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意外とシンプルな会社の値段の決まり方 その1

あっという間に今年も残すところ1ヶ月半。いろいろなM&A案件のニュースがありましたが、みなさまにとって、今年はどんな一年だったでしょうか?

企業買収に関するニュースで最も注目されるのは、その買収金額。一般市民向けのニュースでは、M&Aの目的や、事業計画などはさておき、お金の話だけが独り歩きします。買収金額は、注目度も高く報道したくなる気持ちもわかりますが、いろいろと複雑なプロセスや交渉を経た結果であるにも関わらず、買収金額だけがフォーカスされるのは、買収担当者としてはとても複雑な心境です。

結論は、お互いの合意。

最初から、こんな風に書くと叱られそうですが、実際、世の中のすべての取引は、お互いが納得していれば、いくらでも成り立ちます。それは、価格の決め方にいろいろな方法があり、価値の感じ方は多様だからです。

例えば、クレヨンと口紅。この二つの商品の原材料は、ほぼ同じだそうです。しかし、その値段は何十倍も、場合によってはもっと大きな違いがあります。それでも、今日もどこかで誰かが売買していますし、トラブルになった話は聞いたことがありません。

お互いの間では、次のようなやり取りがあるのです。

買い手:「これは、いくらですか?」

売り手:「100円です。あなたにとってこれには、○○という価値があります。だから100円でも安いですよ。」

買い手:「なるほど、確かに、✕✕と考えると妥当だな。では、買いましょう」

となっているわけです。

企業の売り主は誰?

さて、皆様に質問です。「企業はその会社の社長から買うのでしょうか?」

答えは、「NO」です。厳密にいうと、企業買収とは、その会社の株主から“株式”を買う行為なのです。しかし、スモールM&Aの現場では、企業は、その会社の社長から買うことが大半です。これはどういうことなのでしょうか?

それは、小さな会社では、社長=株主であることが大半だからです。同族経営の会社では、少なくともその一族の人たち数人で株式を持ち合って会社を所有し、運営しています。だから、売り手がその会社の社長さんや役員さんとなることが多いのです。

では、次の質問です。「株式の売値は、売り手である株主が自由に決めてよいのでしょうか?」

この質問に対する答えは、基本的には「YES」。しかし、実際には、大口の債権者である金融機関の意向などを無視して、売却価格を決めることにはリスクが伴うこともあり得ます。スムーズなな取引のためには、事前に彼らに相談をしたり、助言を受けたりするほうが良いでしょう。

会社の価値(値段)=株主価値+債権者価値と言われる背景にはこのような事情があります。

そして、この株主価値の決め方に何通りもの方法、考え方があるため、会社の価値に絶対的な基準はなく、ある時点でのお互いの合意の上で決まるものなのです。

では、お互いが合意できる価値は、どのように決めるのでしょう?企業価値の相場を決める3つの代表的な考え方をお伝えします。

買収金額を決める一番簡単な方法。簿価純資産法

買収金額を決める一番簡単な、わかりやすい方法が、ここまでお話してきた「簿価純資産法」と言う“コスト・アプローチ”型の手法です。その名の通り、コストを積み上げたものを買収金額にする方法です。

一言でいうと、貸借対照表の合計金額です。例えば、50万円の現金と50万円の社用車がある会社の総資産は、100万円です。そしてこの会社の価値を100万円とする方法です。しかし、ちょっと待ってください。簿価50万円の自動車は本当に50万円で売れるのでしょうか?もし、その車が、マニアを喜ばせるような希少車なら、中古車市場でもっと高い値段で取引されるでしょう。また、逆に、普通の乗用車なら簿価50万円でも、中古車市場では、30万円くらいでしか引き取ってもらえない可能性があります。これらの要素を加味した計算方式を「修正簿価純資産法」と言います。

しかし、貸借対照表の総資産は、このように実勢価格とはフィットしていないことが多いものです。ですから、この考え方だけを指標に買収金額を決めることはほぼありません。

そのデメリットをなくすための考え方が、「時価純資産法」です。会社が持っている財産の市場価格(時価)から、借入金の時価額を差し引いたものになります。仮に先程の会社が40万円の借り入れをしているのであれば・・・

現金+社用車時価―借入金となり、金額は、50万円+30万円―40万円=40万円となります。なんとなく妥当な金額と感じるのではないでしょうか?

しかし、実際の会社では、設備の時価を計算することは難しいですし、売り手にとっては、これまで生計を立てていた商売をそんなに安く売ることはできないでしょう。

では、売り手が主張したい企業価値にはいったいどんなものがあるのでしょうか?

会社は金の卵を生むにわとり。インカム・アプローチ法

売り手である会社オーナーは、会社を金の卵を生むにわとりであると考えることもできるでしょう。ソフトバンクの孫さんも以前、決算会見で同様のことを仰っていました。もちろん、これは、経営資源が潤沢にあって、順調に経営ができているときに限った話ですが・・。

つまり、会社は、順調に経営ができていれば、毎期一定の収益を得ることができる“仕組み”であるといえます。この定期的に得ることのできる収益を根拠に、売買金額を計算する方法が「インカム・アプローチ法」です。代表的なものが「DCF法(ディスカウントキャッシュフロー方式)」です。

このDCF法は、将来獲得すると見込まれるキャッシュフローに対して、利子などを用いて現在の価値に算定し直し、会社の価値を算出する方法です。ただ、未来のことは誰にもわかりませんから、将来のキャッシュフローの見通しを立てる段階で、計算者の主観に左右される点に課題があります。

その課題を解決するために、“モンテカルロシミュレーション”を利用して複数の不確実要素を織り込む「モンテカルロDCF法」という手法もあります。また、将来の資本構成の変化(負債の増減)が予測される場合は、それを織り込んで計算するAPV法(アジャステッド・プレゼント・バリュー)という手法や、将来の予想配当から、現在の理論株価を算出し、それを会社の価値とする「配当割引モデル」というものもあります。少し難しい話になってしまいました。

他の人はもっと高く買ってくれるらしい。マーケット・アプローチ法

このように、会社の価値を算出する方法は、様々な手法が存在します。なぜなら、人間の価値観は人それぞれですから、会社のどの部分に価値やリスクを感じるかは買い手によって違います。例えば、購入した会社が生み出す収益には価値を感じていないが、持っている設備や技術やブランド、顧客と自社の事業に大きなシナジーが見込まれる。となれば、他の買い手の一般的な評価はまったく無意味になってしまいます。

そんな多種多様な判断が無数に集まる場所が市場であり、その取引実績を元に企業価値を算出する方法が、「マーケット・アプローチ法」です。

上場企業であれば、日々、株式が市場で取引されていますので、一定期間の取引株価を参考にする「市場株価平均法」という手法があります。また、似たような会社の株価倍率を参考に計算する「類似会社比較法」、過去のM&A取引を参考に価値を計算する「類似取引比較法」など広く市場の評価を参考にする方法があります。これらは、相場ですので、私達にも身近に感じる計算方法と言えるでしょう。

 

まとめ

これだけいろいろな価値算出方法があり、少し難しく感じた方もおられるかもしれませんが、極端なことを言うと、中古の自家用車や居住用住宅を購入する場合と同じと考えても差し支えはないでしょう。なぜなら、自動車や住宅の中古市場では、たくさんの物件が流通しており、相場が出来上がっているからです。つまり、マーケット・アプローチ法だけでもみんなが納得できる取引が成立しています。

しかし、中小企業の場合は、まだ流通市場がしっかりと形成されていませんし、同じ企業が二つとないため、みんながこぞって、いろいろな計算方法を編み出しているとお考えください。

実際の現場では、M&Aの当事者たちが、複数の計算方式で算出された価値を根拠に、結局は話し合って妥結したものが会社の価値となり、取引に使用されることになります。

ぜひ一度、自社の価値を算出してみてはいかがでしょうか?その過程で、企業価値向上のヒントが得られるかもしれません。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也