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経営支援引継ぎ補助金について

みなさまこんにちは。暑い日が続きますので体調管理・食事管理には気を配りたい季節ですね。大阪府堺市であなたのちょっとした変化を応援してます。山本哲也です。

今日は、ちょっとした変化どころか一大行事である事業承継に関する国の支援についてお話いたします。事業の“売り手側”と“買い手側”と両方への支援が登場するので少し読みづらいと思います。あなたが、これから、または今、どちらの立場に置かれているのかを明確にしてからお読みいただくとよいかもしれません。

経営資源引継ぎ補助金とは?

経営資源引継ぎ補助金とは、令和2年度の補正予算に盛り込まれた雇用の維持と事業の継続対策のひとつです。
ここ日本では、中小企業経営者の高齢化はますます進んでおり、2018年度には61.73歳(東京商工リサーチ調べ)となっています。また、70代以上の高齢経営者が率いる企業では、減収減益など業績の低迷も目立つ状況です。このような中小企業の事業承継を促進し、雇用の維持や技術の伝承、組織再編による企業の効率化を支援するための制度として設置されました。仲介手数料やデューデリジェンス費用などM&A関連の費用が補助金の対象となるため注目が集まっています。

補助金の額はどれくらいなのか?

売り手には最大650万円、買い手には最大200万円が一括支給されます。

【補助上限額、補助率】

タイプ 補助率 補助下限額(注1) 補助上限額
買い手支援型(Ⅰ型) 補助対象経費の3分の2 50万円 ①経営資源の引継ぎを
促すための支援100万円
②経営資源の引継ぎを実現させるための支援200万円
売り手支援型(Ⅱ型) 補助対象経費の3分の2 50万円 ①経営資源の引継ぎを促すための支援100万円
②経営資源の引継ぎを実現させるための支援650万円(注2、注3)

注1 補助額が補助下限額を上回ることとする。
注2 補助事業期間中に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合、補助上限額は100万円とする。
注3 廃業費用の補助上限額は450万円とし、廃業費用を活用しない場合の補助上限額は200万円とする。
ただし、廃業費用に関しては、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間に実現しなかった場合は補助対象外とする。

どんな経費が支援を受けられるのか?

経費ならなんでも認められるわけではありません。大まかにいうと以下の通り
①使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
②補助事業期間内に契約・発注をおこない支払った経費
③補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費
※廃業費用に関しては、補助事業期間より前に契約・発注していた場合でも、補助事業期間内に再開したことが分かる覚書等を提出することで、補助事業期間内に支払った経費を補助対象経費とします。
※本補助金の交付申請にあたっては、補助対象経費について原則として2者以上の相見積もりが必須となります。

さらに、売り手と買い手では支援を受けられる経費に違いがあります。

【支援類型別の経費概要】

支援類型 対象費用の区分
買い手支援型(Ⅰ型) 謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料
売り手支援型(Ⅱ型) 上記に加え、廃業費用、廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費などが追加

出典: 経営資源引継ぎ補助金事務局ホームページ

売り手と買い手と共通の支援対象経費

この補助金では事前の準備経費も補助対象として認められています。
例えば、
1. 謝金・委託費とは、士業などへの相談費用や書類作成を依頼した場合の代行費用が当たります。
2. 旅費とは、先方との打ち合わせなどで移動する際に生じた経費のこと。
3. システム利用料とは、マッチングプラットフォームへの登録料や利用料がこれに当たります。
その他、外注費や委託費などの項目もあり、かなりいろいろなものも含めて補助を受けることができそうです。

一方、事業承継の場面では、売り手側だけに生じる費用があります。事業譲渡をした際の会社や個人事業の廃業に関わる費用です。これらにも補助が受けられます。
1. 廃棄登記費とは、登記事項変更にかかる登録免許税や、士業へ委託した場合の申請資料作成費などがこれに当たります。
2. 在庫処分費、解体・処分費とは、事業に利用していた在庫や設備の一切を引き継いでもらえればよいのですが、引き継ぐ資産が顧客や従業員だけの場合や、まだ新しい設備だけに限定して引き継がれるケースなど、すべてケースバイケースです。そのような場合で、手元に使わなくなった資産が残り、廃棄処分するようなケースを想定した支援です。
また、賃貸物件では、原状復帰工事が必要になることが一般的ですが、そのような費用も支援が受けられます。

経営資源引継ぎ補助金の目的

このように大きな支援が受けられる補助金ですが、その目的はというと、「事業再編・事業統合等に伴う中小企業者の経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する事業を行うことにより、新型コロナウイルス感染症の影響が懸念される中小企業者に対して、①経営資源の引継ぎを促すための支援、②経営資源の引継ぎを実現させるための支援によって、新陳代謝を加速し、我が国経済の活性化を図ること」となっています。国の方針もとにかく事業者をなんでも守るところから、“一定の合理的な規模への再編”や“新規開業者の支援”を進め日本経済を活性化させる方向へと変化していることが感じられます。

公募期間は以下の通り。
オンライン申請の場合の公募期間・・・2020年8月22日(土)19時まで
郵送による申請の場合の公募期間・・・2020年8月21日(金)までの間の消印有効
交付決定は、9月中旬頃となっており、公募期間終了後に事務局による書類審査と選考が行われます。

▼お問い合わせ先
経営資源引継ぎ補助金事務局
電話:03-6629-9134
経営資源引継ぎ補助金ホームページ
令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 公募要領
☆本ページの情報は、細心の注意を払って作成しておりますが、必ず公募要領をしっかりとお読みいただき不審な点は、上記の担当局へ問い合わせ先の上、申請ください。

まとめ

今回の新型コロナウイルスの感染拡大による事業環境の悪化の影響は、これから本格化する見通しです。私たちにとっても今後の事業の方向性についてしっかりと見つめなおし、事業計画の見直しが必要になっています。このような補助金があったことを頭の片隅においていただき、必要に応じて活用いただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

中小企業診断士 山本哲也

変化を迫られるスタートアップのEXIT戦略 ―IPOからM&Aへのシフト―

1.活発化するスタートアップのM&A

事業承継と並んでスタートアップのM&Aは注目株です。取引先等への株式売却も含めるとスタートアップのEXIT全体のうちM&Aは約4割を占めています(注1)。スタートアップは成長スピードを重視するため、IPO(Initial Public Offering:新規株式上場のこと)でキャピタルゲインを狙うベンチャーファンドやシナジー効果を狙って協業を図る大企業から出資を受け入れて事業展開を図っています。

このため、スタートアップは5年~10年程度で事業の成果を求められます。投資家の資金回収極大化や大企業の事業シナジーの強化を実現するためスタートアップのM&Aは今後さらに拡大していくと思われますが、その要因について売手・買手双方の視点で考察していきましょう。

 

2.スタートアップのM&Aが増加する売手要因とは?

M&Aの主な売手要因としては次の3点があげられます。

(1)期限到来に伴うベンチャーファンドの売却ニーズ増大

多数のベンチャーファンドが今後2、3年で償還期限を迎えます。アベノミクスを背景に2013年以降、多数のファンドが設立され投資が活発に行われました。2013年から2018年の6年間に累計342本・1.3兆円のファンドが設立され、5,752件・5,613億円の投資が実行されています。(注2)

しかし、これらのファンドの多くは運用期間が10年です。2023年以降迎える運用期限を前に、既にこれらのファンドによるIPOできない投資先の売却先探しが始まっています。2013年から2018年の6年間における国内IPO社数は572社に過ぎません。

IPOできない多くのスタートアップは、投資家や起業家自身の出資金を回収するための出口(=EXIT)として、M&Aを余儀なくされる可能性が高いのです。

 

(2)コロナ禍を契機に進むスタートアップの選別

大企業やCVC(Corporate Venture Capital:投資活動を通じた事業シナジー獲得を目的として大企業等により設立されたファンド運営会社)は、コロナ禍を契機として投資先との出資・提携関係を見直しはじめています。大企業にとってオープンイノベーションニーズが消失するわけではありません。

しかし、ここ数年右肩上がりだった国内CVCの投資金額が2020年1月から3月については19.8億円と直前四半期比11.4億円減・前年同期比4.8億円減、とマイナスに転じており、影響は顕在化し始めています。(注3)

 

(3)起業家のM&Aに対する価値観の変容

起業家にとってIPOは有力なゴールです。しかし、メルカリの山田進太郎氏などシリアルアントレプレナー(連続起業家)が成功者として認知されるようになり、M&Aを通じて大企業に買収されることはステータスとなりました。M&AはIPOと比肩しうる有力な選択肢となったのです。

 

3.スタートアップのM&Aが増加する買手要因とは?

メディアで耳目を集めるのは大企業へのM&Aですが、中小企業や個人も含めM&Aの参加者に変化がみられます。

 

(1)M&Aプラットフォーマーの登場によるM&A参加者層の拡大

「Batonz」をはじめ、多数のM&Aプラットフォーマーが登場し、手数料負担の低下や中小規模の案件情報の拡充により、M&A参画のハードルが下がり市場参加者が拡大しています。事業拡大を目指す中小企業や、創業目当ての個人まで幅広い層が参加者となったのです。

 

(2)人材獲得手段としてのM&A(=アクハイア)の普及

コロナ禍で、求人倍率は低下したかもしれませんが、企業にとって高度な技術・ノウハウを持つ人材の確保は引き続き大きな課題です。スタートアップの有能な人材を会社と一緒に丸ごと確保する手法として、大企業やスタートアップによるM&Aの活用が増加しつつあります。

 

<むすび>

これまで注目されつつもなかなか広がらなかったスタートアップのM&Aですが、ベンチャーファンドの大量償還という循環要因に加えて、M&Aプラットフォーマーの登場などの構造要因、起業家意識の変化などの質的要因も相俟って、スタートアップのM&A市場は今後2,3年で着実に拡大すると思われます。

さらに、M&A先進地域のシリコンバレーの先行事例にならって普及した「種類株式やと株主間契約」を活用した投資手法(次回以降に詳述予定)などもこの動きを後押しすることになるでしょう。

次回は、これらの動向を踏まえた上で、買手・売手双方の視点でスタートアップのM&Aを成功させるためのポイントについてひも解いていきたいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

(注1)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「ベンチャー白書2017『ベンチャー投資先のEXIT件数推移』」より
(注2)一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会「2018年ベンチャーキャピタル市場動向」より
(注3)一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「直近四半期投資動向調査」(2020年第1四半期(1月~3月)より