ブログ アーカイブ

中小企業の私的整理に関する新しいガイドラインができました①

秘密を保持しつつ簡易・迅速に行う私的整理

窮状に陥った企業が再起を図るための債務整理の方法といえば、民事再生や会社更生といった裁判所による法的整理がまず思い浮かぶかもしれません。

しかし、高額な費用が必要となること、高度な専門性が要求されること、長期間の時間を要することなど、法的な整理のハードルは相当に高いといえます。また、法的整理を行ったことは、官報にて公告されることなどから、広く周知され、事業継続に向けて再起を図る企業にとっては致命的な打撃を受けることも少なくありません。

このようなことから、法的整理よりも企業が裁判所を介することなく債権者(基本的には金融機関)と話し合いによる任意の合意に基づく私的整理が行われることが一般的であるといえます。

私的整理は、企業と金融機関の間で協議が整えば可能であることから、簡易・迅速に行うことができるうえ、協議の当事者である企業と金融機関以外には私的整理の事実が知られることもなく秘密を保持できるといったメリットがあります。

 

『中小企業版私的整理ガイドライン』の策定

もっとも、私的整理の場合は、企業と金融機関の任意の合意により行われるものですので、ある意味合意さえ整えば実体面・手続面ともに『なんでもあり』になってしまいかねません。そこで、一定の準則ないしルールを定め、それに従って私的整理手続を行う準則型私的整理手続が行われています。この準則としては、平成13年に金融界・産業界の合意により策定された『私的整理に関するガイドライン』などがあります。

ところで、令和2年以降世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症は中小企業の経営に深刻な影響をもたらしました。コロナによる影響からの脱却を図りつつ、より迅速かつ柔軟に中小企業が事業再生などに取り組めるよう、いわば『中小企業版の私的整理に関するガイドライン』ともいうべきものとして、令和4年3月に『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』(以下単に「ガイドライン」といいます。)が策定されました。このガイドラインの概要について、解説します。

 

平時・有事等における中小企業と金融機関の果たす役割

ガイドラインは大きく2つの部分から構成されています。前半部分は、中小企業者の「平時」、「有事」等の各々の段階において、中小企業者、金融機関それぞれが果たすべき役割について記載されています。

ここにいう「有事」とは、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある場合をいいます。中小企業の経営が悪化しているかどうかで、中小企業者と金融機関の果たすべき役割が異なるとガイドラインは考えているのです。

平時においては、中小企業が有事に陥ることを防止すること、仮に中小企業者が有事に陥ったとしても金融機関が迅速に円滑な支援の検討が可能となるような信頼関係を構築することが重要であるとされています。ガイドラインには、具体的には、以下のような役割が記載されています。

 

【平時における中小企業者の役割】

1 自社の収益力の向上と財務基盤を強化する。

2 適時適切な自社の経営情報の金融機関に対する開示等によって経営の透明性を確保する。

3 役員報酬、配当、経営者への貸付等を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど法人と経営者の資産等の分別管理をする。

4 有事へ移行しないように努めるとともに、自社が有事へ移行する兆候を自覚した場合には、速やかに金融機関に報告し、金融機関・実務専門家・公的機関や各地の商工会議所等の助言を得るようするなど予防的対応を行う。

 

【平時における金融機関の役割】

1 中小企業者との信頼関係の構築に努めるとともに開示された経営情報から経営課題の把握・分析等に努め、中小企業のライフステージや事業の維持・発展の可能性の程度等を適切に見極める。

2 中小企業者の経営の目標の実現や課題の解決に向けて、中小企業者のライフステージ等を適切に見極めた上で、適時、能動的に最適なソリューションを提案する。

3 経営情報等について中小企業者から開示・説明を受けた事実や内容だけをもって中小企業に不利な対応がなされることのないよう、誠実な対応に努めることとする。

4 中小企業者の有事への段階的移行の兆候を把握することに努めるとともに、必要に応じて、中小企業者に対し、有事への段階的な移行過程にあることの認識を深めるよう働きかけ、事業改善計画の策定やその実行に関する主体的な取組みの促進や支援などを行う。

 

次回の予告

次回は、有事における中小企業者及び金融機関の役割や中小企業の事業再生等のための私的整理手続の概要について解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 

インフレと米国利上げで国内M&Aは増加?~スタートアップの出口戦略はIPOからM&Aにシフト

1.世界的なインフレにより国内IPOは減少か

2021年の国内IPOが136社となり、2008年のリーマンショック後、最多となりました。上場志向のスタートアップが事業拡大のための資金調達を加速したことによるものです。
一方、足元では、国際的なインフレの広がりや、米国の度重なる政策金利引き上げにより、資金が、株式市場から安全資産へシフトしつつあります。これを受けて、2022年の6月末現在でのIPOを中止した企業数は既に8社となり、前年通期の5社を既に上回る異常な状態となっています。ウクライナ情勢など、このまま不透明な状態が続けば2022年のIPOは100社前後まで減少するとみる大手証券会社が多いようです。

 

2.スタートアップは出口戦略をIPOからM&Aにシフト

スタートアップのIPO志向は引き続き堅調ですが、現在、IPOしても株式市場ではあまり高い評価が見込まれないため、主幹事証券はIPOする銘柄を絞り込み始めています。また、ベンチャーファンドなどの大株主もキャピタルゲインを得られる確度の高いIPOでなければ上場申請に賛成しない、など慎重姿勢が目立ち始めています。
多くのスタートアップの株主構成は、20%から50%程度がベンチャーファンドなどの投資家により占められているため、IPO減少により失われた株式売却機会の代替として、別の出口=EXIT戦略を求める必要が生じてきています。その代替機会がM&Aなのです。

 

3.大企業の投資意欲は旺盛。ファンド間のセカンダリー売買も増加。

米国FRBは、政策金利の引き上げに積極的ですが、日銀は引き続き金融緩和スタンスです。そのため国内の大企業は低金利を背景に引き続きオープンイノベーション推進のためのスタートアップ投資に意欲的です。
PWC Japanグループが2022年6月に公表した「日本におけるプライベート・エクイティの潮流と考察2022年」によると、足元のPEファンドの売却動向はPEファンドからPEファンドへのセカンダリー売却が主流になっており、国内で活動する主要ファンド20社の保有企業数は2021年末時点で約260社。ファンド1社あたりの平均保有企業数は13.0社で、2016年末時点の6.5社から倍増しているとのことです。
こうした買収意欲の高い投資家の存在が、国内M&Aを当面、牽引するものと思われます。
私が日ごろ接しているスタートアップ投資の現場でも、ファンド投資先の株式売却について大企業や他のPEファンドというケースが増加しています。従来は、買手と相対で売買交渉することが多かったのですが、比較的小規模な案件でもフィナンシャルアドバイザーを立てて意向表明や基本合意書の締結などM&A仕立てのプロセスで売買が行われることが少なくありません。

 

4.「新しい資本主義」はスタートアップのM&Aに追い風

岸田政権による「新しい資本主義」の中で、スタートアップ支援は主要施策の1つとなっています。6月7日に内閣官房の新しい資本主義実現会議で公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」によると、「Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の中で提示された4項目のうち、1項目は賃上げを柱とした「人への投資と分配」でしたが、他の3項目は「科学技術・イノベーションへの重点的投資」「スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進」「GX(グリーン・トランスフォーメーション)及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資」など、広義の内容も含めると全ての項目がスタートアップ支援に係るものなのです。
こうした点を踏まえると、手厚い政府の振興策を背景に、スタートアップ向け投資は中期的に底堅く推移するでしょう。

 

5.まとめ

こうした国内環境を踏まえれば、日銀が利上げ姿勢にでも転じない限り、スタートアップのM&Aは当面拡大基調にあると思われます。
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、大企業によるスタートアップ投資はスタートアップの出口戦略、既存の大企業のオープンイノベーションの推進策、の両面で重要であるという認識です。そのため、①オープンイノベーション促進税制の検討や、②上場企業によるスタートアップのM&Aを円滑化するため、M&Aを目的とした公募増資ルールの見直し、などが計画されています。
日本経済を牽引する柱としてスタートアップを育成していくためには①人材、②資金、③サポート・インフラ(メンター、アクセラレータ、インキュベーター)、④コミュニティの形成、などスタートアップ・エコシステムの構築が不可欠です。
また、M&A登録支援機関によるスタートアップのM&A支援もエコシステムの構築を支える重要な役割を担っています。
スモールM&Aは、コロナ後の経済・社会システムの再構築の一翼を担うキーストーンなのかもしれませんね。

【ご参考】
□「日本におけるプライベート・エクイティの潮流と考察2022年」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2022/assets/pdf/trends-and-considerations-of-pe-in-japan2022.pdf

□「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai9/shiryou1.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

担当者が最初に知るべきこと「誰に、いつ、何を、どのよう様に相談するのか?」

みなさまこんにちは、例年よりも遅いようですが、全国各地で入梅しつつありますね。うっとおしいと感じられる方も多い梅雨ですが、北海道へ退避するか?それともお気に入りのレインギアを手に入れて、のんびり過ごすか?あなたはどちら派でしょうか。

本日は、M&A新任担当者が、「M&Aを成功させるためにいったいどのように外部専門家のリソースを活用すべきか?」、について買い手側の視点に立って一緒に考えていきましょう

 

対象企業の探索とともにパートナー専門家も探しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、対象企業の方向性を絞ることが最初のお仕事ではあるのですが、それと同時並行で進めるべきなのが、パートナー専門家の探索です。

なぜなら、これから始まる情報収集の過程において、さまざまな関係者や専門家とお会いすることになります。そこでは、あなた以外は、みなM&A業界人なのです。専門用語もある程度飛び交うでしょうし、立場による視点の違いも加味してお話を聞く必要も出てきます。ネットや専門書を駆使して調べることも必要ですが、できれば、同時通訳ほどではないにしても、ある程度の即時性を持って自社の事情も加味した内容でレクチャーを受けたいものです。そのような背景からあなたのパートナーとして活躍してくれる専門家の探索をおすすめしたいです。

では、M&Aの専門家にお願いするお仕事にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

M&Aで頼りにしたい専門家の領域

M&A案件の推進に関して助言や支援を行う専門家を総称してファイナンシャル・アドバイザー(以降FA)と呼んでいます。FAによる支援サービスは、特に公的な資格もありませんので、士業やM&A専門会社だけでなく銀行や証券会社なども提供しています。

案件が進むに連れてFAの重要度が大きくなりますが、具体的には、以下のような業務をお願いすることになります。

 

①財務面、②法務面、③会計・税務面、④人事面、⑤その他、ビジネス面全般

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

①財務面

財務面というとお金の手配というように捉えられると思いますが、お金だけにとどまりません。なぜなら、買収と言っても事業だけを買い取る“事業譲渡”以外にも、相手の株主に対して自社の株式を交付して交換する手法もあり、様々なスキームがあるからです。その中から現在、及び将来の自社にとってもっとも良い方法を提案・検討するのが、この財務面のお仕事ということになります。

また、経営統合後の再投資や運転資金など、数年間の必要資金がどのように推移する見込みなのか?どのように調達するのか?などの検討から、借り入れの支援まで多くの場面で支援を受けるべきケースがあります。

 

②法務面

こちらは、その名の通り、法律に関する業務になります。大きくは2つに分けられます。1つは、自社がいろいろな手続きや契約を進める上で必要になる法律上のチェックや、相手方との契約内容の妥当性のチェックです。もう一方は、対象企業がこれまでの事業運営において、法律上の問題を抱えていないか、事業運営上必要な規制を守れているか、許諾や免許などをきちんと整備しているか?それらの是正に必要なコストはどれくらいか?などを確認する業務があります。

また、相手側との交渉をあなたが当事者として直接行うのであれば問題はありませんが、代理人として専門家に依頼したいのであれば注意が必要です。なぜなら、弁護士以外の代理人にお金を支払って、交渉事を依頼することは禁止されているからです。

 

③会計・税務面

こちらは、経営統合を進めるにあたって発生する会計処理や決算業務に関するものになります。になりますし。会社全体の経営統合であれば、二社それぞれの会計処理・決算をどのように処理するのか?など、検討することも2倍になります。

 

④人事面

人事面についての業務は、顧客や事業の一部譲渡にとどまらず、相手方従業員ごと引き受ける場合に発生します。こちらは、転籍や処遇(過去とこれから)といった制度・手続きだけでなく、組織文化などの意識合わせなど、さらに大きなテーマへの関連性も検討する必要があります。

 

⑤その他ビジネス面

こちらは、ここまで出てきた専門家に併せて依頼するのか、できれば別で検討したい役回りです。なぜなら、自社の実情に沿った助言を伴走型で受けることを期待したいからです。M&A計画全体との整合性や各専門家の取りまとめ、進捗管理などにとどまらず、M&A終了後に始まる経営統合活動への支援など、重要な業務は今後も数年間にわたり続きますので、全体を広くカバーでき、調整能力を持つ専門家に依頼すべきです。

 

気になるFA費用の相場は?

さて、このような頼れる専門家に伴走してもらうには、どれくらいの費用が必要となるのでしょうか?

専門家の料金体系は、一般的には①着手金(リテイナー・フィー)と②成功報酬となっていることが多いようです。

着手金は、専門家次第ですので、一概には言えませんが、一般的なコンサルタントの顧問料として検討することになります。つまり、数十万円×関与月数または、関与期間を見越した一括着手金として数百万円、を提示される金額がスモールM&Aの相場と言えそうです。

成功報酬には、“レーマン方式”と呼ばれる料金表を採用することが一般的です。料金算定は、買収企業の企業価値×料率となっており、企業価値の大きさによって0.5%~5%程度が目安です。我々スモールM&Aの現場では、企業価値5億円以下5%を目安として考え、どこかの段階で金額交渉をして固定しておくことがおすすめです。なぜなら、企業価値に応じた料率とすると、専門家のフィーが変動することとなり、買収金額が高くなる(企業価値が高まる)とフィーが上がるとなると、費用を抑えたい企業担当者との関係性もおかしくなることがあるからです。

 

まとめ

今回は、M&A新任担当者がスムーズな案件対応を実現するためにどのような専門家を頼りすればよいのかについてお話しました。

大手では当たり前の外部専門家チームですが、我々スモールM&A案件では、そこまでの間接費用をかけることは現実的ではありません。私のおすすめは、伴走型で取り組んでくれるマルチプレイヤー的な地元密着型専門家を選定することです。

この記事に出会ったことを良い機会に、まずは、お近くの商工会や商工会議所、金融機関、よろず支援機関(https://yorozu.smrj.go.jp/)を頼りに情報収集を進めてみてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画③

経営改善計画を策定する際の金融機関の支援

前回に引き続き、経営改善計画について解説します。これまで解説してきたように、経営改善計画は、窮状にある企業が事業の見直しを行い、経営の改善を目指すものです。経営の改善を行うためには、事業の収益性等の検討とともに、財務状況の改善が必要となり、金融機関による支援も不可欠といえます。

金融機関による主な支援としては、リスケジュール、DDS、DES、債権放棄があります。

リスケジュールとは、債務の元本又は利息の支払い期限の延期を行うことをいいます。一定期間返済が猶予されれば、その間、企業の資金繰りに余裕が生じ、事業の改善を行うために必要な投資などが可能となります。そのうえで、事業の改善により収益性が向上することで、返済のための資金も確保できるようになることを目指すのです。そして、リスケジュールは、債務の額そのもの(少なくとも元本)が減額になるわけではありません。このため、金融機関にとって比較的行いやすい支援といえ、特に中小企業や小規模事業者では金融機関による基本的な支援の方法となっています。

DDS(デット・デット・スワップ)とは、金融機関が有する既存の債権を他の一般債権よりも返済順序の低い劣後債権に変更することをいいます。後述するDESとは異なり、企業の実質純資産とはならないものの、元本の返済が一定期間猶予されることになるため、リスケジュールと同様に一定期間資金繰りに余裕が生まれることとなります。他方で、金融機関としてもDDSを用いることで所定の条件を満たせば自己査定の際に資本とみなすことができるというメリットがあります。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、金融機関が企業に対して有する債権を現物出資して株式を取得することをいいます(債務の株式化)。DESが行われると企業は債務の返済を行う必要がなくなるのでそのメリットは非常に大きいといえます。他方で、金融機関からすると、DESは「融資から投資」となり、回収は配当や株式の売却によることとなります。したがって、企業が非上場の場合、その回収は容易ではないことから、DESによる金融支援を企業が得るのは困難な場合が多いといえます(ただし、金融機関が税務上の欠損金を超える額の債権放棄を行う場合は、債務者たる企業に債務免除益が発生し、課税の対象となるリスクがあることからDESを活用することはありえます。)。

債権放棄とは、金融機関が企業に対して有する債権を放棄することをいいます。金融機関からすれば、債権放棄は債権の回収が不能になるという意味で最も厳しい金融支援となるため、債務者たる企業にも経営者責任、保証人責任、企業の代表者個人の私財提供等といったさまざまな課題を解決することが求められます。

 

金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング

経営改善計画を成立させるためには、基本的には支援を行うすべての金融機関の同意を得ることが必要になります。そして、各金融機関の同意を得るためには、各金融機関との情報の共有や公平性の確保、手続の透明性を確保する必要があります。そのための手段として用いられるのが、金融機関を一堂に集めて行うバンクミーティングです。

バンクミーティングは、①経営改善計画の内容や金融機関への支援案の説明を行うとき、②金融機関が経営改善計画への同意表明を行うとき(おおむね①から1か月後)の少なくとも2回開催されます。

バンクミーティングには、企業と金融機関のほか、認定支援機関が関与している場合は認定支援機関も出席します。また、金融機関が信用保証協会を利用している場合は信用保証協会も出席します。

最初のバンクミーティングにおいて、金融機関からさまざまな意見が出されることもあります。その際、場合によっては個別に金融機関と交渉を行うことが必要となることがあります。(なお、その際の交渉を弁護士でない認定支援機関が行うと弁護士法第72条違反となります(いわゆる非弁行為)。)

 

計画策定後のモニタリング

金融機関の同意を得ることができ、経営改善計画が成立したとしても、それがゴールではありません。なぜならば、あくまで経営改善計画の策定は「手段」であって、当該計画を実際に実行し、経営の改善が行われることが本当の「目的」であるからです。そして、経営改善計画はあくまでも「計画」である以上、実行するなかで、修正を行う必要が生じる場合もあるでしょう。

そこで、経営改善計画の進捗の把握・分析を行い、必要に応じて修正を検討することが必要となってきます。この進捗状況の把握・分析及び修正の検討の過程をモニタリングといいます。

モニタリングは月次又は四半期単位で実施することが想定されていますので、経営改善計画の策定の際は、月次又は四半期単位での計数計画を策定しておく必要があります。そして、モニタリングにおいて目標を達成できていないことが明らかになった場合は、金融機関と情報を共有して対応策を検討していくことになります。なお、経営改善計画の策定に認定支援機関が関与している場合は基本的に認定支援機関がモニタリングにおいて中心的な役割を担うことが期待されています。

 

経営改善計画の流れをつかむ

これまで3回にわたり経営改善計画について解説をしてきました。何のために経営改善計画を策定するのか、経営改善計画にはどのような内容を記載するのか、経営改善計画はどのようなプロセスで策定され、その後の流れはどうなるのか等についてざっくりとしたイメージを持っていただくことができれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

「事業再構築」とM&A ~事業再編による再構築に注目

1.長期化するコロナ禍の影響と「事業再構築」の取組み

(1)長期化するコロナ禍の影響

2年以上にわたる新型コロナウイルス感染の影響により、多くの企業は活動の停滞を余儀なくされています。2022年4月20日に東京商工リサーチが公表した調査結果「第21回『新型コロナウイルスに関するアンケート』調査」によると大企業・中小企業ともに約70%の企業が「影響が継続している」と回答しています。依然として企業がコロナ禍の影響を受けていることが浮き彫りとなったわけですが、手をこまねいているばかりではありません。政府や金融機関の支援を受けながら、激変する環境変化に対応する動きが広がっています。

 

(2)中小企業の「事業再構築」の取組み状況

同調査によると、ウィズコロナ、ポストコロナを見据えて政府が取り組みを支援する「事業再構築」について「既に行っている」と回答した企業は14.0%。前年同期の調査結果対比3.2ポイント増加しています。また、今後の「事業再構築」(新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編など)の意向については、「今後1、 2年で事業再構築を行うことを考えている」と回答した企業が44.4%を占めています。

特に、映画館や劇場、フィットネスクラブなどの「娯楽業」の84.6%を筆頭に、2位は「飲食店」の69.6%と、コロナ禍の影響を大きく受けている業種ほど「事業再構築」にかける意欲が高いようです。

一方、これらの「既に行っている」「今後1、 2年で事業再構築を行うことを考えている」と回答した企業に対して、「事業再構築」をどのように行ったか(含む、行う予定か)という問いに対しては、①「コロナ禍の状況にとらわれず、新たなビジネス領域への進出」49.2%、②「ウィズコロナに対応できる事業形態への転換」28.8%、③「危機的状況でも企業が存続できるよう事業の多角化」28.1%など、新事業分野への進出や事業多角化が多数を占めています。

 

2.今後の中小企業による「事業再構築」の取組み

(1)「事業再構築」にM&Aは活用できるの?

従来、M&Aは新事業分野への進出や事業多角化の手法として幅広く活用されていますが、「事業再構築」の手段としてM&Aを活用することは認められているのでしょうか。

 

中小企業庁の事業再構築補助金のサイトには、「活用イメージ集」という形でモデルケースが例示されています。「新分野展開編」「事業転換編」「業種転換編」「業態転換編」「事業再編編」「グリーン成長枠の想定事例」の6分野あり、そのうち「事業再編編」はM&Aによる事業再構築を想定したものとなっています。

 

具体的には、次のような事例が示されています。

 

①【新分野展開】のため会社法上の組織再編行為「吸収分割」を活用

⇒コロナの影響に伴うテレワークの増加により売上が低迷しているオフィス街で営業する弁当屋が「吸収分割」を行い、新たに病院向けの給食などの施設給食業に着手する事例

 

②【事業転換】のため会社法上の組織再編行為「新設合併」を活用

⇒コロナの影響により需要が低迷しているパルプ装置・製紙機械製造事業者が「新設合併」を行い、新たにマスクなどの衛生製品の製造業を開始する事例

 

③【業種転換】のため会社法上の組織再編行為「事業譲渡」を活用

⇒コロナの影響で地域催事等の中止が相次ぎ業績が悪化している食料品製造会社が、食料品製造事業を他社に「事業譲渡」し、新たに化粧品販売事業を開始する事例

 

④【業態転換】のため会社法上の組織再編行為「株式交換」を活用

⇒コロナ禍で観客数が大幅に減少している演劇公演等のイベントを行っていた芸能プロダクション会社が「株式交換」を行い、新たにオンライン演劇部門を構築する事例

 

このように「事業再構築」における事業再編とは、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うことを想定しています。

つまり、事業再構築補助金の支援の対象となる「事業再構築」は、「新分野展開」、「事業転換」、「業種転換」、「業態転換」、「事業再編」のいずれかに該当するものであると同時に、会社法上の組織再編行為に該当するものであることを事業計画において示す必要があるのです。

 

(2)会社法上の組織再編行為とは

一般的には、会社法第五編に規定されている「組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」を指し、広義には、事業譲渡を加えたものを指すこともあります。これら組織再編はM&Aの重要な手段となっています。

ただし、組織再編行為は、株主に重大な影響を与えるため株主総会の特別決議が必要であり、組織再編当事会社が債権者の利害に影響を及ぼす可能性のある場合には、事前に官報に公告、個別に催告し、債権者が異議を述べることができる一定の期間を確保するなどの債権者保護手続きが必要とされます。従って、組織再編行為によるM&Aを活用して「事業再構築」を実施する場合には、新事業の計画に加えて、組織再編に係る綿密な計画も必要となります。

 

3.「事業再構築」にM&Aを活用する上での課題

(1)補助対象経費

M&A実施後については、新事業に係る経費は、他の類型の「事業再構築」と同様に、補助事業に要する経費を補助対象として計上することが可能です。

しかし、M&Aを実施するには様々な費用が必要となります。仲介手数料、専門家によって行われる法務・財務等のデューデリジェンスなどの調査費用をはじめ、登記費用などがかかります。しかしながら、補助対象経費の専門家経費とは「本事業遂行のために依頼した専門家に支払われる経費」、つまり、新事業の遂行に関わる専門家経費である必要があるため、補助対象経費として認められる可能性は低いでしょう。従って、これらのコストは自社負担として織り込んだ計画を立てることが必要です。

 

(2)組織再編要件の範囲

中小M&Aでは事業譲渡と共に重要な手段として活用されている「株式譲渡」は、会社法上の組織再編行為ではありません。事業再構築補助金の組織再編要件を充足しないだけでなく、「株式の購入費」は補助対象経費でない旨、明記されています。M&Aの選択肢として「株式譲渡」を除外しなければならない点は留意が必要です。

 

3.まとめ

「事業再構築」の手段としてM&Aは大きな可能性を秘めていますが、法務・会計などの専門的人材が不足する中小企業がM&Aを活用するためには、乗り越えるべき課題が少なくありません。

しかし、M&Aは、新事業に必要となる買収対象先の顧客基盤、技術・ノウハウ、優秀な人材などの経営資源をスピーディに獲得できる点で大きなメリットがあります。また、売上向上・コストダウンなどの効果だけでなく、場合によっては、従業員の士気向上・企業の認知度向上などの副次効果を狙ったM&Aを実行することも可能です。

専門家を上手に活用し、「事業再構築」に向けてM&Aの活用も選択肢として検討してはいかがでしょうか。

 

【ご参考】

□東京商工リサーチ 第21回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220420_01.html

□活用イメージ集 事業再編
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/jigyousaihen.pdf

□採択事例にみる業態転換
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/01_jireishiryou.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

 

「良い案件があったら教えて」という前に担当者がすべきこと

みなさまこんにちは、突然暑くなったり、はたまた寒くなったり・・。日本の春はどこへ行ってしまったんでしょう。本日は、初めてM&Aの担当を任された担当者がどのような手順で案件を探索すればよいのか?について一緒に考えてみましょう。

 

戦略の合意が取れたら対象企業を捜しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、ご自身の考えがまとまったら、さっそく情報収集をスタートしましょう。戦略立案の重要性については、過去のコラムをご参照ください。(https://stella-consulting.jp/archives/875

“情報収集をスタートしましょう”と言っても、戦略策定のフェーズで並行して行っているケースがほとんどでしょう。しかし、戦略が決まる前と決まった後では、同じ情報でもその受け取り方がずいぶんと変化していることに気づくはずです。なぜなら、業種や業態、企業規模、金額、所在エリアなどの条件面はすでに戦略上で絞られていますので、もうあれやこれやと迷うことが格段に減っているはずです。

これによって節約できた労力を今までより掘り下げた研究に振り向けることもできますし、情報収集の幅を広げることもできるはずです。

例えば、情報のメインソースは、マッチングサイトだと思いますが、条件面の具体化ができていれば、金融機関に資金面の支援を含めた相談をすることもできます。また、地元の同業者組合や自治体などが主催する展示会イベントなどに参加し、探索する業界の企業の強みや技術力、社員さんなどと接触することも可能になります。取引先候補として接触できるので、技術面やサービス面など具体的な情報が聞き出せる絶好の機会です。

 

まずは、リストアップ

情報収集を進める過程で自社の戦略に合致するM&A候補先があれば、リストに概要や気づきをまとめていきます。最初の段階では、できるだけたくさんリストアップすることに注力しましょう。マッチングサイトであれば、相手先もある程度売却の意思が固まっているでしょうから、交渉は進みやすいのですが、単に事業承継に課題を持っている程度の企業では、いくらこちらがその気になったからといっても交渉をスタートさせることすらできないからです。

ある程度の件数のリストが完成したら、社内での検討会議を行います。チームメンバーが持ち寄った案件が自社の戦略にマッチしているかどうか、最低限の確認作業を行います。

ここでよくあるのが、戦略にマッチはしないにもかかわらず、メンバー間の評価が高い案件の存在です。なぜこんなことが起きるのでしょうか?考えられる原因は、2つです。

ひとつは、戦略の理解が浅いメンバーが存在することです。これは、この会議を通じて理解を深めてもらい、チーム内の意思統一を図るよい機会としましょう。

次に、戦略が自社の現実からずれてしまっているケースです。会議室では、往々にして現実離れした理想論が語られ、現実的な意見が言いづらい空気が充満し、物事が決まってしまうことがあります。いわゆるグループシンクと呼ばれている、「集団で話し合うと浅はかな結論を導き出してしまう」という人間の習性です。このケースでは、戦略の方を修正することになります。戦略は、このように修正を繰り返し筋の良いものになっていくものと割り切って随時手直しを続けましょう。

 

対象企業を評価する。

対象企業候補リストが完成したら、次に評価を行い、優先順位を決定します。評価軸は、自社の戦略に叶っているかどうかの1点になりますが、その中に大きな要素が3つあります。

ひとつは、事業上のシナジーをどの程度見込むことができるか?です。

代表的なケースは、相手先企業の持つノウハウ、技術、設備、スタッフ、取引先などを自社に取り込むことで既存事業に対するプラスのインパクトが期待できるケースです。このケースでは、社内討議が行いやすいように3~5年程度の将来にわたって発生するであろう収益を試算します。この際、算定条件なども併せて示すことで判断が容易になります。また、これとは逆に、自社の持つ経営資源を相手先に提供することで、相手先の業績向上が期待できるケースです。こちらは、収益の資産が少々困難ですが、合併後の事業運営が順調なケースと不調なケースなど複数案を検討することで、試算の精度を上げることは可能です。

次に、財務健全性はどの程度か?です。

こちらは、情報ソースが金融機関であれば、ある程度提供してもらえるかもしれませんが、それも難しければ、信用調査会社から購入する方法を検討しましょう。

最後に、実現可能性の検討です。

こちらも、この段階で入手できる情報から判断することは到底できませんが、中小企業の場合、経営者の年齢や後継者の存在から検討することができます。また、業績や設備投資の程度などから、先行きに不安があるのかどうかくらいは判断ができそうです。後継者が社内におり、積極的な設備投資の形跡がみられるようであれば、商談にすら持ち込めない可能性が高いため、調査の優先度は下げる。といった評価ができそうです。

 

持ち込み案件への対応

情報収集活動を進めている過程で、金融機関などからM&A案件が持ち込まれることも増えてきます。一般的には、ノンネームシートと呼ばれるA4用紙1枚の案件概要が提示されます。当然、対象企業名はなく、簡単な情報しかないため、情報提供者に対してヒアリングを行う必要があります。彼らも「良い案件」であると考えて提案したことから考えても、シートには書けないが有益な情報も持っており、それをきっと話したいはずです。

この段階で確認したい項目は、リストアップ先の評価軸と共通する点がほとんどです。具体的には、対象企業の強みや弱み、売却の背景、自社に提案してきた理由、金額などの条件面、他社との交渉状況、回答期限など。

M&Aは比較的クローズな市場であるため、例え口頭でもこのような情報が入手できるよう、日頃から金融機関などとよい関係を築いておくこともポイントです。

 

まとめ

今回は、自社の戦略に沿ったM&Aを実現するための手順についてお話しました。「M&Aは相手がないと始まらない」とばかりに「何かよい案件があったら教えて」と金融機関や外部関係者に依頼する人を時々見かけますが、こういった依頼の方法では対応しづらいのが金融機関側の本音のようです。まずは、情報収集を進めながらでもよいので、自社の方向性を具体化させることが必要です。特にM&Aは、計画通りに進まないことが大半ではありますが、大きな投資を伴う事業です。まずは、計画立案から進めることをお勧めします。この記事に出会ったことを良い機会に、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

 

中小企業診断士 山本 哲也

自社の事業を見直す経営改善計画②

実抜計画と合実計画

前回のコラムでも解説したように、経営改善計画には、実抜計画と合実計画の2つがあります。

実抜計画とは、「実」現可能性の高い「抜」本的な経営再建計画をいいます。ここにいう「実現可能性の高い」とは、

① 計画の実現に必要な関係者との同意が得られていること。

② 計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が必要と見込まれる状況でないこと。

③ 計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものとなっていること

「抜本的な」とは、具体的には、計画策定後おおむね3年後に債務者の区分が正常先となることを言います。

他方、合実計画とは、「合」理的かつ「実」現可能性の高い経営改善計画をいいます。ここにいう「合理的」とは、計画期間が5年以内(中小企業の場合は5年を超えおおむね10年以内)で、計画終了後に債務者の区分が正常先となるものをいいます(金融機関の支援を要することなく自助努力で事業継続が可能なときは要注意先でも差し支えありません)。

認定支援機関は主に中小企業の支援を行います。中小企業において合実計画は実抜計画とみなすとされていることから、認定支援機関は合実計画の策定に関与することが多いといえます。

 

経営改善計画にはどのような内容が記載されているのか

中小企業庁『認定支援機関による経営改善計画策定支援事業に関する手引き』では、経営改善計画策定支援事業の対象となる経営改善計画にはおおむね以下の内容の記載が想定されています。

① 債務者概況表

債務者概況表には、企業の事業内容、株主構成、役員構成、直近の決算書の概要、主たる債権者及び債権の額などが記載されます。いわばこの表をみれば企業の概況をおおむね理解することができるものです。

② ビジネスモデル俯瞰図

企業のビジネススキームを簡単にまとめた図で、企業が抱える問題点などの把握をすることができます。

③ 企業集団の状況

企業集団の状況とは、企業の資本関係(誰がいくら出資しているか)、金融取引関係(どの金融機関がいくら貸し付けているか)を図で記載したものです。

企業集団の状況からは、金融支援の対象となる企業の範囲、支援対象金融機関の範囲、窮状の責任がある関係者の特定などが明らかになります。

④ 資金実績表

直近1期と今期の資金状況(売上、借入、返済など)を月ごとに表にまとめたもので、企業の資金繰りの概要を把握することができます。

⑤ 経営改善施策(アクションプラン)及びモニタリング計画

債務超過・過重債務の解消を図るため、事業内容、業務内容、財務構造の見直しをするための施策とその実施時期について記載します。後述する計数計画は定量的なものであるのに対し、経営改善施策は、例えば、「人員整理による販管費の削減」といったように、定性的なものとなります。

また、計画策定後、経営改善計画の進捗・実行状況を把握し、計画と実績に乖離がないか、乖離がある場合は計画の修正の必要がないかなどのモニタリングを行います。このようなモニタリングを行う計画についても記載します。

⑥ 計数計画

計数計画とは、経営改善施策による改善効果を数値化した計画のことであり、施策実施後の借入金返済予定額を把握するために策定されます。

計数計画は、基本的には「損益計画(P/L)」、「貸借対照表計画(B/S)」、「キャッシュフロー計画(CF)」の財務3表を策定します(例外的に所定の場合は損益計画と簡易キャッシュフロー計画などを策定すれば足りる場合もあります。)。具体的には直近1~2期と各計画期における各種財務3表の数字の推移を記載することとなります。

計数計画によって企業による借入金の返済がどの程度可能かが判断されることとなります。したがって、計数計画の内容いかんによっては、合実計画・実抜計画の要件を充足しないこともありうるため、合理的な根拠に基づきつつも相当な計画を策定しなければなりません。なお、計数計画には、金融機関による支援も記載します。

⑦ 資産保全状況

資産保全状況とは、各金融機関が、企業の資産について設定している担保(抵当権など)の状況をまとめたもので、企業の資産がどの程度担保に供されているのかなどがあきらかになるものです。

⑧ 清算配当見込率

仮に現段階で企業が破産・清算した場合、各債権者に対してどれほどの配当が見込めるのかを記したものです。破産・清算の場合よりも経営改善による事業継続の方がより多くの返済が見込めるというのであれば、当該経営改善計画は、金融機関にとって合理的なものであるといえるため、支援が期待できることとなります。

 

認定支援機関による経営改善計画策定の支援

上記のように、経営改善計画に記載する内容は多岐にわたり、企業が自社の力だけで作成するのは容易ではありません。そこで、専門的、客観的な視点から認定支援機関による経営改善計画の策定の支援が必要になる場合があります。そして、支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業)。なお、認定支援機関は、計画策定だけでなく、モニタリングの支援も行います。)。

 

次回の予告

次回は、金融機関による支援の具体的な内容、金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング、計画策定後のモニタリング等について解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業承継はM&Aの後工程が重要 ~M&Aは終わりが始まり「PMIの活用策」に注目

中小企業経営者の高齢化がすすんでいます。東京商工リサーチが公表した「全国社長の年齢調査」(2021年8月4日)によると全国の経営者の平均年齢は62.49歳と前年より0.33歳高齢化し、また、経営者の10歳ごとの年齢分布では、70代以上の構成比が31.8%で最多レンジとなるなど事業承継の深刻化が懸念されています。

一方、帝国データバンクが公表した「全国企業後継者不在率動向調査」(2021 年11月22日)(以下、「TDB動向調査」)によると全国・全業種約26.6万社における後継者動向では、後継者が「いない」または「未定」とした企業が16万社に上り後継者不在率は61.5%と高水準ながらも、2020年対比では3.6pt改善、2018年以降4年連続で不在率が低下しました。

これは調査を開始した2011年以降で最低水準であり、コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢の経営者による後継者決定の動きが強まった結果ではないかといわれています。

 

1.事業承継先の変化 ~第三者承継の拡大

経営者の高齢化が深刻化するものの後継者難に改善の兆しが見えつつあるのには、どのような背景があるのでしょうか。

「TDB動向調査」では事業承継の方法について①同族承継、②内部昇格、③M&Aほか、④外部招聘などに項目分けして集計しています。全体で見るとまだまだ「同族承継」が38.3%と最も高くなっていますが、2017年以降5年間の変化で見ると、「同族承継」は3.3pt減少と緩やかに減少しつつあります。一方、③M&Aほかは17.4%ながら1.5pt増加するなど第三者承継は着実に増加しつつある傾向にあります。

地域金融機関による事業承継に対するプッシュ型のアプローチの推進、M&A支援機関やM&Aプラットフォーマーによる第三者承継の進展など民間の取組に加えて、政府による事業承継税制や「事業承継・引継ぎ補助金」などの支援策が拡充されたことが後継者問題解決・改善の前進に大きく寄与したものと考えられます。

 

2.事業承継後の課題の顕在化

M&Aなどの第三者承継が拡大するにしたがって、事業承継に係る課題も事業承継の実施自体から事業承継後の取組に重心がシフトしつつあります。

東京商工会議所が公表した「事業承継の取り組みと課題に関する実態アンケート報告書」(2021年2月26日)によると、買収における当初目的・期待効果の達成度について、「概ね達成した」という回答は46.3%ながら「一部達成」「ほとんど達成していない」を合わせると50.0%となっており、M&Aした後の期待効果に不満な経営者は少なくないことがわかります。当初目的・期待効果が達成できなかった理由(複数回答可)については①相手先の経営・組織体制が脆弱だった(25.7%)、②相乗効果が出なかった(18.9%)、③相手先の従業員が退職してしまった(10.8%)が上位3項目となっており、M&A後から事業承継後にかけての問題が顕在化していることがわかります。

 

 

3.中小M&Aで重要性を増すPMIと政府の支援策

こうしたM&A後に顕在化する課題解決のために、大企業では従来よりPMI(Post Merger Integration)の取組が重視されてきました。

PMIとは、M&A成立後に行われる統合作業であり、M&Aの目的を実現させ統合の効果を最大化するために必要なプロセスとされています。

しかし、中小企業のM&Aについてはマッチング等のM&Aの成立に向けた取組に関心が集まる一方で、M&Aによって引き継いだ事業の継続・成長に向けた統合やすり合わせ等の取組については、その重要性や取組についての中小企業の理解だけでなく、PMIを行う専門家等の人材や資金も不足している状況です。

こうした状況を受けて、政府は、中小企業におけるPMIの普及に向けて2022年3月17日に「中小PMI支援メニュー」を公表しました。

同支援メニューは、(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙、(2)PMIの実践機会の提供、(3)PMI支援を行う専門家の育成等の3つのメニューで構成されています。

 

(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙

①「中小PMIガイドライン」の策定

・中小企業におけるPMIの重要性や必要な取組に係る理解が不足している現状を踏まえ、事業を引き継ぐ譲受側がM&A後のPMIの取組を適切に進めるための手引き。中小企業向けに譲受側・譲渡側の会社規模等、個社の状況に応じて参照しやすいよう、PMIの取組を【基礎編】と【発展編】に整理。

・支援機関が、支援先の企業が円滑に事業を引継ぎ、M&Aの目的やシナジー効果等を実現するために必要な助言をするために参照することも想定した構成となっている。

②PMIに関するセミナーや研修等の実施

・2022年度から中小企業や支援機関向けのPMIに関するセミナーや、事業承継・引継ぎ支援センターにおける譲受側向けPMI研修等を実施

 

(2)PMIの実践機会の提供(PMIに係る人材や資金等の確保に向けた支援策)

①事業承継・引継ぎ補助金等による支援 (2022年度から実施)

事業承継・引継ぎ補助金(2021年度補正予算)においてPMIに係る費用への補助を開始。更に、専門家による伴走支援等を検討。

②経営資源集約化税制による支援

経営力向上計画に基づいてM&Aを実施した場合、その後の設備投資に係る減税措置、簿外債務等のリスクに備えた準備金措置(損金算入)により支援を実施。

 

(3)PMI支援を行う専門家の育成等

①士業等専門家との連携(順次実施。今回第一弾を措置)

PMI支援について中小企業庁と士業等専門家との連携を強化。その第一弾として、中小企業診断協会と連携協定を締結し、PMI支援人材の育成や、事業承継・引継ぎ支援センターへの支援人材の紹介等を実施。

② 中小企業診断士に対するガイドライン理解促進の枠組みの導入

2022年度より中小企業診断士に対して中小PMIガイドラインの理解を促すための枠組み(試験、研修等)を検討し、結論を得られ次第速やかに実施。

 

なお、士業等の専門家の活用については、「事業承継ガイドライン」で会計士による財務デューデリジェンス、弁護士による法務デューデリジェンスなどの活用が例示されていましたが、PMIにおける士業連携の第一弾として経営コンサルタントの国家資格であり、事業計画策定や組織・人事、マーケティング、財務改善などに知見のある中小企業診断士の活用に踏みだしたのは新しい動きといえるでしょう。

 

 

3.まとめ

いうまでもなくM&Aは事業承継の一つの手段であり目的ではありません。やって終わりではなく、その成果こそ大切なのは言うまでもないでしょう。

事業承継(第二の創業)を実りあるものにするために、「中小PMI支援メニュー」をはじめとする各種支援策や中小企業診断士等の士業専門家の活用、など新たな動きに注目していきたいと思います。

 

【ご参考】

□中小PMI支援メニュー

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-1.pdf

□中小PMIガイドライン

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

□令和4年3月17日「中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けた中小企業庁と一般社団法人中小企業診断協会の連携について」

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-2.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

令和3年度補正予算 小規模事業者持続化補助金の公募が始まりました

こんにちは。ステラコンサルティング 木下です。

令和3年度補正予算 小規模事業者持続化補助金(一般型)の公募がスタートしたのでご案内します。

商工会議所管轄の方はこちら:https://r3.jizokukahojokin.info/
商工会の管轄の方はこちら:https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/

弊社でも申請のご支援が可能ですので、ご希望の方はお問い合わせください。

 

事業概要

小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更等に対応するために取り組む販路開拓 等の取組の経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と 持続的発展を図ることを目的とします。

本補助金事業は、持続的な経営に向けた経営計画に基づく、地道な販 路開拓等の取組や、その取組と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組を支援するため、それに要する経 費の一部を補助するものです。

〇補助上限:
[通常枠] 50万円 [卒業枠]200万円 [創業枠]200万円
[賃金引上げ枠]200万円  [後継者支援枠]200万円  [インボイス枠]100万円

〇補 助 率:2/3(賃金引上げ枠のうち赤字事業者については3/4)

〇対象経費:
機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談会等を含む)、
旅費、開発費、資料購入費、雑役務費、借料、設備処分費、委託・外注費

 

公募要領

公開:2022年3月22日(火)

申請受付開始:2022年3月29日(火)

申請受付締切: ※予定は変更する場合があります。
第 8 回:2022年6月3日(金)
第 9 回:2022年9月中旬
第10回:2022年12月上旬
第11回:2023年2月下旬

M&Aの第一歩!やっぱり戦略的な取り組みが一番大切

みなさまこんにちは、花粉症持ちには一番つらい季節が始まりました。全国の花粉症のみなさまいかがお過ごしでしょうか?コロナのおかげですっかりマスクが習慣化したので、症状が軽いうちに終わってくれればうれしいのですが・・・

 

M&Aが難しい理由

一般的に、私たちがM&Aに難しさを感じる要因には、さまざまあると思いますが、以下のようなことはみなさまも思い当たるふしがあるのではないでしょうか?

まず、相手があり、かつ、その相手がいつでも誰とでも取引する準備が整ったウエルカムな状態にないことです。また、その相手の経営状態に一つとして同じケースがなく、常にケースバイケースであることです。そして、相手の経営状態やスペックの評価がしづらいことです。

しかし、そんなM&Aにも成功法則があります。それは、「鉄は熱いうちに打て」です。案件が発生したら、素早く決断をし、素早く動くことが重要です。

そのために役立つのが基本戦略です。

上司からの指示で社内提案をしたところ、「そんな格好のいい戦略をいくら作っても、取引相手がいなきゃ何も始まらないじゃないか!早く案件を持ってこい!」と一蹴されたことのある方は多いのではないでしょうか?

上司の方の意見は、ある意味で正解なのですが・・・。私の経験から言うと、このような組織でいくら案件を提案しても、社内で意見がまとまらず時間切れの破談となることが多いです。新規事業の開発現場でも同じことがよく起きています。

なぜなのでしょう。

 

戦略は、判断基準

長期安定経営をしてきた企業であれば、長年の間に社風や社内文化がしっかり醸成され、経営に関する判断基準が社内共有できているかもしれません。

しかし、M&Aのような新たな取り組みを行う際には、やはりまずは戦略を立て、共有することが非常に大切で有用な第一歩なのです。

なぜなら、戦略は、組織にとって旅行でいう旅程や目的地を示すものだからです。経営の目的地やルートを決めてしまえば、採るべき方法はおのずと限定されるはずです。行先の決まった旅行ならば、乗るべき乗り物や行先はある程度限定されるのと似ています。例えば、近所のコンビニに行くのは車か自転車と相場は決まっていて、飛行機を使うなんてありえないですよね。

 

戦略というと難しく聞こえますが・・

戦略というと難しく聞こえますが、経営学では以下の4つに分類されています。M&Aは、これらの戦略を実現するための考え方で、旅行でいうところの乗り物の役割になります。M&Aを実行することで効率的にゴールに近づくかどうかで取り組むべき案件かどうかが、誰にでも判断できるようになりますので、社内の決裁スピードが格段にアップします。

 

1.市場浸透戦略

既存の製品・サービスにて既存市場を深堀し、成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと競合や自社よりも小さな規模の同業者を吸収合併するイメージです。

これによって、今と同程度の規模で取引量を増やすことができるため経営効率のアップに繋がったり、競合が減るため、競争環境が緩和されたりすることことが期待できます。

 

2.新製品開発戦略

既存のお客さまに対して新しい製品・サービスを提供して成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと他社ごと新製品を取り込んで開発の手間を回避する手法です。回転寿司店が焼き肉店を統合してカテゴリを拡張したり、魚屋さんを統合して品揃えの拡張や新鮮な食材の調達によって差別化を図ったりが考えられます。

開発に必要な時間を短縮し、失敗のリスクを減少するという経営上のメリットが生まれると考えられます。

 

3.新市場開拓戦略

既存の製品・サービスを活用して新しい市場を獲得することで成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと地理的に商圏が重なっていない同業者や、顧客層の違う同業者を統合することで経営効率を高めるパターンが考えられます。

これによって、取引量の拡大による原材料調達コストをさげたり、物流効率をアップさせたりすることが期待できます。

 

4.多角化戦略

その名の通り、新しい製品・サービスで、新しい市場を開拓することで会社全体を変革していくような大胆な戦略です。中小企業では、少し検討しづらい戦略です。

M&Aでいうとここまでのどれにも分類できないものがこの戦略になります。例えば、自社の既存事業との関連がありつつも業界も顧客も違うような企業を統合することで、競合との取引も実現してしまうような大胆な戦略です。事例の紹介も複雑になりますのでここでは、割愛します。

 

まとめ

こうやって改めて自社の成長戦略について考えようとすると、第一歩めは「自社は何を持っていて、何が不足しているのか?」を明らかにする必要が生まれます。つまり最初にすべきは、他社ではなく自社のDD(デューデリジェンス)ということですね。

今回は、なかなかM&Aが進まず、頭を抱えているご担当者向けに、必殺の解決策をお伝えしたつもりです。経営の現場では、M&Aに限らず「手段の目的化」が昔から起きやすい環境にあります。特に昨今の不確実性の高い経済情勢では、人は短期志向となり手段の目的化はとても起きやすい環境だと言えます。

そんな環境下だからこそ、「M&Aは、あくまでも手段であって、目的ではない」ということを強く意識していただくだけで成功に一歩近づくはずです。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。きっと、戦略策定のための情報提供をしてくださることと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也