第二会社方式を活用した事業再生を検討してみませんか?
収益性が高い事業のみを残すことができる第二会社方式
会社全体でみれば債務超過に陥っており経営が苦しい状態であっても、その会社が行っているすべての事業が赤字であるとは限りません。債務超過に陥っておりこのままでは破産に至る可能性が高い会社でも収益性が高い事業(以下「優良事業」といいます。)があることもありえます。このような場合の事業再生の方法として第二会社方式という手法が用いられることがあります。
債務者である会社にとっての第二会社方式のメリット
第二会社方式とは、会社の事業のうち優良事業の全部又は一部を、事業譲渡や会社分割によって別の会社(以下「新会社」といいます。)に承継させたうえで、事業譲渡や会社分割を行った会社(以下「旧会社」といいます。)自体は、特別清算(会社法第510条)などによって消滅する方法をいいます。
すなわち、第二会社方式を用いれば、収益性の低い事業を(以下「不採算事業」といいます。)を切り捨て、優良事業のみで新たなスタートを切ることができます。
また、それまで旧会社が負っていた不採算事業に関する債務もなくなるので、債権者から債務免除を受けたのと同様の効果を得ることができます。そして、第二会社方式により旧会社の簿外債務のリスクについても、基本的には遮断できるため、新会社に資金提供をしようとするスポンサーも、新会社に安心して協力することができます(このほかに、第二会社方式には税制上のメリットなどもありますが、本稿では省略します。)。
残存債権者にとってもメリットがある第二会社方式
第二会社方式は「おいしいところ」だけを残すという意味で、債務者である会社にとって都合の良い方法であるといえます。このような説明をすると、「第二会社方式は、債務者(会社)にメリットがある一方、不採算事業に関する債権者(金融機関など)には迷惑なものである」と考える方もいるかもしれません。
しかし、実は、第二会社方式は不採算事業に関する債権者にもメリットがあります。
というのも、債権が回収できない場合、当該債権は貸倒損失となり、損金算入ができます。この点について、仮に旧会社が何らの清算をすることなく事実上の事業停止となると、本当に債権の回収ができないのか(すなわち貸倒損失であるのか)の認定が困難になる場合があります。ところが、第二会社方式は特別清算等の清算手続が行われるので、不採算事業に関する債権の回収が困難であることが明確になり、確実に損金算入を行うことができるのです。
また、旧会社は優良事業の事業譲渡や会社分割の対価を取得します(なお、会社分割の場合は、新会社の株式が対価となりますが、当該株式をスポンサーが買い取ることにより現金化することとなります。)。したがって、第二会社方式が行われるからといって当然には不採算事業に関する債務の弁済の原資が失われるとはいえないのです。
法的には債権者の同意がなくても第二会社方式は実行できる
ところで、事業譲渡は特定承継であることから、旧会社の債務を新会社に承継しない限り、事業譲渡について債権者の同意が必要となることはありません(民法第472条参照)。
また、会社分割では、分割後に旧会社に債務の履行を請求できない債権者に対しては、債権者に対して異議申立てができる旨を官報等に公告等をしたうえで、債権者が異議を申し立てた場合は、弁済や担保提供等を行う必要があります(債権者保護手続。会社法第810条)。逆にいえば、分割後であっても旧会社に対して債務の履行を請求できる債権者に対しては債権者保護手続を行う必要がありません。
したがって、事業譲渡と会社分割のいずれの場合であっても、不採算事業に関する債権者が有する債権が新会社に移転しない場合は、法的には当該債権者の同意がなくとも第二会社方式は実行できることとなります。
第二会社方式に納得できない債権者が取りうる措置
しかし、仮に債権者の同意なく、旧会社が債権者を害することを知って事業譲渡や会社分割を行った場合、不採算事業に関する債権者のうち会社に債権が承継されないものは、以下のような法的手段を講じることが法律上可能です(ただし、いずれの方法も新会社が悪意であるなど所定の要件を満たすことが必要です。)。
① 詐害行為取消権
詐害行為取消権(民法第424条)を行使して当該事業譲渡や会社分割の取消しを求めることができます(最判平成24年10月12日民集66巻10号3311頁では、会社分割が詐害行為の対象になりうる旨判示しています。)。
② 直接請求権(会社分割の場合)
新会社に対し、承継した財産の価額を限度として、直接に債務の履行を請求することができます(会社法第759条第4項・第764条第4項)。
第二会社方式を行うためには債権者との十分なコミュニケーションが不可欠
新会社が承継する資産に比べて新会社が承継する債務が少額である場合、旧会社に残る債務が新会社が承継する債務に比べて多額である場合、会社分割や事業譲渡により旧会社が得る対価が不当に少額である場合などは、旧会社の責任財産が減少することになります。
したがって、このような場合は、旧会社にしか債務の履行を求めることができない不採算事業に関する債権者の理解を得ることは容易ではなく、法的手段に出ることも十分に考えられます。
第二会社方式を行うにあたっては、債権者(特に金融機関)と十分にコミュニケーションを取り、どのようなスキームがもっとも適切であるのかについて理解を得ることが必要になってくると考えます。