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中小企業の私的整理に関する新しいガイドラインができました②

有事における中小企業者と金融機関の役割

今回も、前回に引き続き『中小企業版私的整理ガイドライン』について解説します。前回はガイドラインにおいて平時における中小企業者と金融機関の役割がどのようなものとされているかについて説明しました。

これに対し、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況である有事の場合には中小企業者と金融機関とはどのような役割を期待されているのでしょうか。

 

【有事における中小企業者の役割】

1 経営状況と財務状況の適時適切な開示等

事業再生等を図るために必要な、正確かつ丁寧に信頼性の高い経営情報等を金融機関に対し開示・説明します。これは、金融機関が事業再生等のための金融支援などを検討するうえでも極めて重要なものといえます。

2 本源的な収益力の回復に向けた取組み

金融機関による金融支援もさることながら、事業再生を行うにあたっては、中小企業者は自律的・持続的な成長に向け、本源的な収益力の回復のための取組みを進めていくことが求められます。

3 事業再生計画の策定

中小企業者は、必要に応じて、専門家等に相談し、その支援・助言を得つつ、自力で事業再生計画を策定することが望ましいとされています。

そして、金融支援を求める場合においては、事業再生計画には、①実行可能性がある内容であること、②金融支援の必要性・合理性があること、③金融債権者間の衡平や金融機関にとっての経済合理性が確保されていること、④

経営責任や株主責任が明確化されていることが必要であるとされています。

 

【有事における金融機関の役割】

1 事業再生計画の策定支援

金融機関は、中小企業者が作成する事業再生計画の合理性や実現可能性等について、必要に応じて支援をしながら確認をしていきます。

2 専門家を活用した支援

金融機関単独では事業再生計画の策定支援が困難であると見込まれる場合や、支援にあたり債権者間の複雑な利害調整を必要とする場合には、専門家等による専門的な知見・機能を積極的に活用します。

 

有事にも段階がある

有事における中小企業者及び金融機関の役割について解説しましたが、ガイドラインにおいては以下のように有事の段階を分けています。

 

① 返済猶予等の条件緩和が必要な段階

② 債務減免等の抜本的な金融支援が必要な段階

③ ①・②の措置を講じてもなお事業再生が困難な場合

 

①の段階であれば、まず中小企業者は経営改善計画策定等により、収益性の回復や遊休資産の売却など自らの力による事業再生を目指し、必要に応じて元本・利息の猶予など金融機関による支援を求めていきます。

それでもなお、事業再生が円滑に進まない場合は、DESや債務の減免などの抜本的な支援を求めるのが②の段階です。この場合は企業においても経営者(場合により株主)の責任のあり方などが問われることになります。

さらに、もはや自力では事業再生が困難であり、スポンサーによる支援や経営の共同化など他の企業に支援を求めるのが③の段階です。

①ないし③の段階を経てもなお事業継続が困難である場合は、スポンサーへの事業譲渡等や事業の清算なども視野に入れざるを得ないということになります。

 

中小企業版私的整理手続の概要

ガイドラインでは、再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続が定められています。

再生型私的整理手続とは、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難である場合に利用されることが想定されています。

また、廃業型私的整理手続とは、過大な債務を負い、既存債務を弁済することができないことや近い将来において弁済が困難になることが 確実である一方で、円滑かつ計画的な廃業を行うことにより、中小企業者の従業員に転職の機会を確保できる可能性があり、経営者等においても創業や就業等の再スタートの可能性があるなど、早期廃業の合理性が認められる場合に利用されることが想定されています。

手続の流れとしては、中小企業者が債権者たる金融機関の承諾を得て事業再生計画又は弁済計画を策定し、実行していきます(計画策定の際、必要に応じて債務の支払いの一時停止などを行うこともあります。)。計画の策定や実行の状況のモニタリングには主要債権者や外部の専門家の主導的な役割が期待されています(詳細については次回解説いたします。)。

 

次回の予告

次回は、再生型私的整理手続と廃業型私的整理手続の詳しい流れ、それぞれの手続の具体的な違い、経営者保証ガイドラインとの関係、私的整理ガイドラインとの相違等について解説いたします。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業再構築におけるサイトM&Aの活用法~買手の立場から

 2年以上にわたるコロナ禍の影響で、中小企業の多くが事業の在り方を見直すことを余儀なくされています。こうした中、小売業や飲食業が非接触・非対面のEC事業参入により事業再構築を図ろうという動きが加速しています。今回は、EC事業参入を検討する際に、選択肢の一つとしたい「サイトM&A」の活用にスポットを当てたいと思います。

 

1.事業再構築に欠かせないDX化

事業再構築補助金では、「先端的なデジタル技術の活用」が、審査上の加点項目となっています。それを受けて、小売業や飲食業など店舗型ビジネスでは、新型コロナ対策を目的として、サービスの非対面・非接触化を図る予約システムやキャッシュレス決済システムの導入をはじめ、SNS等によるネットプロモーションの推進やECサイトの活用による販路拡大など、積極的にデジタル技術の活用が進められています。

特に、販売拡大に直結するECサイトの活用については数百万円から数千万円を投じてゼロからサイトの立上げを行う事例も少なくありません。しかし、既存事業と提供する製品やサービスが同じでも、販売手法やプロモーション手法が異なり、接客力や好立地など既存事業の強みを活かせないため、回収には長期の取り組みが必要となります。

 

2.「サイトM&A」の活用可能性

スモールM&Aというと主に、事業承継における第三者承継やスタートアップのEXIT戦略として活用されることが多いようですが、実は、事業再構築目的での活用についても、大きな可能性が秘められています。

もともと、買手にとってのM&Aの最大のメリットは「時間を買う」ことです。固定客を持ち、認知度の高い企業を買収することで、迅速に事業を拡大することが可能になります。これはM&Aの対象が企業ではなく「サイト」であっても同じことです。

ECサイトの中には、既に知名度を持ち、固定ユーザーを抱えているものもあります。こうしたサイトをM&Aにより買収すれば、自社でサイトを構築するより迅速に顧客獲得に繋げることが期待できます。

ECサイトやウェブサイト運営会社について、大手M&Aマッチングサイト2社で検索したところ、分類基準は異なるもののECサイト等が200~300件、WEBサイト・アプリ等が300件前後の登録があり活発なM&Aが行われているようです。

また、国内には10社前後のサイト売買専門業者があり、それぞれ特色のある取引が行われています。例えば、アフィリエイトサイト、ブログ、ECサイト、ポータルサイト、などに加えてAmazon、eBay、YouTube、Twitter、Instagramなどのアカウントを数万円から数十万円という比較的低価格で取引が行われるものから、キュレーションサイト、マッチングサイト、ポータルサイト、ECサイト、SaaS系サービスサイトなどを数千万円から数億円という高価格帯で取引されるものまで様々です。これらのサイト売買専門業者が運営する仲介サイトの多くはマッチングの場を提供するだけでなく、手数料を取って売買の仲介や譲渡金額の算定をしているものもあります。

 

3.「サイトM&A」の特徴

(1)「サイトM&A」は事業譲渡

「サイトM&A」といっても特殊なM&Aではありません。M&Aの対象がECサイトやポータルサイトなど、会社が運営するサイトビジネスという事業が譲渡対象となっているということです。もちろん、会社の事業内容が1つのサイトに特化している場合には「会社譲渡」(株式譲渡)という形でM&Aが実施されることもありますが、主に「事業譲渡」の形でM&Aが実施されています。

 

(2)「サイトM&A」の譲渡価格の算定方法

事業譲渡の譲渡価格は、一般的に譲渡資産の時価の合計にのれん代(営業権)を加えた形で算出されます。ところが「サイトM&A」の場合は、通常、個々の譲渡資産の内訳にかかわらず直近半年程度の「月間平均営業利益の10か月分から24か月分程度」を譲渡価格としていることが多いようです。

ウェブサイトの寿命は短く、また、業界の動きが速いため、会社のように1年単位で業績の評価をせず、月単位の業績をもとにして価格を決定することが業界慣行となっているといわれています。

 

(3)「サイトM&A」の譲渡プロセス

「サイトM&A」には、会社のM&Aとは異なる慣行やプロセスがあります。

例えば、M&Aのプロセスです。通常のM&Aでは、売手・買手間でのNDA締結、意向表明の実施、基本合意書の締結等の後に、デューデリジェンスを実施。売手・買手双方が合意に至ったところで譲渡契約を締結しクロージングするといった流れがあります。

一方、「サイトM&A」では、NDA、意向表明、基本合意書締結といったプロセスを経ずに、ネット上で売手・買手がチャット等を活用して売買交渉を行った後、譲渡契約を締結し、サイトの引き渡しを行っていることが多いようです。デューデリジェンスや譲渡価格の算定について、売買専門業者のサービスを活用して実施するケースが多いため、専門家依存度が高い取引となっているようです。

 

(4)「サイトM&A」の引き渡しと「エスクローサービス」の利用

ウェブサイトの引き渡しは、サイト売買の関係者の間では「ウェブサイトの引っ越し」といわれることが多いようです。引き渡しの際には専門業者が提供する「エスクローサービス」を利用して契約不履行リスクをヘッジします。具体的には、譲渡契約締結後に、まず、買手が専用業者の指定口座に譲渡代金を入金し、専門業者からウェブサイト引っ越しの要請を受けた売手がウェブサイト引っ越しを行い、買手の検収が完了したところで、専門業者が売手の口座に資金を入金するというものです。

「ウェブサイトの引っ越し」の際に重要な作業は、「サーバー移行」と「検収」です。

「サーバー移行」とは、売手から買手にドメイン移管やサイトデータの引き渡しを行った後、買手が指定するサーバーへデータ移行を行い、買手は動作確認後にドメインの紐付けを移行先サーバーへ切替えるという一連の作業です。失敗するとサイトが表示されなくなったり、最悪の場合データが消えてしまったりするため、専門業者に委託してリスクを回避することも重要な選択肢となります。

「検収」とは、買手により譲渡されたウェブサイトの内容が事前説明と相違ないかを確認する作業です。通常、数日から数週間かけてチェックが行われます。収益面ではアクセス数やコンバージョン比率、安全面では動作の安定度やバグ、セキュリティの高さなど、引き渡しを受けた後でないとわからない点を検証するのです。

 

4.まとめ

毎月の収支が安定しているウェブサイトのM&Aを行った結果、事業再構築後の収支改善の見通しが立てやすくなるなど、「サイトM&A」の活用により大きなメリットを獲得できる可能性がありますが、中小企業ではウェブサイトの運営に必要な人材やノウハウが不足しているため、「サイトM&A」に踏み切ることに躊躇せざるを得ないという方も少なくないのではないでしょうか。

次回は、どの様な点に留意すればリスクを抑えつつ、「サイトM&A」を進められるのか、売買取引の前後に気を付けておきたいポイントについて、ご説明したいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

 

トップから「少しすすめてみようか?」と指示を受けたらまずやるべきこと

みなさまこんにちは。ようやくマスク生活が終わると予想していたところの第7波。それに加え、連日の猛暑ですから、すでに夏バテ気味という方も多いのではないでしょうか?

本日は、トップから「この案件、よさそうじゃないか?少し進めてみようか?」と、指示を受けた買い手側のM&A推進担当者が、まずは何から、どのように進めればよいのか?について一緒に考えていきましょう。

なにはともあれ、自社の戦略の方向性との整合性を確認しましょう。

トップからの指示があるということは、イコール、社内コンセンサスが取れているM&A戦略に沿っている、または、自分たちのビジネスの方向性に適合しているのだと考えられます。しかし、実際には、経営者が長年鍛えてきた“勘”のようなものが働くことも多いものです。ですから、担当者として、まずはどのような観点からGOサインが出たのかについて分析し、買収を検討する目的について明確にする必要があります。もし、可能であれば、早い段階で直接トップに確認しておきましょう。

トップの判断基準を知ることは、対象企業の初期分析のポイントを絞ることに繋がり、メリハリとスピード感のある報告が可能になるからです。さもなければ、360度、全方位に神経を使った情報収集をする羽目になるでしょう。

方向性を確認したら、対象企業及び所属している業界の情報収集をしましょう。

業界の情報収集は、同業界であれば、自社の関係部署へのヒアリングや資料の共有を依頼すれば良いのですが、異業種・異業界の場合は、オープンデータに当たる必要があります。専門書やネットを活用したり、取引金融機関に相談したり、同業界に取引先があれば、そこへ相談する方法もあるでしょう。スピードを優先して、それぞれ同時並行で進めましょう。

ただし、社外はもちろんのこと社内においても情報漏洩のないよう、慎重に進めることが重要です。

しかしながら、この時点で把握できる内容は初歩的なことに限定されています。まずは、業界の概要を理解するために、一般的なサプライチェーンやバリューチェーンについて、他社と対象企業との違いを中心に理解を進めるようにします。

また、業界全体のトレンドについても把握します。具体的には、景況感や課題感、法的規制や市場の変化などについて、国内だけでなく海外についても同時に情報収集しましょう。それによって、対象企業の置かれた外部環境の実情への理解が進みます。

相手先への接触は慎重に

対象企業の外部環境が把握できたら、さっそく相手先へ接触し、先方の個別具体的な情報の収集に取り組みます。

具体的なアプローチ方法には以下のような方法が考えられます。

まず第1に、対象企業への直接アプローチです。この場合は、必ず自社のトップの承認を得た上で最低でも経営層に動いてもらうようにしましょう。最重要経営課題ですから経営層自らが動くのが当たり前ですし、初動段階とはいえ中間管理職レベルの人間が接触したのでは、相手先からすると「軽んじられている」と心情を害すようなことになりかねません。そんなことでは、案件の成功は見通せないでしょう。

続いて、FAなど専門家を仲介者として採用するケースがあります。その場合のメリットは、自社の社名を出さずに対象企業の感触を知ることができる点にあります。その場合でも必ずトップの決裁は取り付けておくことが重要です。なぜなら、案件が一定程度進んだ段階で、「トップが乗り気ではなく・・」なんてことが起きたら、自社の信用問題に発展し、今後のM&A活動に大きなマイナスの影響が発生するからです。金融機関やM&A仲介会社などから相手にされなくなってしまいます。彼らは、意外に横の繋がりを持っており、情報共有もさかんに行っていますので、注意が必要です。

そして、金融機関などの専門家を仲介者として採用するケースです。その場合のメリットは、2つ考えられます。まずは、対象企業のメインバンクを通じることができれば、高いプライオリティをもって真剣に検討をしてもらえる可能性が高まるでしょう。次に、こちらのメインバンクに動いてもらった場合には、買収資金の相談を兼ねることができますし、業界情報や対象企業以外の売り手企業についての提案を受けることが期待できるでしょう。

一方でデメリットとしては、金融機関が検討の場に参画することで、彼らの思惑を含んだ助言が想定されるため、良きにつけ悪しきにつけその影響を受けることが想定されます。また、自社のメインバンクと対象企業のメインバンクとの関係性など、自社に全く関係のない登場人物に翻弄される可能性も出てきてしまいます。

最後に、スモールM&Aでは多いのですが、対象企業の関係者(先方が信頼をおいている人物や組織)を通じて交渉するケースが考えられます。具体的には、対象企業のOB、業界団体や地元経済団体の重鎮などです。

これらの組み合わせを駆使することで、初回のトップ会談をいかにスピーディーに行うかが、案件の成否に大きく影響することは間違いありません。

対象企業へのアプローチにはどんな準備が必要か?

さて、首尾よく対象企業との接触の機会を得たら、さっそく準備を進めましょう。

まずは、会談のロケーションですが、対象企業に打診することになりますが、できれば、仲介者のオフィスやホテル、レストランの個室など目立たない場所が良いでしょう。

次に提案書です。提案書では、当社がなぜその案件を企画したのかについて双方のメリット(経営課題の解決)をまとめる必要があります。

具体的には、①案件を提案した自社の目的、②業界環境及び対象企業に対する当社の認識、③買収後の経営方針、④期待しているシナジーと双方のメリット、⑤事業計画や実現したいビジョン、⑥買収スキームや条件面、⑦両社だけでなく両社のステークホルダーのメリット、などが一般的な項目です。

いずれの項目においても、自社都合ではなく、相手先企業とwin-winの関係を目指していることが伝わるようにまとめることがポイントです。

デューデリジェンス前の初期調査

最終的には、法務・財務・ビジネスについてのデューデリジェンス(以下DD)をそれぞれの専門家を通して行うわけですが、その案件についてDDを行うかどうかの判断は、担当者レベルの初期調査で行います。

具体的には、①企業概要、②事業概要、③組織構造、④人的資源、⑤サプライチェーン、⑥財務面などについて、可能な範囲で情報提供を依頼します。もちろん、事前にNDA(機密保持契約)の締結を行っておくことは言うまでもありません。

それぞれの項目の留意点は、以下のとおりです。

①企業概要:法人登記や、ホームページ、会社案内などで確認できるでしょうから、特に情報提供を受ける必要はないでしょう。

②事業概要:定量的なものは、財務諸表の提供を受けて分析することとして、それ以外のオープンになっていない経営計画など定性面での情報提供を依頼しましょう。

③組織構造:よほど大きな組織でなければ、人名の入った組織図や各部門の職務分掌などを依頼します。また、関連会社やその業務内容、過去の組織再編などについても開示を依頼しましょう。

④人的資源:労働契約形態別の人数、年齢・性別などの概要。労働組合があれば組合との関係性や過去の経緯、退職金や残業代の現状などが主なところでしょう。個人情報が含まれる可能性もありますので、慎重な取り扱いが求められます。

⑤サプライチェーン:事前に調査したものをベースに、取引先・取引内容や規模などを確認します。また、組織再編によって取引に影響がでるような取引先の有無についても確認します。

⑥財務面:財務諸表について、できれば10年程度の提供を受け、分析を行います。分析の観点は、収益性、効率性、安全性の3つです。加えて、業界標準との違いや経年での変化などに着目します。特に貸借対照表では、引当や繰り延べ税金資産、固定資産の実態などについて概略だけでも確認したいところです。

一方で、この段階では、あまり突っ込んだ質問や追加の資料提供をお願いするわけにはいきませんので、事前に調査していた内容との整合性や、DDに向けた確認リストを作ることが目的です。そして、初期調査が完了したら、経営層へのレポートを行い、次のステップに進むかどうかの決裁を仰ぎます。

まとめ

今回は、M&A推進担当者の初動における留意点について、一緒に考えてみました。案件が商談に進む前から費用をかけて専門家に依頼することは難しいでしょうから、M&A推進担当には、M&Aに関する専門知識の他にも、経営全般にかかわる広範な知識が求められます。

そのためにも、経営全般に関する知見を獲得するよう、地道な学習に取り組んでください。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

担当者が最初に知るべきこと「誰に、いつ、何を、どのよう様に相談するのか?」

みなさまこんにちは、例年よりも遅いようですが、全国各地で入梅しつつありますね。うっとおしいと感じられる方も多い梅雨ですが、北海道へ退避するか?それともお気に入りのレインギアを手に入れて、のんびり過ごすか?あなたはどちら派でしょうか。

本日は、M&A新任担当者が、「M&Aを成功させるためにいったいどのように外部専門家のリソースを活用すべきか?」、について買い手側の視点に立って一緒に考えていきましょう

 

対象企業の探索とともにパートナー専門家も探しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、対象企業の方向性を絞ることが最初のお仕事ではあるのですが、それと同時並行で進めるべきなのが、パートナー専門家の探索です。

なぜなら、これから始まる情報収集の過程において、さまざまな関係者や専門家とお会いすることになります。そこでは、あなた以外は、みなM&A業界人なのです。専門用語もある程度飛び交うでしょうし、立場による視点の違いも加味してお話を聞く必要も出てきます。ネットや専門書を駆使して調べることも必要ですが、できれば、同時通訳ほどではないにしても、ある程度の即時性を持って自社の事情も加味した内容でレクチャーを受けたいものです。そのような背景からあなたのパートナーとして活躍してくれる専門家の探索をおすすめしたいです。

では、M&Aの専門家にお願いするお仕事にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

M&Aで頼りにしたい専門家の領域

M&A案件の推進に関して助言や支援を行う専門家を総称してファイナンシャル・アドバイザー(以降FA)と呼んでいます。FAによる支援サービスは、特に公的な資格もありませんので、士業やM&A専門会社だけでなく銀行や証券会社なども提供しています。

案件が進むに連れてFAの重要度が大きくなりますが、具体的には、以下のような業務をお願いすることになります。

 

①財務面、②法務面、③会計・税務面、④人事面、⑤その他、ビジネス面全般

 

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

①財務面

財務面というとお金の手配というように捉えられると思いますが、お金だけにとどまりません。なぜなら、買収と言っても事業だけを買い取る“事業譲渡”以外にも、相手の株主に対して自社の株式を交付して交換する手法もあり、様々なスキームがあるからです。その中から現在、及び将来の自社にとってもっとも良い方法を提案・検討するのが、この財務面のお仕事ということになります。

また、経営統合後の再投資や運転資金など、数年間の必要資金がどのように推移する見込みなのか?どのように調達するのか?などの検討から、借り入れの支援まで多くの場面で支援を受けるべきケースがあります。

 

②法務面

こちらは、その名の通り、法律に関する業務になります。大きくは2つに分けられます。1つは、自社がいろいろな手続きや契約を進める上で必要になる法律上のチェックや、相手方との契約内容の妥当性のチェックです。もう一方は、対象企業がこれまでの事業運営において、法律上の問題を抱えていないか、事業運営上必要な規制を守れているか、許諾や免許などをきちんと整備しているか?それらの是正に必要なコストはどれくらいか?などを確認する業務があります。

また、相手側との交渉をあなたが当事者として直接行うのであれば問題はありませんが、代理人として専門家に依頼したいのであれば注意が必要です。なぜなら、弁護士以外の代理人にお金を支払って、交渉事を依頼することは禁止されているからです。

 

③会計・税務面

こちらは、経営統合を進めるにあたって発生する会計処理や決算業務に関するものになります。になりますし。会社全体の経営統合であれば、二社それぞれの会計処理・決算をどのように処理するのか?など、検討することも2倍になります。

 

④人事面

人事面についての業務は、顧客や事業の一部譲渡にとどまらず、相手方従業員ごと引き受ける場合に発生します。こちらは、転籍や処遇(過去とこれから)といった制度・手続きだけでなく、組織文化などの意識合わせなど、さらに大きなテーマへの関連性も検討する必要があります。

 

⑤その他ビジネス面

こちらは、ここまで出てきた専門家に併せて依頼するのか、できれば別で検討したい役回りです。なぜなら、自社の実情に沿った助言を伴走型で受けることを期待したいからです。M&A計画全体との整合性や各専門家の取りまとめ、進捗管理などにとどまらず、M&A終了後に始まる経営統合活動への支援など、重要な業務は今後も数年間にわたり続きますので、全体を広くカバーでき、調整能力を持つ専門家に依頼すべきです。

 

気になるFA費用の相場は?

さて、このような頼れる専門家に伴走してもらうには、どれくらいの費用が必要となるのでしょうか?

専門家の料金体系は、一般的には①着手金(リテイナー・フィー)と②成功報酬となっていることが多いようです。

着手金は、専門家次第ですので、一概には言えませんが、一般的なコンサルタントの顧問料として検討することになります。つまり、数十万円×関与月数または、関与期間を見越した一括着手金として数百万円、を提示される金額がスモールM&Aの相場と言えそうです。

成功報酬には、“レーマン方式”と呼ばれる料金表を採用することが一般的です。料金算定は、買収企業の企業価値×料率となっており、企業価値の大きさによって0.5%~5%程度が目安です。我々スモールM&Aの現場では、企業価値5億円以下5%を目安として考え、どこかの段階で金額交渉をして固定しておくことがおすすめです。なぜなら、企業価値に応じた料率とすると、専門家のフィーが変動することとなり、買収金額が高くなる(企業価値が高まる)とフィーが上がるとなると、費用を抑えたい企業担当者との関係性もおかしくなることがあるからです。

 

まとめ

今回は、M&A新任担当者がスムーズな案件対応を実現するためにどのような専門家を頼りすればよいのかについてお話しました。

大手では当たり前の外部専門家チームですが、我々スモールM&A案件では、そこまでの間接費用をかけることは現実的ではありません。私のおすすめは、伴走型で取り組んでくれるマルチプレイヤー的な地元密着型専門家を選定することです。

この記事に出会ったことを良い機会に、まずは、お近くの商工会や商工会議所、金融機関、よろず支援機関(https://yorozu.smrj.go.jp/)を頼りに情報収集を進めてみてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画③

経営改善計画を策定する際の金融機関の支援

前回に引き続き、経営改善計画について解説します。これまで解説してきたように、経営改善計画は、窮状にある企業が事業の見直しを行い、経営の改善を目指すものです。経営の改善を行うためには、事業の収益性等の検討とともに、財務状況の改善が必要となり、金融機関による支援も不可欠といえます。

金融機関による主な支援としては、リスケジュール、DDS、DES、債権放棄があります。

リスケジュールとは、債務の元本又は利息の支払い期限の延期を行うことをいいます。一定期間返済が猶予されれば、その間、企業の資金繰りに余裕が生じ、事業の改善を行うために必要な投資などが可能となります。そのうえで、事業の改善により収益性が向上することで、返済のための資金も確保できるようになることを目指すのです。そして、リスケジュールは、債務の額そのもの(少なくとも元本)が減額になるわけではありません。このため、金融機関にとって比較的行いやすい支援といえ、特に中小企業や小規模事業者では金融機関による基本的な支援の方法となっています。

DDS(デット・デット・スワップ)とは、金融機関が有する既存の債権を他の一般債権よりも返済順序の低い劣後債権に変更することをいいます。後述するDESとは異なり、企業の実質純資産とはならないものの、元本の返済が一定期間猶予されることになるため、リスケジュールと同様に一定期間資金繰りに余裕が生まれることとなります。他方で、金融機関としてもDDSを用いることで所定の条件を満たせば自己査定の際に資本とみなすことができるというメリットがあります。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、金融機関が企業に対して有する債権を現物出資して株式を取得することをいいます(債務の株式化)。DESが行われると企業は債務の返済を行う必要がなくなるのでそのメリットは非常に大きいといえます。他方で、金融機関からすると、DESは「融資から投資」となり、回収は配当や株式の売却によることとなります。したがって、企業が非上場の場合、その回収は容易ではないことから、DESによる金融支援を企業が得るのは困難な場合が多いといえます(ただし、金融機関が税務上の欠損金を超える額の債権放棄を行う場合は、債務者たる企業に債務免除益が発生し、課税の対象となるリスクがあることからDESを活用することはありえます。)。

債権放棄とは、金融機関が企業に対して有する債権を放棄することをいいます。金融機関からすれば、債権放棄は債権の回収が不能になるという意味で最も厳しい金融支援となるため、債務者たる企業にも経営者責任、保証人責任、企業の代表者個人の私財提供等といったさまざまな課題を解決することが求められます。

 

金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング

経営改善計画を成立させるためには、基本的には支援を行うすべての金融機関の同意を得ることが必要になります。そして、各金融機関の同意を得るためには、各金融機関との情報の共有や公平性の確保、手続の透明性を確保する必要があります。そのための手段として用いられるのが、金融機関を一堂に集めて行うバンクミーティングです。

バンクミーティングは、①経営改善計画の内容や金融機関への支援案の説明を行うとき、②金融機関が経営改善計画への同意表明を行うとき(おおむね①から1か月後)の少なくとも2回開催されます。

バンクミーティングには、企業と金融機関のほか、認定支援機関が関与している場合は認定支援機関も出席します。また、金融機関が信用保証協会を利用している場合は信用保証協会も出席します。

最初のバンクミーティングにおいて、金融機関からさまざまな意見が出されることもあります。その際、場合によっては個別に金融機関と交渉を行うことが必要となることがあります。(なお、その際の交渉を弁護士でない認定支援機関が行うと弁護士法第72条違反となります(いわゆる非弁行為)。)

 

計画策定後のモニタリング

金融機関の同意を得ることができ、経営改善計画が成立したとしても、それがゴールではありません。なぜならば、あくまで経営改善計画の策定は「手段」であって、当該計画を実際に実行し、経営の改善が行われることが本当の「目的」であるからです。そして、経営改善計画はあくまでも「計画」である以上、実行するなかで、修正を行う必要が生じる場合もあるでしょう。

そこで、経営改善計画の進捗の把握・分析を行い、必要に応じて修正を検討することが必要となってきます。この進捗状況の把握・分析及び修正の検討の過程をモニタリングといいます。

モニタリングは月次又は四半期単位で実施することが想定されていますので、経営改善計画の策定の際は、月次又は四半期単位での計数計画を策定しておく必要があります。そして、モニタリングにおいて目標を達成できていないことが明らかになった場合は、金融機関と情報を共有して対応策を検討していくことになります。なお、経営改善計画の策定に認定支援機関が関与している場合は基本的に認定支援機関がモニタリングにおいて中心的な役割を担うことが期待されています。

 

経営改善計画の流れをつかむ

これまで3回にわたり経営改善計画について解説をしてきました。何のために経営改善計画を策定するのか、経営改善計画にはどのような内容を記載するのか、経営改善計画はどのようなプロセスで策定され、その後の流れはどうなるのか等についてざっくりとしたイメージを持っていただくことができれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業承継はM&Aの後工程が重要 ~M&Aは終わりが始まり「PMIの活用策」に注目

中小企業経営者の高齢化がすすんでいます。東京商工リサーチが公表した「全国社長の年齢調査」(2021年8月4日)によると全国の経営者の平均年齢は62.49歳と前年より0.33歳高齢化し、また、経営者の10歳ごとの年齢分布では、70代以上の構成比が31.8%で最多レンジとなるなど事業承継の深刻化が懸念されています。

一方、帝国データバンクが公表した「全国企業後継者不在率動向調査」(2021 年11月22日)(以下、「TDB動向調査」)によると全国・全業種約26.6万社における後継者動向では、後継者が「いない」または「未定」とした企業が16万社に上り後継者不在率は61.5%と高水準ながらも、2020年対比では3.6pt改善、2018年以降4年連続で不在率が低下しました。

これは調査を開始した2011年以降で最低水準であり、コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢の経営者による後継者決定の動きが強まった結果ではないかといわれています。

 

1.事業承継先の変化 ~第三者承継の拡大

経営者の高齢化が深刻化するものの後継者難に改善の兆しが見えつつあるのには、どのような背景があるのでしょうか。

「TDB動向調査」では事業承継の方法について①同族承継、②内部昇格、③M&Aほか、④外部招聘などに項目分けして集計しています。全体で見るとまだまだ「同族承継」が38.3%と最も高くなっていますが、2017年以降5年間の変化で見ると、「同族承継」は3.3pt減少と緩やかに減少しつつあります。一方、③M&Aほかは17.4%ながら1.5pt増加するなど第三者承継は着実に増加しつつある傾向にあります。

地域金融機関による事業承継に対するプッシュ型のアプローチの推進、M&A支援機関やM&Aプラットフォーマーによる第三者承継の進展など民間の取組に加えて、政府による事業承継税制や「事業承継・引継ぎ補助金」などの支援策が拡充されたことが後継者問題解決・改善の前進に大きく寄与したものと考えられます。

 

2.事業承継後の課題の顕在化

M&Aなどの第三者承継が拡大するにしたがって、事業承継に係る課題も事業承継の実施自体から事業承継後の取組に重心がシフトしつつあります。

東京商工会議所が公表した「事業承継の取り組みと課題に関する実態アンケート報告書」(2021年2月26日)によると、買収における当初目的・期待効果の達成度について、「概ね達成した」という回答は46.3%ながら「一部達成」「ほとんど達成していない」を合わせると50.0%となっており、M&Aした後の期待効果に不満な経営者は少なくないことがわかります。当初目的・期待効果が達成できなかった理由(複数回答可)については①相手先の経営・組織体制が脆弱だった(25.7%)、②相乗効果が出なかった(18.9%)、③相手先の従業員が退職してしまった(10.8%)が上位3項目となっており、M&A後から事業承継後にかけての問題が顕在化していることがわかります。

 

 

3.中小M&Aで重要性を増すPMIと政府の支援策

こうしたM&A後に顕在化する課題解決のために、大企業では従来よりPMI(Post Merger Integration)の取組が重視されてきました。

PMIとは、M&A成立後に行われる統合作業であり、M&Aの目的を実現させ統合の効果を最大化するために必要なプロセスとされています。

しかし、中小企業のM&Aについてはマッチング等のM&Aの成立に向けた取組に関心が集まる一方で、M&Aによって引き継いだ事業の継続・成長に向けた統合やすり合わせ等の取組については、その重要性や取組についての中小企業の理解だけでなく、PMIを行う専門家等の人材や資金も不足している状況です。

こうした状況を受けて、政府は、中小企業におけるPMIの普及に向けて2022年3月17日に「中小PMI支援メニュー」を公表しました。

同支援メニューは、(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙、(2)PMIの実践機会の提供、(3)PMI支援を行う専門家の育成等の3つのメニューで構成されています。

 

(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙

①「中小PMIガイドライン」の策定

・中小企業におけるPMIの重要性や必要な取組に係る理解が不足している現状を踏まえ、事業を引き継ぐ譲受側がM&A後のPMIの取組を適切に進めるための手引き。中小企業向けに譲受側・譲渡側の会社規模等、個社の状況に応じて参照しやすいよう、PMIの取組を【基礎編】と【発展編】に整理。

・支援機関が、支援先の企業が円滑に事業を引継ぎ、M&Aの目的やシナジー効果等を実現するために必要な助言をするために参照することも想定した構成となっている。

②PMIに関するセミナーや研修等の実施

・2022年度から中小企業や支援機関向けのPMIに関するセミナーや、事業承継・引継ぎ支援センターにおける譲受側向けPMI研修等を実施

 

(2)PMIの実践機会の提供(PMIに係る人材や資金等の確保に向けた支援策)

①事業承継・引継ぎ補助金等による支援 (2022年度から実施)

事業承継・引継ぎ補助金(2021年度補正予算)においてPMIに係る費用への補助を開始。更に、専門家による伴走支援等を検討。

②経営資源集約化税制による支援

経営力向上計画に基づいてM&Aを実施した場合、その後の設備投資に係る減税措置、簿外債務等のリスクに備えた準備金措置(損金算入)により支援を実施。

 

(3)PMI支援を行う専門家の育成等

①士業等専門家との連携(順次実施。今回第一弾を措置)

PMI支援について中小企業庁と士業等専門家との連携を強化。その第一弾として、中小企業診断協会と連携協定を締結し、PMI支援人材の育成や、事業承継・引継ぎ支援センターへの支援人材の紹介等を実施。

② 中小企業診断士に対するガイドライン理解促進の枠組みの導入

2022年度より中小企業診断士に対して中小PMIガイドラインの理解を促すための枠組み(試験、研修等)を検討し、結論を得られ次第速やかに実施。

 

なお、士業等の専門家の活用については、「事業承継ガイドライン」で会計士による財務デューデリジェンス、弁護士による法務デューデリジェンスなどの活用が例示されていましたが、PMIにおける士業連携の第一弾として経営コンサルタントの国家資格であり、事業計画策定や組織・人事、マーケティング、財務改善などに知見のある中小企業診断士の活用に踏みだしたのは新しい動きといえるでしょう。

 

 

3.まとめ

いうまでもなくM&Aは事業承継の一つの手段であり目的ではありません。やって終わりではなく、その成果こそ大切なのは言うまでもないでしょう。

事業承継(第二の創業)を実りあるものにするために、「中小PMI支援メニュー」をはじめとする各種支援策や中小企業診断士等の士業専門家の活用、など新たな動きに注目していきたいと思います。

 

【ご参考】

□中小PMI支援メニュー

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-1.pdf

□中小PMIガイドライン

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

□令和4年3月17日「中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けた中小企業庁と一般社団法人中小企業診断協会の連携について」

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-2.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

M&Aの第一歩!やっぱり戦略的な取り組みが一番大切

みなさまこんにちは、花粉症持ちには一番つらい季節が始まりました。全国の花粉症のみなさまいかがお過ごしでしょうか?コロナのおかげですっかりマスクが習慣化したので、症状が軽いうちに終わってくれればうれしいのですが・・・

 

M&Aが難しい理由

一般的に、私たちがM&Aに難しさを感じる要因には、さまざまあると思いますが、以下のようなことはみなさまも思い当たるふしがあるのではないでしょうか?

まず、相手があり、かつ、その相手がいつでも誰とでも取引する準備が整ったウエルカムな状態にないことです。また、その相手の経営状態に一つとして同じケースがなく、常にケースバイケースであることです。そして、相手の経営状態やスペックの評価がしづらいことです。

しかし、そんなM&Aにも成功法則があります。それは、「鉄は熱いうちに打て」です。案件が発生したら、素早く決断をし、素早く動くことが重要です。

そのために役立つのが基本戦略です。

上司からの指示で社内提案をしたところ、「そんな格好のいい戦略をいくら作っても、取引相手がいなきゃ何も始まらないじゃないか!早く案件を持ってこい!」と一蹴されたことのある方は多いのではないでしょうか?

上司の方の意見は、ある意味で正解なのですが・・・。私の経験から言うと、このような組織でいくら案件を提案しても、社内で意見がまとまらず時間切れの破談となることが多いです。新規事業の開発現場でも同じことがよく起きています。

なぜなのでしょう。

 

戦略は、判断基準

長期安定経営をしてきた企業であれば、長年の間に社風や社内文化がしっかり醸成され、経営に関する判断基準が社内共有できているかもしれません。

しかし、M&Aのような新たな取り組みを行う際には、やはりまずは戦略を立て、共有することが非常に大切で有用な第一歩なのです。

なぜなら、戦略は、組織にとって旅行でいう旅程や目的地を示すものだからです。経営の目的地やルートを決めてしまえば、採るべき方法はおのずと限定されるはずです。行先の決まった旅行ならば、乗るべき乗り物や行先はある程度限定されるのと似ています。例えば、近所のコンビニに行くのは車か自転車と相場は決まっていて、飛行機を使うなんてありえないですよね。

 

戦略というと難しく聞こえますが・・

戦略というと難しく聞こえますが、経営学では以下の4つに分類されています。M&Aは、これらの戦略を実現するための考え方で、旅行でいうところの乗り物の役割になります。M&Aを実行することで効率的にゴールに近づくかどうかで取り組むべき案件かどうかが、誰にでも判断できるようになりますので、社内の決裁スピードが格段にアップします。

 

1.市場浸透戦略

既存の製品・サービスにて既存市場を深堀し、成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと競合や自社よりも小さな規模の同業者を吸収合併するイメージです。

これによって、今と同程度の規模で取引量を増やすことができるため経営効率のアップに繋がったり、競合が減るため、競争環境が緩和されたりすることことが期待できます。

 

2.新製品開発戦略

既存のお客さまに対して新しい製品・サービスを提供して成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと他社ごと新製品を取り込んで開発の手間を回避する手法です。回転寿司店が焼き肉店を統合してカテゴリを拡張したり、魚屋さんを統合して品揃えの拡張や新鮮な食材の調達によって差別化を図ったりが考えられます。

開発に必要な時間を短縮し、失敗のリスクを減少するという経営上のメリットが生まれると考えられます。

 

3.新市場開拓戦略

既存の製品・サービスを活用して新しい市場を獲得することで成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと地理的に商圏が重なっていない同業者や、顧客層の違う同業者を統合することで経営効率を高めるパターンが考えられます。

これによって、取引量の拡大による原材料調達コストをさげたり、物流効率をアップさせたりすることが期待できます。

 

4.多角化戦略

その名の通り、新しい製品・サービスで、新しい市場を開拓することで会社全体を変革していくような大胆な戦略です。中小企業では、少し検討しづらい戦略です。

M&Aでいうとここまでのどれにも分類できないものがこの戦略になります。例えば、自社の既存事業との関連がありつつも業界も顧客も違うような企業を統合することで、競合との取引も実現してしまうような大胆な戦略です。事例の紹介も複雑になりますのでここでは、割愛します。

 

まとめ

こうやって改めて自社の成長戦略について考えようとすると、第一歩めは「自社は何を持っていて、何が不足しているのか?」を明らかにする必要が生まれます。つまり最初にすべきは、他社ではなく自社のDD(デューデリジェンス)ということですね。

今回は、なかなかM&Aが進まず、頭を抱えているご担当者向けに、必殺の解決策をお伝えしたつもりです。経営の現場では、M&Aに限らず「手段の目的化」が昔から起きやすい環境にあります。特に昨今の不確実性の高い経済情勢では、人は短期志向となり手段の目的化はとても起きやすい環境だと言えます。

そんな環境下だからこそ、「M&Aは、あくまでも手段であって、目的ではない」ということを強く意識していただくだけで成功に一歩近づくはずです。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。きっと、戦略策定のための情報提供をしてくださることと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画①

認定支援機関が行う経営改善計画策定

認定支援機関が行う企業に対する支援の一つに経営改善計画の策定があります。経営改善計画とは、何となく「経営を改善する計画」というイメージを持つことはできるかもしれません。しかし、経営改善計画の策定の目的、計画の具体的な内容などは意外と専門的な要素も少なくありません。そこで、今回と次回は、経営改善計画について解説したいと思います。

 

金融機関は企業からの支援の求めがあっても当然に応じるわけではない

企業が事業を行うなかで、資金繰りに苦しむことがあります。資金繰りに苦しむ原因の一つに事業が不振で金融機関からの借入の返済資金を捻出できないことが考えられます。また、事業を好転させ、売上増加を目指すためには、設備投資などのために資金調達が必要となることもあり得ます。

このようなことから、資金繰りに苦しむ企業が資金繰りの改善を行うため、金融機関に対し、現在の借入の条件の変更や新たな借入などの支援を求めることとなります。

しかし、金融機関の立場からすれば企業から支援を求められたとしても、当然にこれに応じるわけにはいきません。なぜならば、金融機関としても、倒産のおそれがある企業に新たに貸付を行ってしまうと、貸倒のリスクが生じるからです。

 

金融機関による債務者の区分

金融機関は、通常、債務者をその財務状況、資金繰り、収益力等により返済能力に応じておおむね以下のような区分をしています。

① 正常先

業況が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいいます。

 

② 要注意先

金利減免を行っていたり、元本や利息の支払いが事実上延滞していたりする、債務の履行状況に問題がある債務者のほか、事業の状況や財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意を要する債務者をいいます。要注意先はさらに、その他注意先と要管理先に区分されます。

このうち、要管理先とは、債務者に対する債権に「貸出条件緩和債権」又は「3か月以上延滞債権」が含まれる債務者をいいます。そして、その他注意先とは、要管理先以外の要注意先の債務者をいいます。

 

③ 破綻懸念先

現状、経営破綻とまではいえないにしても経営難の状態にあり、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいいます。

 

④ 実質破綻先

破産や手形の不渡りなど法律上又は事実上の経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態で再建のめどが立たず、実質的に経営破綻に陥っている債務者をいいます。

 

⑤ 破綻先

破産や手形の不渡りなど、法律上又は事実上の経営破綻の事実が発生している債務者をいいます。

 

分水嶺となる「その他注意先」と「要管理先」

上記の債務者の区分のなかで、特に重要となるのが、その他注意先と要管理先です。なぜならば、要管理先の債務者に対して有する債権は不良債権と位置付けられるからです。

金融機関としても、不良債権に対しては貸倒引当金などを用意しておく必要があります。貸倒引当金が多いとそれだけ銀行の自己資本が少なくなり、自己資本比率も悪化します。この意味で、不良債権を抱えることは、金融機関の経営の健全性にも重大な影響を及ぼしかねません。

したがって、金融機関にとって、要管理先である債務者に対する支援を行うことは躊躇せざるを得ないといえます。

 

経営改善計画があれば「その他注意先」への『昇格』が可能

しかし、そもそも企業は、資金繰りが苦しいからこそ金融機関に支援を求めるのです。したがって、現状は資金繰りが厳しく、事業が窮状にあったとしても、将来的に改善が可能である企業に対しては金融機関による支援がなされるべきであるともいえます。

そこで、債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性があると考えられる企業に対しては、債務者区分を破綻懸念先・要管理先から、その他要注意先とすることができることとされたのです。

ここにいう「債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性」を示すものが経営改善計画となります。このため、経営改善計画の内容は、事業の改善が可能であることがうかがえるものである必要があります。

以上のことからも明らかなように、経営改善計画は、金融機関からの支援を得るための説得の材料となるものということができます。

 

実抜計画と合実計画

経営改善計画は、具体的には実抜計画と合実計画の2つがあります。このうち、実抜計画のほうが要件が厳しいものとなっています(詳細は次回のコラムで解説します。)。

① 実抜計画:「実」現可能性の高い「抜」本的な経営再建計画

⇒要注意先に該当しなくなり、その他注意先となる。

② 合実計画:「合」理的かつ「実」現可能性の高い経営改善計画

⇒破綻懸念先に該当しなくなり、要注意先となる。

ただし、債務者が中小企業の場合は、合実計画が策定されている場合には、当該計画を実抜計画とみなして差し支えないとされています。

したがって、中小企業においては、合実計画を策定すれば、その他要注意先に区分されることとなります。

 

次回の予告

次回は、実抜計画と合実計画の意義について説明を行ったうえで、経営改善計画の具体的な内容などについて解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

スモールM&Aの契約リスク ~公取委が警鐘 その契約大丈夫ですか?

事業承継と並んでM&A の活用進んでいるのがスタートアップにおけるM&Aです。

近年は、オープンイノベーション推進のため大企業・中堅企業を中心に外部リソースを活用して新製品や新サービスの開発を行う動きが広がり、積極的にスタートアップの株式を第三者割当増資や株式譲渡を通じて取得するようになりました。

M&Aでは株式取得を検討する段階での秘密保持契約(以下、NDAという)をはじめ、クロージングする段階での株式譲渡契約及び出資契約等の契約書を締結します。ところがスタートアップのM&A拡大に伴い、契約内容について「買手優位」を反映した様々な問題が指摘されるようになってきました。

 

1.スタートアップのM&Aに広がる「優越的地位の濫用」問題

(1)背景

一般的にスタートアップのM&Aでは、買手企業は企業規模が売手企業より大きく、組織面・資金面が充実しており、M&Aの経験も豊富であることが少なくありません。

一方、M&Aといっても、事業シナジーを発揮することが目的となるため、経営権が移転する取引ばかりでなく資本提携やジョイントベンチャーなど経営権を残したままで事業再編を行う「広義のM&A」も多用されています。

こうした中、M&Aを検討する段階で締結するNDAや資本提携のために締結する出資契約を悪用して、買手が売手に対して「優越的地位を濫用」する事例が頻発しているのです。

 

(2)問題点

スタートアップのM&Aにおける「優越的地位の濫用」について、公正取引委員会が実態調査に乗り出しました。2020年11月に公表された「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下、報告書という)によると、出資者との取引・契約の中で次のような問題が発生していると指摘されています。

①営業秘密の開示:NDAを締結しないまま、営業秘密の無償での開示を要請された

②NDA違反:NDAに違反して営業秘密を他の出資先に漏洩し、当該他の出資先が競合する商品等を販売するようになった。

③無償作業:契約において定められていない無償での作業を要請された。

④委託業務の費用負担:出資者が第三者に委託して実施した業務に係る費用の全ての負担を要請された。

⑤不要な商品・役務の購入:他の出資先を含む出資者が指定する事業者からの不要な商品等の購入を要請された。

⑥株式の買取請求権:知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を受け、その要請に応じない場合には買取請求権を行使すると示唆された。スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。

⑦研究開発活動の制限: 新たな商品等の研究開発活動を禁止された。

⑧取引先の制限: 他の事業者との連携その他の取引を制限されたり、他の出資者からの出資を制限されたりした。

⑨最恵待遇条件:最恵待遇条件(出資者の取引条件を他の出資者の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定された。

 

単に公正さを欠く契約を締結するということに止まらず、契約締結後の取引関係においても問題が発生しているようです。報告書によると、これらの問題が生じるのは、「i.スタートアップ側の法的リテラシーの不足」、「ⅱ.オープンイノベーションに関するリテラシーの不足」、「ⅲ.対等な立場を前提としたオープンイノベーションを推進する上で望ましくない慣習の存在」の3つが主な要因となっていると指摘しています。

 

 

2.問題への対応策

こうした問題に対応するため、政府は「成長戦略実行計画」(2021年6月閣議決定)において「スタートアップ企業と出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定する」としました。

これを受け、公正取引委員会と経済産業省の連名でスタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(以下「指針(案)」という)を策定し①独占禁止法上の考え方及び問題となり得る事例等、②問題の背景及び解決の方向性が整理されました。

その中で特に、事業承継等のスモールM&Aでも幅広く締結されているNDAに関する問題点と解決の方向性について考察することとしましょう。

 

(1)営業秘密の開示とNDAに関する問題点

①営業秘密の開示

正当な理由がないのに、NDAを締結しないままスタートアップの営業秘密が開示された場合には、営業秘密が連携事業者によって使用されて第三者に流出して使用されてしまうおそれがあります。

具体的には、「NDAの締結無しに情報を開示するリスクの認識がないままに情報を開示してしまう」、「プロジェクトの開始時点ではNDAが締結されず、プロジェクトが終了した頃にNDAが締結される」等の事例でこうした営業秘密の流出が発生しているようです。

②片務的なNDAの締結について

片務的なNDAとは、スタートアップが、連携事業者から、スタートアップ側にのみ秘密保持・開示義務が課されている契約内容であったり、契約期間が非常に短く自動更新されなかったりといった内容のものを指します。こうしたNDAではNDA期間内であっても、スタートアップの営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがあります。また、非常に契約期間の短い場合には、営業秘密が陳腐化する前に、営業秘密が連携事業者に使用されたり、第三者に流用されたりするリスクが高くなります。

 

(2)解決の方向性

これらの問題を解決する方策として「指針(案)」では以下のような方法が提示されています。

①出資する側・出資されるスタートアップ双方で共通認識を持つ

まず双方が秘密情報の社内管理を厳格化し、お互いが開示しようとする秘密情報の使用目的・対象・範囲について共通認識を持つことが必要です。その上で、双方が管理可能な方法でNDAを締結することが重要になります。NDAを締結しても実効性が無い契約内容では秘密情報は管理できません。

②社内での秘密情報の取扱いに関する認識を共有する

事業担当者と知財・法務担当者で秘密情報の扱いに関する見解が異なる場合もあります。事業担当者と知財・法務担当者間でコミュニケーションの場を設定しましょう。

③NDAモデル契約書等を活用しリテラシー不足を補い片務的契約になることを回避する

秘密保持リテラシー向上のためには、モデル契約書等を活用することも有効です。

これらを活用し連携事業者の提案する「ヒナ型」を丸のみして片務的な契約となることを回避します。

 

【ご参考】

□研究開発型スタートアップと連携事業者のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture.html

□知財を使った企業連携4つのポイント

https://ipbase.go.jp/public/point.pdf

□秘密情報の保護ハンドブックのてびき

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/170607_hbtebiki.pdf

 

 

3.まとめ

スタートアップのM&Aは勿論、事業承継においてもNDAを締結することは基本的なプロセスとなっています。

意図的に片務的なNDAを締結するのは論外ですが、スタートアップと連携事業者、事業承継における売手企業と買手企業の間には、どうしても情報の非対称性があるため「優越的な地位の濫用」に該当してしまうリスクをはらんでいるという面があります。

公正取引委員会と経済産業省によって2021年12月に「『スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(案)』に対する意見募集について」というパブリックコメントの募集が行われました。今後については、関係者の意見を踏まえて「指針」が正式に策定され、出資時の契約における留意点が明確化されることになりそうです。

ますます広く活用されることが期待されるM&Aですが、意図せず優越的地位の濫用に陥ることのないよう、「指針」に留意しつつ対応することも必要ではないでしょうか。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

企業に寄り添う認定支援機関

企業の経営において課題が生じたときに誰に相談するか

企業の経営においては、資金計画のほか、新製品開発、新規事業立上げ、売上拡大などさまざまな課題が日々発生します。これらの経営課題に対しては、自社だけで立ち向かうよりも、他の企業の取組事例や専門的知識が豊富な外部の専門家等による支援を得ることで、よりよい成果を上げることができます。

そこで、今回は、企業の経営課題の解決を支援するための制度である認定経営革新等支援機関(以下「認定支援機関」といいます。)について解説します。

 

認定支援機関とは何か?

認定支援機関とは、経営革新等支援業務を行うために必要な専門的知識や実務経験等を有しているとして国によって認定された個人・法人をいいます(中小企業等経営強化法第31条第1項)。

ここでいう「経営革新等支援業務」とは、以下の業務を言います。

① 経営革新を行おうとする中小企業又は経営力向上を行おうとする中小企業等の経営資源の内容、財務内容その他経営の状況の分析

② 経営革新のための事業又は経営力向上に係る事業の計画の策定に係る指導及び助言並びに当該計画に従って行われる事業の実施に関し必要な指導及び助言

すなわち、認定支援機関とは、企業の経営課題解決に必要な財務・税務などの専門的知識や実務経験が一定の水準以上であることを国が認定し、企業が安心して支援を受けることができるようにすることを企図した制度です。

 

認定支援機関に認定されているのはどのような機関か

平成31年3月31日時点で、2万4158機関が認定支援機関として認定を受けています。

認定を受けているのは、税理士・税理士法人が多数を占めていますが、公認会計士、中小企業診断士、弁護士なども認定を受けています。また、銀行や信用金庫といった金融機関や商工会議所・商工会も認定を受けています。個人・法人や業種を問わずさまざまな属性を持つ機関が認定支援機関として認定されており、それぞれが持つ強みを活かして企業の支援をしていくことが可能となっています。

なお、税理士や中小企業診断士などの資格を保有しているからといって、当然に認定支援機関に認定されるわけではなく、一定の実務経験又はこれに代わる研修・試験の合格が必要とされています。このほか、近時の制度改正により認定支援機関の認定は5年の有効期間があり、期間満了時に改めて業務遂行能力の検証が行われることになりました。

 

認定支援機関はどのようにして探せばよいか

既に述べたように、さまざまな機関が認定支援機関に認定されているため、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていることも少なくないと思います。

また、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていない場合や、第三者的な視点での支援を受けたい場合などは、中小企業庁のウェブサイトにある認定支援機関検索システム(https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea)を使うことで全国の認定支援機関を検索することができます。この検索システムでは、各認定支援機関の属性のほか、これまで行ってきた支援の実績なども確認することができます。

 

認定支援機関はどのような支援を行うか

では、認定支援機関は具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

認定支援機関が企業に対して行う典型的な支援として経営改善計画の策定をあげることができます。

金融機関からの借り入れの返済など資金繰り上の課題を抱える企業が、経営改善計画を策定することによって、収益性の改善や借入の返済の見直しを行うため、経営改善計画を策定します。経営改善計画の策定においては、当該企業の現状や課題を分析し、いかなる次期にどのような取り組みによって課題を解決していくかを検討していきます。その際、認定支援機関が助言や計画案の作成などの支援を行います。また、当該経営改善計画が策定されたのちも、計画どおりに取り組むことができているかのモニタリングについても認定支援機関が行います。

そして、これらの支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業))。

このほか、事業再構築補助金を申請する際には、認定支援機関が企業による事業計画書の策定に関与し、当該事業計画が事業再構築指針に沿った内容であること確認することや、事業者の事業遂行や成果目標の達成に関する支援に取り組むことを誓約することが必要となっています。このように補助金などの施策を利用する際には、認定支援機関の支援が必須となっている場合もあります。

 

まとめ

最初は「補助金の申請をする際に必要とされているから」などと比較的消極的な理由で認定支援機関による支援を受けるという企業もあるかもしれません。

しかし、外部の専門家などから新たな視点での助言や考え方を得ることが、悩ましい経営課題を解決するために第一歩となるかもしれません。

本稿が企業による認定支援機関の利用のきっかけとなれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久