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M&Aの第一歩!やっぱり戦略的な取り組みが一番大切

みなさまこんにちは、花粉症持ちには一番つらい季節が始まりました。全国の花粉症のみなさまいかがお過ごしでしょうか?コロナのおかげですっかりマスクが習慣化したので、症状が軽いうちに終わってくれればうれしいのですが・・・

 

M&Aが難しい理由

一般的に、私たちがM&Aに難しさを感じる要因には、さまざまあると思いますが、以下のようなことはみなさまも思い当たるふしがあるのではないでしょうか?

まず、相手があり、かつ、その相手がいつでも誰とでも取引する準備が整ったウエルカムな状態にないことです。また、その相手の経営状態に一つとして同じケースがなく、常にケースバイケースであることです。そして、相手の経営状態やスペックの評価がしづらいことです。

しかし、そんなM&Aにも成功法則があります。それは、「鉄は熱いうちに打て」です。案件が発生したら、素早く決断をし、素早く動くことが重要です。

そのために役立つのが基本戦略です。

上司からの指示で社内提案をしたところ、「そんな格好のいい戦略をいくら作っても、取引相手がいなきゃ何も始まらないじゃないか!早く案件を持ってこい!」と一蹴されたことのある方は多いのではないでしょうか?

上司の方の意見は、ある意味で正解なのですが・・・。私の経験から言うと、このような組織でいくら案件を提案しても、社内で意見がまとまらず時間切れの破談となることが多いです。新規事業の開発現場でも同じことがよく起きています。

なぜなのでしょう。

 

戦略は、判断基準

長期安定経営をしてきた企業であれば、長年の間に社風や社内文化がしっかり醸成され、経営に関する判断基準が社内共有できているかもしれません。

しかし、M&Aのような新たな取り組みを行う際には、やはりまずは戦略を立て、共有することが非常に大切で有用な第一歩なのです。

なぜなら、戦略は、組織にとって旅行でいう旅程や目的地を示すものだからです。経営の目的地やルートを決めてしまえば、採るべき方法はおのずと限定されるはずです。行先の決まった旅行ならば、乗るべき乗り物や行先はある程度限定されるのと似ています。例えば、近所のコンビニに行くのは車か自転車と相場は決まっていて、飛行機を使うなんてありえないですよね。

 

戦略というと難しく聞こえますが・・

戦略というと難しく聞こえますが、経営学では以下の4つに分類されています。M&Aは、これらの戦略を実現するための考え方で、旅行でいうところの乗り物の役割になります。M&Aを実行することで効率的にゴールに近づくかどうかで取り組むべき案件かどうかが、誰にでも判断できるようになりますので、社内の決裁スピードが格段にアップします。

 

1.市場浸透戦略

既存の製品・サービスにて既存市場を深堀し、成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと競合や自社よりも小さな規模の同業者を吸収合併するイメージです。

これによって、今と同程度の規模で取引量を増やすことができるため経営効率のアップに繋がったり、競合が減るため、競争環境が緩和されたりすることことが期待できます。

 

2.新製品開発戦略

既存のお客さまに対して新しい製品・サービスを提供して成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと他社ごと新製品を取り込んで開発の手間を回避する手法です。回転寿司店が焼き肉店を統合してカテゴリを拡張したり、魚屋さんを統合して品揃えの拡張や新鮮な食材の調達によって差別化を図ったりが考えられます。

開発に必要な時間を短縮し、失敗のリスクを減少するという経営上のメリットが生まれると考えられます。

 

3.新市場開拓戦略

既存の製品・サービスを活用して新しい市場を獲得することで成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと地理的に商圏が重なっていない同業者や、顧客層の違う同業者を統合することで経営効率を高めるパターンが考えられます。

これによって、取引量の拡大による原材料調達コストをさげたり、物流効率をアップさせたりすることが期待できます。

 

4.多角化戦略

その名の通り、新しい製品・サービスで、新しい市場を開拓することで会社全体を変革していくような大胆な戦略です。中小企業では、少し検討しづらい戦略です。

M&Aでいうとここまでのどれにも分類できないものがこの戦略になります。例えば、自社の既存事業との関連がありつつも業界も顧客も違うような企業を統合することで、競合との取引も実現してしまうような大胆な戦略です。事例の紹介も複雑になりますのでここでは、割愛します。

 

まとめ

こうやって改めて自社の成長戦略について考えようとすると、第一歩めは「自社は何を持っていて、何が不足しているのか?」を明らかにする必要が生まれます。つまり最初にすべきは、他社ではなく自社のDD(デューデリジェンス)ということですね。

今回は、なかなかM&Aが進まず、頭を抱えているご担当者向けに、必殺の解決策をお伝えしたつもりです。経営の現場では、M&Aに限らず「手段の目的化」が昔から起きやすい環境にあります。特に昨今の不確実性の高い経済情勢では、人は短期志向となり手段の目的化はとても起きやすい環境だと言えます。

そんな環境下だからこそ、「M&Aは、あくまでも手段であって、目的ではない」ということを強く意識していただくだけで成功に一歩近づくはずです。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。きっと、戦略策定のための情報提供をしてくださることと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画①

認定支援機関が行う経営改善計画策定

認定支援機関が行う企業に対する支援の一つに経営改善計画の策定があります。経営改善計画とは、何となく「経営を改善する計画」というイメージを持つことはできるかもしれません。しかし、経営改善計画の策定の目的、計画の具体的な内容などは意外と専門的な要素も少なくありません。そこで、今回と次回は、経営改善計画について解説したいと思います。

 

金融機関は企業からの支援の求めがあっても当然に応じるわけではない

企業が事業を行うなかで、資金繰りに苦しむことがあります。資金繰りに苦しむ原因の一つに事業が不振で金融機関からの借入の返済資金を捻出できないことが考えられます。また、事業を好転させ、売上増加を目指すためには、設備投資などのために資金調達が必要となることもあり得ます。

このようなことから、資金繰りに苦しむ企業が資金繰りの改善を行うため、金融機関に対し、現在の借入の条件の変更や新たな借入などの支援を求めることとなります。

しかし、金融機関の立場からすれば企業から支援を求められたとしても、当然にこれに応じるわけにはいきません。なぜならば、金融機関としても、倒産のおそれがある企業に新たに貸付を行ってしまうと、貸倒のリスクが生じるからです。

 

金融機関による債務者の区分

金融機関は、通常、債務者をその財務状況、資金繰り、収益力等により返済能力に応じておおむね以下のような区分をしています。

① 正常先

業況が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいいます。

 

② 要注意先

金利減免を行っていたり、元本や利息の支払いが事実上延滞していたりする、債務の履行状況に問題がある債務者のほか、事業の状況や財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意を要する債務者をいいます。要注意先はさらに、その他注意先と要管理先に区分されます。

このうち、要管理先とは、債務者に対する債権に「貸出条件緩和債権」又は「3か月以上延滞債権」が含まれる債務者をいいます。そして、その他注意先とは、要管理先以外の要注意先の債務者をいいます。

 

③ 破綻懸念先

現状、経営破綻とまではいえないにしても経営難の状態にあり、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいいます。

 

④ 実質破綻先

破産や手形の不渡りなど法律上又は事実上の経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態で再建のめどが立たず、実質的に経営破綻に陥っている債務者をいいます。

 

⑤ 破綻先

破産や手形の不渡りなど、法律上又は事実上の経営破綻の事実が発生している債務者をいいます。

 

分水嶺となる「その他注意先」と「要管理先」

上記の債務者の区分のなかで、特に重要となるのが、その他注意先と要管理先です。なぜならば、要管理先の債務者に対して有する債権は不良債権と位置付けられるからです。

金融機関としても、不良債権に対しては貸倒引当金などを用意しておく必要があります。貸倒引当金が多いとそれだけ銀行の自己資本が少なくなり、自己資本比率も悪化します。この意味で、不良債権を抱えることは、金融機関の経営の健全性にも重大な影響を及ぼしかねません。

したがって、金融機関にとって、要管理先である債務者に対する支援を行うことは躊躇せざるを得ないといえます。

 

経営改善計画があれば「その他注意先」への『昇格』が可能

しかし、そもそも企業は、資金繰りが苦しいからこそ金融機関に支援を求めるのです。したがって、現状は資金繰りが厳しく、事業が窮状にあったとしても、将来的に改善が可能である企業に対しては金融機関による支援がなされるべきであるともいえます。

そこで、債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性があると考えられる企業に対しては、債務者区分を破綻懸念先・要管理先から、その他要注意先とすることができることとされたのです。

ここにいう「債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性」を示すものが経営改善計画となります。このため、経営改善計画の内容は、事業の改善が可能であることがうかがえるものである必要があります。

以上のことからも明らかなように、経営改善計画は、金融機関からの支援を得るための説得の材料となるものということができます。

 

実抜計画と合実計画

経営改善計画は、具体的には実抜計画と合実計画の2つがあります。このうち、実抜計画のほうが要件が厳しいものとなっています(詳細は次回のコラムで解説します。)。

① 実抜計画:「実」現可能性の高い「抜」本的な経営再建計画

⇒要注意先に該当しなくなり、その他注意先となる。

② 合実計画:「合」理的かつ「実」現可能性の高い経営改善計画

⇒破綻懸念先に該当しなくなり、要注意先となる。

ただし、債務者が中小企業の場合は、合実計画が策定されている場合には、当該計画を実抜計画とみなして差し支えないとされています。

したがって、中小企業においては、合実計画を策定すれば、その他要注意先に区分されることとなります。

 

次回の予告

次回は、実抜計画と合実計画の意義について説明を行ったうえで、経営改善計画の具体的な内容などについて解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

スモールM&Aの契約リスク ~公取委が警鐘 その契約大丈夫ですか?

事業承継と並んでM&A の活用進んでいるのがスタートアップにおけるM&Aです。

近年は、オープンイノベーション推進のため大企業・中堅企業を中心に外部リソースを活用して新製品や新サービスの開発を行う動きが広がり、積極的にスタートアップの株式を第三者割当増資や株式譲渡を通じて取得するようになりました。

M&Aでは株式取得を検討する段階での秘密保持契約(以下、NDAという)をはじめ、クロージングする段階での株式譲渡契約及び出資契約等の契約書を締結します。ところがスタートアップのM&A拡大に伴い、契約内容について「買手優位」を反映した様々な問題が指摘されるようになってきました。

 

1.スタートアップのM&Aに広がる「優越的地位の濫用」問題

(1)背景

一般的にスタートアップのM&Aでは、買手企業は企業規模が売手企業より大きく、組織面・資金面が充実しており、M&Aの経験も豊富であることが少なくありません。

一方、M&Aといっても、事業シナジーを発揮することが目的となるため、経営権が移転する取引ばかりでなく資本提携やジョイントベンチャーなど経営権を残したままで事業再編を行う「広義のM&A」も多用されています。

こうした中、M&Aを検討する段階で締結するNDAや資本提携のために締結する出資契約を悪用して、買手が売手に対して「優越的地位を濫用」する事例が頻発しているのです。

 

(2)問題点

スタートアップのM&Aにおける「優越的地位の濫用」について、公正取引委員会が実態調査に乗り出しました。2020年11月に公表された「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下、報告書という)によると、出資者との取引・契約の中で次のような問題が発生していると指摘されています。

①営業秘密の開示:NDAを締結しないまま、営業秘密の無償での開示を要請された

②NDA違反:NDAに違反して営業秘密を他の出資先に漏洩し、当該他の出資先が競合する商品等を販売するようになった。

③無償作業:契約において定められていない無償での作業を要請された。

④委託業務の費用負担:出資者が第三者に委託して実施した業務に係る費用の全ての負担を要請された。

⑤不要な商品・役務の購入:他の出資先を含む出資者が指定する事業者からの不要な商品等の購入を要請された。

⑥株式の買取請求権:知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を受け、その要請に応じない場合には買取請求権を行使すると示唆された。スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。

⑦研究開発活動の制限: 新たな商品等の研究開発活動を禁止された。

⑧取引先の制限: 他の事業者との連携その他の取引を制限されたり、他の出資者からの出資を制限されたりした。

⑨最恵待遇条件:最恵待遇条件(出資者の取引条件を他の出資者の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定された。

 

単に公正さを欠く契約を締結するということに止まらず、契約締結後の取引関係においても問題が発生しているようです。報告書によると、これらの問題が生じるのは、「i.スタートアップ側の法的リテラシーの不足」、「ⅱ.オープンイノベーションに関するリテラシーの不足」、「ⅲ.対等な立場を前提としたオープンイノベーションを推進する上で望ましくない慣習の存在」の3つが主な要因となっていると指摘しています。

 

 

2.問題への対応策

こうした問題に対応するため、政府は「成長戦略実行計画」(2021年6月閣議決定)において「スタートアップ企業と出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定する」としました。

これを受け、公正取引委員会と経済産業省の連名でスタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(以下「指針(案)」という)を策定し①独占禁止法上の考え方及び問題となり得る事例等、②問題の背景及び解決の方向性が整理されました。

その中で特に、事業承継等のスモールM&Aでも幅広く締結されているNDAに関する問題点と解決の方向性について考察することとしましょう。

 

(1)営業秘密の開示とNDAに関する問題点

①営業秘密の開示

正当な理由がないのに、NDAを締結しないままスタートアップの営業秘密が開示された場合には、営業秘密が連携事業者によって使用されて第三者に流出して使用されてしまうおそれがあります。

具体的には、「NDAの締結無しに情報を開示するリスクの認識がないままに情報を開示してしまう」、「プロジェクトの開始時点ではNDAが締結されず、プロジェクトが終了した頃にNDAが締結される」等の事例でこうした営業秘密の流出が発生しているようです。

②片務的なNDAの締結について

片務的なNDAとは、スタートアップが、連携事業者から、スタートアップ側にのみ秘密保持・開示義務が課されている契約内容であったり、契約期間が非常に短く自動更新されなかったりといった内容のものを指します。こうしたNDAではNDA期間内であっても、スタートアップの営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがあります。また、非常に契約期間の短い場合には、営業秘密が陳腐化する前に、営業秘密が連携事業者に使用されたり、第三者に流用されたりするリスクが高くなります。

 

(2)解決の方向性

これらの問題を解決する方策として「指針(案)」では以下のような方法が提示されています。

①出資する側・出資されるスタートアップ双方で共通認識を持つ

まず双方が秘密情報の社内管理を厳格化し、お互いが開示しようとする秘密情報の使用目的・対象・範囲について共通認識を持つことが必要です。その上で、双方が管理可能な方法でNDAを締結することが重要になります。NDAを締結しても実効性が無い契約内容では秘密情報は管理できません。

②社内での秘密情報の取扱いに関する認識を共有する

事業担当者と知財・法務担当者で秘密情報の扱いに関する見解が異なる場合もあります。事業担当者と知財・法務担当者間でコミュニケーションの場を設定しましょう。

③NDAモデル契約書等を活用しリテラシー不足を補い片務的契約になることを回避する

秘密保持リテラシー向上のためには、モデル契約書等を活用することも有効です。

これらを活用し連携事業者の提案する「ヒナ型」を丸のみして片務的な契約となることを回避します。

 

【ご参考】

□研究開発型スタートアップと連携事業者のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture.html

□知財を使った企業連携4つのポイント

https://ipbase.go.jp/public/point.pdf

□秘密情報の保護ハンドブックのてびき

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/170607_hbtebiki.pdf

 

 

3.まとめ

スタートアップのM&Aは勿論、事業承継においてもNDAを締結することは基本的なプロセスとなっています。

意図的に片務的なNDAを締結するのは論外ですが、スタートアップと連携事業者、事業承継における売手企業と買手企業の間には、どうしても情報の非対称性があるため「優越的な地位の濫用」に該当してしまうリスクをはらんでいるという面があります。

公正取引委員会と経済産業省によって2021年12月に「『スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(案)』に対する意見募集について」というパブリックコメントの募集が行われました。今後については、関係者の意見を踏まえて「指針」が正式に策定され、出資時の契約における留意点が明確化されることになりそうです。

ますます広く活用されることが期待されるM&Aですが、意図せず優越的地位の濫用に陥ることのないよう、「指針」に留意しつつ対応することも必要ではないでしょうか。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

企業に寄り添う認定支援機関

企業の経営において課題が生じたときに誰に相談するか

企業の経営においては、資金計画のほか、新製品開発、新規事業立上げ、売上拡大などさまざまな課題が日々発生します。これらの経営課題に対しては、自社だけで立ち向かうよりも、他の企業の取組事例や専門的知識が豊富な外部の専門家等による支援を得ることで、よりよい成果を上げることができます。

そこで、今回は、企業の経営課題の解決を支援するための制度である認定経営革新等支援機関(以下「認定支援機関」といいます。)について解説します。

 

認定支援機関とは何か?

認定支援機関とは、経営革新等支援業務を行うために必要な専門的知識や実務経験等を有しているとして国によって認定された個人・法人をいいます(中小企業等経営強化法第31条第1項)。

ここでいう「経営革新等支援業務」とは、以下の業務を言います。

① 経営革新を行おうとする中小企業又は経営力向上を行おうとする中小企業等の経営資源の内容、財務内容その他経営の状況の分析

② 経営革新のための事業又は経営力向上に係る事業の計画の策定に係る指導及び助言並びに当該計画に従って行われる事業の実施に関し必要な指導及び助言

すなわち、認定支援機関とは、企業の経営課題解決に必要な財務・税務などの専門的知識や実務経験が一定の水準以上であることを国が認定し、企業が安心して支援を受けることができるようにすることを企図した制度です。

 

認定支援機関に認定されているのはどのような機関か

平成31年3月31日時点で、2万4158機関が認定支援機関として認定を受けています。

認定を受けているのは、税理士・税理士法人が多数を占めていますが、公認会計士、中小企業診断士、弁護士なども認定を受けています。また、銀行や信用金庫といった金融機関や商工会議所・商工会も認定を受けています。個人・法人や業種を問わずさまざまな属性を持つ機関が認定支援機関として認定されており、それぞれが持つ強みを活かして企業の支援をしていくことが可能となっています。

なお、税理士や中小企業診断士などの資格を保有しているからといって、当然に認定支援機関に認定されるわけではなく、一定の実務経験又はこれに代わる研修・試験の合格が必要とされています。このほか、近時の制度改正により認定支援機関の認定は5年の有効期間があり、期間満了時に改めて業務遂行能力の検証が行われることになりました。

 

認定支援機関はどのようにして探せばよいか

既に述べたように、さまざまな機関が認定支援機関に認定されているため、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていることも少なくないと思います。

また、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていない場合や、第三者的な視点での支援を受けたい場合などは、中小企業庁のウェブサイトにある認定支援機関検索システム(https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea)を使うことで全国の認定支援機関を検索することができます。この検索システムでは、各認定支援機関の属性のほか、これまで行ってきた支援の実績なども確認することができます。

 

認定支援機関はどのような支援を行うか

では、認定支援機関は具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

認定支援機関が企業に対して行う典型的な支援として経営改善計画の策定をあげることができます。

金融機関からの借り入れの返済など資金繰り上の課題を抱える企業が、経営改善計画を策定することによって、収益性の改善や借入の返済の見直しを行うため、経営改善計画を策定します。経営改善計画の策定においては、当該企業の現状や課題を分析し、いかなる次期にどのような取り組みによって課題を解決していくかを検討していきます。その際、認定支援機関が助言や計画案の作成などの支援を行います。また、当該経営改善計画が策定されたのちも、計画どおりに取り組むことができているかのモニタリングについても認定支援機関が行います。

そして、これらの支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業))。

このほか、事業再構築補助金を申請する際には、認定支援機関が企業による事業計画書の策定に関与し、当該事業計画が事業再構築指針に沿った内容であること確認することや、事業者の事業遂行や成果目標の達成に関する支援に取り組むことを誓約することが必要となっています。このように補助金などの施策を利用する際には、認定支援機関の支援が必須となっている場合もあります。

 

まとめ

最初は「補助金の申請をする際に必要とされているから」などと比較的消極的な理由で認定支援機関による支援を受けるという企業もあるかもしれません。

しかし、外部の専門家などから新たな視点での助言や考え方を得ることが、悩ましい経営課題を解決するために第一歩となるかもしれません。

本稿が企業による認定支援機関の利用のきっかけとなれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

 

M&A初めの第一歩!まずは専門家に相談してみよう!

みなさま新年あけましておめでとうございます。といっても、早いもので2月ですね。また、おめでたい気分に水を差すように世界中で新しい変異株が急激に広がっています。幸い重症化率は低いようですが・・・。しっかり栄養をとって、手洗い・うがいには特に気を配りましょう。

堺なかもず経営支援センター山本哲也です。大阪府堺市であなたのちょっとした変化を応援しています。

 

M&Aについていろいろなセミナーに顔を出したり書籍を読んだりしてインプットをしても「M&Aは、ケースバイケース」という結論が多く、自分たちのアクションにつながりづらいというお悩みをよく聞きます。

いつものように、M&Aを活用してさらなる目指す若手経営者ツナグの独り言からお聞きください。

 

僕は、ツナグ。友人と始めた会社も少しずつ軌道に乗ってきたので、これからさらに大きく成長させて行く上で、いろいろな方法を検討し始めた。

先輩たちの事業を研究しているうちに、会社を丸ごと買い取って自分たちにない強みを手に入れたり、廃業する企業から顧客を引き受けたりするM&Aがどんどん増えているようだ。ネットでも調べてみたし、何冊も専門の書籍も読んでみた。でも、どれも一般論で、自分たちが具体的に何からやればいいのか教えてくれる本には出会えなかった。

「僕たちが何からやればいいのか?!今のうちからちょっとしたことでも相談に乗ってくれる先生がいたらなぁ」

 

身近な専門家

経営について相談できる身近な専門家と言えば、税理士を挙げる人が多いのではないでしょうか?それもそのはず、税理士は、全国におよそ8万人います。これは、全国の小学校校区内に4名以上の税理士がいる計算になっています。人口密度の高い都会では、この数値よりも多いと考えられますので、身近な存在と言えそうです。

まずは情報収集程度であれば、自社のことをよく知ってくれている身近な専門家に相談するところから始めるのがお勧めです。

しかし、具体的な検討段階に進むのであれば、M&Aに関する実績が何件くらいあるのか、専門的な支援が期待できるスキルを持っているのか、なども確認した上で相談するようにしてください

経営の専門家たちにも、専門分野や得意分野があるためです。

また、M&Aは会社や事業の売買のため、その事業内容や規模によっては税理士だけなく多様な専門家の支援が必要となります。専門家のネットワークを持っているかどうかも確認しておきたいところです。

税理士:税金に関する相談

弁護士:株式譲渡契約や労働契約、買収企業と取引先との契約など

社会保険労務士:社会保険や労働者の移籍に関する相談

弁理士:買収先が所有する特許の移転などに関する相談

中小企業診断士:M&A戦略の立案、買収先リストアップや経営状況の確認、経営統合後の戦略策定、各専門家のコーディネートなど

 

無料で相談できる公的機関

身近にM&Aに関して相談でいる専門家が見つからない場合は、公的機関も積極的に活用してみましょう。経営者の高齢化が進むわが国では、事業承継は大きな社会課題として国も注力している分野のため、全国に専門の相談窓口が用意されています。また、専門家の紹介を受けることも可能です。

 

・事業承継・引継ぎ支援センター(https://shoukei.sMrj.go.jp/#support_detAil)
各都道府県に1か所以上設置されています。一般的なM&Aの相談だけでなく、親族や従業員への承継支援、後継者探しなどまで幅広い相談に対応してくれます。また、承継の際に問題となることの多い経営者保証解除に向けた支援もしてくれます。まずは、こちらに出向くのが得策です。

 

・各地域の商工会及び商工会議所

        さらに身近な相談窓口としては、自社の活動エリアにある商工会や商工会議所ではないでしょうか?商工会・商工会議所は、地元企業の集まりですので、幅広い相談に対応が可能ですし、各士業専門家とのつながりも深く、自社の課題や規模などによって適切な専門家とつないでもらうことが期待できます。また、各自治体や金融機関との連携も密に取っていますので、幅広い支援を受けることが可能です。もし、あなたが会員でなくても、まずは、相談だけでもしてみることをお勧めします。

 

とめ

今回は、M&Aに関心を持ち始めた初心者の方向けに、気がるに相談できる窓口についてご紹介しました。まずは、公的機関で相談することで、あなたにあった専門家と出会える可能性が高まります。また、誰かに相談することであなたの頭の中にあるM&A戦略も整理が進み、より具体化することも期待できます。ために支援者

以前にご紹介しましたが、M&Aを成功させている経営者の多くが「案件が発生する前から計画的に準備を行うこと」を実践しています。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

スモールM&Aに必要な資金調達とは~賢い融資制度の活用法

事業承継のニーズの高まりとともに第三者承継の手法としてM&Aを活用するケースが増回しています。政府は、事業承継・引継ぎ補助金や事業承継税制などによって中小企業のM&A支援策を拡充していますが、譲受を希望する企業に資金が潤沢にあるとは限りません。特に、譲受企業が中小企業である場合は、資金調達の成否がスモールM&Aの実現を左右することも少なくないのです。

 

1.中小企業のM&Aにどんなお金が必要となるの?

スモールM&Aの多くは、事業譲渡や株式譲渡により実施されます。中小企業白書(2018年)によると事業譲渡41.0%、株式式譲渡40.8%、合併15.0%、その他3.1%と、この2つの実施形態が約8割を占めていることがわかります

つまり、事業譲渡の対価を支払うための資金や経営者等が保有する株式の取得資金の調達が必要になるケースが多くなるのですが、中小企業の事業承継融資を取り扱っている日本政策金融公庫によると、実際にはもっと多様な必要資金が融資対象となっているようです。

 

2.M&Aを支えるスモールM&A向け融資

(1)スモールM&Aに伴う資金ニーズと融資活用事例

M&Aにおいてはどのような資金が必要なのか、日本政策金融公庫のHPで紹介されている融資事例を見てみましょう。

  • 株式の買い取り資金

公共工事を中心に手がける建設会社A社は、事業拡大のために同業であるB社の買収を決断。A社は、B社の株式を取得する資金として7,000万円の融資を受け、B社を子会社化。

  • 営業権や事業用資産の買い取り資金

広告代理店に勤務するCは、自身がよく訪れている雑貨店Dが店を畳むことを知り、店を受け継ぎたいとの希望を伝えた。CはDと事業譲渡について合意し、営業権や店舗設備、在庫の買い取り資金として600万円の融資を受け、Dの店を受け継いだ。

③M&Aに伴うリニューアル資金

洋菓子製造業を営むE社は、事業多角化を目的として、飲食業を営むF社からレストラン1店舖を譲り受けた。

E社は、老朽化した店舗の内装・機械設備の刷新やオープン当初の仕入に必要な資金として1,200万円の融資を受け、F社から譲り受けたレストランのリニューアル・オープンを行った。

④M&Aによる新たな取組み

システム開発やWebサービスの提供を行うG社は、新分野への進出を目的として、ソフトウェア開発を行うH社を買収。

買収後、G社は、H社の持つセキュリティ関連技術を活用したWebサービスの開発資金として4,500万円の融資を受け、新たなWebサービスの提供を開始した。

 

このようにM&Aに伴い直接的に発生する株式や事業資産の取得資金のみならず、M&Aにより取得した事業をより高付加価値化するための店舗リニューアルや、新規事業の開発資金などに公庫融資が活用されているのです。

 

(2)スモールM&A向け融資の概要

日本政策金融公庫のスモールM&A向け融資とはどのようなものなのか、その制度概要と、融資の活用状況についてみてみましょう。

①制度概要

日本政策金融公庫スモールM&A向け融資とは、国民生活事業で取り扱われている「事業承継・集約・活性化支援資金」のことです。事業承継に必要な運転資金・設備資金について長期間、有利な利率で融資を受けることが可能です。

 

【対象者】

イ.現経営者が後継者(候補者を含む。)とともに事業承継計画を策定している方

ロ.安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方

ハ.経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者等

ニ.事業承継に際して経営者個人保証の免除等がネックになり取引金融機関からの借入が難航したため経営者個人保証を免除した公庫融資を受ける方

ホ.事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化・事業転換)または新たな取組みを図る方

 

【融資限度額】

7,200万円(うち運転資金4,800万円/他の公庫融資と別枠)

 

【返済期間】

設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内)

運転資金:7年以内(既往の公庫融資の借換を含む場合:8年以内/うち据置期間2年以内)

【利率】

基準利率(2.06~2.55%)のほか、条件により特別利率(基準金利から最大0.65~0.85%程度の優遇あり)の適用あり(令和3年12月1日現在)

 

  • スモールM&A向け融資の活用の状況

運転資金・設備資金のいずれも、500万円以下が約6割、1,000万円以下が約8割となっており、小口資金の利用が過半を占めています。

 

【運転資金】

2,000万円超         5%

1,000万円超2,000万円以下  14%

500万円超1,000万円以下  16%

500万円以下        65%

 

【設備資金】

2,000万円超        4%

1,000万円超2,000万円以下 15%

500万円超1,000万円以下  22%

500万円以下        59%

(注)設備資金には、譲渡企業から買い取る譲渡企業の株式、営業権、事業用資産(店舗、機械設備等)等を含みます。

 

なお、M&A資金が高額になる場合等は、協調融資といって複数の金融機関が融資を行うケースもあります。日本公庫のスモールM&A向け融資においても、約2割は民間金融機関との協調融資となっています。

 

なお、業種別では卸売・小売業の方の利用が約2割と最も大きく、運輸業、サービス業、飲食店、宿泊業等、さまざまな業種で融資が活用されています。

 

【内訳】

卸売・小売業21%、運輸業21%、サービス業19%、飲食店・宿泊業10%、

医療・福祉7%、製造業6%、不動産業5%、建設業4%、教育・学習支援3%、

情報通信業2%、その他2%

 

従業者規模別では、従業者数5人以下の方が7割、従業者数20人以下の方が約9割となっており、融資先の大半が小規模事業者です。

また、融資の9割は無担保融資であり、一般的な融資と比べても有利な条件と言えそうです。

 

(出所)国民政策金融公庫ホームページより:2019年度の事業承継・集約・活性化支援資金の融資件数(国民生活事業)のうち、第三者承継に係る融資707件を抽出・分析したもの。

 

3.経営承継円滑化法の有効活用

 

事業承継の円滑化を目的に制定された「経営承継円滑化法」では金融支援策として融資と信用保証の特例措置が規定されています。具体的には、事業承継の際に必要となる資金について、都道府県知事の認定を受けることを前提に、上述の日本政策金融公庫の制度融資や中小企業信用保険法の特例(信用保証)を活用することができる制度です。

2018年7月に「これからM&Aにより他社の株式や事業用資産を買い取るための資金」も融資や信用保証の対象として追加され、これから他の中小企業者の経営を承継しようとする中小企業者や事業を営んでいない個人が利用できることになりました。

スモールM&Aでの後押しをする制度として活用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

なお、他の中小企業者からM&Aにより経営の承継を行う会社が、経営承継円滑化法による金融支援について都道府県知事の認定を受ける場合には、一定の要件を満たすことが必要です。

 

①M&Aにより承継される中小企業の要件

・当該中小企業の役員又は親族の中に、後継者候補となる者がいないこと

・当該中小企業者における経営者が、その年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であること

 

②資産の承継に関する要件

・「経営の承継に不可欠な資産」を承継する見込みであること

例)株式譲渡による承継の場合、総議決権の過半数を超える議決権を保有することとなる数の株式等が該当。また、事業譲渡による承継の場合、事業用資産等が該当。

 

まとめ

 

融資には金融機関等の審査が伴うため、せっかく基本合意に至っても融資審査に予想以上に時間を要したり、必要な資金調達額に満たなかったりすることでM&Aがブレークしてしまう事例も少なくありません。

M&Aによる事業承継を円滑に進めるためには、専門家を通じて早い段階から金融機関との相談を進めておくことも重要な取り組みであると言えそうです。

 

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

ご存じですか?!国がスモールM&Aを補助金で支援してくれます。その3

事業承継・引継ぎ補助金の交付決定が発表されました

令和3年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金の二次公募の審査が終わり、交付決定事業者の発表が、ホームページ上で行われました。

「経営革新」については申請総数136件から75件、「専門家活用」については申請総数270件から236件という結果でした。ちなみに令和2年度は、「経営革新」が、申請総数375件から187件、「専門家活用」は、申請総数420件から330件でしたから、およそ4割減少しました。経産省には、この結果を受けて、今後さらに使いやすい制度に変化させることが期待されています。

 

活用事例

この補助金の最大の特長は、M&Aが実現に至らず、準備時点で終わっても支援を受けた専門家に対する経費が補助の対象になっている点にあります。つまり、今後の事業運営に悩む経営者に事業承継のきっかけを与えることを狙った制度でもあります。具体的に彼らは、どのように本制度を活用したのでしょうか?買い手と売り手に分けて見てみましょう。

 

買い手支援型

  1. 経営資源の引継ぎを実現させるための支援

これは、戦略的にM&Aを行っている買い手企業が補助金の後押しを受けて、事業承継を実現した事例です。異業種との統合においても専門家の支援があることで、スムーズに行うことができている事例です。

 

事例1

学習塾を主な支援先としているIT企業(経営者20代)が、顧客と同業の学習塾を統合。これまでのサービス提供で培ってきたノウハウを活かしたシナジーを発揮することに加え、顧客視点も手に入れる計画。M&Aサイトの利用料とDDからクロージングにいたるまでの専門家経費について補助を受けて実現しました。

 

事例2

後継者不在に悩む地元企業(異業種)の事業承継を経験したことをきっかけに、地元への貢献と自社の商材の幅を広げる目的で戦略的にM&Aに取り組んできました。案件発掘からクロージングまでの一切を民間FAへ委託する経費について補助を受けて取り組みました。

 

  1. 経営資源の引継ぎを促すための支援

これは、戦略的にM&Aを行っている買い手企業が同業他社の経営統合に活用した事例です。経営統合にあたって発生する各種の問題や法的な課題に対して専門家の支援を受けることでスムーズに統合を成功させた事例です。

 

事例1

運輸業を祖業に倉庫業やコールセンター業務など関連市場へ多角を進めていましたが、今回は、案件が持ち込まれたことをきっかけに同業他社を統合しました。人材確保や得意先の拡大を目的として取り組み、着手からクロージングにかけて、人材確保をスムーズに進めるため、社会保険労務士事務所の支援を受け、その費用に補助金をあてました。

 

売り手支援型

  1. 経営資源の引継ぎを実現させるための支援

これは、後継者不在などを理由に事業承継を決断した売り手企業に対して、専門家がクロージングまで伴走して、事業承継の実現を支援した事例です。

 

事例1

業歴が長く、安定した取引先を持つ製造業であったが、後継者が不在であったため、廃業を検討していた。しかし、従業員150名超の雇用継続と取引先へ迷惑をかけたくないと考えていたところ取引金融機関からの推薦で同業者へ承継することできた。今回は、事前相談からクロージングまで金融機関の支援を受けて実現できました。

 

事例2

50年以上の業歴のある映像制作事業であったが、社長の急逝により家族がいったん事業承継をしたが、その後の後継者が不在でした。従業員の雇用継続と取引先を引継ぎできる相手先を専門事業者の支援を受けて探索。その結果、映像の活用に注力しているEC小売り企業とのマッチングに成功しました。民間のFA事業者に事前相談からクロージングまで全面的に支援を受けました。

 

  1. 経営資源の引継ぎを促すための支援

これは売り手企業側が、買い手の情報提供だけではなく自社の概要書の作成など、準備段階から専門家の支援を受けた事例です。このように、事業承継が完了しなくても利用できることがこの制度の特長でもあります。

 

事例1

清酒の醸造販売事業者。コロナ前までは、高齢の経営者でしたが、新しいことにも取り組み、業容を拡大していました。しかし、今回のコロナの影響が大きく、今後の事業継続に対する不安が膨らみました。そこで、民間のM&A仲介会社と契約し、ノンネームシートや企業概要書の作成から支援を受けて同業他社を中心に広く引受先を探索中です。

 

事例2

新規参入が少なく安定した皮革卸業であったが、コロナの影響で需要が激減し、資金繰りにも困る状態となってしまった。高齢の経営者は廃業も検討したが、雇用の継続とノウハウの引継ぎを目的に事業譲渡先を探索中。本補助金でM&A仲介事業者の支援を受けて企業概要書の作成や引受先を広く探索しています。

 

まとめ

今回は、補助金事務局のサイトで公開されている活用事例のいくつかについて概要を紹介してみました。どの事例も専門家をうまく活用しながらM&Aを成功させています。そのきっかけは様々ですが、共通点は、「案件が発生する前から計画的に準備を行うこと」です。

本補助制度は、来年度も同じような時期に公募があることが見通されていますので、関心をお持ちでしたら、専門家や金融機関の無料相談を活用してみましょう。そして、事業の棚卸から今後の見通しまで大雑把にでも整理してみることをお勧めします。

事業承継・引継ぎ補助金WEBサイト:https://jsh.go.jp/r3/

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

M&Aの目的を達成するための事業DD②

事業DDの続き

今回は、前回に引き続き事業DDとは具体的にどのようなことを行うのかについて説明をしていきたいと思います。

 

内部環境分析について

事業DDでもっとも重要なのが、内部環境分析です。売り手が業績不振を背景にM&Aを希望する場合、内部環境に何らかの問題を抱えていることが少なくないからです。

内部環境分析際は、おおむね以下の観点から検討を加えていきます。

1 企業の経営理念とこれに基づく経営戦略

2 経営戦略を実行する組織の体制と従業員

3 営業活動

4 財務状況

 

企業の経営理念とこれに基づく経営戦略

経営理念とは、経営者が考える当該企業の存在意義をいいます。経営理念は抽象的なものであり、それ自体に何か問題があるということは少ないといえます。しかし、経営理念は、経営戦略の方向性を決定するものです。

経営戦略とは、企業がどの事業領域(ドメイン)を設定し、その中で限られた経営資源を活用していかに持続的競争優位性を確保していくかの具体的な指針です。企業の経営戦略の中には、単に外部環境に対するその場しのぎの対応となっており、一貫性を欠くものがあります。経営理念と関連付けることで、一貫した経営戦略を立てることができるといえます。事業DDでは、このような問題がないかを確認していきます。

 

経営戦略を実行する組織の体制と従業員

『組織は戦略に従う』(チャンドラー)との指摘もあるように、一貫した経営戦略を立てていたとしても、戦略に対応した組織体制になっていないことがあります。例えば、経営戦略としては、現場重視でボトムアップ型の意思決定や柔軟な対応を志向しているにもかかわらず、実際の組織体制は、社長に権限が集中しており、トップダウン型の意思決定になっていたり、現場に権限がなく画一的な対応しかできなくなっていたりしているといったようなものを上げることができます。仮に経営戦略に合わない組織体制となっている場合は、どうすれば組織の改善ができるかも併せて検討していきます。

そして、組織を構成する従業員に関する検討も内部環境分では欠かすことができません。従業員の属性(年齢・役職・勤務年数)のバランスは適切か、業務に必要なスキルを有している従業員を確保できているか、人材の育成体制(特にOJT)は整っているか、公正な給与体系や人事評価になっているかなどを確認していきます。

 

営業活動

いうまでもなく、営業とは製品やサービスを売るための活動です。事業DDでは、売れるための仕組みをどのようにして作っているかを確認していきます。その際に用いる分析の枠組みとして4Pと呼ばれるものがあります。4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通・販路(Place)、販促(Promotion)の4つをいいます(いずれも「P」で始まることから4Pといわれています。)

これらの切り口に着目して、市場、ニーズの把握は適切か、自社の強みが発揮できているか、競合との差別化・優位性が確保できているか等について確認していきます。このほか、具体的な業務の流れに着目し、無駄な作業がないかなどを確認していきます。そして、問題があるようであればその原因と改善の方向性も併せて検討していきます。

 

財務状況

決算書を用いて、財務状況を分析します。分析の際は主に、収益性、効率性、安全性の3つの観点から分析をします。

収益性とは、会社が利益を獲得する能力をどの程度保有しているかを示すものです。ここにいう「利益を獲得する能力」とは、具体的には売上げに対して、どの程度利益を上げることができるかを意味します。したがって、収益性は、「売上高営業利益率」などのように、売上高に占める利益の割合が指標として用いられます。

効率性とは、事業に用いるために投下された資産による売上への貢献がどの程度あるかを示すものです。ここにいう「投下された資産」とは、棚卸資産(在庫商品)や固定資産等を意味します。効率性は、「固定資産回転率」などのように、主に売上を事業に要する資産で除したものを指標として用います。

安全性とは、会社が負担している債務についてどの程度弁済能力があるのかを示すものです。安全性は、短期の債務の支払能力に関する短期安全性(流動比率など)や会社の長期にわたる資金調達の健全性に関する長期安全性(自己資本比率など)があります。

前回のコラムでも述べましたが、事業DDにおいて重要なのは、指標という数字そのものではなく、「なぜそのような数字となっているのか」・「どうすればその数字は改善できるのか」をこれまで行ってきた経営戦略、組織、営業に関する検討の結果を踏まえながら具体的に分析していくことです。定量的な分析と定性的な分析とが合わさることによって深みのある分析が可能となります。

SWOT分析と事業の評価について

SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)に分けて4象限の表を用いて分析するものです。SWOT分析の表は一覧性に優れているので、これまでの分析のまとめとして用います。

そして、SWOT分析を踏まえて、当該企業がM&Aの売り手の抱える問題点と改善の方向性・可能性のほか、買い手にとって当該企業のM&Aがどのようなメリットをもたらすかについても分析していきます。

 

M&A後を見据えて

本稿では、2回にわたり事業DDの概要について解説しました。特に買い手にとって、M&Aはゴールではなく、新たな事業展開のスタートであるといえます。とはいえ、M&Aの交渉を行っているとどうしてもM&Aを成立させることに注視してしまいがちです。その意味で、M&A後を見据えた検討を行うためにも、事業DDは有効なといえるのではないでしょうか。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 

令和3年度 中小企業経営診断シンポジウム 中小企業診断協会協会長受賞しました

2021年11月4日に開催された令和3年度 中小企業経営診断シンポジウム 第一分科会にて論文発表をさせていただき、中小企業診断協会会長賞を受賞しました!

 

令和3年度 中小企業経営診断シンポジウム

テーマ 変化する時代を乗り越える経営革新 ― ビジネス変革を支援する中小企業診断士 ―
開催日時 2021年11月4日(木) 10:15〜17:40
開催会場 東京ガーデンパレス
主催 一般社団法人 中小企業診断協会
後援 中小企業庁/関東経済産業局/(独)中小企業基盤整備機構/日刊工業新聞社/日本商工会議所/
全国商工会連合会/全国中小企業団体中央会/日本経営診断学会

 

発表論文

再生型スモールM&Aと中小企業診断士の新たな活躍の場
~ネイルサロン買収による実践と考察

M&Aはクロージング後が大切 ~PMIにどう取り組む?

コロナ禍により経営環境は激変したものの、株式会社レコフデータによると2020年の国内企業同士のM&Aは前年比▲1.9%に止まっており、また海外企業とのM&Aを含めた総件数は過去3番目に多い3,730件となっているなど、引き続き高水準を維持しています。

一方で、「中小M&A推進計画」(2021年4月中小企業庁公表)によると、事業の譲受側である中小企業において、M&A前後の取組みの重要性に関する認識が不足しており、M&A実施前における経営状況や経営課題等の現状把握(見える化)、経営改善等(磨き上げ)、M&A実施後の経営統合のためのリソースが確保されていることは少ないといわれています。

このままでは、せっかく事業承継が行われてもその後の事業運営が思うように進まないケースが増加し、新たな問題となりかねません。

今回は、M&A後の経営統合を円滑に進める「PMI」について取り上げたいと思います。

 

 

1.PMIとは ~M&Aの増加に伴い顕在化するM&A後の課題

PMIとはPost-Merger-Integrationの略で、M&A実施後の経営統合のことです。

中小M&Aにおいては、バリュエーションやマッチングからクロージングまでのプロセスが注目されることが多いですが、中小企業にとってM&Aはあくまでも経営戦略を実現するための手段の一つに過ぎません。

最も重要なことはM&Aを事業の成長につなげることであり、M&A実施前からM&A実施後の円滑な経営統合を視野に入れた対策が必要なのです。

M&Aの経験が比較的豊富な上場企業においても、「M&Aプロセスにおいてやり直したい取組」(KPMG SURVEY2019)によると、「シナジー分析(18%)」「PMIの事前検討(16%)」などが上位の課題として指摘されています。

一律に論じることはできませんが、ある程度の組織規模がある中小企業のM&Aにおいても同様の課題が顕在化してくると考え、手を打っておく必要があるでしょう。

 

2.PMIのプロセス

ところでPMIはどのようなプロセスで実行されるのでしょうか?

経営統合を行う企業の組合せにもよりますが、経営者のもとPMIのプロジェクトチームを設置し、①統合方針の決定、②短期的なランディングプランや③中長期的な事業計画の策定などを実施しした上で、④進捗管理を行い、統合の円滑化とシナジー最大化を進めていくのです。

これらは、一般的にセクションに分けて実施されます。

 

(1)経営面:企業理念や経営理念、経営戦略などのすり合わせ

(2)制度面:①就業規則や評価制度、退職制度などの人事制度、および財務会計・管理会計などの会計制度の統合

(3)業務面:販売、購買等の業務システムにおけるオペレーションや経理・経営管理等のITシステムの統合

(4)事業面:業務を維持する計画、仕入先や資材などの分析、事業展開の立案、担当業務の割当て、新部門の創設など

(5)意識面:企業文化、組織風土の統合

 

中小企業では社内リソースが少ないため、これらのようなPMIを独力で実施するのは困難な面があります。実際、中小企業白書(2018年)によるとM&Aを実施した中小企業のうち総合満足度では24%が「期待を下回っている」と回答しています。

満足度が低かった理由として以下のような項目がありますが、買収価格の高さのようなM&A実行時の問題以上に、M&A後のプロセスに関わる項目が多くあげられていることは着目すべき点といえるでしょう。

 

【M&Aの満足度が期待を下回った理由】(複数回答可のため合計は100%にならない)

①相乗効果が出なかった         44.7%

②相手先の経営・組織体制が脆弱だった  36.8%

③相手先の従業員に不満があった     28.9%

④買収価格が高すぎた          23.7%

⑤企業文化・組織風土の融合が難しかった 22.8%

⑥経営・事業戦略の統合が難しかった   7.9%

⑦その他                5.3%

 

 

3.中小M&Aにおいて重視されること

中小企業のM&Aにおいて譲受側と譲渡側では重視する事柄が異なるようです。東京商⼯リサーチ「中⼩企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート(2020年12月)」によると譲受側では期待するシナジー効果の発現、円滑に組織融合できるかどうかを、譲渡側ではM&A後の従業員の雇⽤、事業の将来性、取引先との関係維持を重視するという特徴があります。

これらは、M&A後の経営統合の取組の中で解決していくべき事柄であり、このように中⼩M&AにおいてPMIは非常に重要な取組みであることがわかります。

 

「中⼩企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート(2020年12月)」(東京商工リサーチ)上位5位抜粋

○譲受側等の⼼配事項(M&A実施経験有の企業の回答)

①相⼿先従業員等の理解が得られるか不安がある 32.4%

②期待する効果が得られるかよく分からない   30.8%

③仲介等の⼿数料が⾼い            29.8%

④相⼿先(売り⼿)が⾒付からない       23.8%

⑤相⼿先の企業価値評価の適正性に不安がある  23.1%

○譲渡側の重視事項

①従業員の雇⽤維持              82.7%

②売却価額                  48.9%

③会社や事業のさらなる発展           47.6%

④取引先との関係維持             32.7%

⑤会社の債務の整理              26.7%

 

中小企業のPMI実施ニーズは高いにも関わらず、M&Aの経験を通じたノウハウの蓄積やPMIを進める社内リソースが不足しているため、外部機関を活用したPMI実施に期待が寄せられています。

一方、PMI⽀援サービスを提供するM&A⽀援機関は少ないのが現状です。今後は、PMIのノウハウのある中小企業診断士や経営コンサルティング会社などの活用も選択肢の一つになっていくのではないでしょうか。

 

4.政府のPMI推進施策 ~中⼩PMIガイドライン(仮称)策定に向けて

 

こうした動きの中で、経産省では中⼩M&AにおけるPMIへの段階的な⽀援の充実を図るため2021年度中に、中⼩M&Aにおいて望まれるPMIのあり⽅及びPMIの進め⽅を⽰す「中⼩PMIガイドライン(仮称)」策定に向けた検討が始まっています。

2021年10月5日に、中⼩PMIガイドライン(仮称)策定小委員会の第1回会議が開催されました。ここでは次のようにM&A⽀援機関を活用したPMI推進策が示されています。

 

○中⼩M&AにおけるPMIへの段階的な⽀援の充実

・2021年度中:中⼩M&AにおけるPMIに関する指針を策定

・2025年度迄:M&A⽀援機関は、「中⼩M&AにおけるPMIに関する指針」の内容も参考にしつつ、中⼩M&AにおけるPMI⽀援サービスの提供を検討し、⼀定程度の⽀援が提供されることを⽬指す

・政府は、M&A⽀援機関の取組を後押しするべく、M&A⽀援機関におけるPMI⽀援サービスの提供状況等を踏まえつつ、必要な予算措置等の⽀援策を検討

 

まとめ

コロナ禍でも引き続き国内M&Aは高水準を維持していますが、事業承継のためにM&Aを活用するフェーズから、M&A後の経営統合やシナジーの発揮を企図したフェーズへと質的に変化しつつあると言えるでしょう。

中小企業経営者の方々も、仲介やFAといった事業承継の入口の機能だけでなく「M&A後」の支援機能が期待できるM&A支援機関選びの視点を大切にする必要があるのかもしれません。

 

中小企業診断士 伊藤一彦