ブログ カテゴリー: M&A

デューデリジェンスを成功させるポイント その5(ビジネスDD)

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。M&Aではリスクの大半を買い手が負担することになるため、DDを通じて対象企業のリスクを正確に評価することが極めて重要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

ツナグ:やっとビジネスDDまで来たね。ビジネスDDは、最初の着手提案(事業計画を始める際の初期提案)の際にまとめたものがあるからもういらないよね?

着手提案の際は、あくまで、オープンデータをもとに仮設した内容に沿った大まかな計画でしたよね。ここでは、詳細な顧客データを基にした、既存事業と同程度中継計画を策定する必要があります。なぜなら、これは、追加投資のタイミングや総額、それによるリターン(いつ、いくらで発生するか)や投資回収の完了時期など、詳細な情報が経営判断に不可欠だからです。

さらには、下振れリスク(成果が予想を下回ってしまうリスク))と下振れした場合の数値、加えて下振れリスクへの対策案などなど。シナジーが見込まれる関連事業部のメンバーも計画書策定に参画してもらいましょう。

 

外部環境分析

着手提案で行った内容とほぼ同じになりますが、以下のような視点が必要となります。
・市場規模の推移および将来の見通し
・競合他社のシェアや動向
・市場(ユーザーや価格)の動向
・仕入先の動向や原材料価格の推移
・代替品、新規参入の動向
・その他(法的規制、技術開発など)
これらが、買収する事業運営にどのような影響を及ぼすのかについて定量的・定性的にまとめましょう。

 

内部環境分析

内部環境分析では、主に、買収によるメリット、デメリット、デメリットへの対策などの視点で分析を行います。これにはビジネスモデル、研究開発、調達、生産、物流、販売、サービス、経営管理、人的資源、技術・ノウハウ、ネットワークなどの情報資産、設備などの物的資産などが含まれます。これらの要素について、その特徴、強み、問題点、課題などが分析すべき視点です。

 

事例紹介

私が、過去に携わったビジネスDDの事例では、売り手から提示された数値計画とは別に、買い手サイドで数値計画を立案したことがありました。そのために必要な、過去の社内会議資料や顧客データベースなどの情報提供と、担当者のヒアリングに協力をお願いしました。決して、売り手側の計画に不信感を持っていたわけではありません。この一見、無駄な作業のように感じられることを行うことで、売り手のビジネスモデルや連携先などを深く知るとともに、買収後の営業活動計画について、準備を始めることができ、結果として、早期に成長軌道に乗せることに成功しました。

 

シナジー効果の試算

自社の既存事業や既存の経営資源とのシナジー効果を分析は、バリューチェーン分析を活用すればよいでしょう。
バリューチェーン分析とは、企業が、製品やサービスを消費者に届けるまでの全活動について、それぞれどのように価値を生み出しているかを分析する手法です。シナジー効果を試算するためには、買収事業についても、バリューチェーン分析の切り口で分析を行い並記します。これにより、各活動でどのようなシナジーがあるのかについて明らかにします。

具体的には、研究開発や商品企画、仕入れ、仕入れ物流、生産・加工、製品物流・配送、営業販促、サービスに加えて、ヒト・モノ・カネ・情報の視点をとりれることで抜けもれのない分析が可能になります。また、自社既存事業で発生するメリット、既存事業が買収事業へ寄与できること、重複活動を削減するメリットなどを分析します。必ず、売上アップに関するシナジーとコストダウンによるシナジーの両面から検討しましょう。

ここで明らかになったシナジー効果は、定量的に表現することで数値計画に反映することができます。その結果、投資回収期間の試算を通じて、買収価格の検討材料とすることができます。

 

まとめ

今回は、ビジネスDDに絞ってツナグと一緒に学びました。ビジネスDDでは、着手提案の段階で仮説していたことの検証作業、あるいは疑問点などの解消を通じて、買収戦略を評価する作業だと捉えてください。社内提案など、ここまですでにいろいろな労力が発生していると思いますが、それらはいったん脇に置き、すでに自社の事業であるとの認識に立ち、正しい経営判断に必要な精緻な計画を立案を目指しましょう。

 

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

LBOのメリット・デメリット

M&Aの資金をどのようにして調達するか

いうまでもなく、M&Aには多額の資金が必要となります。M&Aのための資金調達方法としては、さまざまなものがありますが、今回はLBOについて取り上げたいと思います。

LBOとは、買い手が売り手の資産などを担保として金融機関から融資を受けることによってM&Aを行う方法をいいます。売り手の資産を担保とするということは要するに、M&Aを行うために行う借り入れなどの債務の責任を買い手ではなく売り手に負担させるということを意味します。逆に言えば、買い手はわずかな手持ち資金でM&Aを行うことが可能な方法であるともいえます。

LBOとは、「Leveraged Buyout」の略語です。「Leveraged」とは、小さな力で大きな力を生み出すことができるという「てこの原理」を意味するのですが、買い手がわずかな資金でM&Aという大きな買い物ができることをよく表しているということができます。

 

具体的なLBOのスキーム

LBOは、具体的には以下のような流れで行われます。

まず、実質的な買い手は、当該M&Aの買い手となることのみを目的とする会社を設立します(このような特定の目的のためのみに設立する会社のことを特別目的会社(SPC)といいます。)。

このSPCはM&Aの買い手となることのみを目的としている以上、ある種ただの権利義務の「箱」に過ぎません。この「箱」に金融機関などから調達した資金を入れ、M&Aを実行します。M&Aの実行により買い手であるSPCは、売り手の100%親会社になる一方、金融機関から多額の債務を負っている状態になります。

そして、その後にSPCと売り手を合併するのです。そうすることで、SPCの株主である実質的な買い手が売り手の株主となるとともに、SPCが負っていた多額の債務は売り手に承継されます。このため、売り手はSPCが負っていた債務の返済を行うことになるのです。しかも、売り手の資産は担保に入っていますので、売り手としてはSPCが負っていた債務を優先的に弁済することが求められます。

 

LBOにはどのようなメリットがあるか

LBOの流れからも明らかなように、LBOにおいてはM&Aのために調達した資金について直接債務を負うのは、買い手ではなく、売り手となっています。この点で、買い手には負担が少ないというのがLBOのメリットであるといえるでしょう。

すなわち、LBOでは、買い手は少ない資金で自己よりも大きな企業のM&Aを行うことが可能ですし、返済リスクを負うことも基本的にはありません。

また、LBOでは売り手側にとってもメリットがないわけではありません。LBOの場合、SPCが株式を取得するため、適正レベルの株価よりも高い金額を提示します。したがって、売り手の株主は、保有している株式の売却により多くの売却益を獲得することが可能となるのです。

 

LBOのデメリット

LBOにもデメリットはありますが、デメリットはメリットの裏返しともいえるかもしれません。すなわち、一般的なM&Aでは買い手がM&Aのための債務を負いますが、LBOは売り手が多額の債務を負担してしまいます。本来は優良企業であるはずの売り手がLBOによって多額の債務を負担することになります(しかも、優良企業で企業価値が高い売り手ほどM&Aに多額の資金が必要となるため、売り手が負う債務が多額になるというパラドックスがあります。)。

そのうえ、当該債務を優先的に返済していかなければならないため、売り手の本来事業が相当に好調で、十分なキャッシュフローがある必要があるのです。

 

従業員による事業承継にも用いられるLBO

メリットもデメリットもあるLBOですが、従業員による事業承継の方法として用いられる場合もあります。従業員はサラリーマンですので、企業の株式を取得することができるだけの資金を調達することが難しいことが少なくありません。このような場合に、LBOを用いることで、従業員が企業のオーナーとなることができるのです(このようなものを、従業員による企業買収(EBO Employee Buyout)ともいいます。)

従業員が企業を引き継ぐと決心した場合は、LBOによって企業が負った債務を返済するという覚悟がある場合が多いでしょうし、そもそも、従来の経営方針や社風なども維持されるため、大きな混乱が生じる可能性も低いといえるでしょう。

このことからも、LBOは、従業員による事業承継の方法として、大いに検討の余地があるのかもしれません。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業承継のボトルネック「経営者保証」対策は事業承継保証の活用で

今回は、経営者が高齢化して、事業承継の検討が必要な企業の視点で経営者保証と事業承継の関係についてみていきましょう。

 

1.借入金の経営者保証は事業承継のボトルネック

業績も財務内容も良好なのに後継者未定で事業継続の見通しが立たないために廃業を検討している中小企業は少なくありません。

中小企業庁の推計によると2025年には団塊の世代が後期高齢者になることに伴い、中小企業経営者381万人のうち245万人が70歳以上となります。その約半数の127万人は後継者未定のため、事業継続のためには親族承継や従業員承継だけでなく第三者承継の選択肢も検討する必要があるのです。

ところが、後継者候補がいる118万社についても、その内22.7%は経営者保証を理由に事業承継をしないという調査結果があり、経営者保証は事業承継上の大きな障害となっています。M&Aなどの第三者承継の場合にも、承継者が経営者保証を提供することが借入を継続する条件とされることは少なくなく、経営者保証対策は事業承継を進める上で、重要な課題となっているのです。

ボトルネック解消のキーとなる「経営者保証解除」についてどのような対策があるのか考察していきます。

 

2.経営者保証ガイドラインと経営者保証の代替制度の検討

2014年に、全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証ガイドライン」が導入されました。①経営者と会社の経理が明確に区分・分離されていること、②財務基盤が健全で借入金を返済できる収益力が十分認められる、③金融機関に対する財務情報の開示が十分であるなどの3要件の充足度合いに応じて、経営者保証を求めないことや保証機能の代替手法の活用を検討することが努力義務となったのです。

経営者保証が原因で、事業承継に行き詰まっている場合、まず、経営者保証ガイドラインの視点で自己点検してみると経営者保証解除に向けて何をすべきなのか、課題が明らかになってくるでしょう。具体的な考え方は『経営者保証に関するガイドライン』Q&Aに示されていますので参照すると良いでしょう。

点検した結果、経営者保証を直ちに解除できなかったとしても諦める必要はありません。

こうした動きの中で、全国信用保証協会は事業承継を対象とした保証制度を拡充し、様々なケースに応じた経営者保証の代替手法の提供を開始しています。どのようなケースで活用可能なのか具体的に見ていきましょう。

 

3.事業承継特別保証とその類型

「事業承継特別保証制度」は2020年に導入された経営者保証を不要とする信用保証制度です。「資産超過」、「返済緩和債権なし」、「一定の返済能力(EBITDA有利子負債倍率10倍以内*)」、「社外流出等なし」等の一定の要件を満たすことを前提として、同制度の適用を受けることができます。この保証制度を利用することで新規の借入の場合はもちろん、経営者保証ありの既存の借入金を借り換える際に経営者保証を不要にすることが可能となります。

さらに、中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎ支援センターの確認を受けることで信用保証料率の割引を受けることができます。

*EBITDA有利子負債倍率=借入金などの有利子負債をEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益で除したもの。会社のキャッシュフローを基に借入金を何年間で返済できるかを見るために使用する指標。

 

4.事業承継の形態に応じた信用保証協会の施策

さらに事業承継特別保証には、上記以外にもいくつかの類型があります。事業承継の実施形態に応じて以下のような保証制度が設けられています。

 

(1)事業承継サポート保証

持株会社を設立し、持株会社が事業会社の株式を買い取る資金を借入れする際に利用できる保証制度です。持株会社が事業会社の株式の2/3以上を保有し、かつ、持株会社の株式の2/3以上を後継者が保有していることなど、一定の要件を満たしている場合に対象となります。

(2)経営承継関連保証

「事業会社」が経営の承継のために必要な資金を借りる際に利用できる保証制度です。

後継者が代表者に就任後、「事業会社」が株式や事業用資産の取得のための資金を借入れする場合などが対象となります。

(3)特定経営承継関連保証

新代表者に就任した「後継者個人」が事業承継に必要な資金を借りる際に利用できる保証制度です。「後継者個人」が株式や事業用資産の取得のための資金を借入れする場合などが対象となります。

(4)経営承継準備関連保証

M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。買い手企業が売り手企業・株主等から株式や事業用資産の取得のための資金を借入れする場合などが対象となります。

(5)特定経営承継準備関連保証

従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)に利用できる保証制度です。株式や事業用資産を取得する資金を借入れする場合などが対象となります。

 

いずれのケースでも経営承継円滑化法による経済産業大臣の認定が必要となります。

 

5.売り手・買い手の立場に立った専門家を活用しよう

事業承継支援について、親族承継であれば相続の専門家、第三者承継であればM&Aの仲介会社などといったように、後継者の属性だけに着目して支援している専門家の場合、経営者保証がネックになっていて前捌きが必要なケースには対応しきれません。

事業承継を検討する際には、特定の専門家に決め打ちせず、本件のような経営者保証(金融面)が課題となっている場合は、金融に明るい専門家を探してみると案外、解決の糸口が見つかり易いのではないでしょうか。

 

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)

 

デューデリジェンスを成功させるポイント その4(法務DD)

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。M&Aのリスクは主に買い手が負うため、DDを通じて買収対象企業のリスクを正確に把握することが不可欠です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

ツナグ:僕は、ずっと営業畑だったから、さすがに法務DDの内容を把握したり、管理することはできないよ。まさに、専門家に一任するしかないよね?

法務DDの目的は、M&A取引に関連する潜在的なリスクや問題を明らかにし、評価することなのです。法律の専門家に実態の調査はお願いできますが、重要な法的、契約的、および規制上の問題を理解し、適切に対処できるようにするのは、私たち企業担当者の責任ですよ。しっかりしてください。

大まかには、既存の契約が適切に管理され、遵守されているか?対象企業が関連するすべての法律、規則、業界基準に準拠しているか?などが確認事項です。万一、非遵守が発見された場合、それによって生じる可能性のある罰金や制裁や対応策を検討し、実行に必要なコストを理解することになります。

なお、この記事は読みやすさを優先して平易な言葉を使用しているため、一部表現が簡略化されています。実際の場面では、法律の専門家のアドバイスを受けるようにしてください。

法務DDにおける着眼点

  1. 株式の権利内容
    株式譲渡の場合、取得を予定している株式の権利に問題がないかを確認します。株式とは、株主の地位・権利を証明する有価証券ですから、これに問題があると、正式な株主になることはできません。具体的には、株式が正式に発行されたものか?過去の譲渡の手続きがきちんと行われていたか?株券発行会社にもかかわらず株券を発行せずに株式譲渡が行われている場合は無効という判例もありますので注意が必要です。また、種類株式などの発行状況も確認してください。
  2. 重要な契約上のリスク
    取引基本契約、外注契約、ライセンス契約、賃貸契約、債務保証契約、業務提携契約、代理店契約、業務委託契約、消費貸借契約など,重要な契約の現状について確認します。例えば、M&Aが契約解除事由に該当するというチェンジ・オブ・コントロール条項があるケースがあります。

    発生事例が多いのは、顧客や取引先との契約書が保存されていない、または、口頭契約で文書が交わされていないケースです。経営者や株主が変わることで利害関係に変化が生じ、これまで通りの取引が継続できなることも想定できます。M&Aの成立前に、相手先に対して必要な契約書の締結をお願いしたり、取引の継続に対する評価を行っておきましょう。

    また、過去にM&Aを行っている場合、表明・保証を行っているケースもありますので、こちらにも注意が必要です。

  3. 知的財産権
    特許権、商標権など知的財産権の有効期限などについても確認します。また、対象企業が他社の知的財産権の侵害がないかなども確認しましょう。
  4. 従業員・役員
    人事DDを行わない場合は、法務DDの中に含めて調査する必要が発生します。
    監督官庁からの指摘事項や未払い賃金の有無、労働者とのトラブルなどがないか?についての確認は重要です。例えば、労働条件や労使関係でのトラブルや未解決の労災事故の有無などが想定できます。また、組織構造や職務分掌、内部通報制度などの有無や実態や役員・従業員が、法的トラブルを抱えていないか?なども把握しておきたいところです。
    人材については、統合後への影響が多いため、しっかり実態を把握した上で対応策の検討に活かしたい領域です。人事DDについては、次の機会にさらに補足したいと思います。
  5. 許認可
    事業上必要な許認可の有効性、先述のとおり、M&A後も維持が可能か?を確認しておきます。人的用件のある許認可も多いため留意が必要です。
  6. 環境汚染
    工場などがある場合、土壌汚染や排水、産業廃棄物処理等の環境汚染問題についても調査する必要があります。過去に官公庁から受けた指導勧告や周辺住民からの苦情等の有無を確認します。
  7. 不動産
    登記簿謄本を確認し、所有権や担保権などの状況を確認します。例えば、隣地との境界トラブルなどを慢性的に抱えており、統合後にトラブルが再燃するケースもあります。
  8. コンプライアンスなど
    企業の組織構造、経営チーム、および内部通報制度などガバナンスの実態を理解することで、潜在的な管理上の問題を確認します。

ツナグ:こうやっていろいろとレクチャーを受けると、「なるほどなぁ」ってなるね。といっても一番難しいと感じたのは、新たに発覚した事実をどう評価してどのように計画を修正するか?だよね。「もう大詰めだ」って思ってたけど、まだまだ先は長いんだね・・・。ふーっ。

まとめ

今回は、法務DDの観点に絞ってツナグと一緒に学びました。法務DDでは、全てを調査することは困難です。自社が許容できないリスクを検討し、その範囲に絞って専門家の協力を仰ぐことが重要です。本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

『経営保証に関するガイドライン』で考える中小企業の廃業

廃業時にネックとなる経営者保証

中小企業は財務基盤が脆弱なことが多く、金融機関から行った借入の債務について、経営者個人が保証債務を負担していること(すなわち、経営者が保証人となっていること。以下「経営者保証」といいます。)が少なくありません。

経営者保証は、中小企業の財務基盤を補う反面、廃業の際に大きな問題となることもあります。例えば企業が破産する場合には、個人保証をしている経営者もまた破産することとなります。このため、企業の資金繰りが悪化しても、自らの破産を避けるために無理な事業運営を続けることは、その企業にとってはもちろんのこと、取引先や従業員など多くの関係者に迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。

この点について、以前にもこのコラムでも取り上げましたが、経営者保証における合理的な保証契約のありかた等の準則として、平成25年12月に『経営者保証に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」といいます。)が策定され、平成26年2月から運用が開始されています。

このガイドラインについて、中小企業の廃業時に焦点を当てて趣旨・内容を明確化し、保証債務整理の進め方を整理したものもあります。それが、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(令和4年3月 経営者保証に関するガイドライン研究会。以下「考え方」といいます。)です。

 

廃業時にガイドラインはどのように機能するか

廃業時にはガイドラインは主として経営者が負う保証債務履行の範囲を画するものとして機能します。

すなわち、主債務者たる企業や保証人からガイドラインによる保証債務の申出を受けた場合、金融機関等の対象債権者は、主に以下のような対応をすることになります。

① 破産時の自由財産(99万円)は、原則として経営者の手元に残す。

② 金融機関は、自由財産に加え、一定期間の生活費(雇用保険の考え方を参考に、年齢等に応じて約100万円~360万円)を経営者に残すことを検討する。

③ 金融機関は、「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討する。

④ 保証債務履行時点の資産で返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除する。

上記のうち、①と④については、経営者個人が破産した場合でもほぼ同じ効果を得ることができます。

しかし、②、③といった事業清算後の新たな事業の開始等のための生活費ないし生活基盤の確保という効果は破産では得ることができません。ここに経営者がガイドラインにより保証債務の整理をするメリットがあります(もちろん、破産をしたという事実が残らないので、信用情報においてもメリットがあります。)。

もっとも、②と③については、企業が廃業する場合に、当該手続に早期に着手したことによる保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額について合理的に見積もりが可能な場合は、当該回収見込額の増加額をその上限とするとされています。

つまり、上記の②と③は、経営者が自らの破産を避けるために無理な事業運営を続けることなく、早期に廃業を決断した場合のインセンティブとして機能するものであるということができます。

ただし、保証人たる経営者は、弁済計画案の策定に当たり、誠実かつ丁寧に表明保証を行うとともに、対象債権者からの情報開示の要請に対して正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を可能な限り早期に開示・説明することが求められます。すなわち、ガイドラインによる保証債務の整理を行った際に、保証人たる経営者には、残すことを認められる以外の財産をすべて保証債務の履行にあてており、いわば隠し財産などはないということを明確にする必要があるといえます。

 

保証債務の整理において求められる専門家とは

考え方では、主たる債務者である企業がやむを得ず破産手続による事業清算を行うに至った場合であっても、専門家は、保証人に、破産手続を安易に勧めるのではなく、対象債権者の経済合理性、固有債権者の有無や多寡、保証人の生計維持、事業継続等の可能性なども考慮したうえで、保証人の意向を踏まえて、ガイドラインに基づく保証債務の整理の可能性を検討することとされています。

もちろん、ガイドラインに基づく保証債務の整理により経営者が破産を回避し、より多くの財産を残すことができればそれに越したことはありません。

他方で、ガイドラインに基づく保証債務の整理を行うためには、主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できることや、保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないことといった専門的な知見による検討が必要な要件もあります。

経営者の方が置かれている状況を総合的に踏まえ、ベストの方法を提案できる専門家が求められているのだといえるでしょう。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

ちょっと待って!M&Aに潜む労務リスク ~PMI編

今回は、前回2023年11月の「ちょっと待って!M&Aに潜む労務リスク」に続き、M&Aを成功に導くためのPMIにおける労務課題の留意点を取り上げていきます。

1.PMIプロセスと労務リスクの基本

(1)PMIとは

日本のスモールM&A市場は、事業承継やスタートアップのEXIT戦略として拡大しています。ところがM&A後のPMI(Post Merger Integration:経営統合プロセス)への対応が十分でないため、企業価値向上や事業シナジーの実現に至らないケースが多く見受けられます。中小企業におけるM&Aの歴史は浅く、PMIの重要性が十分に認識されていないのが現状です。2022年3月、中小企業庁では「中小PMIガイドライン」を公表しました。経営資源に制約のある比較的小規模な中小企業であってもPMIに対応できるよう基礎的な取組みから必要に応じてより高度な取組にも挑戦できるよう策定されたものです。

「中小PMIガイドライン」においても労務課題への対応は、重要なポイントとして取り上げられています。

(2)PMIにおける主な労務リスク

中小PMIガイドラインには、次のような失敗事例が取りあげられています。

① 人事・労務関係の重大な法令違反があったことが判明し、また社外に知れ渡ったことで、譲受側・譲渡側の評判が大きく下落した。

②譲渡側の従業員が不満を感じていた賃金体系や人事評価がM&A後もそのまま維持されたため、多くの従業員が期待を裏切られたと感じて一斉に離職した。

③これまで未払であった賃金や、未消化の有給休暇への対処がM&A後もうやむやにされたため、キーパーソンである従業員が離職した。

これらの失敗は、譲渡側が労働関連法規に違反していたり、内部規程類が未整備であったり、従業員と譲渡側が締結した雇用契約などが不適切であったりすることにより生じたものです。

2.労務リスク対策は「プレPMI」から開始する

本来、法令違反や未払賃金の有無などは、M&A実行前の労務DDで明らかにすべきものです。「中小PMIガイドライン」では、M&A実行前に行うPMIに関連する取組みを「プレPMI」と呼び、M&A成立後から一定期間(1年程度)におけるPMIの取組と区別しています。労務リスク対策は「プレPMI」から「PMI」にかけて実施することが有効とされています。

具体的にはどのような取組みがあるのか見ていきましょう。

(1)人事・労務関係の法令遵守の確認と是正

① 労働条件通知書や労使協定等に関する不備への対応

・労働条件通知書の未交付は労働基準法違反の懸念があり、速やかに交付する必要があります。時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)に不備がある場合、労働基準法違反のおそれがあり、労働基準監督署への照会や適正な労使協定の締結を急ぐべきです。労働条件通知書や労使協定と労働実態の不一致があれば、労働時間の是正が必要です。

②社会保険や労働保険に関する不備への対応

・社会保険や労働保険の未加入は健康保険法や厚生年金保険法、労災法、雇用保険法違反のおそれがあり、新規加入を含め迅速な対応が必要です。譲渡側の従業員に対する被保険者資格取得届の未提出に対しても同様に速やかに対処すべきです。

③労働組合との事前協議等に関する不備への対応

・譲渡側に労働組合があり、人事異動や解雇等に協議が必要で未了の場合、速やかに労働組合と協調に向けて対応する必要があります。

④職場環境等に関する不備への対応

・譲渡側の安全衛生管理体制不備は労働安全衛生法違反の恐れがあり、労働災害やハラスメント、退職、労働紛争には迅速に対応する必要があります。

⑤人事・労務関係の法令遵守等に関する姿勢の徹底

・M&A後の人事・労務関係の法令遵守強化のため、担当者教育と社内でのノウハウ蓄積を進めます。

(2)人事・労務関係の内部規程類等の整備状況やその内容の適正性

①人事・労務関係 の内部規程類 等の見直し

・譲渡側の就業規則等の人事・労務関連規程を見直し、労働条件の不利益変更には慎重に対応します。M&A前の賃金体系や退職金を一定期間維持し統合の円滑化を図ことも選択肢となります。

②人事・労務関係の内部規程類等の徹底

・新人事・労務規程を譲渡側役職員に対し説明会や個別説明で周知徹底し、定期的な遵守確認と教育を実施します。

(3)従業員との個別の労働契約関係等の適正性

①残存する未払賃金や未消化の有休暇に関する不備への対応

・譲渡側の未払賃金は認識分を支払い、未消化有休は消化促進を図ります。なお、M&A成立に伴い未払賃金を清算する場合、労働基準法の趣旨に反しない範囲で未消化の有給休暇を買い取ることは可能です。

②長時間労働の改善

・譲渡側の従業員の長時間労働が常態化している場合には、業務の見直しや人員補充を早急に行い、経営陣が率先して改善に努めます。

③キーパーソンである従業員の離職リスクへの対応

・M&A後、キーパーソンの離職防止のため報酬・人事評価制度を見直し、モチベーション向上と知見共有を促進し、リスクシナリオも立案します。

(4)人材配置の最適化

①譲受側・譲渡側間での組織や人事配置の見直し等

・譲受側・譲渡側間での組織・人事配置を見直し、グループ一体性の強化と最適な人員配置を目指します。グループ全体の管理機能の譲受側への集約化や、譲受側・譲渡側間での柔軟な人事異動により、知見共有や人材交流を進めます。いずれの場合も、労働条件の不利益変更については慎重な対応が必要です。

3.労務リスクのマネジメントと専門家の重要性」

本コラム「ちょっと待って!M&Aに潜む労務リスク – PMI編」では、M&A後の経営統合プロセス(PMI)での労務課題に焦点を当てました。

中小企業におけるM&Aの成功には、PMIの適切な管理が不可欠です。これには、労務リスクの事前確認と対応が重要です。M&Aの際には、労働条件通知書や労使協定の不備、社会保険や労働保険への未加入、労働組合との事前協議の欠如など、様々な労務リスクが存在します。そして、長時間労働の是正、キーパーソンの離職防止、最適な人材配置など、人事・労務管理の各側面で迅速かつ適切な対応が求められます。

M&Aを成功させるためには、「プレPMI」からM&A後の「PMI」を通じて労務基盤を構築することが重要です。

M&Aプロセスにおける労務課題は複雑であり、専門的な知識が必要です。

適切なリスク評価と効果的な対策策定のため「プレPMI」の段階から円滑で効果的な経営統合に向けて専門家支援を活用することも一つの選択肢ではないでしょうか。

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)

デューデリジェンスを成功させるポイント その3

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において最も重要な手続きの一つで、買い手にとっては案件の成否を決める要因となります。基本的に、M&Aのリスクは買い手が背負うことになりますので、DDの過程で買収対象企業のリスクを正確に把握することが必要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点についていつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

 

DDスタート

ツナグ:社外の専門家と社内から関係部門の人たちの顔合わせも終わったし、あとは、報告会を待つのみだ!

そんな無責任なことでいいんですか?私たちは、M&Aの統括部門ですよね?であれば、DDの進捗管理や調査の抜けもれがないかなど、専門家チームと常に情報共有する必要があるのではないでしょうか?

ツナグ:なるほど・・・。確かに、責任部署として役員会で説明するときに困るのは、結局僕たちになるのか!?やばい!

僕も営業部門が長かったから、組織管理や営業数値の管理とか、気になるところもあるしな。でも他の領域は全然わからないや。どうしよう。

 

各領域別のチェックポイント

今回は、財務DDについて、どのような視点を持っておけばよいのかについて少しご説明しますね。

  1. 売上高:当たり前ですが、事業別、商品別、顧客別、月別等の売上推移を確認します。過去の傾向と違う動きをしているところに着眼し、その要因を数量要因と単価要因に分けて把握します。また、売上計上時期の操作や関係会社等との循環取引の有無など、特に年度末に注意してチェックしましょう。

  1. 売上原価・製造原価:原価率、在庫などの推移をみてイレギュラーが発生していないか?をチェックし、もし気になるような動きがあれば、その要因を調査します。また、仕入先の集中度合いや仕入価格の推移についても気になるところです。

  1. 販売管理費(人件費):事業特性上、大きな割合を占めている費用やその他経費や雑費など、支出目的が分かりづらいものなどを中心にチェックします。イレギュラー値については、業界平均値や過去決算との比較分析によって判断します。

また、営業外損益や特別損益についても、その発生原因の確認や、その内容が販管費に含めるべきものかどうかなども精査が必要です。つまり、その内容が、企業価値判断に含めるべきものかどうかの視点で確認しましょう。

  1. 売上債権(受取手形・売掛金):売上債権の増減と回転期間の推移などから、イレギュラーがないか確認します。もし、異常値を感知した場合は、その要因を調査します。また、相手先ごとの変化についても気になるところです。特に、債権の回収期間が長くなっている場合など、不良債権の有無や貸倒引当金の妥当性、与信管理の運用状況を確認することも重要です。

  1. 棚卸資産(製品・半製品・原材料含む)や固定資産:棚卸資産については、その評価方法が、自社基準と比較して妥当かどうかについて、自社の担当部門と協議する必要があります。その上で、実際に帳簿通りに存在するのか?長期間放置されて資産性ゼロのものがないかなどを確認します。これらを精査したうえで、資産価値を自社の基準で計算しておきます。

固定資産(有形・無形・投資有価証券など)についても同様に、まずは、台帳通りに存在するのか?また、その評価額の妥当性などを精査します。加えて、事業引継ぎ後、どれくらいの期間で追加の設備投資が必要なのかどうかについても併せて報告できるよう準備します。

  1. 仕入債務:買掛金と同様の調査を行うことに加えて、未計上の仕入れ債務がないかなども確認しておきます。

  1. 借入金:金融機関ごとの借入金額、残高、返済期限、金利、返済計画を確認しましょう。また、財務制限条項(コベナンツ)等の特別な契約条件が付されていないか?契約内容を確認しておきます。特に金融機関以外の借入先がある場合は、その借入が行われた背景、金利の妥当性や返済状況についても明らかにします。

  1. 退職給付引当金:従業員の退職給付債務に関わる簿外債務がないか?を確認しておきます。また、役員退職慰労金規程をもとに役員退職慰労金の引当不足額を確認しましょう。

  1. 未払税金・繰延税金資産:未払税金などは、その内容の妥当性の検証に加えて、税務上のリスクや追徴または還付の可能性について検討しておきます。また、繰越欠損金の利用可能性や繰延税金資産の回収可能性についても検討しましょう。特に、大きな金額が計上されている場合、資産性が認められないと純資産額が大きく減少することに繋がりますので、専門家も交えて慎重な検討が必要です。

まとめ

今回は、”デューデリジェンス”にあたって、全体を統括する担当者として、最低限知っておきたいポイントについて財務DDの観点からツナグと一緒に学びました。重要なことは、これまでの労力・コストとは、いったん切り離して考え、M&Aによるリスクやシナジー効果についてしっかり評価することです。決して、問題を先送りしたり、勝手に過小評価することのないよう、専門家チームとの緊密な連携をとって進めてまいりましょう。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

デューデリジェンスを成功させるポイント その2

デューデリジェンス(DD)は、M&Aの際の最も重要な手続きの一つで、買い手にとっては案件の成否を決める要因となります。基本的に、M&Aのリスクは買い手が背負うことになりますので、DDの過程で買収対象企業のリスクを正確に把握することが必要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”の実行フェーズに関していつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

 

まずは、実施計画の策定からスタート

ツナグ:これまで、相手先からいろいろと資料をもらって分析したけれど、まだ、気になる点がいくつかあるんだ。NDA(機密保持契約書)も交わしたし、早くDDをスタートさせようよ!

まぁまぁ、ちょっと落ち着いてください。デューデリジェンスの目的は覚えていますか?

ツナグ:覚えていますよ!まず、買収対象会社が抱えるリスクの抽出と、買収後の経営統合の準備!!

さすがです!そうですね。広範囲にわたって多面的かつ客観的な調査を行う必要があるのです。これは、さすっがのツナグさんもたったひとりではできないですよね?

ツナグ:そうですね。だからチーム編成も構想しています。
あっ!誰が、いつ、どうやって、どの情報を集めて、どんな資料を作成するのか?実行計画が必要ですね。

正解!ある程度の実行計画が必要です。先ほどのツナグさんの構想にさらに含めていただきたい項目があります。それは、財務、法務、ビジネス、人事、ITなど、どの分野を誰が担当するのか、外部であれば、フィーも必要ですから、いくら使えるのかなども検討すべきです。
また、締め切りの設定も重要です。企業経営は生き物ですので。こうしている間も相手先の企業は、事業活動を継続しており、新たなチャンスやリスクが発生したり、消滅したりしているはずですから。一般的には、基本合意書に契約日の目途が記載されていることが多いため、最初にそちらを確認してください。契約予定日までの期間が、独占交渉権が当社にある期間と認識してよいでしょう。

 

キックオフ・ミーティングの招集

ツナグ:少々てこずったけど、なんとかDD実行計画書を策定したよ。

いつもながら、素晴らしいスピードですね。
では、さっそくキックオフ・ミーティングを招集しましょう。キックオフ・ミーティングの参加者は、社外専門家だけではなく、社内の関係部門のメンバーで構成されます。例えば、人事、経理、IT、法務、マーケティング、購買や製造部門、M&A担当部門などが代表的関係部署です。事務局は、全体進行を担当します。
具体的な内容は、メンバー紹介、実施要項やスケジュール、情報管理ルールに関する打ち合わせを行います。また、同席しているメンバーの情報や議事録をしっかりと残すことで万一の情報漏洩事故に備えておきます。

 

マネジメント・インタビューを実施する

キックオフ・ミーティングが終わり、情報管理ルールの確認が完了したら、次にマネジメント・インタビューを実施します。マネジメント・インタビューとは、買収対象企業の経営陣へのインタビューのこと。社長または、主たる経営陣にお願いします。

主なインタビュー項目は以下のとおりです。
1.近年の市場動向、競合動向
2.今後の業界における成功要因
3.懸念される事業上のリスク
4.自社の「強み」と「弱み」
5.経営上の重要課題
6.株主の同意、関係
7.関係会社との取引関係
8.大口販売先および大口仕入先との関係・取引状況
9.簿外債務(債務保証、訴訟、先物売買契約など)の有無
10.今回のM&Aを決断した背景
11.M&A後に期待すること

 

2回の報告会

事務局は、ある程度の結果がまとまった段階で中間報告会を開催する旨、メンバーに事前連絡しておきます。中間報告会の目的は、各DDチーム間の情報共有や重要リスクが報告された場合の対応策の検討です。重要リスクが報告された場合は、必要に応じて調査範囲を広げ、追加調査を実施します。例えば、子会社との取引に不審な点があるようでしたら、子会社に対するDDが必要かどうかを検討すべきです。

最終報告会では、各担当者から順に報告を受けます。リスクだけでなく、今後の経営統合に対する懸案事項や提案についても含めて報告するように依頼しておきましょう。

 

まとめ

今回は、M&Aの成否に大きく影響のある”デューデリジェンス”を実行するにあたっての手順や準備についてツナグと一緒に学びました。重要なことは、これまでの調査や交渉に費やした労力・コストとは、いったん切り離した調査と捉えて実施し、M&Aによるリスクやシナジー効果についてしっかり評価することです。くれぐれも「ここまで進めてきたから・・」などと考え、DD本来の目的を見失わないように留意ください。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

 

中小企業診断士 山本哲也

事業再生にも使える特定調停③

日弁連スキームによる特定調停を用いる場合の事前準備

今回は、実際に日弁連スキームによる特定調停がどのようにして進められていくのかについて解説します(日弁スキームのフローについてはhttps://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/resolution/chusho/tokutei_chotei/tebiki_1-10.pdf をご参照ください。)。

特定調停にかかわらず、一般に調停とは、訴訟とは異なり当事者の合意を基本とする手続です。そして、特に、日弁連スキームの場合は、再生計画案に対する金融機関の同意が事前に見込まれている場合に用いられることが想定されています。

したがって、特定調停の申立ての前に各金融機関に対し、再生計画案を示して意見交換し、同意の見込みを得ておくことが必要になります(なお、ここにいう「同意の見込み」とは、金融機関の支店の担当者レベルの同意は得られており、最終決裁権者の同意が得られる見込みがある等の状況を言います。また、積極的に同意をするわけではないが、あえて反対もしないという消極的な同意もここにいう同意に含まれます。

 

金融機関との協議

再生計画案の作成とともに、メインバンクその他の金融機関に対し現状と方針を説明し、再生への協力、返済猶予などの申入れを行います。

金融機関に対しては、事業を廃業すれば従業員の雇用や取引先・得意先関係が失われてしまうこと、自社のみによる経営改善や資産売却で債務を解消することが困難であること、事業者の主たる債務(保証人が要る場合は保証債務も含む。)について、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがある債権者にとっても経済的な合理性が期待できることなどを説明し、理解を求めます。そして、金融機関への説明の方法としては、場合によっては、すべての金融機関が一堂に会するバンクミーティングによることもありえます。

 

再生計画案の作成

金融機関との意見交換を経つつ、DDを実施したうえで、再生計画案を策定していきます。再生計画案を策定することは、弁護士だけでは困難であり、税理士、公認会計士、中小企業診断士と協力して策定していくことになります。

具体的に事業再生計画に記載すべき事項としては以下のようなものがあります。

① 事業者の概要

② 財産の状況

③ 経営が困難になった原因

④ 事業改善の具体的内容・方針

⑤ 財産状況及び資金繰りの見通し

⑥ 事業者の弁済計画

⑦ 対象債権者に対して要請する主たる債務の減免、期限の猶予その他の権利変更の内容

上記の内容のほか、金融機関に対して債権放棄等(実質的な債権放棄及び債務の株式化(DES)を含む。)を求める再生計画を策定する場合は、役員の退任のほか、役員報酬の削減、貸付金の放棄、株式割合の減少などの経営者責任を明確化することや株式の全部又は一部の消滅等の株主責任の明確化も記載することが必要になります。

 

信用保証協会が債権者である際に注意すべき点

ところで、債権者の中に信用保証協会が含まれていることがあります。信用保証協会とは、中小企業・小規模事業者の金金融円滑化のために設立された公的な機関です。公的な機関であるがゆえにほかの金融機関とは異なる注意点がいくつかあります。

まず、信用保証協会は、財産目録や弁済計画の策定に当たって、外部専門家の税理士や公認会計士の関与が求められているため、税理士や公認会計士などに協力を依頼する場合は、信用保証協会と事前の調整をしておかなければ、信用保証協会から外部専門家として認められないという事態になりかねません。

また、信用保証協会においては、実態債務超過を何年で解消する計画になるのかなど、求償権放棄の数値基準があるようですので、当該基準に適合する計画となっているのか、担当者との間で十分な事前調整を行うことが信用保証協会からの同意を得るためには重要になっているといえます。

このほか、信用保証協会においては、事業者と保証人との一体整理を原則としていること、求償権放棄には日本政策金融公庫との調整が必要であること、などの特徴もあります。

 

特定調停の申立て

金融機関の同意が見込める状況になると、裁判所に特定調停を申し立てます。日弁連スキームでは、主に中小企業を想定していますので、裁判所とは、地方裁判所ではなく、簡易裁判所(専門性を有する調停委員確保の観点から、本庁所在地に併設されている簡易裁判所)が想定されています。

既に金融機関の同意が見込める状態での申立てとなりますので、調停期日は基本的には1~2回で調停成立又は17条決定により終結することを想定しています(仮に、1~2回の期日で終結できないのであれば、そもそも日弁連スキームによる事業再生になじまないものであるともいえます。)。

 

簡易迅速に、しかし、公正かつ妥当な事業再生

日弁連スキームは法的再生手続に比べ簡易迅速であるうえ、裁判所を介する点で公正かつ妥当な事業再生の方法であるといえます。民事再生手続はハードルが高いが私的整理では公正性に問題が生じうるといった中小企業の次号再生においては日弁連スキームを活用するのも一つの方法であるかもしれません。

なお、日弁連スキームによる中小企業の再生計画策定については、経営改善計画策定支援事業(通常枠)の対象となります(補助対象の経費 ①DD・計画策定支援費用(上限200万円)、②伴走支援費用(上限100万円))。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

 

ちょっと待って!M&Aに潜む労務リスク

1.M&A後に顕在化する労務問題

2023年8月、親会社であるセブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武の米国投資ファンドへの売却について、そごう・西武の労働組合が会社売却に反対してストライキを行ったのは記憶に新しいでしょう。M&Aの際の労務管理がいかに重要であるかがクローズアップされた事件でした。

しかし、M&Aにおける労務面の課題は労働組合対策ばかりではありません。

むしろ、中小M&Aでは、上場会社のように会計監査や情報開示が不徹底な分、M&A後に顕在化する課題が多くあるのです。

今回は、買い手企業の立場から、M&Aの際に留意すべき労務課題について考察していきたいと思います。

 

2.M&A手法によって異なる労務リスク

中小M&Aではどのような労務リスクが課題となっているのでしょうか。件数の多い株式譲渡と事業譲渡を中心に、会社法上の組織再編行為によるM&Aについて労務リスクの特徴を見ていきましょう。

 

(1)株式譲渡

株式譲渡によるM&Aの場合、売り手企業(労働契約の主体である使用者)と従業員の間の権利義務関係に変更はないため、M&A前の労働契約は、原則としてそのまま継続します。

そのため、雇用関係の視点では直ちに問題が発生することはありませんが、M&A前に、未払い賃金(含む残業代)などの偶発債務や、従業員からの訴訟による損害賠償請求などがあった場合には、買い手企業は買収した企業を経由して、その関係を承継してしまうことになるのです。

 

(2)事業譲渡

事業譲渡によるM&Aの場合、労働契約の承継に従業員の個別の「承諾」が必要になります。つまり、売り手企業の経営陣と合意したからといって従業員も自動的に承継できるわけではないのです。事業に従事してもらう必要がある従業員に対して、M&A後の労働条件について事前に十分に説明し納得してもらう必要があるのです。

また、一方、売り手企業との間で労働問題があったとしても、原則、売り手企業との間で処理してもらうことになるため、労務リスクについて、十分事前調査を行えない場合には、有力なM&A手法になります。

 

(3)会社分割・合併(組織再編)の場合

会社分割によるM&Aの場合、「労働契約承継法」が定める手続に従って対応する必要があります。同法により、売り手企業の事業に係る権利義務(全部または一部)が買い手企業に包括的に承継されるため、M&A前の労働条件もそのまま買い手企業に承継されます。

したがって、株式譲渡の場合と同様に、未払い賃金や訴訟による損害賠償などの偶発債務が買い手企業に承継されてしまうことに留意が必要です。また、M&A後に買い手企業が労働条件を変更しようとする場合、労働条件の不利益変更とならないよう注意することも必要です。(*厚労省の指針を参照ください)

*「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000141999.pdf

 

合併によるM&Aの場合も、売り手企業の権利義務の全部が買い手企業に包括的に承継されるため、会社分割の場合と同様にM&A前の労働条件もそのまま買い手企業に承継されます。

偶発債務の問題や労働条件の不利益変更に該当するリスクなど留意することが必要です。

 

3.労務DD(Due Diligence)や表明保証条項等によるリスクヘッジの重要性

このように、M&Aの形態により留意すべき労務リスクは異なりますが、予防的な対策をとることが何より重要です。M&A後に、労務課題は発覚してからでは打てる対策が限られてしまいます。代表的なものとして、次のようなリスクヘッジ手法があります。

 

(1)労務DDによるリスクヘッジ

M&A前の交渉段階で、人事・労務に関する問題点がないかDDを実施します。内容としては以下のような観点での調査をします。

①人事・労務関係の法令遵守等

②人事・労務関係の内部規程類等の整備状況やその内容の適正性

③従業員との個別の労働契約関係等の適正性

ポイントは、労務DDは買い手企業側だけが実施するのではなく、最も社内の事情を把握しうる立場にある売り手企業自身にも実施してもらうことです。

時間外勤務時間の計算間違いなどは、売り手企業自身が把握していないこともあり、M&Aを実施することになってはじめて発覚するということが珍しくありません。

但し、中小企業の場合、人事・労務の専門家が社内にいることはまれですので、社会保険労務士や弁護士に調査を依頼することも選択肢です。DD費用の負担が難しい場合には、法務DDの一部として実施してもらったり、報告書面の作成は省略して報告会などを開催してもらったりする方法もあります。

 

(2)表明保証条項によるリスクヘッジ

M&Aが株式譲渡や事業譲渡の形態で実施される場合、売り手企業と買い手企業の間で株式譲渡契約や事業譲渡契約(以下、「M&A契約」という)を締結します。

M&A契約にはM&Aを実行する前提条件として「表明保証条項」が規定されます。

主な内容として、次の3つがあります。

①M&A実行前に表明保証違反があった場合のM&Aの不実行および契約の解除

②表明保証違反により買い手企業に損害が発生した場合の売り手企業等による補償

③M&A実行後に表明保証違反があった場合の譲渡した株式や譲渡資産の買取り

 

但し、表明保証条項があったからといって万全ではありません。売り手企業の表明保証違反があり、買い手企業が売り手企業に損害賠償請求したとしても、M&A後数か月経過しているような場合、既に売り手企業は、譲渡代金を使ってしまっており、損害賠償を負担する資力がない場合があります。

また、表明保証条項には「知りうる限り」とか「知る限り」といった表明保証をする売り手企業の義務を限定する文言があります。「知る限り、未払い賃金等がない」となっている場合、時間外勤務の賃金を正しく計算し直せば従業員に対する未払い賃金があったとしても、M&A実行時に売り手企業自身が知らなければ免責される可能性が高いことになります。

表明保証条項を設けることによりM&Aにおける労務DD負担を軽減することはできますが、カバーできないリスクもあることを理解しておく必要があります。

 

(3)表明保証保険によるリスクヘッジ

表明保証保険とは、表明保証違反により当事者が被る損害をカバーする保険です。上記(2)に記載した通り、万が一、表明保証条項違反が発覚しても、売り手企業の経済的状況によっては損害賠償が実施なされない可能性があります。こうしたリスクをヘッジするのが表明保証保険です。表明保証保険加入により、被った金銭的被害を補うことが可能です。

但し、買い手企業に保険料負担が生じるため、中小M&Aのように買収代金自体が少額の取引の場合、十分に採算性を考慮して検討する必要があります。

 

4.経営統合の鍵は労務管理

M&Aにおける、人事・労務課題は、M&A実行時においてのみ留意すべきことではありません。買い手企業の視点では、M&A後のPMI(Post Merger Integration:経営統合プロセス)の段階において、より重要性が高くなります。

次回では、PMIにおける労務リスクと対策について取り上げたいと思います。

 

 

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)