの量や質および共有範囲を制限しました。その結果、計画の共有が遅れ、相手企業の従業員に不安感を抱かせることになりました。やがて、それは不満や反抗心を引き起こすことに繋がり、やがて、双方の関係がぎくしゃくするまでに発展してしまいました。

さらに、悪いことに、M&A交渉を担当していた相手側責任者(売り手)が買い手側と売り手側の間で板挟みになり、最終的に精神的なダメージを負って退職する事態にまで発展しました。自分が長年所属してきた売り手側の組織からは。「おまえは、どっちの味方なんだ?」と詰められ、買い手側からは、「どうしてそんな風になっているんだ?どうにかならないのか?」と責めよられたのです。

コミュニケーションや情報共有は、組織運営の基本です。誠意を持って、オープンかつ迅速に情報を共有することが重要です。特にPMIの初期段階では、従業員の不安を取り除くために積極的な情報共有が不可欠です。自分たちが統合したいと考えた相手先企業のこと、その企業の従業員を全面的に信頼しましょう。

 

まとめ

今回は、M&A後の統合作業における失敗事例を交えて、重要なポイントを解説しました。M&Aは、売り手企業の従業員だけでなく、買い手企業の従業員にとっても大きな変化を伴います。そのため、早めの情報共有によって不安を取り除き、信頼関係を築くことが重要です。

うまく進めることができれば、関係者のモチベーションを高め、さらに副次的な効果も期待できる優れた経営戦略です。慎重かつ大胆な経営判断が求められ、経営者としての手腕が試される場でもあります。

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

M&A成功のカギを握るのは、PMIだ その2

みなさんは、PMIという言葉を聞いたことがありますか?

PMIとは、買収後の経営統合のことです。

買い手企業は、買収した会社(事業)と自社事業との統合をうまくやることで、買収効果を最大限に引き出す必要があります。

このPMIの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

 

ツナグ:経営統合って、全体の方針を立案して関係者に根回しするだけかと思ってたら・・・「もっと詳細に詰めて再提出しろ!だなんて・・・・僕の長期休暇はいつとれるんだろう・・・。

 

ツナグさん、M&Aの重要なフェーズですから、机上の計画や方針だけでは物足らないのでしょうね。いずれにしてももうちょっとですから頑張っていきましょう!今回は、経営統合におけるタスクリストを作成するイメージで検討していきましょう。

 

管理面のタスクにはどんなことがあるのだろう?

管理面の代表例が組織です。

「組織は戦略に従う」という言葉があるように、今後の経営戦略との整合性が取れ、M&Aによるシナジー効果が最大限となるよう、組織を見直します。

例えば、技術面におけるシナジーの最大化を目指すのであれば、研究者の人的交流(親会社からの派遣または、親会社への出向)を検討することになります。また、先方の営業ネットワークを活用することが目的であれば、営業部門に責任者なり、マーケティング担当者を派遣することが必要になるでしょう。

 

組織変更をするということは人事面も?

組織変更と合わせて、その力が最大限に発揮できるよう、職務分掌や決裁権限の見直しが必要になるでしょう。取締役会があれば、取締役の過半数が買い手企業のプロパーとなるように人事配置を行い、スムーズな意思決定ができる体制を構築します。伴って、買い手企業の定款と齟齬がある場合などに、定款を変更する必要もあります。

クロージング当日に行われる臨時株主総会および臨時取締役会にて、役員および代表取締役の選任決議と合わせて定款変更決議も行ってしまうことが一般的ですね。

 

規程類・業務運用ルールも原則的には、親会社に合わせておく

就業規則や給与・退職金規程などの労務関連の規程に加えて、業務運用上の規程・ルールを買い手企業の運用に合わせる形で変更します。従業員さんの生活に直結することになるので、従前の規定と比べて不利益な内容の変更となる場合は、同意がなければ労働契約法第10条による合理性審査の規律が適用されますので、専門家に相談することをお勧めします。

 

社内外への情報発信も検討しましょう

金融機関にはもちろんのこと、重要な取引先への挨拶まわりなどは、あらかじめ、リストアップおよび優先順位を決定しておきます。そして、公表後のできるだけ早い段階でアポイントだけでもいれるようにします。このあたりでトラブルを起こすと、関係修復のために大きな労力が発生してしまいます。社外への公表は、プレスリリース、ホームページ上での告知などが一般的ですが、非上場中小企業の場合は、特に法的な制約はないため、必要に応じて自社で検討することになります。

 

 社内コミュニケーションも大切に

社外への公表から大きく遅れないタイミングで社内への公表も行います。この際、コミュニケーション内容に齟齬があると双方の従業員さんにいらぬ憶測や噂話を生んでしまい、こちらも後々に悪影響があるため、同じ文書で発信するようにしてください。

また、一定期間が経過した後でもよいので、双方の理解を深めるための対話の機会を企画するのもよいでしょう。

例えば、幹部同士の懇親会や、同様の部門同士の相互見学会、交流会などです。同様の部門同士が情報交換することで、シナジー効果だけでなく、従業員さんにも統合作業の当事者としてその重要性を認識してもらうことが期待できます。

 

まとめ

今回は、統合作業のポイントについて新人担当者のツナグと一緒にまなびました。M&Aは、売り手企業の従業員さんだけなでなく、買い手企業の従業員さんにとっても一大事です。そのため、早めの情報共有により不安を取り除き、信頼関係を醸成することが重要です。

意思決定プロセスや、統合の目的など双方の経営層が、直接双方の従業員に語り掛けることは、組織にとって重要な共通目的や貢献意欲の醸成に直結します。統合作業をうまく進めることができれば、関係者一同のモチベーションをアップさせることにも繋がり、副次的な効果も期待できることでしょう。

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也