ブログ 月: 2021年1月

ぼくたちのM&A  ~アーンアウト条項

みなさま新年あけましておめでとうございます。といっても早いもので1月ももう半分以上が終わってしまいました。各地に緊急事態宣言が発出され、医療現場を中心に緊迫した雰囲気になっています。最近は、“免疫力アップ”というのがトレンドワードになっているそうです。そこまではともかくとしても、しっかり栄養とって、手洗い・うがいには特に気を配りましょう。 

今日は、スモールM&Aというよりも、大手企業によるベンチャー企業買収に関連するお話です。 いつ

ものように、M&Aで社長を目指す“ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。 

 

ツナグ:友達がマイホームを35年ローンで買おうかどうしようか悩んでいるらしいんだけど、マイホームを買うよりも大きな買い物になりそうなM&Aにも分割払いってないのかなぁ・・。 

 

買収代金の支払い方法は一括払いだけか? 

売り手にとっては、一般的なビジネスシーンと同じく、“一括譲渡、一括支払い”がもっともメリットが大きく、スタンダードな手法ではありますが、それ以外にもツナグの言う通り、分割支払いという手法も昨今増加しています。 

具体的には・・ 

  1. 株式譲渡対価の分割支払い 
  2. 株式譲渡自体の分割実行 
  3. アーンアウト”という手法。 

 

ひとつずつ見てみましょう。 

まずは、単なる分割支払いのケース通常の商取引でも行われる、支払い日の約束ごとです。株式譲渡は100%完了しており、譲渡対価の受け渡しだけが、未払金として処理されるケースです。 

考えられる場面としては、 

買主側が必要資金のすべてを一括で調達できず、分割でしか払えな 

「売主側のクロージングの前提条件一部不安な部分があり、買主側が分割払い条件を要請するなどがあります。 

 

このように売り手側には全くメリットがありませんので、買い手のリスク分散にほかなりません。もともと、信頼関係がしっかりできている間柄での事業承継など、双方納得のうえ行われることがほとんどです。 

 

ツナグ:なるほど・・契約書などで条件面をしっかり打ち合わせしておかないと後でもめたら大変なことになりそうだな。 

 

じっくり時間をかけて 

次に段階的な株式譲渡です。最初に発行済株式総数の51%を譲渡することで連結子会社て運営する。システムやコンプライアンス、組織間の交流などを行う。その後、議決権の3分の2超の取得をし特別決議を確保できるようにし、順調に統合ムードが高まってきたところで残りを取得して完全子会社とするケースです。過去の事例からみると、企業文化の違いなどの原因によって組織の統合がうまくいかないことが予測される場合全くの飛び地事業の買収で運営に不安がある場合などで利用する案件がありました。売り手側が、買い手側の事業運営をしっかりとコミットした状態で支援するために、少数の株式を一定期間ち続けます。 

売主は、いち早く譲渡代金を受け取って取引を完了させて、今回の新型コロナウイルス感染症拡大など、予測不可能なリスクを切り離したいはずですのでこちらも両社の関係性が重要です。 

 

ツナグ:なるほど。売り手に支援してもらえたら買い手は安心して売買できそうだね。その分、高く買うなんてことも検討できそう 

 

一緒に盛り上げつつ引き継ぐ 

 最後は、“アーンアウト条項”と言われる手法。分割支払いの一種といっても、これまで見てきたものとは別物です。簡単に言うと野球選手の出来高払い制度のようなものと理解してください。M&A取引完了買い手は、売り手の支援を受けつつ事業活動を行います。その際に双方で話し合い、事業成長目標を設定します。それを達成できたら買手企業側から売手企業に対して買収対価の出来高部分を支払いま 

目標には、一定期間後の売上高やEBITDAといった経営指標のほかにも、新商品の市場投入申請中の特許承認などさまざまです。一部には、会計処理などで操作できるものもあるため、設定の際には注意が必要です。 

 

ツナグ:株式の譲渡を段階的に進めるよりも、もっと共創を行うようなイメージだね。 

 

オープンイノベーションに近い 

売り手側のメリットとしては、出来高制度として買い手に提案することでより高く売れる可能性が高まります。特に、成長段階のベンチャー企業を売却する場合など、買い手がリスクをどうしても大きく考えてしまい、交渉が成立しないこともありますが、そのような場合にも有効です。つまり、買い手側にとっても低リスクになり、買いやすくなるというメリットと考えることができそうです。また、先述のように、買い手は、過大な投資リスクを分散することができますので、例えば、買収時には判明しなかったリスクが発生したときも、損害を最小限に抑えることができす。 

ではデメリットはないのでしょうか?売り手のデメリットは、目標に対して支援をしたにもかかわらず外部要因によって未達になり、出来高を受け取れなくなる可能性がある点。一方、買い手は、そもそも支払いの分割によってリスクの分散というメリットを受けているのでその範囲内のリスクに収まれば、特に大きなデメリットはないといえそうです。 

 

ツナグ:なるほど~株式譲渡代金の分割支払いというと、ネガティブな印象を持ってしまうけど、売り手と買い手の共創プロジェクトだと考えれば、オープンイノベーションの一種とも言えそうだ。 

 

まだまだ日本国内では、たくさんの事例があるわけではありませんが、アメリカでは増加傾向にある取引形態ですので、今後、ベンチャー企業の売買の場面から徐々に普及していくものとみられます。いろいろな共創が始まれば日本のM&A市場もさらに活況となることでしょう。本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。  

 

中小企業診断士 山本哲也