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【僕たちのM&A】 “FA”ってよく聞くけどなんだろう?フリーエージェント?

“FA”ってよく聞くけどなんだろう?フリーエージェント?

FAは、M&Aの現場で活躍する支援者の一人です。その業務内容は大まかには決まっているものの、法律で定義されているわけではありませんので、M&A仲介会社と似たような仕事をする人。という認識を持つことも多く、しばしば混同されることがあります。本日は、今さら聞けないM&A仲介とFAの違いや、どのような場面でFAが活躍するのか、また、仲介会社の利用が有用なケースについてもお伝えします

 

ツナグ:「まず、初めにすっきりしておきたのはFAってなんの略なんだろ?それがわかれば少しはFAのことが理解できるかもね」

 

FAは、ファイナンシャル・アドバイザリーの頭文字をとった略語です。一言でその業務内容を説明すると“M&Aを検討している企業に対して、計画立案から契約に至る一連の業務に対してのコンサルティング提供”となります。つまり、M&Aの仲介業務ではなく、売り手と買い手のどちらか一方を支援し、支援先の利益最大化を目的とするコンサルタントと言えます。

具体的には、 “M&A戦略の立案”に始まり、“相手先分析やデューデリジェンスなどの法務・財務・税務面での助言”さらには、“交渉への参加”まで行うこともあります。

 

FAとの契約、M&A仲介会社との契約はどちらもアドバイザリー契約とよばれ、業務内容や範囲、そして報酬額について取り決めます。基本的に契約期間は、M&Aの検討開始からクロージングまで一連のプロセスすべてです。

 

一般的にFA業務を提供しているのは、証券会社など金融機関であることが多いですが、会計士や弁護士、中小企業診断士などからなる専門士業チームや、仲介とFAの両方を顧客の要望に応じて提供しているM&A支援企業も存在します。それぞれ、契約前に専門の業務分野や得意な業界、過去の実績などを確認しておくことが必要です。

 

ツナグ:「なんでも相談できるのは心強いね。戦略立案支援から仲介までしてくれるケースもあるんだね。ってことは・・・今度は、仲介会社とFAの違いが判らなくなってきたよ」

 

どちらもM&Aのプロではありますが、基本的な違いは、先述の通りM&A仲介会社が“双方の利益の最大化を目的”するのに対し、FAは、“売り手と買い手のどちらか一方を支援し、支援先側の利益の最大化を目的”にしている点に最大の違いがあります。

 

ツナグ:「なるほど。つまり、信頼できるFAがいればすべてオッケーってことかな」

 

もちろん、M&A仲介会社を利用するメリットもたくさんあります。例えば、M&A仲介会社は、取引をまとめることが仕事ですので、取引双方の利益のバランスを重視して売り手、買い手双方の利益が最大になるように取引そのものを支援します。双方の企業の希望・要望を考慮して相手先企業を広く探し、マッチングするとこから支援をスタートさせるためや、お互いの事情が理解できているため、FAに比べてM&Aを成約させやすいという強みもあります。

 

ツナグ:「なるほど。どちらにも得手不得手があるってことか・・。じゃあ一体どうやって決めればいいんだろ?!」

 

いくつかの検討材料があると思いますが、まず、依頼したい業務内容が予算の範囲内で依頼できるかどうか?は重要な条件になります。相談料、着手金、中間金(成功報酬)、月額顧問料報酬、完全成功報酬といった名目から、業務内容ごとに細かく算定する会社まで千差万別です。必ず、十分なすり合わせの上、契約内容と見積もりを事前に受け取り、社内のコンセンサスを得た上で契約をしましょう。

また、M&Aを進めるにあたっては、社内の事情や戦略的なことなど、機微な情報についてもオープンにすることになり、長期の取引になります。そのため、金額や業務範囲、専門分野といった条件面だけでなく、自社にフィットするのか、信頼がおけるのかどうか、トラブルが発生した時のバックアップ体制はどうなっているのかなども検討することが重要です。また、早い段階でNDA(秘密保持契約)を取り交わすことをお勧めします。

 

まとめ

M&Aでは、相手先に支払う以外にもいろいろな支援を受けるための予算が必要です。もちろん普段お付き合いのある税理士・弁護士・中小企業診断士などとともに社内専門チームを立ち上げ、自社がメインとなって成約まで完結することもできます。しかし、本来の目的に立ち返り、リスクや時間的なコストまで含めて総合的に判断し、どのような方法で進めるのかについて経営者も含めて検討した方がよいでしょう。

まずは、取引金融機関や顧問の士業へ相談したり、セミナーを通じていろいろな専門家とコンタクトを取り、自社のニーズに合う専門家から話を聞いたりするなど、まずは情報収集から行うことをお勧めします。

本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

M&Aによる従業員の承継のポイント①

M&Aをすると従業員はどうなるか

M&Aによって経営者が交代するとしても、売り手に勤務していた従業員は引き続き勤務し続けることになるのでしょうか。M&Aの後も企業が事業を進めるためにもこれまでどおり従業員に勤務してもらう必要があることが多いと考えられます。他方で、M&Aに伴う事業の縮小のために人員整理を行ったり、いわゆる問題社員について、M&Aをきっかけに退職してもらいたいと考えたりすることもありえます。

そこで、今回は、M&Aに伴う従業員の雇用関係について解説します。

 

〇 株式譲渡によるM&Aの場合

株式譲渡によるM&Aの場合は、株主構成が変わるだけなので、従業員の雇用関係に特段の変化が生じるわけではありません。では、M&Aをきっかけに従業員を解雇することはできるのでしょうか。結論としては、単にM&Aにより経営者が交代することは解雇の合理的な理由になりませんので、解雇権の濫用(労働契約法第16条)として当該解雇は無効となります。

では、M&Aに伴い、工場などの事業所を閉鎖するため従業員を解雇する場合はどうでしょうか。この場合は、いわゆる整理解雇にあたりますので、解雇が可能かどうかは、いわゆる整理解雇の4要件(東洋酸素事件:東京高判昭和54年10月29日労判330号71頁)を満たすかどうかを検討することになります。

【整理解雇の4要件】

① 人員削減の必要性

人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること

② 解雇回避の努力

配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと

③ 人選の合理性

整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること

④ 解雇手続の妥当性

労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

(出典:厚生労働省ウェブサイト)

 

事業譲渡によるM&Aの場合

事業譲渡とは、事業の全部または一部を取引行為として第三者に譲渡する行為をいいます。ここにいう「事業」とは、「一定の目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」をいいます(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。飲食チェーンがひとつのブランドを売却する際に、店舗、セントラルキッチン、システム一式を譲渡第三者に売却するという事例をイメージするとわかりやすいかもしれません。

事業譲渡は事業を譲渡する会社(以下「譲渡会社」といいます。M&Aにおける売り手を指します。)とこれを譲り受ける会社(以下「譲受会社」といいます。M&Aにおける買い手を指します。)との契約によって行われます。したがって、譲渡会社の雇用関係を譲受会社の雇用関係に承継させるためには、当該契約に雇用関係を承継させる旨を規定することがまず必要になってきます。さらに、事業譲渡により雇用関係が譲渡会社から譲受会社に承継するためには、各従業員の承諾が必要とされています(民法第625条)。いわば、事業譲渡の場合は、譲渡会社の従業員には譲受会社への転籍の拒否権が与えられているといっても過言ではありません。

したがって、譲渡会社は、事業譲渡によって移籍をさせようとする従業員から承諾を得るためには、事業譲渡に関する全体の状況や譲受会社等の概要及び労働条件等を丁寧に説明し、当該従業員の真意による承諾を得られるようにする必要があります。

また、譲渡会社に労働組合がある場合は、個々の従業員への説明に先立ち、労働組合への協議を行い、理解と協力を得るよう努めるべきです。事業譲渡による従業員の転籍は、労働条件に関する重要な事項ですので、労働組合は交渉権限を有しています(労働組合法第6条)。したがって、労働組合から事業譲渡による従業員の転籍について団体交渉を求められた場合、これを拒否すると不当労働行為となりますので(労働組合法第7条第1項第2号)、注意が必要です。(以上について、詳しくは、「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(厚生労働省告示第318号)をご参照ください。)

 

事業譲渡によるM&Aでは買い手は転籍する従業員を選ぶことができる?

先ほども述べたように、事業譲渡により従業員を譲渡会社から譲受会社に転籍させるためには、譲渡会社、譲受会社及び当該従業員の3者の合意が必要となります。

逆に言えば、譲渡会社と譲受会社とが合意しなければ特定の従業員は譲渡の対象から外されることとなります。そうすると、買い手である譲受会社としては、譲渡会社からの転籍を望まない従業員について、事業譲渡の対象から外すことも理論的には可能ということになります。

ただし、譲受会社が、譲り受けた主要な資産や事業所の所在地や電話番号ロゴマークを引き続き使用していることや事業譲渡の対象とならなかった従業員以外の全従業員を雇用していることなどから、すべての従業員を譲渡の対象とする事業譲渡がなされたと推認されると判断した裁判例もあります(タジマヤ事件:大阪地判平成11年12月8日労働判例777号25頁)。また、法人格否認の法理を用いて事業譲渡の対象から外れた従業員を救済した裁判例もあります(日進工機事件:奈良地判平成11年1月11日労判753号15頁など)。

したがって、恣意的に従業員を事業譲渡の対象から外したとしても、訴訟などを通じ、結局譲受会社に雇用関係が承継されていると認定されてしまうリスクがあるということを認識しておいたほうかよいのではないかと考えます。

 

次回の予告

次回は、合併や会社分割によるM&Aの際の雇用関係の承継について取り上げますのでご期待ください。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

M&A後も円滑な資金調達を続けるには ~金融機関や投資家の目線で対策を講じよう(その2)

前回は、M&Aにおける「お金」の関係で留意すべき点として、金融機関と取引がある中小企業のケースについてご説明しました。今回は、スタートアップ企業のように株式発行等による資金調達(エクイティファイナンス)を行っていて、金融機関との与信取引がない企業のケースについて解説したいと思います。

 

スタートアップのM&Aの場合

(1)スタートアップのM&Aで留意すべきポイント

金融機関から借入金のある企業がM&Aで買収の対象になる場合、M&Aが引き金となって返済期限を待たずに金融機関に借入金を返済しなければならなくなることがあることを前回のコラムでお話しました。

一方、スタートアップは、主にベンチャーキャピタル(以下、「VC」)やエンジェル投資家から第三者割当増資により資金調達しており、借入金がない企業も少なからず存在します。

しかし、「無借金なのだからM&Aをする際に、金融機関との契約に規定されている『期限の利益喪失条項』のようなCOC条項は存在せず、問題は発生しないだろうと判断してはいけません。

 

(2)投資家との契約におけるCOC条項

スタートアップは、創業間もない段階ではエンジェル投資家、創業後はVCなどの投資家から増資により資金調達します。借入金ではないため返済不要の資金ですが、これらの投資家との間で出資を受ける際に「創業者株主間契約」や「株主間契約」など(以下、「投資契約」)を締結しています。

経営者は本業に忙しく、管理部門が未整備な段階では「投資契約」の内容について十分理解されずに契約が締結されてしまう場合も少なくありません。しかし、「投資契約」には、M&Aに影響を及ぼす重要な条項がいくつか規定されています。その中でも特に「事前承認条項」「買取請求条項」「Drag-Along条項」「みなし清算条項」の4つの条項は非常に重要な条項です。

なお、「投資契約」は様々な様式があるため、ここでは経産省が日本ベンチャーキャピタル協会などに委託して作成した「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(以下、「留意事項」)をベースに解説します。

 

①事前承認条項

事前承認条項とは、売手企業がM&Aを行う際には、売手企業の経営者は、所定の事項について、多数の株式を保有するVCなどから事前に承認を得ることが必要となる条項をいいます。

「留意事項」では、投資契約において承認を得ることが必要な事項として、「発行会社の株式等の譲渡等に対する承認」「合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡又は事業譲受」をする場合、「発行会社(=売手企業)及び創業株主(=株主である経営者)は、投資家から事前に承認を得ること」などが例示されています。事前承認を要する事項について承認なく行った場合は、契約違反となります。

 

②買取請求条項

買取請求条項とは、重大な契約違反(①の事前承認違反も含む)があった場合、投資家は売手企業や株主である経営者に対して、保有する株式を時価で買い取るよう請求することができる旨の条項を言います。

買い取る際の株式の価額は時価となるため、出資を受けた金額と同額とは限りません。この点で、株式の買い取りは、借入金の返済とは異なるものの、売手企業や経営者に資金負担が生じるという点では見逃せないポイントです。

 

③Drag-Along条項

Drag-Along条項とは、多数の投資家の賛成等、契約上任意に設定された一定要件を満たした場合、売手企業、株主である経営者、契約当事者である全ての株主に対してM&Aに応じて保有株式の売却に応じるよう請求することができる旨の条項です。(Drag-Alongとは強制売却権や同時売却請求権のことを意味します。)

この条項は、投資家に対して株式売却の機会を設ける趣旨のものです。この条項により経営者の意に反して第三者に事業譲渡をせざるを得ないこともあるため、通常はM&Aする際の売却代金に下限金額を設定したり、「株式保有期間が5年以上経過した後」など行使期間を制限したりすることが多いようです。

 

④みなし清算条項

みなし清算条項とは、M&Aが行われた場合の売却代金の分配方法もこの定款規定に準じて優先株主に優先的に分配することを契約上に規定する条項です。この条項は、売手企業が優先株式を発行していて定款に会社を清算した際には優先株主に残余財産の優先的に分配する規定がなされていることを前提としています。

売却代金が売手企業の払込資本合計(通常は、資本金と資本剰余金の合計額)を下回る場合には、優先株主(通常はVCなどの外部投資家)が優先して売却代金を受領するため、普通株主(譲渡代金の分配を受ける権利面では劣後株主)である経営者は自分で出資した金額を回収できないことになるので、経営者はあらかじめ損益分岐となる株価をよく理解した上で交渉に臨む必要があります。

 

(3)投資契約で失敗しないための留意点

金融機関による融資と投資家による出資とは、会社が資金調達するという点では一見同じような行為にも思えます。しかし、資金の出し手の視点みると融資は元本を回収することを前提として金利収入を得ることが目的ですが、投資は資金の出し手の立場によってさまざまな目的があります。

こうした、投資目的に応じて投資家とコミュニケーションすることが「投資契約」による制約を受けずにM&Aを成功させるポイントになります。

では、投資家にはどのような目的があるのでしょうか。目的に応じて対応することこそが留意点となります。

 

①VCなどのキャピタルゲインを目的とした投資家の場合

VCは自分自身の株主や、VCが運営するファンドの投資家の利益になるように行動します。したがって、会社が将来IPO(株式公開)したり、M&Aしたりすることによって保有する株式をVCが出資した時よりも高い株価で売却できるかどうかがポイントになります。ですから、買手企業との株価交渉においてVCなどの株主の保有簿価以上の株価で株式譲渡が見込めるようなM&Aの提案については、まず、承認されないことはありません。

もちろん、第三者からさらに高い株価での買取オファーがあればVCは当該第三者への譲渡を勧め、会社のM&Aの提案を承認しないこともあります。しかし、その場合には、経営者である株主もキャピタルゲインを得るという点でVCと利害が一致するため、交渉の余地は十分にあると思われます。

最も交渉が難航するのは、会社の業績が低迷し、VCが投資した時点より低い株価で株式譲渡することが見込まれるM&Aの場合です。VCはキャピタルロスが発生するためM&Aの提案を受けにくい立場にあります。しかし、そのままだと業績がさらに悪化して株価が二束三文になってしまうことが想定される場合には“損切り”のためにM&Aの提案に応じる方が合理的と判断されることもあるのです。

つまり、VCが投資家の場合には、VC自身の株主や、VCが運営するファンドの投資家に対して合理的な説明ができる売却条件であるか否かに留意することが必要になります。

 

②大企業や投資子会社コーポレートベンチャーキャピタル(以下「CVC」)などの事業シナジーの発揮を目的とした投資家

大企業やCVCが投資するのは、主に自社の新製品・新サービス開発力などを資本提携により強化することを目的としていることが多いようです。特に近年はプロダクトライフサイクルの短期化に対応するため大企業のオープンイノベーション化の動きが活発化しています。

投資家である大企業やCVCがM&Aに反対するのは、自社と競合する先に出資先の経営権が移転することです。もちろん、VCと同様に売却損が発生するような株式譲渡には賛成しませんが、譲渡損益と同等以上に本業に与える影響を重視します。

大企業が投資家として株主にいる場合には、第三者への株式譲渡によるM&Aを検討する前に、既存の株主である大企業が株式を引受ける可能性がないか、まず、そこから検討を開始するのが正攻法です。

 

いずれの場合も、投資家の出資目的を把握し、M&Aにより投資家にどのような影響が及ぶのか理解することによって、「投資契約」に基づく投資家の権利行使を回避することが可能になります。

 

まとめ

「借入契約」も「投資契約」もM&Aによる経営者交代に対してCOC条項で一定の歯止めをかけていますが、取引金融機関(債権者)や投資家(株主)の権利が脅かされない限り安易に行使されるものではありません。

取引金融機関や投資家など「お金」に関係するステークホルダーの視点に立って対応することで、「お金」をかけずに円滑にM&Aを進めることができます。

契約書の条文をひも解くのと並行して、ステークホルダーとの関係性をひも解くことが重要です。こうした観点で専門家のノウハウを活用するのは売手企業・買手企業にとって賢い選択かもしれません。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

(注)関連コラム

「M&A後も円滑な資金調達を続けるには ~金融機関や投資家の目線で対策を講じよう」(中小企業診断士 伊藤一彦 著)

「法務DDでの必須ポイント!③(カネ・情報編)」(弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 著)

交渉過程で、買い手がうっかり忘れてまうこと

みなさま、こんにちは、新型コロナウイルス感染症もワクチン接種が始まりましたが、我々が接種してもらえるのはずいぶん先になりそうです。我々ビジネスパーソンは、外部環境の変化に抵抗しても何も得るものはありません。変化を味方につけて社会に価値を生み出してまいりましょう。あなたのちょっとした変化を応援しています、山本哲也です。

 

いつものように、M&Aで社長を目指す“若手ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。

 

ツナグ:「M&Aの仕組みを利用して新しいビジネスを始めたい」と思い立ったものの売り手のどん

なところを見ればよいんだろう・・・?

 

今日は、かなり大きなテーマになってしまいそうですので、基本的なところを考えるヒントになればと思っています。

 

どのような業種がよいのか

もちろん、業界のことを理解できているような身近な業種業態や、自分の経験が活かせる業界、地縁血縁を持っている業界などが第一候補となると思います。しかし、ツナグのように若いビジネスパーソンで新しい世界にチャレンジしたい方や未経験でもIT業界に関心の高い方もおられると思います。

一般論にはなってしまいますが、リスクの少ない業界やリスクの少ないポジションの企業があるのも事実です。例えば・・

“固定客があり、毎月一定の売上が見通せるストック型のビジネス”

当たり前ですが、この不確実性の高い社会では、ある日突然ビジネスモデルが通用しなくなることが発生してもおかしくはありません。今回のコロナ禍においても大きなダメージを受けた業種業態がありました。感染拡大初期段階では、スポーツクラブやカラオケ。その後、緊急事態宣言の発令を受けて、飲食店や観光業へと波及し、人の行動パターンや意思決定ロジックといった生活様式が変化したことで、美容関連やアパレルにまでその影響は拡がりました。

万一、このような大きな環境変化が発生しても、会員のような固定客があれば、その環境変化に合わせて顧客からの要望を受けて、業種業態の変更、提供価値の変更は不可能ではありません。

 

“規模のメリットが働く業種や小商圏の規模の小さな企業が集まっている業界”

これは、地元密着のスモールビジネスがこれに当てはまります。つまり、すでに行っているビジネスで同業他社を取り込んだり、顧客だけを譲り受けたりするイメージです。規模の拡大により増加する固定費が小さく、限界利益の増加分をそのまま営業利益として取り入れることができるケースです。

 

社内体制の特徴からみると・・・

“ワンマン社長ではなく、権限移譲が進んでおり組織で会社が回っていること”

ワンマン社長を避けたい理由は、2つあります。まず、成功ノウハウを社長だけが理解しており、暗黙知になっており、うまく引き継げないことが考えられます。また、社長がトップ営業マンとして長年活動しており顧客とつながっているため、社長の退職と同時に顧客が離れてしまうリスクが考えられます。最後に従業員がM&Aを機会に退職してしまうことも考えられます。

 

財務面で見ると・・・

“売上利益が安定しており、わずかでも黒字になっていること”
当たり前の話ですが、M&Aによりあらゆる面で不確実性が増します。買収で資金的な余裕も失われた状態で、毎月のようにキャッシュアウトしていくような企業は、避けたいですね。財務面だけでなく精神面も相当タフでなくては、事業を好転させることは難しくなるでしょう。まずは、自分の役員報酬を確保した上で少しの黒字がでるくらいで十分ですが、実質黒字にはこだわりたいところです。

また、“借入金が年商の30%以下程度であること”赤字でも会社は倒産しませんが、資金返済が滞れば突然倒産ということは十分にあり得ます。もちろん借入金は少なければ、安心感はありますが、一方で金融機関からの信用というものも大切な経営資源です。借入金があっても、短期的な運転資金や返済のめどがたっているものであれば、かえってあったほうがよいと考えるべきです。

 

交渉の過程では・・・

“売り手側が質問に対して誠実かつ迅速に対応してくれること”や“交渉を急がせてこないこと”などビジネスパートナーとして信用できるかどうかも大きな取引だけに重視したいポイントです。後で後悔することのないよう、落ち着いて判断したいところです。

 

いかがでしたでしょうか。

今回も、いつも以上に当たり前のことばかりをお伝えしました。しかし、案件が進んでくるとどうしても「せっかくここまで進めのだから・・」「相手も乗り気だし・・」などという心理が働きます。交渉が進むごとに当初描いていたゴールイメージとの乖離を確認しつつ、商談を進めるようにしてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

債務超過の企業がM&Aを行う際の注意点

債務超過の企業は「売れない」企業ではない

離婚の際の財産分与では,オーバーローン状態の土地建物は,無価値として扱われます。このことと同様に,債務超過(ここでいう債務超過とは,貸借対照表の簿価上の債務超過ではなく,資産・負債の時価評価を踏まえた実態貸借対照表上の債務超過をいうとご理解ください。)の企業は,価値がないということになり,M&Aの売り手となることはできないのでしょうか。

結論から言えば,債務超過企業であってもM&Aを実行できる可能性はあります。ただし,債務超過企業がM&Aを行うためにはさまざまな工夫が必要となります。本稿では,債務超過企業がM&Aを行う際の注意点についてご説明いたします。

 

M&Aが整うまでの資金繰りを確保する

まず,債務超過企業がM&Aを行うために検討すべきことは,M&Aが実行するまでの間,資金繰りが確保できるかどうかということです。債務超過企業でなくとも,売り手としてM&Aを行う場合,買い手が見つかり,かつ基本合意から最終契約までに至るプロセスには相当の時間を要します。このため,資金繰りに余裕がないことが多い債務超過企業においては,そもそもM&Aを完了できるまでの期間資金が持ちこたえられるのかどうかを検討する必要があるのです。

 

M&Aのための債務整理―まずは私的整理

債務超過企業がM&Aを行う際に検討しなければならないのは債務整理です。このことにより,少しでも債務の弁済に余裕がある状態になれば,買い手が見つかりやすくなるからです。

債務整理というと破産や民事再生といった法的整理が思い浮かぶ方も多いかもしれません。しかし,まず考えるべきは裁判所の関与のもとで行う法的整理ではなく,私的整理となります。なぜならば,私的整理は,法的整理とは異なり,官報等により公表されることがないので,事業に関する信用の毀損を回避しやすいからです。

 

私的整理はどのように進められるのか

私的整理は,債務者と債権者とが話し合いで債務を整理する方法ですので,特にそのやり方が法律に定められているわけではありません。一般的には,メインバンクが中心となって債権者委員会を設置し,弁護士や公認会計士が委員長となって手続を進めていくこととなります。

具体的な私的整理の手続きとしては,現在の経営者の退任などの経営責任,従業員のリストラ,不要資産の売却などを行うことで企業の経営の改善を図っていきます。このことと併せて,債務の弁済の猶予(リスケ),一部免除(債権放棄),DDS,DES等といった債務の整理を行うことを盛り込んだ再建計画を策定し,債権者の了解を得ていくということになります。

私的整理は,その内容が公表されないこと,法的整理に比べ柔軟かつ迅速に手続が行われるというメリットがあります。他方,私的整理は,一般に金融債権のみが対象となり取引債権が対象外となることが多いこと,すべての債権者の合意が得られなければ再建計画が成立しないことといったデメリットがあります。

 

債権放棄の際の債務免除益に注意

私的整理において,債権者である金融機関に債権放棄をしてもらうためには,現経営者が退任したり,私財を提供したりするなど,厳しい条件が課せられることが通例です。

さらに,仮に金融機関から債権放棄が得られたとしても,注意することがあります。それは,債務免除益を相殺するに足りる欠損金がなく,債権放棄による債務免除益が生じてしまい,これに課税されるおそれがあるということです。

 

事業譲渡の際の注意点

債務超過企業が売り手となってM&Aをしようとする際に,収益性が低い事業を事業譲渡することを検討することがあります。収益性が低い事業を処分することで経営のスリム化を図り,買い手にとって魅力的な企業となることができるからです。

事業譲渡を行う際には注意をしなければならないことがあります。それは,事業譲渡の際の対価が適正なものでなければ,当該事業譲渡が不当な財産流出であるとして,債権者が事業譲渡について詐害行為取消権(民法第424条)を行使し,当該事業譲渡の効力を否定してしまうことです。

ここでいう「適正な対価」とは,少なくとも清算価値を相当程度超えるものである必要があります。清算価値とは,仮に現時点で企業が破産したと仮定した場合の企業価値のことをいいます。要するに,債権者が『破産した場合にもらえる金額よりは多いな』と思うくらいの価格でなければ,債権者に事業譲渡を否定されてしまうリスクがあるということです。

なお,詐害行為取消権は,債権者が債務者に対して有する債権を保全するために行使するものです。したがって,金融機関などの大口債権者は特に詐害行為取消権を行使するおそれが高いので,事前に事業譲渡について説明を行い,了解を得ておくとよいでしょう。

 

必須となる専門家との連携

これまで,債務超過企業がM&Aを行う際の注意点についてご説明をしてきました。これらの注意点はいずれも極めて専門性の高いものです,中小企業診断士,弁護士,公認会計士,税理士などの専門家と連携しながら進めていく必要があります。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 

M&A後も円滑な資金調達を続けるには ~金融機関や投資家の目線で対策を講じよう

M&Aが行われる場合、株式譲渡や事業譲渡など実施方法に違いはあっても、会社の経営権若しくは事業の実施主体は売手企業から買手企業に移転します。

このためM&Aにおけるデューデリジェンス(以下、DD)では、取引先との契約に規定されるチェンジオブコントロール条項(以下、COC条項)のチェックが不可欠になります。

このCOC条項(注)は、売手企業の支配権(Control)を持つ株主や代表者が変更となる場合に契約を解除したり、事前承認・事前通知等をしたりしなければならないといったことが規定された契約上の取り決めです。

このCOC条項が規定されている契約には、事業提携先との業務提携契約や、不動産を賃借している場合の賃貸借契約、金融機関との金銭消費貸借契約、エンジェル投資家や事業会社との株主間契約などさまざまなケースがありますが、今回は会社の「お金」の調達関係に着目して掘り下げてみたいと思います。

 

1.中小企業のM&Aにおける金融機関との関係

(1)COC条項と期限の利益の喪失条項

多くの中小企業は金融機関から借入をしているため、中小企業に係るM&Aでは、これらの金銭消費貸借契約書等に関する法務DDが不可欠です。法人が金融機関から融資を受ける場合には、基本契約となる「銀行取引約定書」や個別の融資取引ごとに締結する「金銭消費貸借契約書」などを締結しますが、この契約には一定の事由が生じた場合に法人は返済期限を待たずに金融機関に借入金を返済しなければならなくなる「期限の利益喪失条項」が規定されています。COC条項においてもこの「期限の利益の喪失条項」が規定されていることがあります。

 

ところで、「期限の利益喪失条項」は、適用される事由によって2つに分類することができます。

 

1つは「当然喪失事由」です。これは、一定の事由が発生したときに当然に期限の利益が喪失されるというもので、具体的には「①支払の停止または破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始もしくは特別清算開始の申立があったとき。②手形交換所の取引停止処分を受けたとき。」などが該当します。

 

もう一つは「請求喪失事由」で、所定の事由に該当したとしても当然に期限の利益が喪失されるわけではないものの、借手の中小企業(債務者)に対して金融機関が請求すれば期限の利益を喪失され約定の期限前に一括返済させることができるようになるものです。

 

M&Aの際に注意が必要なのはこの「請求喪失事由」です。

「請求喪失事由」として、一般的には、「①債務の一部でも履行を遅滞したとき。②担保の目的物について差押、または競売手続の開始があったとき、③取引約定に重大な違反したとき、④反社会的勢力に該当する場合、⑤債務者が降り出した手形に不渡りが発生したとき、⑥前各号に準じるような債権保全を必要とする相当の事由が生じたと客観的に認められるとき。」などが規定されています。

 

このため、COC条項で「期限の利益喪失条項」が規定されている場合はもちろん、そうではない場合であっても、M&Aの際に、金融機関は株主構成や代表者の変更により「債権保全を必要とする相当の事由である」と主張して、借入金の一括返済を求めてくるのです。

 

(2)金融機関が借入金の一括返済を求める実質的な理由

実は、金融機関は、M&Aで売手企業の経営者や株主が変わったからといって当然に一括返済を求める訳ではありません。では、金融機関が一括返済を求めるのは、どのような実質的な理由があるのでしょうか。金融機関の目線で考えてみましょう。

 

①既に売手企業の信用状態が悪化していた場合

売手企業が、利息や元本の延滞を繰り返していたり、決算書上は資産超過でも保有する不動産や有価証券に大きな含み損があり実質的な債務超過になっていたりするような場合、金融機関にとって融資が「不良債権」になっている可能性があります。

「不良債権」になると金融機関は引当金を積むなど与信コストが上昇することから、融資を回収する機会を探っていた金融機関がM&Aを契機として借入金の一括返済を求めるのです。

 

②M&Aによって信用状態が悪化する場合

「経営者保証に関するガイドライン」の普及により、経営者保証のない新規融資は徐々に増加しています。しかし、依然として融資全体の約9割は引き続き経営者保証付きのままです。

売手企業への融資が経営者個人の保証能力や経営者の個人資産の担保提供に依拠している場合、M&Aと共に経営者保証や担保が解除されることになり、信用状態が悪化することもあります。また、買手企業が買収資金を借入金で調達していたり、過大な企業評価額で買収したりした場合など、買手企業の財務内容が悪化することがあるため、金融機関の与信判断が厳しくなることもあるのです。

 

③反社会的勢力等との関係が疑われる場合

M&Aの際に関係当事者間で締結する株式譲渡契約上でも反社会勢力との関与を否定する表明保証をしています。しかし、フロント企業の「器」を求めてM&Aに近づく反社会的勢力が少なくないことも確かです。

一方、全銀協をはじめ金融機関は独自の反社会勢力に関する独自の豊富なデータベースを構築しているほか、平成30年1月4日から警察庁の暴力団情報データベースへの接続が開始されるなど、中小企業や個人が知りえない情報を持っていることも確かです。反社会勢力の情報というのは、指定暴力団のように該当することが明確な場合ばかりではなく、特定はできないが疑わしいというレベルのものまでさまざまなケースがあります。

「理由は言えないが総合的に判断して融資継続が困難」というような場合は、こうしたケースもあるので注意が必要です。

 

(3)金融機関との十分なコミュニケーションが最大の予防策

せっかくM&Aが合意に至ったのに、金融機関が取引継続しないということでM&Aが振り出しに戻ってしまうのは、売手企業はじめ関係当事者全体にとって不幸なことです。

買手企業にとっても、金融機関取引を良好に維持することは、買収後の事業を継続する上で重要な課題です。では、M&Aに対する金融機関の合意をどのように取り付ければよいのでしょうか。

 

①既に売手企業の信用状態が悪化していた場合

売手企業と買手企業の事業シナジーが働くM&Aであれば1+1=2以上の企業価値が見込め金融機関にとって融資の回収可能性は勿論、更なる取引の拡大可能性も高まるはずです。M&Aの背景・効果を含めた説明をすることが有効です。単純にM&Aした事実のみの報告では、1人で数十社を担当する金融機関の担当者は最も社内決裁が楽に通る方法で処理してしまうかもしれません。

また、金融機関(本部)は「債権保全を必要とする相当の事由」を用いて期限の利益を請求喪失することについては「優越的地位の濫用」とならないよう細心の注意を払っています。現場の独走となっていないか、金融機関の担当者だけでなく支店の責任者に伝えることも効果的となる場合もあります。

 

②M&Aによって信用状態が悪化する場合

上記1と同様、理解不足が原因の“信用状態”の悪化であればM&Aにより事業シナジー向上により回収可能性に問題が生じないことについて金融機関の理解がえられれば、返済を求められることにはならないと思われます。

また、買手企業の取引金融機関にとっては、新たな資金需要の捕捉機会と認識されることもあるので、既存の金融機関に拘らず資金調達方法を検討することも有効です。

 

③反社会的勢力等との関係が疑われる場合

反社勢力の事前確認は、一般的には「日経テレコン」などの記事検索とネット検索を併用して実施することが多いですが、一般の中小企業や個人では把握し得ないレベルの“反社会的勢力等との関係”もあることは事実です。

この場合、反社勢力の膨大なデータベースを持っている金融機関のチェック機能を活用する方法があります。買手企業が金融機関と与信取引がある場合には、既に一定のスクリーニングを受けているとみなすことも可能ですし、M&Aの際に締結する秘密保持契約の守秘義務の例外としてM&Aの情報を開示可能とした上で取引金融機関と連携しつつ対応する方法もあります。

 

 

 

いずれの場合も、取引金融機関と対峙するというよりはコミュニケ―ションを取りつつ協調関係を築くこと、場合によってはその機能を利用することが重要なポイントです。

これまで、M&Aにおける「お金」の関係で留意すべき点として金融機関との取引関係について述べてきましたが、次回は無借金で金融機関との与信取引がないスタートアップの場合の留意点について、分かり易く解説したいと思います。

 

 

 

(注)関連コラム「法務DDでの必須ポイント!③(カネ・情報編)」(弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 著)より。

https://batonz.jp/learn/expert_articles/1278

 

中小企業診断士 伊藤一彦

交渉を有利に進めるための買い手の基本

みなさま、こんにちは、新型コロナウイルス感染症もワクチン接種が間もなく始まりますね。これで一件落着となればよいのですが・・。私たちビジネスパーソンとしては、外部環境変化に抗っても何も生まれません。変化を味方につけて価値を生み出してまいりましょう。あなたのちょっとした変化を応援しています、山本哲也です。

 

2021年は買い手市場になるか?

新型コロナウイルス感染症拡大の長期化によって、売りに出される事業・企業が徐々に増えつつあります。今夏以降、さらに本格化するのではないかと言われています。対象案件数が増えることは、一見、買い手にとって有利になるように考える向きもあります。しかし、M&Aの難しさは、投資(購入の)の対象物が唯一無二の存在であり、比較サイトを活用した買い物のような検討プロセスがとれない点にあります。加えて、最後は、相手との交渉ごとになるため、その駆け引きの要素も加わるため非常に難しい取引となってしまうようです。

 

後悔しないための売り手の決断方法

解決策のひとつとして、我々がおすすめしているのは、「あらかじめ社内ルールを決めておくこと」です。例えば、調査やDDの結果などに定量的な条件を設定しておき、「その条件をクリアしたら交渉を進める。クリアできなかったらあきらめる。」など商談のステージごとに細かく設定し決断を先送りしないようにします。文字にすると簡単なことですが、なかなか難しいことです。

もう一つは、「相手の立場に立って考えること」相手がどのように考え、どのように行動するかが、少しでも理解できれば、情報量は増え、おのずとこちらもどのように行動すればよいのか判断しやすくなります。

本日は、そのあたりを中心にお伝えしたいと思います。

 

事業が売りに出される5つの理由

売り手の事情やそれに伴う判断軸について順にみていきましょう。いったい、企業はどのような理由で売りに出されるのでしょうか?大きく分けるとその要因は、5つに分けられるといわれています。

  1. 後継者不在問題
  2. 創業者利益の獲得・ノンコア事業の切り離し
  3. 業績不振などによる先行き不安
  4. 社業の発展や社員の将来

 

実際の現場ではこれらの要素が複合的に絡んでいることがほとんどです。

 

まずは、今後急増するといわれている“後継者不在問題”です。日本の経営者の引退平均年齢は70歳ですが、それよりも年上の経営者は、全国で245万人。そのおよそ半数でこの問題が発生しています。これは日本企業のなんと3割にも上ります。

たとえ、後継者がいたとしても、自社がこれからも市場に適合していけるのか心配だったり、後継者が大手企業に勤めていて戻せなかったり、そもそも経営能力に疑問もあったりして、「引き継げない」と判断する経営者が多いです。

このようなケースでは、売却価格やタイミングよりも中身を重視する傾向にあります。具体的には、従

業員はもちろんのこと取引先にも迷惑をかけずに、むしろ喜ばれるような売却先を求めています。「関係者に感謝をされて去りたい」という意識です。つまり、世間から褒められ、うらやましがられるような取引がしたいという心理が働きます。ですから、売り手の条件を十分に引き出し、金銭以外で充足できる方法を提案していくことが有効です。

 

続いては、“創業者利益の確保”です。近年、日本でも増加しつつあるスタートアップ企業のイグジットと言われるケースです。もう、次にやりたい事業があり、「事業売却の資金を原資として次の起業に向かいたい。」だったり、「事業が軌道にのると興味を失ってしまう」というような起業家も一定数います。このケースで重視されるのは、やはり譲渡金額です。それまでの投資や労力に対するリターンももちろんですが金額は、自分たちの仕事の評価でもあるわけです。ですから、経営者の性格にもよりますが、こだわりが強いケースあります。また、“ノンコア事業の切り離し”のケースもスピードより取引価格が重視される傾向にあります。これは、上場企業の場合、投資家への説明責任を果たさなくてはいけませんから、説明ができる金額が必要になります。

 

続いて多いのは、“業績不振による先行きへの不安”です。外部環境の変化にうまく対応できずに常に倒産の危機と隣り合わせの状態の中小企業は少なくありません。加えて個人保証をしている借入金が膨らみ、この先、何か大きな環境変化が起きてさらに売上が低下したら、どうなるのか?!など不安は尽きません。この場合で重視されるのは、スピードと本気度です。買い手側が社内調整や余計な駆け引き、引き伸ばしなどをしていると、商談を打ち切られてしまうことも多いので注意が必要です。

 

最後は、「社業の発展や社員の将来を考えると売却がベター」との結論になるケース。この場合の売り手のニーズは、複合的な組み合わせになることが多いようです。社業の規模が大きくなりすぎて自分の手に負えないと考える 2 代目経営者がこのように考える傾向にあります。このケースでは、急いではいませんし、お金にこだわってもいませんので、それ以外の要素が重視されます。具体的には、自分のためには、売り急いだと思われない正当な評価額であること。従業員のためには、安定雇用やキャリアアップの道があること、取引先に対しては継続取引や取引条件が引き継がれることなど。社会から「よいM&Aだったね」と評価を受けられることを望んでいます。ので、売り手側がもっとも大切にしているポリシーや考え方のところを十分に理解することが求められます。

 

いかがでしたでしょうか、今回は、いつも以上に当たり前のことばかりをお伝えしました。しかし、案件が進んでくるとどうしても投資額を抑えることに意識が偏ってしまい、ダメなところを一生懸命探してしまうことがあります。当初描いていたゴールイメージを忘れず検討すること。

 

納得のいく条件で取引するには、投資額だけにこだわるのではなく、相手の立場に立って交渉を進めることも大切です。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也 

法務DDでの必須ポイント!③(カネ・情報編)

経営資源別の法務DDでのチェックポイント

今回は,前回に引き続き,いわゆる経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)のうち,法務DDの際に注意すべき「カネ」・「情報」についてお伝えしたいと思います。(なお,前回と同様に,以下に述べること以外にも注意すべき点は多数存在します。ご注意ください)

 

「カネ」に関する法務DD①:期限の利益喪失事由

財務DDをきちんとしていれば,「カネ」に関するDDは万全であると考えがちです。しかし,財務DDだけでは確認できないリスクがたくさんあります。

例えば,金融機関から融資を受けているケースでは,期限の利益を失うのはどのような場合かについて確認する必要があります。例えば,株主の交代が期限の利益の喪失事由となっているのであれば,M&Aをしたことがきっかけで,金融機関が一括返済を求めてくるかもしれません。

また,M&Aを検討している段階で既に期限の利益の喪失事由が生じており,少なくとも法的には金融機関が一括して返済を求めることができる状態になっていないかも確認しておく必要があります。なぜならば,返済の遅滞により現時点では金融機関から一括返済を求められていなかったとしても,それは事実上宥恕されているに過ぎないことがあるからです。このような場合は,M&Aで株主が変わったことにより返済が期待できると考えた金融機関が突然返済を迫ってくることも考えられます。

 

「カネ」に関する法務DD②:保証・担保

中小企業においては,会社の信用を補完するため,代表者個人が会社の保証人となっていたり(経営者保証),会社の債務について代表者個人の保有する土地建物について抵当権が設定されていたりすることがしばしばあります。

M&Aが行われれば,代表者が交代することが通例ですので,この保証人や抵当権設定者(物上保証人)を交代できるかが重要になります。保証人や抵当権設定者(物上保証人)の交代は,基本的には金融機関の了解が必要になりますので,了解が得られる見込みがあるかどうかを確認する必要があります(なお,経営者保証については,当職の『「経営者保証に関するガイドライン」を活用して事業承継をスムーズに!』もご参照ください)。

また,経営者ではなく,会社が第三者の債務の保証人になっていたり,自社の土地や建物を担保に供していたりする場合もありえます。土地や建物を担保に供しているかどうかは登記を確認すれば容易に確認できます。その一方で,会社が保証人になっていることについて,は気づかないことがありえます。なぜならば,主たる債務者が返済をしている限り,保証人が金銭を支払うことがないため,キャッシュフローを見ているだけでは気づけないからです。

会社が第三者の債務について保証人となっている場合は,債権者からいつ保証債務の履行を求められてもおかしくない状態であることを認識すべきです。M&Aの価格を決定する際もこのことを念頭に置くべきです。(もちろん,債権者と協議して保証を外してもらうのが一番良いのですが,難しい場合が多いでしょう。)

 

情報に関する法務DD:知的財産

M&Aの対象となる企業が特許権,商標権,著作権,営業秘密などの知的財産権を保有していることがあります。これらの知的財産の本質は,特殊な技術やノウハウ,キャラクターなどといった情報であり,その企業の重要な財産であることもあります。

まず,知的財産をその企業が保有しているのかどうかを把握する必要があります。特許権や商標権は登録されて初めて発生する権利ですので,登録の有無を確認します。他方,著作権の場合は,登録等を要しない無方式主義であるため,著作物に関する資料や作成者への聞き取りなどによって確認するほかありません。

また,他の企業の知的財産権を使用している場合,その使用が権利者の承諾を得ているかどうかについても確認する必要があります。仮に権利者の承諾を得ることなく他の企業の知的財産権を使用している場合は,多額の損害賠償請求をされるリスクを抱えることになるからです。

このほか,職務発明や職務著作について適切な権利処理のルールが整備されているかなども,従業員との間で紛争が生じるリスクを避けるために確認する必要があります。

 

その他の法務DDでの確認ポイント

ヒト・モノ・カネ・情報といった観点以外でも,法務DDの際に注意すべき事項はあります。

例えば,許認可を必要とする事業を営んでいる場合は,許認可の期限が切れていないかといったことや,取消・停止の行政処分が行われていないかなどは確認する必要があるでしょう。

また,その企業に対し,多額の金銭の支払いなどを求める訴訟が提起されていないか,仮に訴訟が係属している場合は,敗訴の可能性や敗訴した場合の対応にはどのようなものが必要なのかも確認しておくべきポイントであると考えます。

これまで2回にわたり,法務DDの必須ポイントについて説明してきました。スモールM&Aでは財務DDが中心になりがちです。しかし,法務的観点を無視してしまうと,M&A後に,大きなトラブルに巻き込まれかねません。

そのようなことを避けるために本稿が少しでも参考になれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

スモールM&Aを成功させる新しいリスクヘッジ手法 ~「M&A表明保証保険」に注目

2020年下半期、中小企業のM&A(以下、スモールM&A)の世界に新たな動きがありました。国内保険各社がスモールM&Aを対象にした「表明保証保険」の販売に関するリリースを行ったのです。

今回は、どうしてこのような動きがあったのか、そしてどのように活用できるのかについて考察します。

 

国内大手保険会社の動き

2020年10月21日「小規模M&A向け表明保証保険の販売開始」(東京海上日動火災保険)、同年12月25日「国内M&A向け表明保証保険の販売を開始」(あいおいニッセイ同和損害保険)、同年12月25日「~国内M&A取引を「保険」で支援~表明保証保険の引き受け対象範囲の拡大について」(三井住友火災海上保険)など、スモールM&Aを支援する保険商品が大手損保から続々と販売されました。

国内の事業承継ニーズの高まりを背景として、スモールM&Aが増加傾向にあることに対応した動きであるが、「表明保証保険」は古くから保険業界で取り扱われていたものであり、保険商品自体に目新しさがあるわけではありません。

それでは、なぜ各社がこぞってプレスリリースするような状況になったのでしょう。

 

そもそも表明保証とは

M&Aでは、一般的に「表明保証条項」が規定されます。表明保証条項とは、契約の一方当事者が他方当事者に対し、一定の時点における一定の事項が真実であり正確であることを「表明」し、かつその内容を「保証」する条項をいいます。(注)

これによって、買主にとっては、M&A取引を行うことのリスクヘッジになり、また、売主にとっても過重な買収監査を回避しM&Aを円滑にクロージングすることができるメリットがあるといわれています。

しかし、表明保証は万能ではありません。特に国内でスモールM&Aが増加することにともなって、M&A後の未払い給与や未払い税金などの簿外債務発覚による表明保証違反が判明し、裁判などで責任が認められても売主の資力が十分ではないため損害賠償の回収ができず、買主が泣き寝入りせざるを得ない事例も増加しています。

こうした表明保証違反によるリスクをヘッジするのが「表明保証保険」なのです。

 

これまでの「表明保証保険」

「表明保証保険」は、表明保証違反が判明したときに、被保険者(買主または売主)が被る損害を補償する保険です。

もともと、海外企業がM&Aの際に活用していたものですが、国内と海外の企業間で行われるクロスボーダーM&Aや大企業間のM&Aにも次第に普及してきたという経緯があります。

こうした背景で活用が広がったため、契約書が英文雛型、オーダーメイドのため保険料負担が大きい、保険会社によるデューデリジェンス(DD)が必要など、スモールM&Aにはなじみにくい状況だったのです。

ところが、国内中小企業の事業承継や大企業によるベンチャー企業の買収などが急増したことにより、スモールM&A向けの「表明保証保険」ニーズが増大しており、ここに注目した大手保険会社が保険商品の開発・販売に乗り出すことになったのです。

 

スモールM&A向けの「表明保証保険」とは

スモールM&A向けの保険には次のような特徴があります。

【特徴】

保険契約・約款が和文表記

中小規模のM&A取引が対象

レディメードで迅速な契約締結ができる

売主による保険手配も可能

 

保険会社によっても商品設計にバラつきはありますが、概ね上記のような内容となっており、国内のスモールM&Aにおけるリスクヘッジ目的で活用可能な内容になっています。

こうしたスモールM&Aを対象とした「表明保証保険」には次のようなメリットがあります。

 

【買主のメリット】

①売主が中小零細企業で財政状態に不安がある場合、売主の信用力を補完することができる

②売主に対する表明保証違反に伴う責任追及を限定的にすることにより買収交渉を円滑化することができる

③売主-買主間で、表明保証違反があった場合の補償上限額や補償期間に関する条件の隔たりに関する調整ツールをして活用できる

④売主が経営参画する場合など、クロージング後も売主との良好な関係を維持する必要がある場合、表明保証違反に伴う損害賠償請求により険悪な関係になることを防ぐことができる

 

【売主のメリット】

①売主自身の信用力を補完することができる

②将来における表明保証違反に基づく損害賠償リスクを遮断することができる

 

スモールM&A向けの「表明保証保険」を活用する際の留意点

メリットの多い「表明保証保険」ですが、リリースされたばかりのため利用者側にとっては不慣れな面も多々あります。次の点には十分注意した上で活用しましょう。

 

①M&AにおけるDDを実施しなくてよい訳ではない

DDが十分に実施されていない場合、表明保証違反により買主に損害が生じたとしても、それは買主の重大な過失により生じたものであるため免責事由となる。したがって、「表明保証保険」はDDを適切に実施した上でも避けられないリスクを補完するものであるという点に注意する必要がある

②「表明保証保険」の免責事由に該当し保険金を受給できないこともある

クロージング時に既に買主(被保険者)やM&A仲介者が認識している表明保証違反は一般的に免責事由に該当します。

③保険の対象とするためにオプション料が必要なことも

オプション料を払わないと保険の対象にならないもの(例:年金・退職金の積立金不足など)もある

④保険料が割高なことも

保険料は補償限度額の1~3%程度であることが多いが、最低保険料が規定されている場合もあり、企業価値が低いスモールM&Aでは取引コストが割高となるケースもある

⑤損害金額が全額補償対象となるとは限らない

補償上限金額が設けられていたり、定額補償となっていたりする場合もあり確認が必要

⑥そもそも対象となるM&Aの取引規模がまだまだ大きい

小口化したとはいえ、保険の対象となるM&Aの取引規模が「億単位」のものもあり、スモールM&Aには適切ではない保険商品もある

 

<まとめ>

そのようななかで、民間でも今回取り上げたスモールM&Aを対象とした「表明保証保険」への取組みが拡充され、事業承継のためのM&Aを安心して行うことができる環境が整いつつあります。例えば、東京海上日動火災保険とM&A総合支援サイト「Batonz(バトンズ)」が連携し、バトンズの専門家が行うDDを利用する買手企業すべてに「表明保証保険」が自動適用されるサービスの提供が開始されました。

補償上限は一律300万円ではあるものの、非常に取引規模の小さな案件も対象となるため、今後、国内スモールM&A向けの「表明保証保険」が普及する契機となるものと思われます。

専門家としても、政府・民間の様々な支援策やサービスを賢く活用しながら、課題解決の支援を進めていきたいものです。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

(注)関連コラム「本当はこわい表明保証条項」(弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 著)より。

 

 

 

ぼくたちのM&A  ~アーンアウト条項

みなさま新年あけましておめでとうございます。といっても早いもので1月ももう半分以上が終わってしまいました。各地に緊急事態宣言が発出され、医療現場を中心に緊迫した雰囲気になっています。最近は、“免疫力アップ”というのがトレンドワードになっているそうです。そこまではともかくとしても、しっかり栄養とって、手洗い・うがいには特に気を配りましょう。 

今日は、スモールM&Aというよりも、大手企業によるベンチャー企業買収に関連するお話です。 いつ

ものように、M&Aで社長を目指す“ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。 

 

ツナグ:友達がマイホームを35年ローンで買おうかどうしようか悩んでいるらしいんだけど、マイホームを買うよりも大きな買い物になりそうなM&Aにも分割払いってないのかなぁ・・。 

 

買収代金の支払い方法は一括払いだけか? 

売り手にとっては、一般的なビジネスシーンと同じく、“一括譲渡、一括支払い”がもっともメリットが大きく、スタンダードな手法ではありますが、それ以外にもツナグの言う通り、分割支払いという手法も昨今増加しています。 

具体的には・・ 

  1. 株式譲渡対価の分割支払い 
  2. 株式譲渡自体の分割実行 
  3. アーンアウト”という手法。 

 

ひとつずつ見てみましょう。 

まずは、単なる分割支払いのケース通常の商取引でも行われる、支払い日の約束ごとです。株式譲渡は100%完了しており、譲渡対価の受け渡しだけが、未払金として処理されるケースです。 

考えられる場面としては、 

買主側が必要資金のすべてを一括で調達できず、分割でしか払えな 

「売主側のクロージングの前提条件一部不安な部分があり、買主側が分割払い条件を要請するなどがあります。 

 

このように売り手側には全くメリットがありませんので、買い手のリスク分散にほかなりません。もともと、信頼関係がしっかりできている間柄での事業承継など、双方納得のうえ行われることがほとんどです。 

 

ツナグ:なるほど・・契約書などで条件面をしっかり打ち合わせしておかないと後でもめたら大変なことになりそうだな。 

 

じっくり時間をかけて 

次に段階的な株式譲渡です。最初に発行済株式総数の51%を譲渡することで連結子会社て運営する。システムやコンプライアンス、組織間の交流などを行う。その後、議決権の3分の2超の取得をし特別決議を確保できるようにし、順調に統合ムードが高まってきたところで残りを取得して完全子会社とするケースです。過去の事例からみると、企業文化の違いなどの原因によって組織の統合がうまくいかないことが予測される場合全くの飛び地事業の買収で運営に不安がある場合などで利用する案件がありました。売り手側が、買い手側の事業運営をしっかりとコミットした状態で支援するために、少数の株式を一定期間ち続けます。 

売主は、いち早く譲渡代金を受け取って取引を完了させて、今回の新型コロナウイルス感染症拡大など、予測不可能なリスクを切り離したいはずですのでこちらも両社の関係性が重要です。 

 

ツナグ:なるほど。売り手に支援してもらえたら買い手は安心して売買できそうだね。その分、高く買うなんてことも検討できそう 

 

一緒に盛り上げつつ引き継ぐ 

 最後は、“アーンアウト条項”と言われる手法。分割支払いの一種といっても、これまで見てきたものとは別物です。簡単に言うと野球選手の出来高払い制度のようなものと理解してください。M&A取引完了買い手は、売り手の支援を受けつつ事業活動を行います。その際に双方で話し合い、事業成長目標を設定します。それを達成できたら買手企業側から売手企業に対して買収対価の出来高部分を支払いま 

目標には、一定期間後の売上高やEBITDAといった経営指標のほかにも、新商品の市場投入申請中の特許承認などさまざまです。一部には、会計処理などで操作できるものもあるため、設定の際には注意が必要です。 

 

ツナグ:株式の譲渡を段階的に進めるよりも、もっと共創を行うようなイメージだね。 

 

オープンイノベーションに近い 

売り手側のメリットとしては、出来高制度として買い手に提案することでより高く売れる可能性が高まります。特に、成長段階のベンチャー企業を売却する場合など、買い手がリスクをどうしても大きく考えてしまい、交渉が成立しないこともありますが、そのような場合にも有効です。つまり、買い手側にとっても低リスクになり、買いやすくなるというメリットと考えることができそうです。また、先述のように、買い手は、過大な投資リスクを分散することができますので、例えば、買収時には判明しなかったリスクが発生したときも、損害を最小限に抑えることができす。 

ではデメリットはないのでしょうか?売り手のデメリットは、目標に対して支援をしたにもかかわらず外部要因によって未達になり、出来高を受け取れなくなる可能性がある点。一方、買い手は、そもそも支払いの分割によってリスクの分散というメリットを受けているのでその範囲内のリスクに収まれば、特に大きなデメリットはないといえそうです。 

 

ツナグ:なるほど~株式譲渡代金の分割支払いというと、ネガティブな印象を持ってしまうけど、売り手と買い手の共創プロジェクトだと考えれば、オープンイノベーションの一種とも言えそうだ。 

 

まだまだ日本国内では、たくさんの事例があるわけではありませんが、アメリカでは増加傾向にある取引形態ですので、今後、ベンチャー企業の売買の場面から徐々に普及していくものとみられます。いろいろな共創が始まれば日本のM&A市場もさらに活況となることでしょう。本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。  

 

中小企業診断士 山本哲也