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売り手の確保につながるか?―大阪産業局の挑戦

売り手が不足しているM&A市場

企業の後継者の確保ができない場合に、事業承継を行う一つの方法としてM&Aがあることはいうまでもありません。

しかし、実際に事業承継の場面でM&A市場を見てみるとあることに気づきます。それは、企業を買いたいという買い手は比較的多い一方で、企業を売りたいという売り手は必ずしも多くはないということです。

買い手にとっては、新規事業を開始するのはもちろんのこと、自社の既存事業の対象地域を拡大したり、上流に進出したりする場合であっても、「ゼロイチ」、すなわちゼロから事業を立ち上げるのはリスクがあるうえ、十分なノウハウや顧客などを獲得するのには時間や労力がかかります。このため、ある程度事業について実績のある企業をM&Aによって取得することは経営戦略としても合理的なものといえ、買い手のニーズは堅調である印象があります。

他方で、売り手の立場からすれば、そもそも自分がいままで手塩にかけて育ててきた企業を売却すること自体、相当に重い決断を強いられることになります。特に自分が起業したのではなく、代々続いてきた企業を売却することを決断する社長が苦悩することは十分に理解できるところではないでしょうか。また、仮に自社をM&Aによって売却してもよいという決断をしたとしても、M&Aで売却した後も自社の企業の経営を安定的に継続してもらいたいとの思いから買い手を慎重に選ぶ傾向もあるように思われます。

このように中小企業のM&Aでは、売り手は慎重な判断をする傾向があることから、売り手を確保することが課題となっているように思われます。

 

大阪産業局の取組み

このような課題に対し、大阪産業局が令和4年度から「インターネット《事業引継ぎ支援》プロジェクト」(以下「本施策」といいます。)という興味深い取り組みをしています。(大阪産業局とは、大阪市と大阪府による中小企業支援組織で、平成31年4月に大阪府の大阪産業振興機構と大阪市の大阪市都市型産業振興センターが統合してできた公益財団法人です。)

本施策は、大阪産業局が大阪府から委託を受けて行うもので、登録専門家のアドバイスを通して、M&Aや事業譲渡を検討している企業の経営者がM&Aプラットフォームへ登録できるようにサポートするものです。

ここにいうM&Aプラットフォームとは、大阪府が連携協定を締結した株式会社M&Aサクシード、株式会社トランビ、株式会社バトンズが行っているM&Aのマッチングサイトをいいます。

 

登録専門家が行う支援

登録専門家は、中小企業診断士や税理士といった士業のほか、商工会議所なども含まれます。M&Aで会社の売却を検討している企業の経営者に対し、登録専門家が、会社概要の作成方法や株価算定などによる妥当な資産価値、アピールポイントなどをアドバイスします。また、登録専門家が、M&Aプラットフォームに企業を登載した後、どのような流れで進めていくのかについての説明を行うことも本施策には含まれています(ただし、M&Aプラットフォームに登載後に具体的な案件として進めていく場合の助言などは本施策の対象外となっています。)。

登録専門家は、大阪産業局が実施する研修を受講し、所定の試験に合格することなどが要件となっており、一定の質の確保が企図されています。

そして、登録専門家の報酬は、大阪産業局にて負担し、企業が負担することはありません。また、相談したい登録専門家がいない場合は大阪産業局が登録専門家を紹介することも可能となっています。

なお、本事業の対象となる企業は、①事業譲渡を検討している中小企業者又は小規模事業者であることのほか、②大阪府内に本店または事業所があることが要件となっています。

 

売り手の確保につながりうる施策に

そもそも特定の企業が行っているインターネットのプラットフォームに登載することについて、公的な組織である大阪産業局が予算を確保して関与するということ自体、M&Aによる事業承継において売り手がまだまだ少ないことを強くうかがわせるものといえます。

施策によって、登録専門家が自社を売りに出すことに抵抗がある企業の経営者に事業承継の重要性について説明をしたり、そもそも自社について買い手がいるのだろうかと不安に思っている企業の経営者に自社の強みを発見してもらったりすることが可能になり、売り手の確保に一定の期待ができるものと思われます。

大阪産業局による新たな挑戦ともいうべき施策により、M&A市場に多くの売り手が登場して活性化することはもちろんですが、少しでも多くの企業が後継者がいないことによる廃業を回避するきっかけになることを願ってやみません。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久