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経営者保証ガイドライン改正で事業承継は加速するか

経営者保証ガイドラインの見直し

2022年11月1日、金融庁から「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)が公表されました。

これは、閣議決定の中で「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策を年内に取りまとめる」という方針に沿ったものです。

日本の金融慣行上、中小企業が融資を受ける際には経営者保証が前提条件とされる状況が長い間続いてきました。これは経営者への規律付けや信用補完など中小企業の資金調達の円滑化に寄与するなどの側面があったからですが、一方で、事業承継に際しては、後継者候補が経営者保証を理由に事業承継を拒否するなど、円滑な承継を阻害する要因になっていました。

こうした課題を解決するため、2013年に「経営者保証ガイドライン」が策定され、更に2019年には経営者保証が事業承継の阻害要因とならないよう、原則として前経営者・後継者の双方からの「二重徴求」を行わないことなどが盛り込まれた「ガイドラインの特則」が明記されました。

こうした取り組みにより、経営者保証に依存しない新規融資の割合は、2014年には10%台と低水準でしたが、2020年には30~40%台へと大きく改善しました。

しかし、2020年時点でも金融機関の融資全体の80%は依然として何らかの形で経営者保証を徴求しており、既存の融資も含めた抜本的な解消策が求められていたのです。

改正案の内容

今回の改正案では、経営者保証に関する見直しの主な内容は以下の通りです。

1.経営者保証を求める際の金融機関による説明義務の明確化

現状では、金融機関は保証内容の説明をすることになってはいますが、「保証人=経営者から説明を受けた旨の確認を行うこと」については“必要に応じて”行えばよいことになっています。改正案では保証人に対し説明をした旨を確認し、その結果等を書面又は電子的方法で記録することが必要とされています。

2.経営者保証の必要性に関する客観的・具体的目線提示の努力義務化

現状では、顧客から説明を求められたときは、保証徴求の客観的合理的理由についても、顧客の知識、経験等に応じた説明を行うこととされていますが、保証が不要になる具体的な目線で説明することまでは問われていません。改正案では、どのような改善を図れば保証解除の可能性が高まるかについて、可能な限り、資産・収益力については定量的、その他の要素については客観的・具体的な目線を示すことが望ましいとされています。

3.金融庁の監督手法・対応の明確化

現状では、「経営者保証ガイドライン」が融資慣行として浸透・定着させていくため、適切に取り組む必要があるとはしながらも、「監督上の対応を検討すること」という表現にとどまっていますが、改正案では、「各種ヒアリングの機会等を通じ、経営者保証ガイドラインを融資慣行として浸透・定着させるための取組方針等を公表するよう金融機関に促していく」と金融機関に取組方針の公表を促すよう、踏み込んだ表現が採用されています。

経営者保証解除は加速する

今般の改正案が施行されると、金融機関にとっては、本部レベルでは取組方針の公表と金融庁への報告による監督強化、現場レベルでは経営者保証を徴求する際の書面等への記録の義務化や解除に必要な具体的な目線の提示など手続き負担が大きくなります。

経営者保証ガイドラインでは、経営者保証を外せる要件について、①法人と経営者との関係の明確な区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保の3点が掲げられています。

融資先の中小企業がこれらの要件を満たしている場合、金融機関は経営者保証を要求することは今回の改正により事実上困難となっていく可能性が高いと思われます。

すでに具体的な考え方は「『経営者保証に関するガイドライン』Q&A」に示されているので、事業承継を視野に入れている中小企業は、是非、確認しておきたいポイントです。

①法人と経営者との関係の明確な区分・分離について

「資産の分離」と「経理・家計の分離」の観点に分けて次のように例示されています。

「資産の分離」については、「法人の事業活動に必要な本社・工場・営業車等については経営者の個人所有とせず法人所有とすること」。

「経理・家計の分離」については、「個人としての飲食代等について法人として経費処理しない」等です。

また、これらを実現する具体的な方法として、会計参与の設置による社内管理体制の整備や、「中小企業の会計に関する基本要領」の活用による信頼性のある計算書類の作成などが例示されています。

②財務基盤の強化について

経営者個人の資産を債権保全の手段として確保しなくても、法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る財務状況が期待されています。

具体的には、i)業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保しており、内部留保も十分であること、ii)業績はやや不安定ではあるものの、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢で借入金全額の返済が可能と判断し得ること、iii)内部留保は潤沢とは言えないものの、好業績が続いており、今後も借入を順調に返済し得るだけの利益(キャッシュフロー)を確保する可能性が高いことなどです。

③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示による経営の透明性確保

金融機関の求めに応じて、融資判断において必要な情報の開示・説明をすることが求められています。具体的には「貸借対照表、損益計算書の提出のみでなく、決算書上の資産・負債明細、売上原価・販管費明細等の各勘定明細の提出」「年に1回の本決算の報告のみでなく、試算表・資金繰り表等の定期的な報告」などです。

認定支援機関の活用

「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の中で金融機関による経営者保証徴求に関する見直しがなされても、中小企業単独ではなかなか経営者保証解除に向けた交渉を始めるのは負担が大きいかもしれません。

2022年4月に見直しが行われた「早期経営改善計画策定支援事業」(通称「ポスコロ」)では認定支援機関が経営者保証解除をするために金融機関と交渉する際に要した費用の2/3(ただし上限10万円。認定支援機関が弁護士以外の場合は非弁行為に留意が必要)が補助対象として追加されました。

こうした経営者保証解除のための支援制度も活用しつつ、事業承継を円滑に進めていきませんか。

中小企業診断士 伊藤一彦

意外とシンプルな会社の値段の決まり方 その1

あっという間に今年も残すところ1ヶ月半。いろいろなM&A案件のニュースがありましたが、みなさまにとって、今年はどんな一年だったでしょうか?

企業買収に関するニュースで最も注目されるのは、その買収金額。一般市民向けのニュースでは、M&Aの目的や、事業計画などはさておき、お金の話だけが独り歩きします。買収金額は、注目度も高く報道したくなる気持ちもわかりますが、いろいろと複雑なプロセスや交渉を経た結果であるにも関わらず、買収金額だけがフォーカスされるのは、買収担当者としてはとても複雑な心境です。

結論は、お互いの合意。

最初から、こんな風に書くと叱られそうですが、実際、世の中のすべての取引は、お互いが納得していれば、いくらでも成り立ちます。それは、価格の決め方にいろいろな方法があり、価値の感じ方は多様だからです。

例えば、クレヨンと口紅。この二つの商品の原材料は、ほぼ同じだそうです。しかし、その値段は何十倍も、場合によってはもっと大きな違いがあります。それでも、今日もどこかで誰かが売買していますし、トラブルになった話は聞いたことがありません。

お互いの間では、次のようなやり取りがあるのです。

買い手:「これは、いくらですか?」

売り手:「100円です。あなたにとってこれには、○○という価値があります。だから100円でも安いですよ。」

買い手:「なるほど、確かに、✕✕と考えると妥当だな。では、買いましょう」

となっているわけです。

企業の売り主は誰?

さて、皆様に質問です。「企業はその会社の社長から買うのでしょうか?」

答えは、「NO」です。厳密にいうと、企業買収とは、その会社の株主から“株式”を買う行為なのです。しかし、スモールM&Aの現場では、企業は、その会社の社長から買うことが大半です。これはどういうことなのでしょうか?

それは、小さな会社では、社長=株主であることが大半だからです。同族経営の会社では、少なくともその一族の人たち数人で株式を持ち合って会社を所有し、運営しています。だから、売り手がその会社の社長さんや役員さんとなることが多いのです。

では、次の質問です。「株式の売値は、売り手である株主が自由に決めてよいのでしょうか?」

この質問に対する答えは、基本的には「YES」。しかし、実際には、大口の債権者である金融機関の意向などを無視して、売却価格を決めることにはリスクが伴うこともあり得ます。スムーズなな取引のためには、事前に彼らに相談をしたり、助言を受けたりするほうが良いでしょう。

会社の価値(値段)=株主価値+債権者価値と言われる背景にはこのような事情があります。

そして、この株主価値の決め方に何通りもの方法、考え方があるため、会社の価値に絶対的な基準はなく、ある時点でのお互いの合意の上で決まるものなのです。

では、お互いが合意できる価値は、どのように決めるのでしょう?企業価値の相場を決める3つの代表的な考え方をお伝えします。

買収金額を決める一番簡単な方法。簿価純資産法

買収金額を決める一番簡単な、わかりやすい方法が、ここまでお話してきた「簿価純資産法」と言う“コスト・アプローチ”型の手法です。その名の通り、コストを積み上げたものを買収金額にする方法です。

一言でいうと、貸借対照表の合計金額です。例えば、50万円の現金と50万円の社用車がある会社の総資産は、100万円です。そしてこの会社の価値を100万円とする方法です。しかし、ちょっと待ってください。簿価50万円の自動車は本当に50万円で売れるのでしょうか?もし、その車が、マニアを喜ばせるような希少車なら、中古車市場でもっと高い値段で取引されるでしょう。また、逆に、普通の乗用車なら簿価50万円でも、中古車市場では、30万円くらいでしか引き取ってもらえない可能性があります。これらの要素を加味した計算方式を「修正簿価純資産法」と言います。

しかし、貸借対照表の総資産は、このように実勢価格とはフィットしていないことが多いものです。ですから、この考え方だけを指標に買収金額を決めることはほぼありません。

そのデメリットをなくすための考え方が、「時価純資産法」です。会社が持っている財産の市場価格(時価)から、借入金の時価額を差し引いたものになります。仮に先程の会社が40万円の借り入れをしているのであれば・・・

現金+社用車時価―借入金となり、金額は、50万円+30万円―40万円=40万円となります。なんとなく妥当な金額と感じるのではないでしょうか?

しかし、実際の会社では、設備の時価を計算することは難しいですし、売り手にとっては、これまで生計を立てていた商売をそんなに安く売ることはできないでしょう。

では、売り手が主張したい企業価値にはいったいどんなものがあるのでしょうか?

会社は金の卵を生むにわとり。インカム・アプローチ法

売り手である会社オーナーは、会社を金の卵を生むにわとりであると考えることもできるでしょう。ソフトバンクの孫さんも以前、決算会見で同様のことを仰っていました。もちろん、これは、経営資源が潤沢にあって、順調に経営ができているときに限った話ですが・・。

つまり、会社は、順調に経営ができていれば、毎期一定の収益を得ることができる“仕組み”であるといえます。この定期的に得ることのできる収益を根拠に、売買金額を計算する方法が「インカム・アプローチ法」です。代表的なものが「DCF法(ディスカウントキャッシュフロー方式)」です。

このDCF法は、将来獲得すると見込まれるキャッシュフローに対して、利子などを用いて現在の価値に算定し直し、会社の価値を算出する方法です。ただ、未来のことは誰にもわかりませんから、将来のキャッシュフローの見通しを立てる段階で、計算者の主観に左右される点に課題があります。

その課題を解決するために、“モンテカルロシミュレーション”を利用して複数の不確実要素を織り込む「モンテカルロDCF法」という手法もあります。また、将来の資本構成の変化(負債の増減)が予測される場合は、それを織り込んで計算するAPV法(アジャステッド・プレゼント・バリュー)という手法や、将来の予想配当から、現在の理論株価を算出し、それを会社の価値とする「配当割引モデル」というものもあります。少し難しい話になってしまいました。

他の人はもっと高く買ってくれるらしい。マーケット・アプローチ法

このように、会社の価値を算出する方法は、様々な手法が存在します。なぜなら、人間の価値観は人それぞれですから、会社のどの部分に価値やリスクを感じるかは買い手によって違います。例えば、購入した会社が生み出す収益には価値を感じていないが、持っている設備や技術やブランド、顧客と自社の事業に大きなシナジーが見込まれる。となれば、他の買い手の一般的な評価はまったく無意味になってしまいます。

そんな多種多様な判断が無数に集まる場所が市場であり、その取引実績を元に企業価値を算出する方法が、「マーケット・アプローチ法」です。

上場企業であれば、日々、株式が市場で取引されていますので、一定期間の取引株価を参考にする「市場株価平均法」という手法があります。また、似たような会社の株価倍率を参考に計算する「類似会社比較法」、過去のM&A取引を参考に価値を計算する「類似取引比較法」など広く市場の評価を参考にする方法があります。これらは、相場ですので、私達にも身近に感じる計算方法と言えるでしょう。

 

まとめ

これだけいろいろな価値算出方法があり、少し難しく感じた方もおられるかもしれませんが、極端なことを言うと、中古の自家用車や居住用住宅を購入する場合と同じと考えても差し支えはないでしょう。なぜなら、自動車や住宅の中古市場では、たくさんの物件が流通しており、相場が出来上がっているからです。つまり、マーケット・アプローチ法だけでもみんなが納得できる取引が成立しています。

しかし、中小企業の場合は、まだ流通市場がしっかりと形成されていませんし、同じ企業が二つとないため、みんながこぞって、いろいろな計算方法を編み出しているとお考えください。

実際の現場では、M&Aの当事者たちが、複数の計算方式で算出された価値を根拠に、結局は話し合って妥結したものが会社の価値となり、取引に使用されることになります。

ぜひ一度、自社の価値を算出してみてはいかがでしょうか?その過程で、企業価値向上のヒントが得られるかもしれません。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

中小企業の私的整理に関する新しいガイドラインができました③

再生型私的整理手続の流れ

今回は、『中小企業版私的整理ガイドライン』に記載のある再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続の流れについて解説します。

まず、廃業を前提としない、再生型私的整理手続は、事業再生計画案や弁済計画案の調査報告等を第三者の立場として行う第三者支援専門家を選任します。第三者支援専門家とは、再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続を遂行する適格性を有し、その適格認定を得た弁護士、公認会計士などの専門家をいいます。適格性の認定は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が設置する中小企業活性化全国本部及び一般社団法人事業再生実務家協会にて行い、認定された第三者支援専門家のリストがウェブサイトにて公表されています(主要債権者全員の同意があれば、リストに掲載されていない専門家を選任しても構いません。なお、事業再生計画案に債務減免等が含まれる場合は、弁護士法第72条に抵触することを避けるため、選任する第三者支援専門家に弁護士を加える必要があります。)。

第三者支援専門家を選任したら、主要債権者に対して、再生型私的整理手続を検討している旨を申し出るとともに、第三者支援専門家の選任について、対象債権者全員からの同意を得ます。主要債権者の同意が得られた第三者支援専門家は、中小企業者の資産負債及び損益の状況の調査検証や事業再生計画策定の支援等を開始します。

事業再生計画策定に関し、資金繰りの安定化のために必要があるときは、対象債権者に対して一時停止の要請を行うことができます。一時停止の要請は、従前から債務の弁済や経営状況・財務状況の開示等により、中小企業者が金融機関等との間で良好な取引関係が構築されているかどうか、債務減免等の要請がありうる場合は、再生の基本方針が金融機関等に示されていることがポイントになります。

そして、中小企業者は、事業再生計画案を策定します。事業再生計画案には、おおむね以下の内容を記載します(債務減免等を求めない場合は、記載事項が緩和されます。)。

  • 企業の概況
  • 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移
  • 保証人がいる場合はその資産と負債の状況(債務減免等を要請する場合)
  • 実態貸借対照表(債務返済猶予の場合は任意)
  • 経営が困難になった原因
  • 事業再生のための具体的施策
  • 今後の事業及び財務状況の見通し
  • 資金繰り計画(債務弁済計画を含む)
  • 債務返済猶予や債務減免等を要請する場合はその内容と経営責任の明確化(経営保証における保証人の資産の開示と保証債務の整理方針を含む。なお、私的整理ガイドラインでは、経営責任について経営者の退任を原則としていますが、再生型私的整理手続では必ずしも退任は求められていません。)

 事業再生計画案においては、実質的に債務超過である場合は、基本的には5年以内に解消すること(私的整理ガイドラインでは、3年とされているのでその分要件が緩和されていることになります。)及び実質的な債務超過を解消する年度では、有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下とすることが求められています。

また、経常利益が赤字である場合は、おおむね3年以内を目途に黒字に転換することなどが必要になります。

さらに、債務減免等を伴う場合は、破産手続による清算価値よりも多くの回収を得られる見込みがある等、債権者にとって経済合理性があることを記載することが求められています。

その後、第三者支援専門家によって当該事業再生計画案の相当性及び実行可能性等の調査を経て報告書が作成され、債権者に提出されます。そのうえで、債権者会議を経てすべての債権者の同意が得られれば事業再生計画が成立します。

事業再生計画が成立したのちも、外部専門家や主要債権者は、事業再生計画成立後の中小企業者の事業再生計画達成状況等について、3事業年度をめどに定期的にモニタリングを行います。計画と実績の乖離が大きい場合は、事業再生計画の変更や抜本再建、法的整理手続、廃業等への移行を行うことを検討します。

 

廃業型私的整理手続の流れ

事業の廃業を前提とする廃業型私的整理手続についても「支払いの一時停止→計画案策定→専門家による計画案の調査・報告→債権者会議による債権者の同意→モニタリング」という大きな流れは変わりません。

ただし、廃業型私的整理手続の場合は、事業の継続を前提としないため、再生計画ではなく弁済計画になること、弁済計画案においては、弁済における各債権者間の衡平や破産手続よりも多くの回収を得られる見込みがある等の対象債権者にとって経済合理性等についてより丁寧な説明が求められることなどの特徴があります。また、廃業型私的整理手続が終了しても企業の法人格が消滅するわけではないので、最終的には通常清算により法人格を消滅させます。

なお、原則として、対象債権者に対する金融債務の弁済が全く行われない弁済計画は想定されないものの、公租公課や労働債権等の優先する債権を弁済することにより金融債務に対する弁済ができない弁済計画案も、その経済的合理性次第では排除されないと考えられています(『「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&A』Q90)。このことは、金融債務に対する弁済がなくても廃業型私的整理手続を利用することで、破産を回避する余地があることを意味します。

 

「経営者保証ガイドライン」との関係

再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続のいずれにおいても、中小企業者の債務にかかる保証人が誠実に資産開示をするとともに、原則として、経営者保証に関するガイドラインを活用する等して、当該主債務と保証債務の一体整理を図ることに努めるものとされています。中小企業者の債務だけではなく、代表者等の個人が負う債務も併せて整理することが推奨されています。

コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻による物価高、急激な円安など企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。資金繰りが困難な状態に陥ったときの取りうる一つの方法として中小企業私的整理ガイドラインは有効なものといえるのではないでしょうか。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

 

社内承継と専門家による伴走支援 ~スモールEBOの可能性 

1.社内承継とは

社内承継とは、「社内にいる親族関係のない生え抜きの幹部社員や役員の中から適任な次期社長を選んで事業を承継すること」(しんきん支援ネットワークHPより)です。

事業承継の主流である親族内承継と、近年スモールM&Aとして脚光を浴びている第三者承継の中間的な承継手法の特徴があるといわれています。

社内承継の承継先には従業員と役員の2通りありますが、今回は従業員による承継にスポットをあてたいと思います。

 

2.従業員による買収~EBO

EBOとは、Employee Buy-Out の略で「従業員(Employee)による企業買収」のことを指します。内部昇格による経営権の譲渡と異なり、承継する従業員がオーナーから経営権と共に保有株式も承継するという特徴があります。

EBOのメリットは、事業内容を熟知した従業員が買収を行うため、事業承継がスムーズに行えるということ、第三者への譲渡とは異なり、経営権の譲渡が社内で行われるため企業文化の対立や従業員の離職などリスクが低く、PMI(Post Merger Integration:買収後の企業統合作業)にかかる負担を抑えることができるという点です。また、株式保有と経営権が一体で承継されるため、株主総会での意思決定と現場の業務執行に齟齬が生じにくいという点もメリットとなります。

一方、デメリットは、会社の株式買い取り資金など事業を譲り受けるための多額の資金を従業員が用意する必要があるため、資金調達面での困難性が高いこと、実務経験豊富な従業員でも会社経営のノウハウは十分ではない可能性が高いことです。

従業員は買収資金を金融機関からの融資やファンドからの出資などにより資金調達することが一般的ですが、承継する従業員の経営能力などに対する審査次第で、資金調達が左右されるためEBOを実行できないことが少なくありません。

 

3.従業員への経営権の委譲~内部昇格

帝国データバンクの調査「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によると、血縁関係によらない役員・従業員などを登用した「内部昇格」による事業承継は31.7%を占め、同族承継の38.3%に次ぐ高い水準となっています。

内部昇格は、経営権の承継のみが行われ株式の承継が行われないという特徴があります。

内部昇格は、経営権のみの承継であるため、承継する従業員は株式買い取り資金が不要となるなど実現が容易であるというメリットがある反面、オーナーが承継後の生活資金を確保しにくいというデメリットがあります。

 

 

4.ファンド、専門家等の第三者を活用したEBO

スモールM&Aという第三者承継の広がりにより、新しい従業員承継の形が広がりつつあります。

第三者がオーナーの株式を買収する一方、現場の業務執行は従業員に任せるという手法です。買手となる第三者は、資金面・経営ノウハウ等を有しているものの、現場の業務執行は店長や事業所長などに任せるという形態をとります。

小売店、飲食店、理容・美容室や学習塾など、店舗・事業所単位で展開している小規模事業者などでは、オーナーが店長や事業所長に現場の指揮を一任しているケースも少なくないため、オーナーが引退した後に、従業員承継は事業継続の有力な選択肢となります。

一方、資金力に乏しい従業員による株式の承継は困難なため、第三者が株式買収のみを実施し、現場の指揮を従業員に委ねるのです。

個人事業主による事業の場合は、株式買収ではなく事業譲受の方式で事業自体は第三者が承継し、店舗運営等は従業員に任せるということも行われています。

単に株式買収や事業譲受をするだけでなく、小規模買収ファンド(※)や経営コンサルタントが承継者となり、従業員を経営面で伴走支援するという方式です。

 

この方式では次のようなメリットがあげられます。

〇オーナーにとってのメリット

・事業承継問題の解決

・創業者利益の実現(引退後の生活資金確保)

〇承継者にとってのメリット

・専門家による経営支援を受けられること

・企業文化を継承できること

一方、デメリットとしては次のような点があげられます。

〇オーナーにとってのデメリット

・最適な買手(ファンド、専門家)探しの困難性

〇承継者にとってのデメリット

・承継後、買手がEXITして別の買手に承継されてしまう可能性

 

まとめ

各都道府県の事業承継・引継ぎセンターでは第三者承継と並んで従業員承継についての相談業務を重視しているほか、各種M&Aポータルサイトでは、様々な専門家が買手として登録しており、買手探しのハードルは低くなってきています。

従業員による承継の可能性が少しでもある場合には、事業承継の一つの“解”として経営ノウハウを持つ専門家や事業承継ファンドを買手として、従業員へ経営権を承継することを検討してもよいのではないでしょうか。

 

(※)北海道中小企業総合支援センターによる北のふるさと事業承継支援ファンドの事例

https://www.hsc.or.jp/hsc_wp/wp-content/uploads/2019/05/furusatoR4_leaf.pdf

FVC地方創生ファンドを活用した事業承継の事例

https://www.fvc.co.jp/service/case.html

 

中小企業診断士 伊藤一彦

トップから「少し進めてみようか?」と指示を受けたらまずやるべきこと 続編

今年は、例年になく毎週のように大きな台風が日本列島にやってきていますが、みなさまご無事でしょうか?

前回に引き続き、トップから「この案件、よさそうじゃないか?少し進めてみようか?」と、指示を受けた買い手側のM&A推進担当者が、まずは何から、どのように進めればよいのか?について一緒に考えてみましょう。

 

資料の提供を受けたら、さっそく分析を始めましょう。

依頼した資料が揃い次第、内容の確認及び分析をスタートさせましょう。

分析の切り口は、3つです。まずは、財務面からこれまでの事業運営状態や将来性を明らかにする財務分析。続いて、当社とのシナジーや経営統合によって得られるリソースについて明らかにする事業分析。最後に経営統合後に当社が引き受けることになるリスクの種類や、大きさ、発生可能性などについて明らかにするリスク分析があります。

資料は、クラウドサービスを利用して受け渡しします。アクセス制限を行い、アクセス者リストの作成、パスワード設定など必要なセキュリティを行います。

 

財務分析は、損益計算書と貸借対照表をもとにして、過去を紐解く。

損益計算書は、複数年分をエクセルなどに置き換えることから始めます。勘定科目ごとに数年間の平均値と比較したイレギュラーに着目し、その要因を質問項目としてピックアップします。

具体的には、売上や原価については、件数と単価に分解して確認します。単に、増えた・減ったでは、事実確認の論点がぼやけてしまいます。

続いて、費用に関する勘定科目について、変動費と固定費とに分類します。変動費は、売上に連動して増減するものですから、その対売上比率に異常値がないかどうかを確認します。また、固定費は、経年での変化に着目し、増減があれば、その理由を質問項目とします。減価償却費や給与などは、台帳や貸借対照表と突き合わせることで、その要因や背景を明らかにします。

 

貸借対照表も同様に数年分をチェックすることで、イレギュラーを発見するようにします。流動資産や流動負債に大きな変動があるようなら、台帳を確認し、取引先ごとの推移を把握します。決算書の調整に使われやすい以下の項目も同じように台帳を確認します。棚卸資産、仮勘定、貸付金、投資有価証券、関係会社株式、借入金、未収金、未払金など。場合によっては、固定資産の実物も確認するようにします。

 

加えて財務指標分析も行います。それによって、マクロの視点も取り入れることができ、多面的なチェックができるようになります。主なものとしては、収益面や事業性という観点では、売上高営業利益率、ROE(自己資本利益率)やROA(総資本利益率)。安全性の観点では、自己資本利益率や流動比率、効率性の面では、固定比率や有形固定資産回転率などです。過去からの推移だけでなく、同規模の同業者や自社との比較から始めてみましょう。

 

事業分析は、仮説の検証の視点で行います。

事業分析では、3つの切り口で行います。

まず、事業全体を把握するために、原材料仕入れから売上計上に至るまで、どのような取引先とどのような商材をやり取りしているのか?について売上カテゴリごとに整理します。

続いて、SWOT分析です。強み、弱み、機会、脅威といった観点で、自社の内部環境と外部環境の将来変化を加味した上で、作成します。

最後に、この2つの分析結果に自社の内容を書き加えることによって、どのようなシナジーが期待できそうか整理します。例えば、相手先の強みを自社の顧客に提供することによる売上機会の発見や、自社工場や物流などを相手先に提供することによる、コスト削減策の発見などが考えられます。

 

おそらく、資本提携の話題が持ち上がる時点で大まかなシナジーは描いているはずですので、ここでは、さらに定量的に明らかにしたり、あらたなシナジー効果を発見したりすることができればなおよしです。

 

リスク分析は、客観的視点を意識して行いましょう。

ここまでの分析で、手応えを感じて経営統合に対する期待感が高まってしまうと、リスクを過小評価しがちです。その点に留意して、あくまでも客観的に、少しでもリスク要因があれば、いったん洗い出して評価することが重要です。主な観点は以下のとおりです。

 

・業績の先行き見通しはどうなっているか?

・資金繰りの状態はどうか?:経営統合後にすぐに大きな資金需要があるならば、事前に準備しておくことが必要ですし、価値評価(バリュエーション)にその金額も加味する必要があります。

・過去の組織再編について:過去にも経営統合や分社化などの組織変更を行っているか?行っていれば、組織変更に至った背景や結果評価について明らかにします。

・取引先との関係性:今後も継続取引が可能な相手先か?当社との関係性に問題はないか?現状通りの内容で継続取引が可能な契約か?

・在庫に異常値がないか?:急な増減がないか?そもそも実在庫の有無や商品価値があるかなどの観点で状態確認を行ってください。このあたりは、財務分析と併せて行います。

・固定資産の確認:不動産や設備が実在するか?固定資産台帳の評価と齟齬がないか?更新投資の時期の見通しなどについて確認します。

・顧客からのクレーム:訴訟に至っているような重大案件の有無や、日常的な発生頻度などを明らかにします。

・訴訟リスク:未払い残業代やセクハラ・パワハラといった労働者とのトラブルがないか?未払いや前払い、簿外債務など取引先との金銭トラブルの可能性がないか?

・売手に親会社があれば、そちらが担当している業務がないか?親会社との関係がなくなれば、その業務は当社か対象会社で行う必要があり、コストアップの要因になります。

これら以外にもまだまだ、業種や業態、企業規模によって分析すべきテーマは多くあります。大型の案件や対象会社が自社と離れた領域にある場合は、各方面の専門家も交えた分析を行うことも検討してください。

 

初期分析が終わったら次にすること

社内での初期分析では、相手先への追加確認リストと経営層へのレポートの作成をゴールとします。分析が完了したら、さっそく経営層に対して現状段階での提案と追加確認リスト及びその確認結果が提案にどのように影響を与えるのか?について報告をします。そして、次のステップに進むかどうかの決裁を仰ぎます。

 

判断軸は2つあります。まず、資本業務提携の魅力度(メリット、デメリット)とリスク(発生可能性と重大性、未知のリスクの潜在可能性)でマトリックスを作成し、結論付けます。

1.積極的に進めるケース:提携魅力度が高く、リスクが低いと見立てたケース

2.徹底したデューデリジェンスと慎重な意思決定を要するケース:提携魅力度が高いが、リスクの重要度または、発生可能性が高い、潜在リスクが不透明などと見立てたケース

3.必要性を十分に検討した上での意思決定を要するケース:提携魅力度は高くはないが、リスクも顕在化しており、重要度も低いと見立てたケース

4.提携を断念するケース:提携魅力度が高くはなく、リスクが高い、または不透明と見立てたケース

 

M&Aに限らず、事業活動の評価は、企業、経営者、成長ステップなどによってケースバイケースです。しかし、事業成長のチャンスは、私たちの判断をじっくり待ってはくれません。スピードある判断を下すために、私たちにできることは、チームメンバーや経営層とともに自社の判断基準を事前にリスト化しておくことです。

どんなシナジーを求めているのか?どのようなリスクを避けたいのか?安定性か成長性か?など案件発生前にリスト化しておくことで各案件を定量的に分析し、結論付けることが可能になります。これは、提携先候補の洗い出しにも必要になる考え方です。社内の意思統一にも役立ちますので、早めに取り組むことをお勧めします。

 

まとめ

前回と今回では、M&A推進担当者の初動における留意点について、一緒に考えてみました。案件が商談に進む前から費用をかけて専門家に依頼することは難しいでしょうから、M&A推進担当には、M&Aに関する専門知識の他にも、経営全般にかかわる広範な知識が求められます。

そのためにも、経営全般に関する知見を獲得するよう、地道な学習に取り組んでください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

中小企業の私的整理に関する新しいガイドラインができました②

有事における中小企業者と金融機関の役割

今回も、前回に引き続き『中小企業版私的整理ガイドライン』について解説します。前回はガイドラインにおいて平時における中小企業者と金融機関の役割がどのようなものとされているかについて説明しました。

これに対し、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況である有事の場合には中小企業者と金融機関とはどのような役割を期待されているのでしょうか。

 

【有事における中小企業者の役割】

1 経営状況と財務状況の適時適切な開示等

事業再生等を図るために必要な、正確かつ丁寧に信頼性の高い経営情報等を金融機関に対し開示・説明します。これは、金融機関が事業再生等のための金融支援などを検討するうえでも極めて重要なものといえます。

2 本源的な収益力の回復に向けた取組み

金融機関による金融支援もさることながら、事業再生を行うにあたっては、中小企業者は自律的・持続的な成長に向け、本源的な収益力の回復のための取組みを進めていくことが求められます。

3 事業再生計画の策定

中小企業者は、必要に応じて、専門家等に相談し、その支援・助言を得つつ、自力で事業再生計画を策定することが望ましいとされています。

そして、金融支援を求める場合においては、事業再生計画には、①実行可能性がある内容であること、②金融支援の必要性・合理性があること、③金融債権者間の衡平や金融機関にとっての経済合理性が確保されていること、④

経営責任や株主責任が明確化されていることが必要であるとされています。

 

【有事における金融機関の役割】

1 事業再生計画の策定支援

金融機関は、中小企業者が作成する事業再生計画の合理性や実現可能性等について、必要に応じて支援をしながら確認をしていきます。

2 専門家を活用した支援

金融機関単独では事業再生計画の策定支援が困難であると見込まれる場合や、支援にあたり債権者間の複雑な利害調整を必要とする場合には、専門家等による専門的な知見・機能を積極的に活用します。

 

有事にも段階がある

有事における中小企業者及び金融機関の役割について解説しましたが、ガイドラインにおいては以下のように有事の段階を分けています。

 

① 返済猶予等の条件緩和が必要な段階

② 債務減免等の抜本的な金融支援が必要な段階

③ ①・②の措置を講じてもなお事業再生が困難な場合

 

①の段階であれば、まず中小企業者は経営改善計画策定等により、収益性の回復や遊休資産の売却など自らの力による事業再生を目指し、必要に応じて元本・利息の猶予など金融機関による支援を求めていきます。

それでもなお、事業再生が円滑に進まない場合は、DESや債務の減免などの抜本的な支援を求めるのが②の段階です。この場合は企業においても経営者(場合により株主)の責任のあり方などが問われることになります。

さらに、もはや自力では事業再生が困難であり、スポンサーによる支援や経営の共同化など他の企業に支援を求めるのが③の段階です。

①ないし③の段階を経てもなお事業継続が困難である場合は、スポンサーへの事業譲渡等や事業の清算なども視野に入れざるを得ないということになります。

 

中小企業版私的整理手続の概要

ガイドラインでは、再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続が定められています。

再生型私的整理手続とは、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難である場合に利用されることが想定されています。

また、廃業型私的整理手続とは、過大な債務を負い、既存債務を弁済することができないことや近い将来において弁済が困難になることが 確実である一方で、円滑かつ計画的な廃業を行うことにより、中小企業者の従業員に転職の機会を確保できる可能性があり、経営者等においても創業や就業等の再スタートの可能性があるなど、早期廃業の合理性が認められる場合に利用されることが想定されています。

手続の流れとしては、中小企業者が債権者たる金融機関の承諾を得て事業再生計画又は弁済計画を策定し、実行していきます(計画策定の際、必要に応じて債務の支払いの一時停止などを行うこともあります。)。計画の策定や実行の状況のモニタリングには主要債権者や外部の専門家の主導的な役割が期待されています(詳細については次回解説いたします。)。

 

次回の予告

次回は、再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続の詳しい流れ、それぞれの手続の具体的な違い、経営者保証ガイドラインとの関係、私的整理ガイドラインとの相違等について解説いたします。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業再構築におけるサイトM&Aの活用法~買手の立場から

 2年以上にわたるコロナ禍の影響で、中小企業の多くが事業の在り方を見直すことを余儀なくされています。こうした中、小売業や飲食業が非接触・非対面のEC事業参入により事業再構築を図ろうという動きが加速しています。今回は、EC事業参入を検討する際に、選択肢の一つとしたい「サイトM&A」の活用にスポットを当てたいと思います。

 

1.事業再構築に欠かせないDX化

事業再構築補助金では、「先端的なデジタル技術の活用」が、審査上の加点項目となっています。それを受けて、小売業や飲食業など店舗型ビジネスでは、新型コロナ対策を目的として、サービスの非対面・非接触化を図る予約システムやキャッシュレス決済システムの導入をはじめ、SNS等によるネットプロモーションの推進やECサイトの活用による販路拡大など、積極的にデジタル技術の活用が進められています。

特に、販売拡大に直結するECサイトの活用については数百万円から数千万円を投じてゼロからサイトの立上げを行う事例も少なくありません。しかし、既存事業と提供する製品やサービスが同じでも、販売手法やプロモーション手法が異なり、接客力や好立地など既存事業の強みを活かせないため、回収には長期の取り組みが必要となります。

 

2.「サイトM&A」の活用可能性

スモールM&Aというと主に、事業承継における第三者承継やスタートアップのEXIT戦略として活用されることが多いようですが、実は、事業再構築目的での活用についても、大きな可能性が秘められています。

もともと、買手にとってのM&Aの最大のメリットは「時間を買う」ことです。固定客を持ち、認知度の高い企業を買収することで、迅速に事業を拡大することが可能になります。これはM&Aの対象が企業ではなく「サイト」であっても同じことです。

ECサイトの中には、既に知名度を持ち、固定ユーザーを抱えているものもあります。こうしたサイトをM&Aにより買収すれば、自社でサイトを構築するより迅速に顧客獲得に繋げることが期待できます。

ECサイトやウェブサイト運営会社について、大手M&Aマッチングサイト2社で検索したところ、分類基準は異なるもののECサイト等が200~300件、WEBサイト・アプリ等が300件前後の登録があり活発なM&Aが行われているようです。

また、国内には10社前後のサイト売買専門業者があり、それぞれ特色のある取引が行われています。例えば、アフィリエイトサイト、ブログ、ECサイト、ポータルサイト、などに加えてAmazon、eBay、YouTube、Twitter、Instagramなどのアカウントを数万円から数十万円という比較的低価格で取引が行われるものから、キュレーションサイト、マッチングサイト、ポータルサイト、ECサイト、SaaS系サービスサイトなどを数千万円から数億円という高価格帯で取引されるものまで様々です。これらのサイト売買専門業者が運営する仲介サイトの多くはマッチングの場を提供するだけでなく、手数料を取って売買の仲介や譲渡金額の算定をしているものもあります。

 

3.「サイトM&A」の特徴

(1)「サイトM&A」は事業譲渡

「サイトM&A」といっても特殊なM&Aではありません。M&Aの対象がECサイトやポータルサイトなど、会社が運営するサイトビジネスという事業が譲渡対象となっているということです。もちろん、会社の事業内容が1つのサイトに特化している場合には「会社譲渡」(株式譲渡)という形でM&Aが実施されることもありますが、主に「事業譲渡」の形でM&Aが実施されています。

 

(2)「サイトM&A」の譲渡価格の算定方法

事業譲渡の譲渡価格は、一般的に譲渡資産の時価の合計にのれん代(営業権)を加えた形で算出されます。ところが「サイトM&A」の場合は、通常、個々の譲渡資産の内訳にかかわらず直近半年程度の「月間平均営業利益の10か月分から24か月分程度」を譲渡価格としていることが多いようです。

ウェブサイトの寿命は短く、また、業界の動きが速いため、会社のように1年単位で業績の評価をせず、月単位の業績をもとにして価格を決定することが業界慣行となっているといわれています。

 

(3)「サイトM&A」の譲渡プロセス

「サイトM&A」には、会社のM&Aとは異なる慣行やプロセスがあります。

例えば、M&Aのプロセスです。通常のM&Aでは、売手・買手間でのNDA締結、意向表明の実施、基本合意書の締結等の後に、デューデリジェンスを実施。売手・買手双方が合意に至ったところで譲渡契約を締結しクロージングするといった流れがあります。

一方、「サイトM&A」では、NDA、意向表明、基本合意書締結といったプロセスを経ずに、ネット上で売手・買手がチャット等を活用して売買交渉を行った後、譲渡契約を締結し、サイトの引き渡しを行っていることが多いようです。デューデリジェンスや譲渡価格の算定について、売買専門業者のサービスを活用して実施するケースが多いため、専門家依存度が高い取引となっているようです。

 

(4)「サイトM&A」の引き渡しと「エスクローサービス」の利用

ウェブサイトの引き渡しは、サイト売買の関係者の間では「ウェブサイトの引っ越し」といわれることが多いようです。引き渡しの際には専門業者が提供する「エスクローサービス」を利用して契約不履行リスクをヘッジします。具体的には、譲渡契約締結後に、まず、買手が専用業者の指定口座に譲渡代金を入金し、専門業者からウェブサイト引っ越しの要請を受けた売手がウェブサイト引っ越しを行い、買手の検収が完了したところで、専門業者が売手の口座に資金を入金するというものです。

「ウェブサイトの引っ越し」の際に重要な作業は、「サーバー移行」と「検収」です。

「サーバー移行」とは、売手から買手にドメイン移管やサイトデータの引き渡しを行った後、買手が指定するサーバーへデータ移行を行い、買手は動作確認後にドメインの紐付けを移行先サーバーへ切替えるという一連の作業です。失敗するとサイトが表示されなくなったり、最悪の場合データが消えてしまったりするため、専門業者に委託してリスクを回避することも重要な選択肢となります。

「検収」とは、買手により譲渡されたウェブサイトの内容が事前説明と相違ないかを確認する作業です。通常、数日から数週間かけてチェックが行われます。収益面ではアクセス数やコンバージョン比率、安全面では動作の安定度やバグ、セキュリティの高さなど、引き渡しを受けた後でないとわからない点を検証するのです。

 

4.まとめ

毎月の収支が安定しているウェブサイトのM&Aを行った結果、事業再構築後の収支改善の見通しが立てやすくなるなど、「サイトM&A」の活用により大きなメリットを獲得できる可能性がありますが、中小企業ではウェブサイトの運営に必要な人材やノウハウが不足しているため、「サイトM&A」に踏み切ることに躊躇せざるを得ないという方も少なくないのではないでしょうか。

次回は、どの様な点に留意すればリスクを抑えつつ、「サイトM&A」を進められるのか、売買取引の前後に気を付けておきたいポイントについて、ご説明したいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

 

トップから「少しすすめてみようか?」と指示を受けたらまずやるべきこと

みなさまこんにちは。ようやくマスク生活が終わると予想していたところの第7波。それに加え、連日の猛暑ですから、すでに夏バテ気味という方も多いのではないでしょうか?

本日は、トップから「この案件、よさそうじゃないか?少し進めてみようか?」と、指示を受けた買い手側のM&A推進担当者が、まずは何から、どのように進めればよいのか?について一緒に考えていきましょう。

なにはともあれ、自社の戦略の方向性との整合性を確認しましょう。

トップからの指示があるということは、イコール、社内コンセンサスが取れているM&A戦略に沿っている、または、自分たちのビジネスの方向性に適合しているのだと考えられます。しかし、実際には、経営者が長年鍛えてきた“勘”のようなものが働くことも多いものです。ですから、担当者として、まずはどのような観点からGOサインが出たのかについて分析し、買収を検討する目的について明確にする必要があります。もし、可能であれば、早い段階で直接トップに確認しておきましょう。

トップの判断基準を知ることは、対象企業の初期分析のポイントを絞ることに繋がり、メリハリとスピード感のある報告が可能になるからです。さもなければ、360度、全方位に神経を使った情報収集をする羽目になるでしょう。

方向性を確認したら、対象企業及び所属している業界の情報収集をしましょう。

業界の情報収集は、同業界であれば、自社の関係部署へのヒアリングや資料の共有を依頼すれば良いのですが、異業種・異業界の場合は、オープンデータに当たる必要があります。専門書やネットを活用したり、取引金融機関に相談したり、同業界に取引先があれば、そこへ相談する方法もあるでしょう。スピードを優先して、それぞれ同時並行で進めましょう。

ただし、社外はもちろんのこと社内においても情報漏洩のないよう、慎重に進めることが重要です。

しかしながら、この時点で把握できる内容は初歩的なことに限定されています。まずは、業界の概要を理解するために、一般的なサプライチェーンやバリューチェーンについて、他社と対象企業との違いを中心に理解を進めるようにします。

また、業界全体のトレンドについても把握します。具体的には、景況感や課題感、法的規制や市場の変化などについて、国内だけでなく海外についても同時に情報収集しましょう。それによって、対象企業の置かれた外部環境の実情への理解が進みます。

相手先への接触は慎重に

対象企業の外部環境が把握できたら、さっそく相手先へ接触し、先方の個別具体的な情報の収集に取り組みます。

具体的なアプローチ方法には以下のような方法が考えられます。

まず第1に、対象企業への直接アプローチです。この場合は、必ず自社のトップの承認を得た上で最低でも経営層に動いてもらうようにしましょう。最重要経営課題ですから経営層自らが動くのが当たり前ですし、初動段階とはいえ中間管理職レベルの人間が接触したのでは、相手先からすると「軽んじられている」と心情を害すようなことになりかねません。そんなことでは、案件の成功は見通せないでしょう。

続いて、FAなど専門家を仲介者として採用するケースがあります。その場合のメリットは、自社の社名を出さずに対象企業の感触を知ることができる点にあります。その場合でも必ずトップの決裁は取り付けておくことが重要です。なぜなら、案件が一定程度進んだ段階で、「トップが乗り気ではなく・・」なんてことが起きたら、自社の信用問題に発展し、今後のM&A活動に大きなマイナスの影響が発生するからです。金融機関やM&A仲介会社などから相手にされなくなってしまいます。彼らは、意外に横の繋がりを持っており、情報共有もさかんに行っていますので、注意が必要です。

そして、金融機関などの専門家を仲介者として採用するケースです。その場合のメリットは、2つ考えられます。まずは、対象企業のメインバンクを通じることができれば、高いプライオリティをもって真剣に検討をしてもらえる可能性が高まるでしょう。次に、こちらのメインバンクに動いてもらった場合には、買収資金の相談を兼ねることができますし、業界情報や対象企業以外の売り手企業についての提案を受けることが期待できるでしょう。

一方でデメリットとしては、金融機関が検討の場に参画することで、彼らの思惑を含んだ助言が想定されるため、良きにつけ悪しきにつけその影響を受けることが想定されます。また、自社のメインバンクと対象企業のメインバンクとの関係性など、自社に全く関係のない登場人物に翻弄される可能性も出てきてしまいます。

最後に、スモールM&Aでは多いのですが、対象企業の関係者(先方が信頼をおいている人物や組織)を通じて交渉するケースが考えられます。具体的には、対象企業のOB、業界団体や地元経済団体の重鎮などです。

これらの組み合わせを駆使することで、初回のトップ会談をいかにスピーディーに行うかが、案件の成否に大きく影響することは間違いありません。

対象企業へのアプローチにはどんな準備が必要か?

さて、首尾よく対象企業との接触の機会を得たら、さっそく準備を進めましょう。

まずは、会談のロケーションですが、対象企業に打診することになりますが、できれば、仲介者のオフィスやホテル、レストランの個室など目立たない場所が良いでしょう。

次に提案書です。提案書では、当社がなぜその案件を企画したのかについて双方のメリット(経営課題の解決)をまとめる必要があります。

具体的には、①案件を提案した自社の目的、②業界環境及び対象企業に対する当社の認識、③買収後の経営方針、④期待しているシナジーと双方のメリット、⑤事業計画や実現したいビジョン、⑥買収スキームや条件面、⑦両社だけでなく両社のステークホルダーのメリット、などが一般的な項目です。

いずれの項目においても、自社都合ではなく、相手先企業とwin-winの関係を目指していることが伝わるようにまとめることがポイントです。

デューデリジェンス前の初期調査

最終的には、法務・財務・ビジネスについてのデューデリジェンス(以下DD)をそれぞれの専門家を通して行うわけですが、その案件についてDDを行うかどうかの判断は、担当者レベルの初期調査で行います。

具体的には、①企業概要、②事業概要、③組織構造、④人的資源、⑤サプライチェーン、⑥財務面などについて、可能な範囲で情報提供を依頼します。もちろん、事前にNDA(機密保持契約)の締結を行っておくことは言うまでもありません。

それぞれの項目の留意点は、以下のとおりです。

①企業概要:法人登記や、ホームページ、会社案内などで確認できるでしょうから、特に情報提供を受ける必要はないでしょう。

②事業概要:定量的なものは、財務諸表の提供を受けて分析することとして、それ以外のオープンになっていない経営計画など定性面での情報提供を依頼しましょう。

③組織構造:よほど大きな組織でなければ、人名の入った組織図や各部門の職務分掌などを依頼します。また、関連会社やその業務内容、過去の組織再編などについても開示を依頼しましょう。

④人的資源:労働契約形態別の人数、年齢・性別などの概要。労働組合があれば組合との関係性や過去の経緯、退職金や残業代の現状などが主なところでしょう。個人情報が含まれる可能性もありますので、慎重な取り扱いが求められます。

⑤サプライチェーン:事前に調査したものをベースに、取引先・取引内容や規模などを確認します。また、組織再編によって取引に影響がでるような取引先の有無についても確認します。

⑥財務面:財務諸表について、できれば10年程度の提供を受け、分析を行います。分析の観点は、収益性、効率性、安全性の3つです。加えて、業界標準との違いや経年での変化などに着目します。特に貸借対照表では、引当や繰り延べ税金資産、固定資産の実態などについて概略だけでも確認したいところです。

一方で、この段階では、あまり突っ込んだ質問や追加の資料提供をお願いするわけにはいきませんので、事前に調査していた内容との整合性や、DDに向けた確認リストを作ることが目的です。そして、初期調査が完了したら、経営層へのレポートを行い、次のステップに進むかどうかの決裁を仰ぎます。

まとめ

今回は、M&A推進担当者の初動における留意点について、一緒に考えてみました。案件が商談に進む前から費用をかけて専門家に依頼することは難しいでしょうから、M&A推進担当には、M&Aに関する専門知識の他にも、経営全般にかかわる広範な知識が求められます。

そのためにも、経営全般に関する知見を獲得するよう、地道な学習に取り組んでください。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

担当者が最初に知るべきこと「誰に、いつ、何を、どのよう様に相談するのか?」

みなさまこんにちは、例年よりも遅いようですが、全国各地で入梅しつつありますね。うっとおしいと感じられる方も多い梅雨ですが、北海道へ退避するか?それともお気に入りのレインギアを手に入れて、のんびり過ごすか?あなたはどちら派でしょうか。

本日は、M&A新任担当者が、「M&Aを成功させるためにいったいどのように外部専門家のリソースを活用すべきか?」、について買い手側の視点に立って一緒に考えていきましょう

 

対象企業の探索とともにパートナー専門家も探しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、対象企業の方向性を絞ることが最初のお仕事ではあるのですが、それと同時並行で進めるべきなのが、パートナー専門家の探索です。

なぜなら、これから始まる情報収集の過程において、さまざまな関係者や専門家とお会いすることになります。そこでは、あなた以外は、みなM&A業界人なのです。専門用語もある程度飛び交うでしょうし、立場による視点の違いも加味してお話を聞く必要も出てきます。ネットや専門書を駆使して調べることも必要ですが、できれば、同時通訳ほどではないにしても、ある程度の即時性を持って自社の事情も加味した内容でレクチャーを受けたいものです。そのような背景からあなたのパートナーとして活躍してくれる専門家の探索をおすすめしたいです。

では、M&Aの専門家にお願いするお仕事にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

M&Aで頼りにしたい専門家の領域

M&A案件の推進に関して助言や支援を行う専門家を総称してファイナンシャル・アドバイザー(以降FA)と呼んでいます。FAによる支援サービスは、特に公的な資格もありませんので、士業やM&A専門会社だけでなく銀行や証券会社なども提供しています。

案件が進むに連れてFAの重要度が大きくなりますが、具体的には、以下のような業務をお願いすることになります。

 

①財務面、②法務面、③会計・税務面、④人事面、⑤その他、ビジネス面全般

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

①財務面

財務面というとお金の手配というように捉えられると思いますが、お金だけにとどまりません。なぜなら、買収と言っても事業だけを買い取る“事業譲渡”以外にも、相手の株主に対して自社の株式を交付して交換する手法もあり、様々なスキームがあるからです。その中から現在、及び将来の自社にとってもっとも良い方法を提案・検討するのが、この財務面のお仕事ということになります。

また、経営統合後の再投資や運転資金など、数年間の必要資金がどのように推移する見込みなのか?どのように調達するのか?などの検討から、借り入れの支援まで多くの場面で支援を受けるべきケースがあります。

 

②法務面

こちらは、その名の通り、法律に関する業務になります。大きくは2つに分けられます。1つは、自社がいろいろな手続きや契約を進める上で必要になる法律上のチェックや、相手方との契約内容の妥当性のチェックです。もう一方は、対象企業がこれまでの事業運営において、法律上の問題を抱えていないか、事業運営上必要な規制を守れているか、許諾や免許などをきちんと整備しているか?それらの是正に必要なコストはどれくらいか?などを確認する業務があります。

また、相手側との交渉をあなたが当事者として直接行うのであれば問題はありませんが、代理人として専門家に依頼したいのであれば注意が必要です。なぜなら、弁護士以外の代理人にお金を支払って、交渉事を依頼することは禁止されているからです。

 

③会計・税務面

こちらは、経営統合を進めるにあたって発生する会計処理や決算業務に関するものになります。になりますし。会社全体の経営統合であれば、二社それぞれの会計処理・決算をどのように処理するのか?など、検討することも2倍になります。

 

④人事面

人事面についての業務は、顧客や事業の一部譲渡にとどまらず、相手方従業員ごと引き受ける場合に発生します。こちらは、転籍や処遇(過去とこれから)といった制度・手続きだけでなく、組織文化などの意識合わせなど、さらに大きなテーマへの関連性も検討する必要があります。

 

⑤その他ビジネス面

こちらは、ここまで出てきた専門家に併せて依頼するのか、できれば別で検討したい役回りです。なぜなら、自社の実情に沿った助言を伴走型で受けることを期待したいからです。M&A計画全体との整合性や各専門家の取りまとめ、進捗管理などにとどまらず、M&A終了後に始まる経営統合活動への支援など、重要な業務は今後も数年間にわたり続きますので、全体を広くカバーでき、調整能力を持つ専門家に依頼すべきです。

 

気になるFA費用の相場は?

さて、このような頼れる専門家に伴走してもらうには、どれくらいの費用が必要となるのでしょうか?

専門家の料金体系は、一般的には①着手金(リテイナー・フィー)と②成功報酬となっていることが多いようです。

着手金は、専門家次第ですので、一概には言えませんが、一般的なコンサルタントの顧問料として検討することになります。つまり、数十万円×関与月数または、関与期間を見越した一括着手金として数百万円、を提示される金額がスモールM&Aの相場と言えそうです。

成功報酬には、“レーマン方式”と呼ばれる料金表を採用することが一般的です。料金算定は、買収企業の企業価値×料率となっており、企業価値の大きさによって0.5%~5%程度が目安です。我々スモールM&Aの現場では、企業価値5億円以下5%を目安として考え、どこかの段階で金額交渉をして固定しておくことがおすすめです。なぜなら、企業価値に応じた料率とすると、専門家のフィーが変動することとなり、買収金額が高くなる(企業価値が高まる)とフィーが上がるとなると、費用を抑えたい企業担当者との関係性もおかしくなることがあるからです。

 

まとめ

今回は、M&A新任担当者がスムーズな案件対応を実現するためにどのような専門家を頼りすればよいのかについてお話しました。

大手では当たり前の外部専門家チームですが、我々スモールM&A案件では、そこまでの間接費用をかけることは現実的ではありません。私のおすすめは、伴走型で取り組んでくれるマルチプレイヤー的な地元密着型専門家を選定することです。

この記事に出会ったことを良い機会に、まずは、お近くの商工会や商工会議所、金融機関、よろず支援機関(https://yorozu.smrj.go.jp/)を頼りに情報収集を進めてみてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画③

経営改善計画を策定する際の金融機関の支援

前回に引き続き、経営改善計画について解説します。これまで解説してきたように、経営改善計画は、窮状にある企業が事業の見直しを行い、経営の改善を目指すものです。経営の改善を行うためには、事業の収益性等の検討とともに、財務状況の改善が必要となり、金融機関による支援も不可欠といえます。

金融機関による主な支援としては、リスケジュール、DDS、DES、債権放棄があります。

リスケジュールとは、債務の元本又は利息の支払い期限の延期を行うことをいいます。一定期間返済が猶予されれば、その間、企業の資金繰りに余裕が生じ、事業の改善を行うために必要な投資などが可能となります。そのうえで、事業の改善により収益性が向上することで、返済のための資金も確保できるようになることを目指すのです。そして、リスケジュールは、債務の額そのもの(少なくとも元本)が減額になるわけではありません。このため、金融機関にとって比較的行いやすい支援といえ、特に中小企業や小規模事業者では金融機関による基本的な支援の方法となっています。

DDS(デット・デット・スワップ)とは、金融機関が有する既存の債権を他の一般債権よりも返済順序の低い劣後債権に変更することをいいます。後述するDESとは異なり、企業の実質純資産とはならないものの、元本の返済が一定期間猶予されることになるため、リスケジュールと同様に一定期間資金繰りに余裕が生まれることとなります。他方で、金融機関としてもDDSを用いることで所定の条件を満たせば自己査定の際に資本とみなすことができるというメリットがあります。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、金融機関が企業に対して有する債権を現物出資して株式を取得することをいいます(債務の株式化)。DESが行われると企業は債務の返済を行う必要がなくなるのでそのメリットは非常に大きいといえます。他方で、金融機関からすると、DESは「融資から投資」となり、回収は配当や株式の売却によることとなります。したがって、企業が非上場の場合、その回収は容易ではないことから、DESによる金融支援を企業が得るのは困難な場合が多いといえます(ただし、金融機関が税務上の欠損金を超える額の債権放棄を行う場合は、債務者たる企業に債務免除益が発生し、課税の対象となるリスクがあることからDESを活用することはありえます。)。

債権放棄とは、金融機関が企業に対して有する債権を放棄することをいいます。金融機関からすれば、債権放棄は債権の回収が不能になるという意味で最も厳しい金融支援となるため、債務者たる企業にも経営者責任、保証人責任、企業の代表者個人の私財提供等といったさまざまな課題を解決することが求められます。

 

金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング

経営改善計画を成立させるためには、基本的には支援を行うすべての金融機関の同意を得ることが必要になります。そして、各金融機関の同意を得るためには、各金融機関との情報の共有や公平性の確保、手続の透明性を確保する必要があります。そのための手段として用いられるのが、金融機関を一堂に集めて行うバンクミーティングです。

バンクミーティングは、①経営改善計画の内容や金融機関への支援案の説明を行うとき、②金融機関が経営改善計画への同意表明を行うとき(おおむね①から1か月後)の少なくとも2回開催されます。

バンクミーティングには、企業と金融機関のほか、認定支援機関が関与している場合は認定支援機関も出席します。また、金融機関が信用保証協会を利用している場合は信用保証協会も出席します。

最初のバンクミーティングにおいて、金融機関からさまざまな意見が出されることもあります。その際、場合によっては個別に金融機関と交渉を行うことが必要となることがあります。(なお、その際の交渉を弁護士でない認定支援機関が行うと弁護士法第72条違反となります(いわゆる非弁行為)。)

 

計画策定後のモニタリング

金融機関の同意を得ることができ、経営改善計画が成立したとしても、それがゴールではありません。なぜならば、あくまで経営改善計画の策定は「手段」であって、当該計画を実際に実行し、経営の改善が行われることが本当の「目的」であるからです。そして、経営改善計画はあくまでも「計画」である以上、実行するなかで、修正を行う必要が生じる場合もあるでしょう。

そこで、経営改善計画の進捗の把握・分析を行い、必要に応じて修正を検討することが必要となってきます。この進捗状況の把握・分析及び修正の検討の過程をモニタリングといいます。

モニタリングは月次又は四半期単位で実施することが想定されていますので、経営改善計画の策定の際は、月次又は四半期単位での計数計画を策定しておく必要があります。そして、モニタリングにおいて目標を達成できていないことが明らかになった場合は、金融機関と情報を共有して対応策を検討していくことになります。なお、経営改善計画の策定に認定支援機関が関与している場合は基本的に認定支援機関がモニタリングにおいて中心的な役割を担うことが期待されています。

 

経営改善計画の流れをつかむ

これまで3回にわたり経営改善計画について解説をしてきました。何のために経営改善計画を策定するのか、経営改善計画にはどのような内容を記載するのか、経営改善計画はどのようなプロセスで策定され、その後の流れはどうなるのか等についてざっくりとしたイメージを持っていただくことができれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久