ブログ 月: 2020年10月

TOBについて考える

みなさんこんにちは!大阪府堺市でみなさまのちょっとした変化を応援しています。山本哲也です。今回は、スモールM&Aから少し外れて株式市場を騒がせたTOBの話題についてお話したいと思います。つい先日、コロワイドが仕掛けた敵対的TOBは、ゲーム終盤になって両社が手を打ち、大どんでん返しかと思われましたが、結果としては、コロワイドの敵対的TOBが成立しました。いったい何があったのでしょうか?

敵対的TOBとは、経営陣の賛同を得ずに行われる株式公開買付けを指します。経営陣は買収対抗策を講ずるとともに、株主に対して買付けに応じないように勧告します。現経営陣の買収対抗策としては、ホワイトナイトと呼ばれる第三の友好的な企業による合併や新株引受けにより、買収を避けることがあります。また、自社の重要資産を他企業に営業譲渡することで買収する側からみた「買付けする価値」自体を棄損し買収意欲を削ごうとするようなことまで行われるケースもあります。

 

TOB成立条件を引き下げ

大戸屋は、8月下旬にオイシックスと業務提携を発表しました。冷凍総菜やミールキットなどの共同開発を行うようです。オイシックスは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要の影響で業績好調で、2020年4〜6月期決算は、売上高が前年同期比42.2%増の231億円、営業利益が約3.8倍の20億円と大幅な増収増益となっています。「このままホワイトナイトになるのか?!」とワクワクしましたが、単なる業務提携との発表のみで終わりました。当たり前ですね。

一方、コロワイド側は8月下旬、TOB成立条件の下限を45%から40%に引き下げた上にTOB期間を9月8日まで延長しました。大戸屋ファンである個人株主たちが、コロワイドの呼び掛けに乗らず、TOB成立に必要な株数が集まらなかったためです。しかし、これが、決勝弾となり、一気にTOB成立となりました。大戸屋ファン株主が一挙に心変わりしたのでしょうか?

 

コロワイド苦戦の理由

コロワイドのTOBが苦戦していた理由は、ファン株主によるTOB反対だけではなかったようです。

日経新聞などによると…
TOBの成立下限が40%に引き下げられたことで、「利にさとい最大14日間限定の株主が急増した」(証券会社関係者)。

つまり、利ザヤ稼ぎのために市場で株式を買い入れ、コロワイドのTOBに申込んだ、いわば、“にわか株主”が殺到したようです。目標の取得率を引き下げたことと、取得期間を伸ばしたことで、状況が大きく変わったようです。

 

どういうこと?

これにはTOBの仕組みを少し説明する必要があります。以前の条件だと、応募が殺到して取得上限の51.32%を超えてしまうと、応募した1,000株すべては買い取ってもらえず、その一部、例えば400株が手元に戻ってきてしまうかもしれません。

 

それによって何が起きるかというと…。

戻ってきた400株がTOB終了で暴落する可能性が相当高く、そうなると利ザヤを大きく下回りトータルすると損失となる可能性が高まっています。これらの株主は経営や大戸屋のポリシーに興味があるわけではなく、利ザヤにのみ興味があるのです。だからこのリスクを勘案することは、当然と言えば当然です。

 

ビッグチャンス?

コロワイドの条件変更の発表を受けて、TOBへの応募は下限にすら達しなかったことが明らかになりました。言い換えれば、「TOBに応募すればほぼ間違いなくすべて買い取ってもらえそう」(個人投資家)という見方が急速に広がりました。しかも大戸屋HDの株価は8月25日終値でTOB価格を400円近く下回る2700円。

そうです。これはおいしい!!稼げそうだ!! となったことは明らかです。実際に、26日の売買高は25日の9倍以上に膨れ上がった。9月3日までの7営業日の1日平均売買高を見ても、8月25日までの7営業日の2倍を超えている。こうした人たちにとっては、独立経営を訴える大戸屋や「大戸屋HDは我々が立て直せる!」と主張するコロワイドの戦略のどっちが正しいかになんて「そんなのカンケーねー」です。

テレビのニュースで女性株主が「みんなでがんばりましょう!と株主総会で話したのに・・・みんななんで裏切っちゃったのかしら。」と涙ながらに話していましたが。「たぶんみんなが裏切ったのではなく新しい登場人物が現れてドラマが急展開しただけですよ。」と彼女に伝えてあげたいです。このような急展開など起こらなければ、ホームドラマのようなハッピーエンドが待っていたのに。このようなマネーゲームに巻き込まれたことは本当に残念です。

 

狙い通り?

かくして最大14日間限定の新たな投資家の登場は、結果として大戸屋HDを苦しめることになりました。TOB期間延長を発表した後、コロワイド幹部がTOB成立に自信を見せていた裏には、このようなシナリオを描いていたとすれば「すごい。」と言わざるを得ないですが、もう少しスマートにできなかったのでしょうか。コロワイドの企業イメージにとってマイナスでしかないと思うのですが・・・

いよいよ最終回。
コロワイドが臨時株主総会の開催を迫り、経営陣が一新されるようです。役員人事、経営方針、反対派だった社員さん、顧客の動向。どれも目が離せませんね。

 

中小企業診断士 山本哲也

「経営者保証に関するガイドライン」を活用して事業承継をスムーズに!

株式会社は本当に有限責任?

「株主は,株式についての払込みまたは給付という形で会社に出資する義務を負うだけで,会社債権者に対して何ら責任を負わない〔有限責任〕」(神田秀樹『会社法第八版』8頁(弘文堂,平成18年)。会社法第104条)。私が学生時代に使っていた会社法の教科書にはこのような記載がありました。

確かに,法律上,株式会社の債務について株主が自分の財産で弁済する義務はありません。しかし,株主が社長でもある(以下「経営者」といいます。)株式会社たる中小企業においては,金融機関からの借入を自分の財産で弁済しなければならないことがしばしばあります。これは,金融機関から行った借入の債務について,経営者個人が保証債務を負担していること(すなわち,経営者が保証人となっていること。以下「経営者保証」といいます。)によるものです。

経営者保証が事業承継のネックに

中小企業は財務基盤が脆弱であることが多く,経営者保証によって信用を補完することができるため,経営者保証が中小企業の資金調達に寄与する面も少なくありません。事業が順調であれば経営者保証が何か問題を生じさせることは少ないでしょう。

しかし,事業承継を考えるとき,経営者保証がネックになることがあります。例えば,経営者がその地位を後継者に引き継がせたとしても,経営者保証を引き継がせるためには,金融機関の了解が必要となる場合などです。なぜならば,経営者保証とは,経営者と金融機関との間で締結される契約(保証契約。民法第446条第1項)であるためです。後継者の信用が不足するとして,金融機関が経営者保証を引き継がせることに難色を示すことも十分考えられます。

また,そもそも後継者が多額の責任を負う経営者保証を嫌がり事業承継を拒むこともありえます。そのような場合,事業承継自体を断念せざるを得なくなります。

経営者保証に関するガイドライン

事業承継に限らず,経営者保証にはさまざまな問題点があります。そこで,経営者保証における合理的な保証契約のありかた等の準則として,平成25年12月に『経営者保証に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」といいます。)が策定され,平成26年2月から運用が開始されています。このガイドラインは,日本商工会議所と全国銀行協会が有識者とともに協議を重ねて策定したもので,法的な拘束力はありませんが,実務において参考とされているものです。

事業承継の場面におけるガイドラインの内容

ガイドラインでは,前経営者の負担する保証債務について,後継者に当然に引き継がせるのではなく,金融機関は,保証契約の必要性等について改めて検討し,適切な保証金額の設定に努めるものとされています。保証契約の必要性等の検討や適切な保証金額の設定の際は,以下の内容について,考慮するものとされています。

【保証契約の必要性等の検討について考慮するもの】
イ)法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ)法人と経営者の間の資金のやりとりが,社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ)法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
ホ)経営者等から十分な物的担保の提供がある。
【適切な保証金額の設定の際に考慮するもの】
保証人の資産及び収入の状況,融資額,主たる債務者の信用状況,物的担保等の設定状況,主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等

(出典:『ガイドライン』5頁・6頁)

いずれについても,中小企業が保有する財産だけで,債務の弁済がどの程度可能なのかがポイントとなります。そして,このことの前提として,中小企業や経営者個人が金融機関への十分な情報提供や説明をすることが重要になります。

ガイドラインの特則について

令和元年12月には『事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則』(以下「ガイドラインの特則」といいます。)が策定され,令和2年4月から運用が開始されています。ガイドラインの特則では,以下の内容が定められています。

① 事業承継時において,原則として前経営者,後継者の双方から二重に保証を求めないこと。

② 令和2年4月1日施行の改正民法により事業のために負担した債務の保証契約について制限が規定されたこと(※)や,経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえ,前経営者が実質的な経営権・支配権を保有しない場合は,保証契約の適切な見直しを行うこと。

※ 実質的な経営権・支配権を保有しない者が保証契約を締結する場合は,所定の要件のもとで保証債務を履行する意思を公正証書で表示していなければ効力が生じなくなりました(改正後民法第465条の6第1項)。

事業承継に備えた中小企業の財務基盤の確立を!

ガイドラインやその特則は,実は,中小企業に借入を返済できるだけの十分な財産があることが明確ならば,保証人を求める必要性はないというある意味当然のことを定めたものだと考えられます。

長期的な視点をもって,中小企業の明確な財務基盤を確立していくことが,結局は事業承継における経営者保証の問題を解決する一番の方法といえます。

なお,ガイドラインでは,中小企業が倒産した場合や事業再生を行った場合の経営者保証のありかたについても定めています。ガイドラインは,一般社団法人全国銀行協会のウェブサイト等で入手できますので,一読することをおすすめします。

弁護士・中小企業診断士(登録予定) 武田 宗久