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自社の目的にもっともフィットするM&A手法の選びかたは? その2

みなさま、こんにちは!
前回のお話の続きです。「自社の経営課題を解決するためにもっとも適したM&Aの手法」を選ぶために検討すべきことについて新任担当者のツナグと一緒に考えていきたいと思います。
まずは、簡単に前回の振り返りをしましょう。

前回は、そもそも、「M&A」と一口にいってもそのスキームにはどんなものがあり、それぞれどんな特徴があるのか?について一緒にみてきました。自社にとってベストの手法を選択するためには、M&Aに取り組む自社の目的や様々なステークホルダーの要望など、多角的に検討する必要があるというお話でした。

今回は、具体的にどのようなことを検討する必要があるのか?の5つの着眼点について考えていきましょう。
前回同様に広い意味でのM&Aには、業務資本提携のようなアライアンスも含むと言われていますが、本コラムの読者層を踏まえて、それらを除いた残りのスキームを念頭においてお話しします。

 

M&Aのスキームを選択する際に検討すべき5つのポイント

ツナグ:えーっ!5つも考えなきゃならないの?!

そんなに驚かなくても大丈夫ですよ。逆に、5つに整理することで、それぞれの手法を選択した場合のメリットとデメリットを整理できれば、それが、自然とステークホルダーの意思統一に繋がり、折衝や検討の時間短縮に繋がります。

まず、担当者としては、経営統合作業の進めやすさと経営統合の目的であるシナジーを発揮しやすいかどうかを検討する必要があります。シナジーとは、「複数のものがお互いに作用し合い、効果や機能を高めること」という意味ですが、つまりは「相手の組織と組むことによる自社のメリット」と同じような意味で捉えていただければ大丈夫です。

組織内外からのさまざまな圧力があり、統合作業を慎重に進めたいケースや、買収対象企業をそのまま存続させたいケースなどは、株式譲渡や株式交換、株式交付を利用するのが良いでしょう。統合作業をじっくり進められるためリスクは小さくできるものの、逆に言うとシナジー効果が発揮されるまでに時間のかかることが多いようです。
逆に、買収対象企業の存続が危ういため統合作業を急ぐ必要がある場合や、早急にシナジー効果を得たいと考える場合、リスクは少々高くなりますが、思い切って組織を速やかに一体化させることを検討しましょう。“合併”もしくは場合によっては、“事業譲渡”が適していると思われます。ただし、給与体系などの人事制度や情報システムにどの程度の違いがあり、統合によって発生しそうなトラブルについて十分な検討と対策を準備しておく必要があります。
ツナグ:事業譲渡は、事業譲渡の範囲を狭くすれば、素早くできる可能性が高まりそうだね。

次に検討すべき項目としては、相手の会社を子会社化するのか、それとも、対等な立場で統合するのか?があります。これは、両社の株主や取引先、顧客などのステークホルダーの意見を取り入れた上で検討してください。単純に子会社化するだけであれば、株式交換、株式交付、株式譲渡、新株引受なども考えられます。一方で、対等な立場での経営統合であると言うことを世間や従業員にアピールしたい場合などは、株式移転を活用した持ち株会社制度や合併が考えられます。
例えば、新たな会社を新しく設立し、そこに両方の会社を参画させるホールディング会社制度であったり、2社が合併して、両者の会社名を並べて新会社名にしたり、などがよくあるケースですね。
ツナグ:金融機関でよく見るタイプだね。

そして、支配権を取得する相手先企業がどれくらい健全な状態か?についても検討すべき項目になります。なぜなら、経営を統合するわけですから、不健全な経営を自社に取り込むことになるからです。具体例としては、相手先が長期かつ大きく債務超過をしているケースや帳簿に載っていない大きな借入金があったり、などは、会社丸ごとではなく、その事業だけを“事業譲渡”の手法で取り入れることを検討しましょう。予見できないリスクを排除できます。
ただし、事業譲渡の場合、どこまでが譲渡を受けた範囲なのか?であったり、競業避止義務の期間や範囲など、取り決めるべきことが広範に渡ったりするため、担当者の業務負荷が大きくなることになります。

ツナグ:業務が増えるのだけはヤダ!だけど、こうして聞くと、どれも当然のことだけど、本当にいろいろな視点で検討する必要があるんだね。

 

自社の都合だけでは決められない買収スキーム

M&Aにおいては、買収企業以外にも様々なステークホルダーがいます。その中でも最も大きなステークホルダーは、買収対象企業のオーナーや株主になります。
例えば、買収対象企業の株主が現金を希望するのであれば、株式交換ではなく、株式譲渡となります。一方で、買収対象企業の株主が買い手企業の株式を対価として望んでいる場合は、株式交換、株式交付、合併、吸収分割なども考えられます。ただし、一般的には、買い手企業が上場会社でなければ、これらのスキームが選択されることはないでしょう。
逆に、買い手に資金がたくさんあれば、現金を対価とした買収は可能ですが、資金調達余力に乏しい場合は、株式交換や合併といった株式を対価としたスキームを中心に検討することになります。ただし、買い手が上場企業の場合または近い将来に上場の計画をしている場合に限られます。

まとめ

今回は、さまざまなM&A手法の中から自社の目的にフィットする方法を選ぶために検討すべき内容を一緒に考えてきました。

1.経営統合作業をスムーズに行えるか否か?
2.経営統合の目的であるシナジーを発揮できる手法は?
3.相手の会社を子会社化するのか?それとも対等な立場で統合するのか?
4.支配権を取得する相手先企業の経営の健全性はどれくらいか?
5.買収対象企業の株主の希望は、現金か株式化か?

これ以外の切り口として、経営資源活用の観点から4つ分けることもできます。いずれにしても、“手段の目的化”を防止するためには、前提条件をステークホルダー間で共有しておくことが重要です。
また、M&Aの場面では、ステークホルダーそれぞれの思惑が複雑に絡み合うため、時には妥協することもしばしばです。今回の5つの観点がお互いに絡み合っているのはそのためです。

なお、本コラムは、初めてのMA&担当となられた方にもわかりやすくお伝えするために説明を一部簡略化しています。ご承知おきください。実際の運用については、専門家の助言をもとに取り組むことをお勧めします。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士  山本哲也

事業譲渡によるM&Aの後に想定外の債務を負担しないために

買い手にとってM&Aが終わってもまだまだ油断はできない

前回のコラムでは、買い手にとってはM&Aは、通過点にすぎず、むしろ新たな事業の始まりでもあるとして、M&A後の競業について解説しました。今回も、M&Aの後において、買い手が思わぬリスクを負いかねない点について、解説したいと思います。

 

事業譲渡において買い手が承継する財産は契約で定められる

M&Aの法的スキームにはさまざまなものがありますが、その中の一つに事業譲渡というものがあります。ここにいう事業とは、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)をいいます。要するに、単に土地建物、什器備品、債権等の個々の財産がバラバラになっているのではなく、これらの財産が一体となってある営業目的のために機能しているものを事業というのです。電車や駅舎建物が鉄道という一定の目的のために機能している(すなわち「鉄道事業」)というイメージです。

そして、事業譲渡とは、事業の「全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条(注:会社法21条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうもの」(上記最判)とされています。

すなわち、事業譲渡とは、いわば事業という財産についての売買契約であるといえます。したがって、権利義務関係を包括的に承継する合併や会社分割とは異なり、どのような権利と義務を買い手が承継するかは個々の事業譲渡契約において定められることになります。つまり、事業譲渡契約において承継の対象とされていない権利や義務について、買い手が承継することがないのが原則です。

 

買い手が売り手の債務を負担しなければならない場合がありうる

既に述べたように、事業譲渡契約において、売り手が負担していた債務につき買い手が承継しないとされた場合、当該債務について買い手が負担しないのが原則です。

しかし、買い手が売り手の商号を引き続き使用する場合には、買い手も、売り手の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う(会社法第21条第1項)とされています。これは、商号を引き続き使用する場合は、債権者からすれば、当該事業の運営主体が誰であるかを認識するのが困難であることを踏まえたものですので、

事業譲渡の後、買い手が遅滞なく、本店の所在地において売り手の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合や、事業譲渡の後に買い手と売り手が遅滞なく、債権者に対して買い手が債務の弁済をする責任を負わない旨の通知をした場合は、適用されません(同条第2項)。

確かに、債権者からすれば、事業譲渡があっても同じ商号を使用しているとだれがその事業を運営しているのかがわからないといえます。

したがって、事業譲渡によるM&Aの場合、仮に買い手が売り手の商号を引き続き使用する場合は、当初の想定にない売り手の債務を買い手が負担してしまうリスクがあることを買い手は十分に認識し、責任を負わないようにしておく必要があります。

 

挨拶状が思わぬリスクを招くことがある

先ほど述べたことからすれば、買い手が事業譲渡後に売り手の商号を使用しない場合は、買い手は売り手の債務を負うことは基本的にはないということになります。

ところで、M&Aのあと、買い手は取引先などに対し、「このたび、弊社はα事業をP社から譲り受けました。今後の取引についても、弊社従業員ともども、責任をもって継承いたします。」などと挨拶状を送付することがあります。

しかし、この挨拶状が思わぬリスクを招くことがあります。なぜならば、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、売り手の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告(債務引受広告といいます。)をしたときは、売り手の債権者は、買い手に対して弁済の請求をすることができる(会社法第23条第1項)とされているからです。

そして、債務引受広告にあたるかどうかについて、判例は「その広告の中に必ずしも債務引受の文字を用いなくとも、広告の趣旨が、社会通念の上から見て、営業に因つて生じた債務を引受けたものと債権者が一般に信ずるが如きものであると認められるようなものであれば足りる」として、「今般弊社は6月1日を期し品川線、湘南線の地方鉄道軌道業並びに沿線バス事業を東京急行電鉄株式会社より譲受け、京浜急行電鉄株式会社として新発足することになりました」という記載が債務引受広告に当たるとし、電車のとびら装置の故障によつて発生した事故による損害賠償債務について買い手には弁済をする義務を負うとしました(最判昭和29年10月7日民集8巻10号1795頁)。

挨拶状の記載は定型的なものになりがちですが、買い手が想定外の債務を負わないようにするためにも、「事業譲渡の日の○月○日以前にすでに発生している債務について、弊社が負うものではありません」という記載を加えるなど、挨拶状の表現については慎重な検討が必要といえます。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

アフターM&Aに発生する競業

買い手にとってM&Aは始まりであるともいえる

M&Aに向けた交渉が終わり、ようやく最終契約の締結に至ったとき、売り手・買い手双方とも安堵した気持ちになるものの、買い手にとってはM&Aは、通過点にすぎず、むしろ新たな事業の始まりでもあるといえます。

ところが、新たな事業を開始してしばらくするとM&Aの交渉の際には想定していなかった法的な問題が生じることがあります。

今回は、M&Aの後に発生しうる法的な問題のうち、事業譲渡における競業について解説をします。

 

事業譲渡後の競業が問題になる場合

事業譲渡において、売り手が工場や什器備品などの設備を必要とする事業を行っていた場合、競業が問題となることは必ずしも多くはないかもしれません。

他方、特段の設備を必要としない事業においては事業譲渡が問題となることがあります。例えば、P社は、中古衣類販売のECサイトを運営していたQ社から当該ECサイトを買い受けたところ、Q社は、ECサイトを売却した直後に、同じような中古衣類販売のECサイトを立ち上げて中古衣類販売を始めたといったようなものです(以下「【事例】」といいます)。

 

事業譲渡における競業に関する会社法の規律

事業譲渡の際の競業については、次のような規律があります(会社法第21条。以下これらを「競業避止義務」といいます。)。

① 事業譲渡をした売り手は、契約において別の定めがない限り、同一市町村及びこれに隣接する市町村の区域内においては、事業譲渡の日から20年間は、同一の事業を行うことはできません(同条第1項)。これは、事業譲渡においては、買い手が当該事業で収益を得ることを売り手が妨げないという内容が含まれていると考えられることによるものです。

② 同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、事業譲渡の日から30年の期間内に限り有効とされます(同条第2項)。これは、売り手の営業の自由にも一定の配慮をしたものであるとされています。

③ ①・②にかかわらず、事業譲渡をした売り手は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない(同条第3項)。

 

買い手が競業避止義務に違反する売り手に対して取りうる手段

売り手が競業避止義務に違反している場合、買い手は売り手に対し、競業行為の差し止めを行うことができます(民事執行法第171条第1項第2号)。

また、買い手は、売り手の競業行為により損害を被った際は、損害賠償請求を行うことができます(民法第415条第1項、第709条)。その際、訴訟において、損害の『額』の立証が困難な場合もありますが、買い手としては、金額はともかく損害が発生していることを立証できれば、裁判所が相当な額を認定することができます(民事訴訟法第248条。東京地判平成28年11月11日判時2355号69頁)。

 

【事例】の場合はどうなるか

【事例】では、P社がQ社から譲り受けた事業はECサイトであるため、その商圏は全国にわたります。そうすると、上記①の同一市町村及びこれに隣接する市町村の区域内における競業菱義務の規定が必ずしも機能しません。

しかし、Q社が「不正の競争の目的」をもって新たにECサイトを立ち上げた場合は、上記③の規定によりQ社が競業禁止に違反することがあります。この「不正競争の目的」とは、売り手が買い手の事業上の顧客を奪おうとする目的で譲渡した事業と同種の事業をする場合などに認められます(大判大正7年11月6日新聞1502号22頁)。

【事例】のもととなった裁判例では、P社が譲り受けたECサイトとQ社が新たに立ち上げたECサイトはいずれも同じジャンルの中古衣類の売買を含んでおり、いずれのECサイトもヤフーオークションにおいて販売を行っているなど、Q社がP社と同種の事業を行っていました。

そのうえで、Q社は、

① あたかもECサイトをP社に譲渡した後は同様のサイトを開設・運営しないかのように装いながら、同一の事業を営む目的でECサイトのドメインを取得し、P社に何ら伝えることのないままこれを開設・運営したこと、

② 従来の顧客に対しては、運営主体の変更ではなく単なる「運営方針」の変更によりECサイトを開設した旨のメールを多数送付し、現に被告サイトが本件サイトの「姉妹ショップ」であるとの誤認を生じさせたこと、

から、事業譲渡の趣旨に反する目的を有していたものとして、Q社が「不正の競争の目的」をもって同一の事業を行ったため、競業避止義務に違反したとされました(前掲東京地判参照)。

ただし、何をもって「不正の競争の目的」とするのかは、種々の要素を総合的に認定することになり、M&Aの時点では必ずしも明確とはいえません。

買い手としては、事業譲渡の契約において、競業を禁止する区域について事業の性質に応じたものとすることや、競業を禁止する事業の範囲について、当該事業に関連する事業についても対象とするなどして、売り手が競業をするリスクや紛争となるリスクを少なくすることを検討すべきと考えます。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

社内承継と専門家による伴走支援 ~スモールEBOの可能性 

1.社内承継とは

社内承継とは、「社内にいる親族関係のない生え抜きの幹部社員や役員の中から適任な次期社長を選んで事業を承継すること」(しんきん支援ネットワークHPより)です。

事業承継の主流である親族内承継と、近年スモールM&Aとして脚光を浴びている第三者承継の中間的な承継手法の特徴があるといわれています。

社内承継の承継先には従業員と役員の2通りありますが、今回は従業員による承継にスポットをあてたいと思います。

 

2.従業員による買収~EBO

EBOとは、Employee Buy-Out の略で「従業員(Employee)による企業買収」のことを指します。内部昇格による経営権の譲渡と異なり、承継する従業員がオーナーから経営権と共に保有株式も承継するという特徴があります。

EBOのメリットは、事業内容を熟知した従業員が買収を行うため、事業承継がスムーズに行えるということ、第三者への譲渡とは異なり、経営権の譲渡が社内で行われるため企業文化の対立や従業員の離職などリスクが低く、PMI(Post Merger Integration:買収後の企業統合作業)にかかる負担を抑えることができるという点です。また、株式保有と経営権が一体で承継されるため、株主総会での意思決定と現場の業務執行に齟齬が生じにくいという点もメリットとなります。

一方、デメリットは、会社の株式買い取り資金など事業を譲り受けるための多額の資金を従業員が用意する必要があるため、資金調達面での困難性が高いこと、実務経験豊富な従業員でも会社経営のノウハウは十分ではない可能性が高いことです。

従業員は買収資金を金融機関からの融資やファンドからの出資などにより資金調達することが一般的ですが、承継する従業員の経営能力などに対する審査次第で、資金調達が左右されるためEBOを実行できないことが少なくありません。

 

3.従業員への経営権の委譲~内部昇格

帝国データバンクの調査「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によると、血縁関係によらない役員・従業員などを登用した「内部昇格」による事業承継は31.7%を占め、同族承継の38.3%に次ぐ高い水準となっています。

内部昇格は、経営権の承継のみが行われ株式の承継が行われないという特徴があります。

内部昇格は、経営権のみの承継であるため、承継する従業員は株式買い取り資金が不要となるなど実現が容易であるというメリットがある反面、オーナーが承継後の生活資金を確保しにくいというデメリットがあります。

 

 

4.ファンド、専門家等の第三者を活用したEBO

スモールM&Aという第三者承継の広がりにより、新しい従業員承継の形が広がりつつあります。

第三者がオーナーの株式を買収する一方、現場の業務執行は従業員に任せるという手法です。買手となる第三者は、資金面・経営ノウハウ等を有しているものの、現場の業務執行は店長や事業所長などに任せるという形態をとります。

小売店、飲食店、理容・美容室や学習塾など、店舗・事業所単位で展開している小規模事業者などでは、オーナーが店長や事業所長に現場の指揮を一任しているケースも少なくないため、オーナーが引退した後に、従業員承継は事業継続の有力な選択肢となります。

一方、資金力に乏しい従業員による株式の承継は困難なため、第三者が株式買収のみを実施し、現場の指揮を従業員に委ねるのです。

個人事業主による事業の場合は、株式買収ではなく事業譲受の方式で事業自体は第三者が承継し、店舗運営等は従業員に任せるということも行われています。

単に株式買収や事業譲受をするだけでなく、小規模買収ファンド(※)や経営コンサルタントが承継者となり、従業員を経営面で伴走支援するという方式です。

 

この方式では次のようなメリットがあげられます。

〇オーナーにとってのメリット

・事業承継問題の解決

・創業者利益の実現(引退後の生活資金確保)

〇承継者にとってのメリット

・専門家による経営支援を受けられること

・企業文化を継承できること

一方、デメリットとしては次のような点があげられます。

〇オーナーにとってのデメリット

・最適な買手(ファンド、専門家)探しの困難性

〇承継者にとってのデメリット

・承継後、買手がEXITして別の買手に承継されてしまう可能性

 

まとめ

各都道府県の事業承継・引継ぎセンターでは第三者承継と並んで従業員承継についての相談業務を重視しているほか、各種M&Aポータルサイトでは、様々な専門家が買手として登録しており、買手探しのハードルは低くなってきています。

従業員による承継の可能性が少しでもある場合には、事業承継の一つの“解”として経営ノウハウを持つ専門家や事業承継ファンドを買手として、従業員へ経営権を承継することを検討してもよいのではないでしょうか。

 

(※)北海道中小企業総合支援センターによる北のふるさと事業承継支援ファンドの事例

https://www.hsc.or.jp/hsc_wp/wp-content/uploads/2019/05/furusatoR4_leaf.pdf

FVC地方創生ファンドを活用した事業承継の事例

https://www.fvc.co.jp/service/case.html

 

中小企業診断士 伊藤一彦

事業再構築におけるサイトM&Aの活用法~買手の立場から

 2年以上にわたるコロナ禍の影響で、中小企業の多くが事業の在り方を見直すことを余儀なくされています。こうした中、小売業や飲食業が非接触・非対面のEC事業参入により事業再構築を図ろうという動きが加速しています。今回は、EC事業参入を検討する際に、選択肢の一つとしたい「サイトM&A」の活用にスポットを当てたいと思います。

 

1.事業再構築に欠かせないDX化

事業再構築補助金では、「先端的なデジタル技術の活用」が、審査上の加点項目となっています。それを受けて、小売業や飲食業など店舗型ビジネスでは、新型コロナ対策を目的として、サービスの非対面・非接触化を図る予約システムやキャッシュレス決済システムの導入をはじめ、SNS等によるネットプロモーションの推進やECサイトの活用による販路拡大など、積極的にデジタル技術の活用が進められています。

特に、販売拡大に直結するECサイトの活用については数百万円から数千万円を投じてゼロからサイトの立上げを行う事例も少なくありません。しかし、既存事業と提供する製品やサービスが同じでも、販売手法やプロモーション手法が異なり、接客力や好立地など既存事業の強みを活かせないため、回収には長期の取り組みが必要となります。

 

2.「サイトM&A」の活用可能性

スモールM&Aというと主に、事業承継における第三者承継やスタートアップのEXIT戦略として活用されることが多いようですが、実は、事業再構築目的での活用についても、大きな可能性が秘められています。

もともと、買手にとってのM&Aの最大のメリットは「時間を買う」ことです。固定客を持ち、認知度の高い企業を買収することで、迅速に事業を拡大することが可能になります。これはM&Aの対象が企業ではなく「サイト」であっても同じことです。

ECサイトの中には、既に知名度を持ち、固定ユーザーを抱えているものもあります。こうしたサイトをM&Aにより買収すれば、自社でサイトを構築するより迅速に顧客獲得に繋げることが期待できます。

ECサイトやウェブサイト運営会社について、大手M&Aマッチングサイト2社で検索したところ、分類基準は異なるもののECサイト等が200~300件、WEBサイト・アプリ等が300件前後の登録があり活発なM&Aが行われているようです。

また、国内には10社前後のサイト売買専門業者があり、それぞれ特色のある取引が行われています。例えば、アフィリエイトサイト、ブログ、ECサイト、ポータルサイト、などに加えてAmazon、eBay、YouTube、Twitter、Instagramなどのアカウントを数万円から数十万円という比較的低価格で取引が行われるものから、キュレーションサイト、マッチングサイト、ポータルサイト、ECサイト、SaaS系サービスサイトなどを数千万円から数億円という高価格帯で取引されるものまで様々です。これらのサイト売買専門業者が運営する仲介サイトの多くはマッチングの場を提供するだけでなく、手数料を取って売買の仲介や譲渡金額の算定をしているものもあります。

 

3.「サイトM&A」の特徴

(1)「サイトM&A」は事業譲渡

「サイトM&A」といっても特殊なM&Aではありません。M&Aの対象がECサイトやポータルサイトなど、会社が運営するサイトビジネスという事業が譲渡対象となっているということです。もちろん、会社の事業内容が1つのサイトに特化している場合には「会社譲渡」(株式譲渡)という形でM&Aが実施されることもありますが、主に「事業譲渡」の形でM&Aが実施されています。

 

(2)「サイトM&A」の譲渡価格の算定方法

事業譲渡の譲渡価格は、一般的に譲渡資産の時価の合計にのれん代(営業権)を加えた形で算出されます。ところが「サイトM&A」の場合は、通常、個々の譲渡資産の内訳にかかわらず直近半年程度の「月間平均営業利益の10か月分から24か月分程度」を譲渡価格としていることが多いようです。

ウェブサイトの寿命は短く、また、業界の動きが速いため、会社のように1年単位で業績の評価をせず、月単位の業績をもとにして価格を決定することが業界慣行となっているといわれています。

 

(3)「サイトM&A」の譲渡プロセス

「サイトM&A」には、会社のM&Aとは異なる慣行やプロセスがあります。

例えば、M&Aのプロセスです。通常のM&Aでは、売手・買手間でのNDA締結、意向表明の実施、基本合意書の締結等の後に、デューデリジェンスを実施。売手・買手双方が合意に至ったところで譲渡契約を締結しクロージングするといった流れがあります。

一方、「サイトM&A」では、NDA、意向表明、基本合意書締結といったプロセスを経ずに、ネット上で売手・買手がチャット等を活用して売買交渉を行った後、譲渡契約を締結し、サイトの引き渡しを行っていることが多いようです。デューデリジェンスや譲渡価格の算定について、売買専門業者のサービスを活用して実施するケースが多いため、専門家依存度が高い取引となっているようです。

 

(4)「サイトM&A」の引き渡しと「エスクローサービス」の利用

ウェブサイトの引き渡しは、サイト売買の関係者の間では「ウェブサイトの引っ越し」といわれることが多いようです。引き渡しの際には専門業者が提供する「エスクローサービス」を利用して契約不履行リスクをヘッジします。具体的には、譲渡契約締結後に、まず、買手が専用業者の指定口座に譲渡代金を入金し、専門業者からウェブサイト引っ越しの要請を受けた売手がウェブサイト引っ越しを行い、買手の検収が完了したところで、専門業者が売手の口座に資金を入金するというものです。

「ウェブサイトの引っ越し」の際に重要な作業は、「サーバー移行」と「検収」です。

「サーバー移行」とは、売手から買手にドメイン移管やサイトデータの引き渡しを行った後、買手が指定するサーバーへデータ移行を行い、買手は動作確認後にドメインの紐付けを移行先サーバーへ切替えるという一連の作業です。失敗するとサイトが表示されなくなったり、最悪の場合データが消えてしまったりするため、専門業者に委託してリスクを回避することも重要な選択肢となります。

「検収」とは、買手により譲渡されたウェブサイトの内容が事前説明と相違ないかを確認する作業です。通常、数日から数週間かけてチェックが行われます。収益面ではアクセス数やコンバージョン比率、安全面では動作の安定度やバグ、セキュリティの高さなど、引き渡しを受けた後でないとわからない点を検証するのです。

 

4.まとめ

毎月の収支が安定しているウェブサイトのM&Aを行った結果、事業再構築後の収支改善の見通しが立てやすくなるなど、「サイトM&A」の活用により大きなメリットを獲得できる可能性がありますが、中小企業ではウェブサイトの運営に必要な人材やノウハウが不足しているため、「サイトM&A」に踏み切ることに躊躇せざるを得ないという方も少なくないのではないでしょうか。

次回は、どの様な点に留意すればリスクを抑えつつ、「サイトM&A」を進められるのか、売買取引の前後に気を付けておきたいポイントについて、ご説明したいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

 

担当者が最初に知るべきこと「誰に、いつ、何を、どのよう様に相談するのか?」

みなさまこんにちは、例年よりも遅いようですが、全国各地で入梅しつつありますね。うっとおしいと感じられる方も多い梅雨ですが、北海道へ退避するか?それともお気に入りのレインギアを手に入れて、のんびり過ごすか?あなたはどちら派でしょうか。

本日は、M&A新任担当者が、「M&Aを成功させるためにいったいどのように外部専門家のリソースを活用すべきか?」、について買い手側の視点に立って一緒に考えていきましょう

 

対象企業の探索とともにパートナー専門家も探しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、対象企業の方向性を絞ることが最初のお仕事ではあるのですが、それと同時並行で進めるべきなのが、パートナー専門家の探索です。

なぜなら、これから始まる情報収集の過程において、さまざまな関係者や専門家とお会いすることになります。そこでは、あなた以外は、みなM&A業界人なのです。専門用語もある程度飛び交うでしょうし、立場による視点の違いも加味してお話を聞く必要も出てきます。ネットや専門書を駆使して調べることも必要ですが、できれば、同時通訳ほどではないにしても、ある程度の即時性を持って自社の事情も加味した内容でレクチャーを受けたいものです。そのような背景からあなたのパートナーとして活躍してくれる専門家の探索をおすすめしたいです。

では、M&Aの専門家にお願いするお仕事にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

M&Aで頼りにしたい専門家の領域

M&A案件の推進に関して助言や支援を行う専門家を総称してファイナンシャル・アドバイザー(以降FA)と呼んでいます。FAによる支援サービスは、特に公的な資格もありませんので、士業やM&A専門会社だけでなく銀行や証券会社なども提供しています。

案件が進むに連れてFAの重要度が大きくなりますが、具体的には、以下のような業務をお願いすることになります。

 

①財務面、②法務面、③会計・税務面、④人事面、⑤その他、ビジネス面全般

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

①財務面

財務面というとお金の手配というように捉えられると思いますが、お金だけにとどまりません。なぜなら、買収と言っても事業だけを買い取る“事業譲渡”以外にも、相手の株主に対して自社の株式を交付して交換する手法もあり、様々なスキームがあるからです。その中から現在、及び将来の自社にとってもっとも良い方法を提案・検討するのが、この財務面のお仕事ということになります。

また、経営統合後の再投資や運転資金など、数年間の必要資金がどのように推移する見込みなのか?どのように調達するのか?などの検討から、借り入れの支援まで多くの場面で支援を受けるべきケースがあります。

 

②法務面

こちらは、その名の通り、法律に関する業務になります。大きくは2つに分けられます。1つは、自社がいろいろな手続きや契約を進める上で必要になる法律上のチェックや、相手方との契約内容の妥当性のチェックです。もう一方は、対象企業がこれまでの事業運営において、法律上の問題を抱えていないか、事業運営上必要な規制を守れているか、許諾や免許などをきちんと整備しているか?それらの是正に必要なコストはどれくらいか?などを確認する業務があります。

また、相手側との交渉をあなたが当事者として直接行うのであれば問題はありませんが、代理人として専門家に依頼したいのであれば注意が必要です。なぜなら、弁護士以外の代理人にお金を支払って、交渉事を依頼することは禁止されているからです。

 

③会計・税務面

こちらは、経営統合を進めるにあたって発生する会計処理や決算業務に関するものになります。になりますし。会社全体の経営統合であれば、二社それぞれの会計処理・決算をどのように処理するのか?など、検討することも2倍になります。

 

④人事面

人事面についての業務は、顧客や事業の一部譲渡にとどまらず、相手方従業員ごと引き受ける場合に発生します。こちらは、転籍や処遇(過去とこれから)といった制度・手続きだけでなく、組織文化などの意識合わせなど、さらに大きなテーマへの関連性も検討する必要があります。

 

⑤その他ビジネス面

こちらは、ここまで出てきた専門家に併せて依頼するのか、できれば別で検討したい役回りです。なぜなら、自社の実情に沿った助言を伴走型で受けることを期待したいからです。M&A計画全体との整合性や各専門家の取りまとめ、進捗管理などにとどまらず、M&A終了後に始まる経営統合活動への支援など、重要な業務は今後も数年間にわたり続きますので、全体を広くカバーでき、調整能力を持つ専門家に依頼すべきです。

 

気になるFA費用の相場は?

さて、このような頼れる専門家に伴走してもらうには、どれくらいの費用が必要となるのでしょうか?

専門家の料金体系は、一般的には①着手金(リテイナー・フィー)と②成功報酬となっていることが多いようです。

着手金は、専門家次第ですので、一概には言えませんが、一般的なコンサルタントの顧問料として検討することになります。つまり、数十万円×関与月数または、関与期間を見越した一括着手金として数百万円、を提示される金額がスモールM&Aの相場と言えそうです。

成功報酬には、“レーマン方式”と呼ばれる料金表を採用することが一般的です。料金算定は、買収企業の企業価値×料率となっており、企業価値の大きさによって0.5%~5%程度が目安です。我々スモールM&Aの現場では、企業価値5億円以下5%を目安として考え、どこかの段階で金額交渉をして固定しておくことがおすすめです。なぜなら、企業価値に応じた料率とすると、専門家のフィーが変動することとなり、買収金額が高くなる(企業価値が高まる)とフィーが上がるとなると、費用を抑えたい企業担当者との関係性もおかしくなることがあるからです。

 

まとめ

今回は、M&A新任担当者がスムーズな案件対応を実現するためにどのような専門家を頼りすればよいのかについてお話しました。

大手では当たり前の外部専門家チームですが、我々スモールM&A案件では、そこまでの間接費用をかけることは現実的ではありません。私のおすすめは、伴走型で取り組んでくれるマルチプレイヤー的な地元密着型専門家を選定することです。

この記事に出会ったことを良い機会に、まずは、お近くの商工会や商工会議所、金融機関、よろず支援機関(https://yorozu.smrj.go.jp/)を頼りに情報収集を進めてみてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画③

経営改善計画を策定する際の金融機関の支援

前回に引き続き、経営改善計画について解説します。これまで解説してきたように、経営改善計画は、窮状にある企業が事業の見直しを行い、経営の改善を目指すものです。経営の改善を行うためには、事業の収益性等の検討とともに、財務状況の改善が必要となり、金融機関による支援も不可欠といえます。

金融機関による主な支援としては、リスケジュール、DDS、DES、債権放棄があります。

リスケジュールとは、債務の元本又は利息の支払い期限の延期を行うことをいいます。一定期間返済が猶予されれば、その間、企業の資金繰りに余裕が生じ、事業の改善を行うために必要な投資などが可能となります。そのうえで、事業の改善により収益性が向上することで、返済のための資金も確保できるようになることを目指すのです。そして、リスケジュールは、債務の額そのもの(少なくとも元本)が減額になるわけではありません。このため、金融機関にとって比較的行いやすい支援といえ、特に中小企業や小規模事業者では金融機関による基本的な支援の方法となっています。

DDS(デット・デット・スワップ)とは、金融機関が有する既存の債権を他の一般債権よりも返済順序の低い劣後債権に変更することをいいます。後述するDESとは異なり、企業の実質純資産とはならないものの、元本の返済が一定期間猶予されることになるため、リスケジュールと同様に一定期間資金繰りに余裕が生まれることとなります。他方で、金融機関としてもDDSを用いることで所定の条件を満たせば自己査定の際に資本とみなすことができるというメリットがあります。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、金融機関が企業に対して有する債権を現物出資して株式を取得することをいいます(債務の株式化)。DESが行われると企業は債務の返済を行う必要がなくなるのでそのメリットは非常に大きいといえます。他方で、金融機関からすると、DESは「融資から投資」となり、回収は配当や株式の売却によることとなります。したがって、企業が非上場の場合、その回収は容易ではないことから、DESによる金融支援を企業が得るのは困難な場合が多いといえます(ただし、金融機関が税務上の欠損金を超える額の債権放棄を行う場合は、債務者たる企業に債務免除益が発生し、課税の対象となるリスクがあることからDESを活用することはありえます。)。

債権放棄とは、金融機関が企業に対して有する債権を放棄することをいいます。金融機関からすれば、債権放棄は債権の回収が不能になるという意味で最も厳しい金融支援となるため、債務者たる企業にも経営者責任、保証人責任、企業の代表者個人の私財提供等といったさまざまな課題を解決することが求められます。

 

金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング

経営改善計画を成立させるためには、基本的には支援を行うすべての金融機関の同意を得ることが必要になります。そして、各金融機関の同意を得るためには、各金融機関との情報の共有や公平性の確保、手続の透明性を確保する必要があります。そのための手段として用いられるのが、金融機関を一堂に集めて行うバンクミーティングです。

バンクミーティングは、①経営改善計画の内容や金融機関への支援案の説明を行うとき、②金融機関が経営改善計画への同意表明を行うとき(おおむね①から1か月後)の少なくとも2回開催されます。

バンクミーティングには、企業と金融機関のほか、認定支援機関が関与している場合は認定支援機関も出席します。また、金融機関が信用保証協会を利用している場合は信用保証協会も出席します。

最初のバンクミーティングにおいて、金融機関からさまざまな意見が出されることもあります。その際、場合によっては個別に金融機関と交渉を行うことが必要となることがあります。(なお、その際の交渉を弁護士でない認定支援機関が行うと弁護士法第72条違反となります(いわゆる非弁行為)。)

 

計画策定後のモニタリング

金融機関の同意を得ることができ、経営改善計画が成立したとしても、それがゴールではありません。なぜならば、あくまで経営改善計画の策定は「手段」であって、当該計画を実際に実行し、経営の改善が行われることが本当の「目的」であるからです。そして、経営改善計画はあくまでも「計画」である以上、実行するなかで、修正を行う必要が生じる場合もあるでしょう。

そこで、経営改善計画の進捗の把握・分析を行い、必要に応じて修正を検討することが必要となってきます。この進捗状況の把握・分析及び修正の検討の過程をモニタリングといいます。

モニタリングは月次又は四半期単位で実施することが想定されていますので、経営改善計画の策定の際は、月次又は四半期単位での計数計画を策定しておく必要があります。そして、モニタリングにおいて目標を達成できていないことが明らかになった場合は、金融機関と情報を共有して対応策を検討していくことになります。なお、経営改善計画の策定に認定支援機関が関与している場合は基本的に認定支援機関がモニタリングにおいて中心的な役割を担うことが期待されています。

 

経営改善計画の流れをつかむ

これまで3回にわたり経営改善計画について解説をしてきました。何のために経営改善計画を策定するのか、経営改善計画にはどのような内容を記載するのか、経営改善計画はどのようなプロセスで策定され、その後の流れはどうなるのか等についてざっくりとしたイメージを持っていただくことができれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

企業に寄り添う認定支援機関

企業の経営において課題が生じたときに誰に相談するか

企業の経営においては、資金計画のほか、新製品開発、新規事業立上げ、売上拡大などさまざまな課題が日々発生します。これらの経営課題に対しては、自社だけで立ち向かうよりも、他の企業の取組事例や専門的知識が豊富な外部の専門家等による支援を得ることで、よりよい成果を上げることができます。

そこで、今回は、企業の経営課題の解決を支援するための制度である認定経営革新等支援機関(以下「認定支援機関」といいます。)について解説します。

 

認定支援機関とは何か?

認定支援機関とは、経営革新等支援業務を行うために必要な専門的知識や実務経験等を有しているとして国によって認定された個人・法人をいいます(中小企業等経営強化法第31条第1項)。

ここでいう「経営革新等支援業務」とは、以下の業務を言います。

① 経営革新を行おうとする中小企業又は経営力向上を行おうとする中小企業等の経営資源の内容、財務内容その他経営の状況の分析

② 経営革新のための事業又は経営力向上に係る事業の計画の策定に係る指導及び助言並びに当該計画に従って行われる事業の実施に関し必要な指導及び助言

すなわち、認定支援機関とは、企業の経営課題解決に必要な財務・税務などの専門的知識や実務経験が一定の水準以上であることを国が認定し、企業が安心して支援を受けることができるようにすることを企図した制度です。

 

認定支援機関に認定されているのはどのような機関か

平成31年3月31日時点で、2万4158機関が認定支援機関として認定を受けています。

認定を受けているのは、税理士・税理士法人が多数を占めていますが、公認会計士、中小企業診断士、弁護士なども認定を受けています。また、銀行や信用金庫といった金融機関や商工会議所・商工会も認定を受けています。個人・法人や業種を問わずさまざまな属性を持つ機関が認定支援機関として認定されており、それぞれが持つ強みを活かして企業の支援をしていくことが可能となっています。

なお、税理士や中小企業診断士などの資格を保有しているからといって、当然に認定支援機関に認定されるわけではなく、一定の実務経験又はこれに代わる研修・試験の合格が必要とされています。このほか、近時の制度改正により認定支援機関の認定は5年の有効期間があり、期間満了時に改めて業務遂行能力の検証が行われることになりました。

 

認定支援機関はどのようにして探せばよいか

既に述べたように、さまざまな機関が認定支援機関に認定されているため、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていることも少なくないと思います。

また、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていない場合や、第三者的な視点での支援を受けたい場合などは、中小企業庁のウェブサイトにある認定支援機関検索システム(https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea)を使うことで全国の認定支援機関を検索することができます。この検索システムでは、各認定支援機関の属性のほか、これまで行ってきた支援の実績なども確認することができます。

 

認定支援機関はどのような支援を行うか

では、認定支援機関は具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

認定支援機関が企業に対して行う典型的な支援として経営改善計画の策定をあげることができます。

金融機関からの借り入れの返済など資金繰り上の課題を抱える企業が、経営改善計画を策定することによって、収益性の改善や借入の返済の見直しを行うため、経営改善計画を策定します。経営改善計画の策定においては、当該企業の現状や課題を分析し、いかなる次期にどのような取り組みによって課題を解決していくかを検討していきます。その際、認定支援機関が助言や計画案の作成などの支援を行います。また、当該経営改善計画が策定されたのちも、計画どおりに取り組むことができているかのモニタリングについても認定支援機関が行います。

そして、これらの支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業))。

このほか、事業再構築補助金を申請する際には、認定支援機関が企業による事業計画書の策定に関与し、当該事業計画が事業再構築指針に沿った内容であること確認することや、事業者の事業遂行や成果目標の達成に関する支援に取り組むことを誓約することが必要となっています。このように補助金などの施策を利用する際には、認定支援機関の支援が必須となっている場合もあります。

 

まとめ

最初は「補助金の申請をする際に必要とされているから」などと比較的消極的な理由で認定支援機関による支援を受けるという企業もあるかもしれません。

しかし、外部の専門家などから新たな視点での助言や考え方を得ることが、悩ましい経営課題を解決するために第一歩となるかもしれません。

本稿が企業による認定支援機関の利用のきっかけとなれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

 

ご存じですか?!国がスモールM&Aを検討段階から補助金で支援してくれます。その1

諸外国と比べて遅れる企業の新陳代謝

中小企業白書によりますと、日本の開業廃業率は、2000年代に入り緩やかな上昇傾向で推移してきましたが、足元では再び低下傾向となっています。直近データ(2019年度)によりますと、開業率が4.2%、廃業率が3.4%となっており諸外国と比べて相当低い値となっています。二つの数値ともにコロナ禍の先行きがある程度見通せ、対策予算が止まった段階で廃業率が上昇すると考えられています。

 

廃業費用への支援もあり、売り手と買い手のwin-winを実現

国は、我が国の大切な経営資源が消滅してしまわないよう全力で支援する方針です。その代表的な施策が、本記事で紹介する「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)」です。本補助金には、【Ⅰ型】買い手支援型、【Ⅱ型】売り手交代型の2種類があり、これまでの常識では、考えられなかった経費まで補助の対象として認められるようになっています。また、買い手側だけではなく、売り手側の廃業費用といったそもそも投資ではないものにまで補助事業として認められているところに、国の本気度が感じられます。

 

ツナグ:買い手と売り手のどちら側になっても支援が受けられるんだね。といっても誰でも受

けられるわけじゃないみたいだ。僕のアイデアは対象になるのかな?

 

そうですね。スモールM&Aならなんでもよいというわけではありません。

【Ⅰ型】買い手支援型の条件としては・・・

「事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること。事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。」と概要欄に書かれています。つまり、単なる不動産や財産の売買ではなく、事業承継によって経営資源を譲り受けることで既存事業とのシナジーがあり、相当程度の成長が見込め、地域雇用や地域経済の発展に寄与することが求められています。

【Ⅱ型】売り手支援型の条件としては・・・

「事業再編・事業統合等に伴い自社が有する経営資源を譲り渡す予定の中小企業者等であり、以下の要件をみたすこと。地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。」と概要欄に書かれています。つまり、開店休業状態の事業の譲り渡しは対象外となっていると理解できそうです。国として次世代に引き継ぐべき経営資源に限定した支援策ということでしょう。

 

M&Aマッチングシステムの利用料から補助してもらえる!

ツナグ:なるほど、このあたりは、計画書作成の時のポイントになりそうだな。ところで、肝心の補助してもらえる経費はどうなってるんだろう?

 

補助対象経費には、買い手・売り手の共通経費としては、専門家への謝金や旅費、外注費、委託費などの外部支援に加えて、バトンズなどの事業承継支援システムの利用料まで含まれています。つまり、情報収集から相手先との交渉やDDまで含めて支援を受けられる可能性があるということです。

また、売り手側には、これらに加え、廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費などもカバーされています。これまでなら、手元のキャッシュがないために廃業や譲渡ができなかった事業者に対しても実態に沿った手厚い支援が用意されていると言えるでしょう。

いずれも、補助金額は、50万円~400万円となっており、補助対象経費の3分の2となっています。加えて、売り手側には、追加で200万円の上乗せが認められています。これが、在庫処分や物件解約に伴う原状回復費用など廃業費用となります。ただし、この廃業費用への上乗せ補助は、補助事業期間内に事業承継が終わらなかった場合は、補助対象外となりますので、注意が必要です。

 

専門家ってどこにいる!?

ツナグ:専門家への相談費用も補助されるんだ?!どころで専門家って誰?M&Aアドバイザーさん?ぼくは一体どこへ相談に行けばいいんだろ?

 

M&Aを専門に活動されている専門家は、たくさんいますので、ネット検索で見つけることもできますし、商工会議所やよろず支援拠点などに相談することもできます。ただし、探し始めるとたくさんの専門家がいたり、専門家とのトラブルの情報に触れたりして不安になることもあると思います。そんなツナグさんのような方向けの施策として、国は、今秋にM&A専門家の登録制度と支援に関する相談窓口を新設することにしています。ここで紹介している補助金も、次回の募集からは、この新しい制度に登録している専門家への相談にしか補助が出ませんので特に注意が必要です。専門家へ相談する際は、かならずこの新しい制度に登録しているかどうかを事前確認してください。

 

採択率は、他の補助金と比較して高め!?

ツナグ:つまり、M&A関連事業費としては75万円~600万円(廃業費用の上乗せとして300万円)が上限金額というわけか…。タイミングさえ合えばぜひ活用してみたい補助金だね。でもこんな手厚い補助金だと採択率が低くて、狭き門になっているんじゃないのかな?

 

2020年度とは、制度が若干変更になっていますので一概に比較はできませんが、採択率は、以下の通りでした。

事業承継補助金の採択率(2020年)

・Ⅰ型 後継者承継支援型:77%(申請455件、採択350件)

・Ⅱ型 事業再編・事業統合支援型:61%(申請194件、採択118件)

 

経営資源引継ぎ補助金の採択率(2020年)

・1次採択結果:79%(申請1,373件、採択1,089件)

・2次採択結果:80%(申請690件、採択550件)

 

すぐにできることは3つ!

ツナグ:ほかの補助金と比べても採択率が高い印象だね。それだけ国も力を入れているってことかな。さっそく僕も取り掛かりたいけど・・いったい何から手を付ければいいんだろ。

 

売り手側、買い手側、どちらもまずはじめにやっていただきたいことは3つあります。

1つは、電子申請が必須となっていますので、gBizIDプライムの取得です。ほかの補助金もどんどん電子申請に一本化される傾向にありますし、これを機会に取得だけでも先に進めておいてください。ただし、取得まで2~3週間程度かかる時期もありますのでご注意ください。

次に、M&A支援サイトへの登録や専門家などへの相談を活用した情報収集をスタートさせることです。近年、M&A市場は、どんどん拡大し、活性化していますが、マイカーやマイホームと比較しても流動的でクローズドな一面もある市場です。まずは、情報収集から始めてください。

最後に、公募要領の熟読です。自社の取り組みが補助金の交付ルールに合致しているのかどうか、どのような手順で進めなければならないのか?など確認をしながら進めてください。

 

ツナグ:なるほど、昨年よりもパワーアップしたようだし、なんとかうまく活用して僕のビジネスをスケールさせる絶好のチャンスにするぞー!!

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也