ブログ アーカイブ

企業の価値の見える化を実現する「ローカルベンチマーク」

M&A市場において売り手が不足しているもう一つの理由

前回のコラムでは、M&A市場において、売り手が不足していることをお伝えしました。その際、売り手が不足している理由として、そもそも自分がいままで手塩にかけて育ててきた企業を売却すること自体、相当に重い決断を強いられることをあげました。

しかし、仮に企業の経営者が自社についてM&Aで売却することについて積極的であったとしても、M&Aに至らないこともあるように思われます。実際、過去にM&Aで自社を売却したいという相談を受けたものの、結局は自己破産のやむなきに至った事例もありました。このような事例に共通するのは、当該企業において、買い手にアピールできるような点がなかなか見つからず、買い手が見つかる可能性を見出すことができないということでした。

自社にはこれといった「売り」はないと考える企業の経営者は、意外と少なくありません。ところが、実際には自社の企業価値がないのではなく、気付いていないだけの場合もまた少なくないように思われます。

自社の本当の価値に気付くためには、まずは自社の現状を知ることから始まります。そこで、今回は、中小企業におけるM&Aの準備段階に入る前から企業・事業の価値を向上させるべく「見える化」「磨き上げ」を行うためのツールのうち、経済産業省が作成したローカルベンチマークについて解説します。

 

ローカルベンチマークとは何か

ローカルベンチマーク(以下「ロカベン」といいます。)とは、企業の経営状態の把握、いわゆる「企業の健康診断」を行うツールで、簡易な事業性評価のための道具として活用されています。

ロカベンは、エクセルシートに所定の事項を入力していくことにより作成できます(エクセルシートは、経済産業省のウェブサイトからダウンロードすることが可能です。また、ミラサポplusでも、ローカルベンチマークを作成できます。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/sheet.html)。

〇 ロカベンにはどのような内容を記載するのか

ロカルベンの記載事項は、財務指標と非財務情報に大別されます。このうち、財務情報は、

① 売上持続性(売上高増加率をもとに事業活動が成長・安定・衰退のどのステージにあるかを検討する。)

② 収益性(営業利益率をもとに効率的に利益生産しているか検討する。)

③ 労働生産性(付加価値(=営業利益)を従業員数で除した値で検討する。)

④ 健全性(EBITDA有利子負債倍率で債務返済能力を検討する。)

⑤ 効率性(営業運転資本回転期間で取引条件の変化や不良資産の可能性を確認する。)

⑥ 安全性(自己資本比率にて会社が負担している債務について弁済がで き るだけの資力があるかを検討する)

の6つの指標から構成されています。財務情報として挙げられている指標それ自体はいわゆる経営分析の際にも広く用いられているものです。

ロカベンの特徴はむしろ、非財務情報にあるといえます。非財務情報とは、製品・商品・サービスを提供する流れを記載し、どのような流れで顧客に提供される価値が生み出されるのかを見える化する「商流・業務フロー」やさまざまな視点から自社を検討する「4つの視点」があります。

「4つの視点」とは、

① 経営者(経営者自身の経営哲学・経営意欲・後継者の有無)

② 事業(企業又は事業の沿革・強み・弱み・IT化)

③ 企業を取り巻く環境・関係者(市場動向、既存・新規顧客、従業員、金融機関)

④ 内部管理体制(組織体制等・事業計画及び経営計画の有無及び社内での共有状況、研究開発体制・人材育成の取組み状況)

を指します。

このように、ロカベンでは、定量的な財務情報だけでは測ることのできない定性的な情報について、企業の経営者と金融機関・支援機関との間で対話を行いながら記載をしていくことによって、自社の現状を把握していきます。

そして、自社の現状の認識をしていく過程において、自社に思わぬ強みがあることや課題を克服すれば強みとなりうる要素を発見することができるのです。

 

ロカベンで自社の強みの発見を

知的資産経営ということばがあります。知的資産とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産を指すものです(したがって、知的資産は、特許権や著作権といった知的財産とはやや異なります)。目に見える資産という観点からすれば、中小企業は大企業に比して優位に立てないことも多いと思います。

しかし、知的資産という観点からすれば、中小企業でもキラリと光るものを持っているということも珍しいことではないでしょう。その意味において中小企業の新たな発見をもたらすロカベンは有用なツールといえるでしょう。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久