交渉を有利に進めるコツ
M&Aの現場では、売り手も買い手も大きな意思決定を迫られ、”失敗できない”や”損をしたくない”という強いストレスに直面しています。そのため、手間や時間がかかることは当たり前としても、時には、合理的な判断ができなくなるほどの感情問題になってしまったり、交渉がこう着状態に陥ったり、最悪の場合、破談になってしまうことも珍しくありません。
一方で、積極的にM&Aを活用している担当者や経営者は、セオリーを押さえて交渉に臨んでおり、交渉の成功確率を上げています。交渉ごとには同じ状況が存在しないものの、一般的な交渉理論に基づいたコツを共有できればと思います。本日も最後までお付き合いください。
相手の交渉のパワーがどこから生まれるのか?を知っておく
交渉ごとには、立場があり、多くの場合、その立場に有利不利があります。
①期待度によるもの
交渉ごとを成立させたいという思いの強いほうが、残念ながら、交渉上の立場は弱くなってしまいます。つまり、初めての交渉にあたるケースや、自社サイドの締め切りが控えているケースなどがこれに当たります。
逆に言うと、交渉前の情報収集を入念に行い、相手側の期待度や焦り具合などを把握しておくことで交渉を有利に進められる可能性が大きく変わります。
一般的には、売り手企業のケースでは、業績が不振であるほど焦りが見られますし、金融機関から期限を設けられている場合はさらにその傾向が強まります。この場合の買い手側は圧倒的に有利に交渉を運ぶことが可能になるでしょう。一方で、独自の強みを持っていたり、業績好調な売り手企業のケースにで、複数の買い手による争奪戦が予想できます。
このように、相手先の背景や業況などの情報収集は、基本中の基本と言えるでしょう。
代替案の存在を確認する。
“後がない交渉相手”との交渉ごとは、おおむねこちらにとって有利に進められるでしょう。
では、相手に代替案があった場合はどうでしょうか?もし代替案を持っていれば、それほど交渉で弱腰になることはないでしょう。
例えば、「交渉ごとが決裂した場合、倒産するしかない」ともなればどんどん妥協してくるでしょうし、たとえ、高い金利であっても借り入れの目途がついており、倒産を免れる可能性があれば、それほど妥協して来ないのではないでしょうか?
つまり、相手の次の一手を知ることも交渉ごとを進める上で貴重な情報と言えそうです。
交渉タイプと交渉戦術
交渉には、ゼロサム交渉とプラスサム交渉の2つのタイプがあります。
ゼロサム交渉とは、一方が得をした同じ分だけ相手方が損をする場合です。交渉成立は難しくなりやすいでしょう。
一方で、プラス•サム交渉とは、交渉で得られるものを大きくしておいて、引き分けを狙う交渉術です。WIN-WIN交渉とも呼ばれます。例えば、現状価格で買い取る代わりに支払いを分割にするとか、取引先として継続的に付き合うなどです。
M&Aの場面では、1回限りの取引になりやすいのですが、なんらかの方法で、プラス•サム交渉とできないかの糸口を探すことが重要です。
それでもゼロサム交渉になることが多いわけですが、その場合に重要になるのは、先ほどお伝えした”情報”です。いかに相手のことを深く調べ、こちらの手の内を明かさないか、または、伝えるべき情報と伝えてはいけない情報を管理、区別するかです。特に重要な情報は、取引価格と言えるでしょう。
価格の決め方には、いろいろな方法がありますが、重要なことは、自社が買い手であれば、買値の下限値はいくらか?自社としての買値の上限値はいくらか?を自社内で分析・試算の上、設定しておくことです。
自社内での上限・下限を設定したら、相手方への伝えることになりますが、価格交渉においては、最初に提示する価格にもっとも影響を受けることがいろいろな実験で分かっています。
例えば、家電量販店で価格交渉をする場合、店頭価格から値切るのではなく、競合製品や自分の感じる価値によって試算した価格を伝えるべきです。相手側の譲歩枠をこちらで勝手に分析して1〜2割程度の値引きをお願いしていませんか?
もし、買い手として有利に交渉を進めたいのであれば、実現可能性があり、かつ自分たちにとって理想の価格を最初に提示し、根拠とともに伝え、価格交渉をします。この時に、法外に安い価格を示すと相手側から”問題外の交渉相手”と認識され、決裂するため注意が必要です。
ただし、先に希望価格を提示することは、交渉相手にプレッシャーをかけることになり、その後の交渉が有利になるだけではなく、最後に相手の希望価格を聞き入れて成立した際に、「こちらが譲歩した」形になります。これは、相手から見ると「譲歩を引き出した」となり、交渉ごとに勝った形になります。つまりwin-winの結果と言えるでしょう。
返報性の法則を利用しましょう
M&Aの場面では、交渉ごとの成立後も相手からの支援を必要としたり、こちらが支援するなど、できれば、円満な関係を持って取引を完了させたいものです。そのためにも、相手に勝たせたような交渉結果が得られことが望ましいです。少しずつ譲歩し、相手の譲歩を引き出したり、相手の譲歩に対してこちらも何らかの誠意を示したりするなど、譲り合いの関係性を築きましょう。
最初から自分たちのギリギリの条件を提示して、「不誠実なので駆け引きはしません」と言う担当者もよくいますが、相手からみると頑固で誠実さや柔軟性を欠いた態度と受け取られ、逆に交渉をこじらせる結果を招きやすいので注が必要です。
利益のミスマッチ
家電量販店の事例のように、交渉相手と同じ利益(お金)を追求することは「どちらが得したか?」という評価軸を生みだしてしまいます。では、もし、双方が別の利益を追求したらどうなるでしょう?
例えば、家電量販店であれば、「まとめ買いします!」との提案は、担当者の売上増加に繋がりますし、担当者が会員を増やしたいと考えているのであれば「会員になりましょう」という譲歩も交渉成立に有効でしょう。M&Aに置きかえてみると、売り手が売却価格重視ではなく、従業員の雇用確保や現金の入手スピードだとしたら、譲歩案は、従業員の雇用を確約し、即時現金支払いを約束することで、価格交渉を依頼することになります。
つまり、このような交渉結果を得るためには、お互いの追求する利益が何であるかを見極めることが重要です。
利益のミスマッチをうまく利用するためには、買収条件を提示する際に、できるだけ複数の課題を一度に提示することがポイントになります。例えば、合併交渉であれば、合併比率だけでなく、新会社の社名、本社所在地、トップ人事など、複数の主要な条件を一度に提示して交渉します。それによって、相手方が最も重視するポイント(利益)が浮き彫りになりやすく、それによって利益の交換を行う糸口をつかむことができます。
一方で、条件を一つずつ提示する形で交渉を進めていくと、それぞれがゼロサム交渉となり、立場の強い方にとって一方的に有利な展開となってしまいます。そうなると相手の不満が募り、いずれどこかで交渉が破談となるリスクが高まります。ご注意ください。
まとめ
今回は、交渉ごとをスムーズに、できれば、自分たちにとって好ましい結果を得るための交渉術について一緒に学んできました。私たちの日常生活には、このような大きな交渉ごとはないと思いますが、もしチャンスがあれば、少し試してみることで現場に活かせるスキルが身につくでしょう。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。
次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。