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「良い案件があったら教えて」という前に担当者がすべきこと

みなさまこんにちは、突然暑くなったり、はたまた寒くなったり・・。日本の春はどこへ行ってしまったんでしょう。本日は、初めてM&Aの担当を任された担当者がどのような手順で案件を探索すればよいのか?について一緒に考えてみましょう。

 

戦略の合意が取れたら対象企業を捜しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、ご自身の考えがまとまったら、さっそく情報収集をスタートしましょう。戦略立案の重要性については、過去のコラムをご参照ください。(https://stella-consulting.jp/archives/875

“情報収集をスタートしましょう”と言っても、戦略策定のフェーズで並行して行っているケースがほとんどでしょう。しかし、戦略が決まる前と決まった後では、同じ情報でもその受け取り方がずいぶんと変化していることに気づくはずです。なぜなら、業種や業態、企業規模、金額、所在エリアなどの条件面はすでに戦略上で絞られていますので、もうあれやこれやと迷うことが格段に減っているはずです。

これによって節約できた労力を今までより掘り下げた研究に振り向けることもできますし、情報収集の幅を広げることもできるはずです。

例えば、情報のメインソースは、マッチングサイトだと思いますが、条件面の具体化ができていれば、金融機関に資金面の支援を含めた相談をすることもできます。また、地元の同業者組合や自治体などが主催する展示会イベントなどに参加し、探索する業界の企業の強みや技術力、社員さんなどと接触することも可能になります。取引先候補として接触できるので、技術面やサービス面など具体的な情報が聞き出せる絶好の機会です。

 

まずは、リストアップ

情報収集を進める過程で自社の戦略に合致するM&A候補先があれば、リストに概要や気づきをまとめていきます。最初の段階では、できるだけたくさんリストアップすることに注力しましょう。マッチングサイトであれば、相手先もある程度売却の意思が固まっているでしょうから、交渉は進みやすいのですが、単に事業承継に課題を持っている程度の企業では、いくらこちらがその気になったからといっても交渉をスタートさせることすらできないからです。

ある程度の件数のリストが完成したら、社内での検討会議を行います。チームメンバーが持ち寄った案件が自社の戦略にマッチしているかどうか、最低限の確認作業を行います。

ここでよくあるのが、戦略にマッチはしないにもかかわらず、メンバー間の評価が高い案件の存在です。なぜこんなことが起きるのでしょうか?考えられる原因は、2つです。

ひとつは、戦略の理解が浅いメンバーが存在することです。これは、この会議を通じて理解を深めてもらい、チーム内の意思統一を図るよい機会としましょう。

次に、戦略が自社の現実からずれてしまっているケースです。会議室では、往々にして現実離れした理想論が語られ、現実的な意見が言いづらい空気が充満し、物事が決まってしまうことがあります。いわゆるグループシンクと呼ばれている、「集団で話し合うと浅はかな結論を導き出してしまう」という人間の習性です。このケースでは、戦略の方を修正することになります。戦略は、このように修正を繰り返し筋の良いものになっていくものと割り切って随時手直しを続けましょう。

 

対象企業を評価する。

対象企業候補リストが完成したら、次に評価を行い、優先順位を決定します。評価軸は、自社の戦略に叶っているかどうかの1点になりますが、その中に大きな要素が3つあります。

ひとつは、事業上のシナジーをどの程度見込むことができるか?です。

代表的なケースは、相手先企業の持つノウハウ、技術、設備、スタッフ、取引先などを自社に取り込むことで既存事業に対するプラスのインパクトが期待できるケースです。このケースでは、社内討議が行いやすいように3~5年程度の将来にわたって発生するであろう収益を試算します。この際、算定条件なども併せて示すことで判断が容易になります。また、これとは逆に、自社の持つ経営資源を相手先に提供することで、相手先の業績向上が期待できるケースです。こちらは、収益の資産が少々困難ですが、合併後の事業運営が順調なケースと不調なケースなど複数案を検討することで、試算の精度を上げることは可能です。

次に、財務健全性はどの程度か?です。

こちらは、情報ソースが金融機関であれば、ある程度提供してもらえるかもしれませんが、それも難しければ、信用調査会社から購入する方法を検討しましょう。

最後に、実現可能性の検討です。

こちらも、この段階で入手できる情報から判断することは到底できませんが、中小企業の場合、経営者の年齢や後継者の存在から検討することができます。また、業績や設備投資の程度などから、先行きに不安があるのかどうかくらいは判断ができそうです。後継者が社内におり、積極的な設備投資の形跡がみられるようであれば、商談にすら持ち込めない可能性が高いため、調査の優先度は下げる。といった評価ができそうです。

 

持ち込み案件への対応

情報収集活動を進めている過程で、金融機関などからM&A案件が持ち込まれることも増えてきます。一般的には、ノンネームシートと呼ばれるA4用紙1枚の案件概要が提示されます。当然、対象企業名はなく、簡単な情報しかないため、情報提供者に対してヒアリングを行う必要があります。彼らも「良い案件」であると考えて提案したことから考えても、シートには書けないが有益な情報も持っており、それをきっと話したいはずです。

この段階で確認したい項目は、リストアップ先の評価軸と共通する点がほとんどです。具体的には、対象企業の強みや弱み、売却の背景、自社に提案してきた理由、金額などの条件面、他社との交渉状況、回答期限など。

M&Aは比較的クローズな市場であるため、例え口頭でもこのような情報が入手できるよう、日頃から金融機関などとよい関係を築いておくこともポイントです。

 

まとめ

今回は、自社の戦略に沿ったM&Aを実現するための手順についてお話しました。「M&Aは相手がないと始まらない」とばかりに「何かよい案件があったら教えて」と金融機関や外部関係者に依頼する人を時々見かけますが、こういった依頼の方法では対応しづらいのが金融機関側の本音のようです。まずは、情報収集を進めながらでもよいので、自社の方向性を具体化させることが必要です。特にM&Aは、計画通りに進まないことが大半ではありますが、大きな投資を伴う事業です。まずは、計画立案から進めることをお勧めします。この記事に出会ったことを良い機会に、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

 

中小企業診断士 山本 哲也

【僕たちのM&A】 そのM&Aちょっと待って!買い手が思考すべきこと

はじめに

大阪府堺市でみなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。

スモールM&Aに関しての情報収集をしていると、数字中心の情報や“事業にかける想い”などすごく抽象化された短い言葉ばかりで、現状分析があまり書かれていません。売り手側は、隠すつもりはなくても難しい話(当事者でないと理解しづらい話)や業界の人だと当たり前すぎる話は積極的にはしてくれません。すべての情報に意味があり、引き継ぎ後の経営上、必要がある情報なのですが・・・。

精魂込めて作り上げた仕事を人事異動で後任に引継ぎするあの感覚です。後任と人間関係ができていたり、波長(M&Aの場面では経営理念が近いかもしれません)が合っていたりすれば、お互い大切にしているポイントが似ていてスムーズな引継ぎができますが、どちらか一つでも欠けていたらどうでしょう。気持ちの良い引継ぎは難しいのではないでしょうか。

 

投資家の視点と経営者の視点

今回、ツナグは、ショッピングセンターにテナントで入っているジューススタンドのオーナーとの面談に臨みましたが・・・。
オーナー「ツナグさん、初めまして。今日はよろしくお願いします。早速ですが、ツナグさんはなぜ当社に声をかけてくださったんですか?また、この小さなジューススタンドをどのように運営していかれるおつもりですか?」
ツナグ:「・・・」

ごあいさつもそこそこに、突然、核心に迫る質問をされて、ツナグはたじろいでしまいました。こんなことが起きないようにしっかり準備して臨みましょう。

個人によるスモールM&Aでは、事業をお金で買うということにとどまらず、誰かが生み育てた事業にお金とあなたという経営資源を投入し、大きく育てることとも言えます。
つまり、自分の持っているあらゆるリソースを投入する投資案件ですから、投資家だけではなく経営者の視点で事業全体を見渡すことも大切です。つまり、最初に確認すべきは、経営理念なのです。

ツナグ:「私は、これまで○〇や△△ということをしてきましたが、そこには、××という問題があると常々考えています。その解決には、私がこれまで培った〇△というスキルを活かして御社の事業の運営を・・・」

同じ価値観の経営者とうまく出会えることが、もっとも安全安心なM&Aを進めるコツと言えます。なぜなら、同じような価値観の経営者であれば、ビジネスモデルを構築する場面において、何を重視するかの判断軸が近くなり、結果として自分が目指すビジネスに近いモデルになっている可能性が高いからです。。

 

現場責任者の視点

もう1つの視点は、現場責任者の視点です。

いくら考え方が共有できたことによって重大なリスクがないとしてもクロージングが終わった瞬間から事業運営のすべての責任は、あなたにかかってきます。腕の良い番頭さん(事業責任者)がいらっしゃればよいのですが、小さな案件になればなるほど、社長が陣頭指揮をとっている可能性が高くなります。指揮者が突然交代してもオーケストラの演奏が止まらないための工夫が必要です。

具体的なお話を、経営資源の視点で見ると・・。

① 売上を左右する要素は何か?明日、来月の売上確保は見えているか?
例えば、立地や天候など外部環境に売上の大半が左右される事業であれば、中長期的な視点で見ると不安要素としても捉えられますが、M&A後の短期的視点でみると安心材料となります。

② 顧客の分析はできているか?ポイントカードや会員制度があるか?
中長期的な視点から自力でいくらの売上を作れるのか?もし、顧客接点確保の仕組みがなければ、追加的な投資が必要になると見込んでおく必要があります。

③ コストが正確に計上されているか?
例えば、本来その事業の経費であるものが、別事業に計上されていたり、逆に他の事業のものを負担していたりすることがないか。同じように業務内容や担当者がきちんと切り分けられているか?過去の決算書から異常値があれば、その内容については必ず確認しておきましょう。

④ 資金繰り計画があるか?
ジューススタンドの場合は、問題なさそうですが、季節ごとに大きな仕入れが発生するようなビジネスや従業員のボーナスなど、年に数回の大きな資金需要がすぐに控えていないかは確認しましょう。大切な引継ぎ期間に必要な運転資金の確保のために時間を奪われたり、投資回収計画に狂いがでたりすることにつながります。

⑤ 在庫や設備などの資産は、時価とどれくらい離れた金額で計上されているか?
M&A代金をどのような方法で設定するにしても、対価の一部として引き受けるわけですから、当然、どこに所在して、ボリュームや状態はどうなっているのか?一つ一つ確認するのが普通ではないでしょうか?今回のようにショッピングセンター内にあるテナントですと、大家に預けいている敷金やFC事業ですと本部へ預けている保証金などもしっかり確認しておきましょう。

⑥ お金以外のところで言うと、取引先との契約関係も非常に重要な資産と言えます。
事業譲渡によるFC加盟店の権利移動を認めていないFC本部がほとんどです。大家も同様です。どちらも取引相手としての適性を審査した上でないと契約をしないことがほとんどです。このようにお金で解決できない取引関係があると、そこで商談が頓挫してしまいますので、事前の調査が重要です。

 

まとめ

売り手側には往々にして支援者がいます。一方でサラリーマンM&AのようなスモールM&Aでは、必要に応じて専門家を探す場合がほとんどです。今回見てきたようなチェックポイントや最終譲渡契約書の内容が一方的に不利になっていないかなど買い手側も独自で専門家にお金を支払ってでも確認すべきです。弁護士や中小企業診断士、会計士などのうちM&A実務経験のある専門家を探すようにしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

交渉過程で、買い手がうっかり忘れてまうこと

みなさま、こんにちは、新型コロナウイルス感染症もワクチン接種が始まりましたが、我々が接種してもらえるのはずいぶん先になりそうです。我々ビジネスパーソンは、外部環境の変化に抵抗しても何も得るものはありません。変化を味方につけて社会に価値を生み出してまいりましょう。あなたのちょっとした変化を応援しています、山本哲也です。

 

いつものように、M&Aで社長を目指す“若手ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。

 

ツナグ:「M&Aの仕組みを利用して新しいビジネスを始めたい」と思い立ったものの売り手のどん

なところを見ればよいんだろう・・・?

 

今日は、かなり大きなテーマになってしまいそうですので、基本的なところを考えるヒントになればと思っています。

 

どのような業種がよいのか

もちろん、業界のことを理解できているような身近な業種業態や、自分の経験が活かせる業界、地縁血縁を持っている業界などが第一候補となると思います。しかし、ツナグのように若いビジネスパーソンで新しい世界にチャレンジしたい方や未経験でもIT業界に関心の高い方もおられると思います。

一般論にはなってしまいますが、リスクの少ない業界やリスクの少ないポジションの企業があるのも事実です。例えば・・

“固定客があり、毎月一定の売上が見通せるストック型のビジネス”

当たり前ですが、この不確実性の高い社会では、ある日突然ビジネスモデルが通用しなくなることが発生してもおかしくはありません。今回のコロナ禍においても大きなダメージを受けた業種業態がありました。感染拡大初期段階では、スポーツクラブやカラオケ。その後、緊急事態宣言の発令を受けて、飲食店や観光業へと波及し、人の行動パターンや意思決定ロジックといった生活様式が変化したことで、美容関連やアパレルにまでその影響は拡がりました。

万一、このような大きな環境変化が発生しても、会員のような固定客があれば、その環境変化に合わせて顧客からの要望を受けて、業種業態の変更、提供価値の変更は不可能ではありません。

 

“規模のメリットが働く業種や小商圏の規模の小さな企業が集まっている業界”

これは、地元密着のスモールビジネスがこれに当てはまります。つまり、すでに行っているビジネスで同業他社を取り込んだり、顧客だけを譲り受けたりするイメージです。規模の拡大により増加する固定費が小さく、限界利益の増加分をそのまま営業利益として取り入れることができるケースです。

 

社内体制の特徴からみると・・・

“ワンマン社長ではなく、権限移譲が進んでおり組織で会社が回っていること”

ワンマン社長を避けたい理由は、2つあります。まず、成功ノウハウを社長だけが理解しており、暗黙知になっており、うまく引き継げないことが考えられます。また、社長がトップ営業マンとして長年活動しており顧客とつながっているため、社長の退職と同時に顧客が離れてしまうリスクが考えられます。最後に従業員がM&Aを機会に退職してしまうことも考えられます。

 

財務面で見ると・・・

“売上利益が安定しており、わずかでも黒字になっていること”
当たり前の話ですが、M&Aによりあらゆる面で不確実性が増します。買収で資金的な余裕も失われた状態で、毎月のようにキャッシュアウトしていくような企業は、避けたいですね。財務面だけでなく精神面も相当タフでなくては、事業を好転させることは難しくなるでしょう。まずは、自分の役員報酬を確保した上で少しの黒字がでるくらいで十分ですが、実質黒字にはこだわりたいところです。

また、“借入金が年商の30%以下程度であること”赤字でも会社は倒産しませんが、資金返済が滞れば突然倒産ということは十分にあり得ます。もちろん借入金は少なければ、安心感はありますが、一方で金融機関からの信用というものも大切な経営資源です。借入金があっても、短期的な運転資金や返済のめどがたっているものであれば、かえってあったほうがよいと考えるべきです。

 

交渉の過程では・・・

“売り手側が質問に対して誠実かつ迅速に対応してくれること”や“交渉を急がせてこないこと”などビジネスパートナーとして信用できるかどうかも大きな取引だけに重視したいポイントです。後で後悔することのないよう、落ち着いて判断したいところです。

 

いかがでしたでしょうか。

今回も、いつも以上に当たり前のことばかりをお伝えしました。しかし、案件が進んでくるとどうしても「せっかくここまで進めのだから・・」「相手も乗り気だし・・」などという心理が働きます。交渉が進むごとに当初描いていたゴールイメージとの乖離を確認しつつ、商談を進めるようにしてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也