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スモールビジネスでの活用が考えられる破産による事業再生②

破産手続開始決定後に事業譲渡を行う場合

前回は破産手続開始決定前に事業譲渡を行う場合について解説をしましたが、今回は、破産手続開始決定後に事業譲渡を行う場合について解説します。

破産手続は、清算手続ですので、破産者の事業は廃止されるのが原則です。しかし、事業を継続することについて特別の利益がある場合は、破産管財人は裁判所の許可を得て事業を継続することができます(破産法第36条)。ここにいう「特別の利益」とは、基本的には、事業の継続をした方が破産財団にとって利益となる場合を指します。したがって、事業譲渡をすることにより破産財団が増殖することが見込め、そのためには事業を継続することが必要であるといえることが必要となってきます。このほか、破産管財人が事業譲渡を行う場合も裁判所の許可が必要となります(破産法第78条第2項第3号)。

すなわち、破産管財人は、事業を継続することを第一に考えるのではなく、いかに破産した企業の財産を高額に換価するかということを最優先するのです。したがって、破産管財人が事業を継続したうえで事業譲渡を行うかどうかは例えば以下のような視点で検討をしていくことになります。

① 当該事業が黒字になるか。

事業を継続する目的が破産財団の増殖にある以上、当該事業が黒字であるかどうかは、事業継続の基本的な判断要素となります。

また、事業継続に伴う債務が財団債権となる(破産法第148条第1項第2号)となるため、当該事業が赤字になる場合は、その分破産財団を構成する財産が少なくなります。したがって、当該事業が赤字になる場合は、事業を継続しがたく、事業譲渡もしがたいでしょう。

② 当該事業が事業譲渡までのあいだ現金取引に耐えることができるか。

当然のことながら、破産手続中は信用取引ができないので、すべて現金取引で行うことになります。当該事業を継続する場合は現金取引に耐えることができるかどうかも事業継続の判断要素となります。

③ 当該事業の事業遂行上のリスクがあるか。

例えば、業務中に重大な労災事故が発生することが想定されるような事業であれば、その賠償により破産財団が減少してしまうおそれがあります。

④ 事業を行う人材が確保できるか。

破産した企業が事業を継続する場合、その主体は破産管財人となります。しかし、破産管財人が事業を実際に行うことは事実上不可能であるため、事業に専念できる信頼のおける者がいるかどうかも、事業譲渡を行う考慮要素となります。

 

どのような場合に破産手続開始決定後の事業譲渡を行うのか

これまでに述べてきたことからも明らかなように、破産手続開始決定後に破産管財人が自らの判断で事業を継続することを決めたうえで、事業譲渡をするというのは容易ではないと考えます。

他方で、破産手続開始決定後に破産管財人による事業譲渡を行うことができれば、当然のことながら否認権の行使のリスクはありません。その点で、破産手続開始決定後に事業譲渡を行うメリットがあるといえます。

破産管財人による事業譲渡を容易にするために、次のようなスキームが想定されます。

① 破産する企業が、自己破産申立てをする前の段階で、あらかじめ事業譲渡先を確保する。

② 事業譲渡先となるべき企業と譲渡対価、従業員の承継・その条件、税金・社会保険料および取引債務の承継等の諸条件について事業譲渡先から内諾を得ておき、あとは事業譲渡契約書を作成するだけの状態にしておく。

③ 自己破産申立てを行い、破産手続開始決定後のあとで破産管財人が事業譲渡先と契約を締結する。

このスキームを用いる場合、いかにして短期間で事業譲渡先を見つけ、条件面で内諾を得るかが重要になってくるといえます。また、譲渡先の企業が裁判所や破産管財人が納得できる(すなわち、適正な事業譲渡の対価を支払うだけの体力のある)ものであることを説明できるかどうかも重要なポイントといえるでしょう。

 

今後の活用が期待される破産による事業再生

これまで破産による事業再生はあまり活用されていなかったと思われます。確かに、破産による事業再生には、破産手続開始決定前の破産管財人による否認権行使のリスクや破産手続開始決定後の破産管財人が事業譲渡を行う判断をしないリスクなどがありますが、それよりもやはり破産した企業から事業を譲り受けるというマイナスのイメージが原因となっているようにも思われます。

しかし、民事再生と比較し、短時間で行うことができること、裁判所への予納金等の費用も安価にすることができること、どの事業を事業譲渡の対象とするかについて比較的融通が利くことからすれば、破産による事業再生は、条件さえ整えば検討すべき手法であるとも思います。今後の活用が期待されるところです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久