デューデリジェンスを成功させるポイント その6(人事DD)
デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。今回は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。
ツナグ:今回は、人事DDのお話だけど。ここが一番やっかいというか、たいへんだなって感じているんだ。だって、「企業は人なり」っていう有名な格言があるくらいだから。慎重にしなきゃいけないでしょ?苦手なんだよね・・・。
人事DDの留意点
確かに、ツナグさんの言う通りですね。とても重大なフェーズであることは間違いありません。なぜなら、これまでの買収先の業績を支えてきた、大切な人材ですからね。そして、これから私たちと一緒に、これまで以上の力を発揮していただきたいわけですから。
ただ、一方で、人事DDは非常に広範なため、優先順位を設定して、範囲を限定しリスクをとる姿勢も大切になります。たとえば、他のDD結果の分析などから発生確率が高いと思われる分野かつハイリスクなテーマや合併の戦略的目標に直結するテーマに焦点を当てて、優先的に取り組むことが考えられます。逆に言うと、調査コストとリスクの大きさを比較検討した上で調査範囲を決定することも必要と言えます。
また、全ての情報を一度に集めようとするのではなく、段階を踏んで情報を収集します。初期段階での高レベルの分析から始め、必要に応じてさらに詳細な調査に進むという方法です。
人事DDの代表的な調査テーマ
人事DDの一般的な範囲は、以下の通りですが、特に、将来の業績見通しに直結するような賃金制度、残業代や社会保険料未払い分の支払いなど、臨時の支出発生など財務面には十分注意してください。また、労働関連法規や契約違反、契約不備など法的なリスクについては、法令違反、罰金、賠償、ブランド毀損などの恐れがありますので、見落とさないよう、優先度を上げた対応が必要です。
・人員構成や人件費
部門ごとの従業員の人数、年齢、性別、勤続年数、職務内容、労働条件を詳細に把握します。給与については、その内訳や水準、支給ルールについて調査します。退職金制度や福利厚生(健康保険組合、厚生年金基金を含む)などの給与以外についてももれなく行います。また、役員退職慰労金制度や役員の生命保険加入状況、残業代の未払いやパートの社会保険未加入問題などへの注意が必要です。
特に、労働条件については、経営統合後の調整業務が避けて通れないテーマになる可能性が大きいテーマですので、その違いの把握はしっかり行いましょう。
・組織構造と職務権限について
組織構造、各組織の職務権限、職務分掌について確認します。組織図と実際の業務運営が一致していないケースも見受けられますので、直接ヒアリングなども必要に応じて実施します。例えば、小さな組織では、指揮命令系統や職務分担があいまいなことも多く、改善作業が必要になることがあります。
さらに、統合作業や統合後のシナジーの実現にかかわるキーパーソンについては、特に把握しておきたいポイントです。売り手企業の従業員さんのモチベーションや退職意向など、本人はもとより、周辺からの聞き取りなども慎重に行うようにしましょう。
・労使関係
労働組合の有無や加入状況はもとより、過去の労使交渉の記録など。統合作業中、統合後の経営への影響を把握してください。また、労働協約や労使問協定についても漏らさず確認しましょう。
専門家やITの活用
人事DDについては、他のDDに比べて、いろいろな面で専門性が高く、繊細なテーマですので、専門家との連携は不可欠とお考え下さい。例えば、労働関連法規に関する内容については、労働分野を専門とする弁護士や社会保険労務士が適任でしょう。また、給与、退職金、年金などの計算については、社会保険労務士や会計士へ依頼することが検討できます。
加えて、従業員数が多いケースでは、クラウドサービスなどを活用することも検討してください。情報の一元化および、迅速な分析が可能になります。現状の把握だけではなく、今後の人件費推移などの予測にも非常に役立つサービスが提供されています。もし、自社で活用しているサービスがなければ、これを機会に導入することも検討すべきです。
まとめ
今回は、人事DDに絞ってツナグと一緒に学びました。人事DDでは、上述の通り、内容によっては、一定程度過去に遡ることも、未来を予測することも必要なため、その調査・分析範囲は膨大です。ポイントは、優先度の高いところから、順に調査すること、そして、許容できるリスクの大きさや種類について、あらかじめ、検討・設定しておくことです。
なんらかのリスクが見つかった場合の対応策については、次回、ツナグも交えて、一緒に学びたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。