ブログ 月: 2020年11月

ぼくたちのM&A

みなさまこんにちは。例年なら、「インフルエンザが本格的に流行する季節ですね。気を付けましょう」なんて時候のあいさつをしていましたが、今年の冬は例年以上の警戒が必要な状況です。繰り返し言われていて耳にタコですが、とにかく手洗いとうがいには特に気を配りたいですね。

いつものように、M&Aで社長を目指す“ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。

 

ツナグ:
M&Aは、大まかにいうと会社を売買することになるわけだけど、そういえば会社の値段っていったいどうやって決まるんだろう?
普段僕らがお客さんに買ってもらう商品やサービスだと、かかったコストに利益を上乗せしたり、競合の値段と比較したり、お客さんの懐事情を想像したりして決めているけど、それが会社となると想像もつかないや。

会社の値段はどうやって決まるのか?

 

会社の売買代金の決め方にはたくさんの計算方法があり、売買する会社の規模や内容、売買する当事者同士で話し合って決めています。ここでは、中小企業のM&Aで使われている代表的なものを紹介します。

●コストアプローチ

コストアプローチは、売買する会社の現在の純資産から売買金額を求める方法です。メリットは、財務諸表をもとに算出できる、客観的に会社買収金額を求められる点が挙げられます。

一方で、デメリットもあります。それは、将来予想される利益が加味されていない点です。将来的成長が期待できるようなベンチャー企業では、コストアプローチは敬遠されます。そして、コストアプローチは、その計算根拠によって2種類に分かれます。一つは、時価純資産法、もう一つは、簿価純資産法です。

 

【時価純資産法】

時価純資産法は、時価総資産から時価負債を差し引いたものを根拠(時価純資産)として利用します。この方法では、時価をもとに再調達原価法を用いたり正味売却価格を求めたりして、各資産の時価総額を算出する仕組みです。

 

【簿価純資産法】

一方で、簿価純資産法は、貸借対照表上の純資産をそのまま根拠として売買金額を算出する方法です。この計算方法があまり利用されていない理由は、将来予想される利益が加味していない以外にも理由があります。中小企業の場合には、帳簿を粉飾していたり、負債隠しをしていたりするケースもちょくちょくあります。そのため、この手法を利用するのであればデューデリジェンスを徹底的に行い、簿価がどの程度正しいのかについて調べる必要があります。

 

ツナグ:
粉飾決算!?えーっ!そんなことちょくちょくあるんですかっ!?テレビの中だけの出来事だと思ってたよ。

 

●インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来の収益性を基準に売買金額を算出する方法です。つまりその会社、事業が将来どれだけのお金を生み出すか?ということが論点になります。

メリットは、将来の収益を想定し、それを根拠に検討しますので、直接的に現在のデータを使うことはありません。ですから先ほどのコストアプローチのようにデューデリジェンスに神経を使う必要がないことです。

一方、デメリットは、買い手と売り手の間で事業の将来性に関する価値観にズレがあると、価格交渉が難航し、M&Aに至らないケースも多くみられます。

売り手側は、「御社の事業と当社の事業には、○○なシナジーがあるので、将来××の利益が得られますよ」と主張しますし、買い手側は、安く買いたいので「おっしゃられていることは一理あると思います。」「しかし、それを実現するには、今後も相当の追加投資が必要だとの認識ですね・・・簡単に回収できる投資案件であるとは経営層に説明ができないです。」などとお互いの利害が一致できる価格を探る交渉事になることは容易に想像できます。

インカムアプローチもその計算根拠に使う数値によって、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)と配当還元法に分かれています。

 

ツナグ:
将来の収益性って・・・。買い手と売り手の意見が分かれそう。うちの課長なんて、僕の将来性をあきらかに低く見すぎてるっていつも感じるよ。

 

【DCF法]

DCF法は売買金額の算出方法として広く用いられている方法です。おおよそ5年間のフリーキャッシュフローを想定して計算根拠とします。フリーキャッシュフローにもいくつかの計算方法がありますが、ここでは省略します。

簡単に言うと、会社が経営のために自由に使えるお金。といったイメージです。この数値を現在価値に割り引き加味して売買価格とします。

 

【配当還元法】

配当還元法とは、将来の予想配当金を根拠に売買金額を算出する方法です。多くの会社が業績と配当金を連動させていることが多いため会社売買の根拠として利用することができます。

しかし、難点もあります。配当金金額は経営サイドが決められるため、会社売却に向けて現在のオーナーが、多くの配当金を支払う事例が数多く報告されており、現在はあまり利用されていない方法です。

 

ツナグ:
やっぱりなかなかいい方法ってないんだね。だから、なかなかM&Aって進まないのかな・・中古車やネットオークションみたいに相場なんかがあればいいんだろうけど。

 

特に小規模事業者の場合、オーナー社長の能力イコール会社そのものであることが多く、M&A後の業績低迷を心配して交渉が難航するというケースが少なくありません。社外から客観的な評価を受ける為には、普段から仕組みや組織力で会社を動かすことが重要と言われるのはこのためです。

本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

 

11月18日開催「年10件以上の成約支援する専門家の秘訣大公開ウェビナー」に登壇します

こんにちは。ステラコンサルティング代表の木下です。

当社では平成30年からM&Aアドバイザリー業務をやらせていただいておりますが、日ごろよりお世話になっているバトンズ様主催のウェビナーに登壇することになりました。

スモールM&Aにご興味ある方、ぜひご参加ください。

 

【日時】2020年11月18日(水)18:00~19:30
【申込み】こちらからお申込みください。⇒https://batonz.jp/lp/202011webinar/

法務DDでの必須ポイント!①(契約編)

法務DDにより思わぬリスクが見つかることがある

M&Aの際に買い手が売り手の価値やリスクを知る方法としてデューデリジェンス(以下「DD」といいます。)があります。

DDといえば財務DDが思い浮かぶ方が多いと思いますが,法務DDによって発見された問題点によって,M&A自体が頓挫してしまうことがしばしばあります。

したがって,少なくともリスクの発見という意味では,法務DDは非常に重要といえます。そこで,法務DDの際に注意すべき点をピックアップして紹介したいと思います。

 

チェンジオブコントロール条項の有無

契約に関する法務DDを行う場合,まずは会社が保有しているすべての契約書を集め,一つ一つその内容を確認していきます。その際,まず気にしなければならないのがチェンジオブコントロール条項(以下「COC条項」といいます。)の有無です。

COC条項とは,株主構成や会社の支配権に変動等が生じた場合に,当該会社の期限の利益が喪失されたり,契約の相手方が当該契約を解除できたりする旨の条項をいいます。具体的には,以下のような条項です。

【条項例】

甲は,丙(注:乙の単独株主)が乙(注:売り手)の唯一の株主でなくなったときは,本契約を解除することができる。

COC条項によって,買い手が重視していた重要な契約が解除されてしまうのであれば,そもそもM&Aをした意味がなくなります。その意味で,COC条項があるかどうかは非常に重要になります。

ただし,COC条項があるとしても,契約の相手がCOC条項に基づく解除権を必ず行使するとは限りません。このため,仮に契約書にCOC条項があることが発見された場合でも,相手方が解除権を行使する可能性がどの程度かについて買い手が確認しなければなりません。また、相手方との交渉の余地があるかどうかについても確認する必要があります。

 

競業禁止条項の有無

COC条項のほか,競業禁止条項の有無も法務DDの際に気になる点です。

競業禁止条項とは,一定の期間,特定の地域において,契約相手が行っている特定の業務と競業する内容の業務等を行うことを禁止する条項を意味します。

【条項例】

乙(注:売り手)は,本契約有効期間中及び本契約が終了したときから3年間,日本国内において,甲と競合する事業を行ってはならない。

上記の条項によれば,例えば買い手が売り手(すなわち乙)を吸収合併する際に,既に甲と競業する事業を行っていたのであれば,吸収合併実施と同時に買い手はこの条項に違反し,契約を解除されたり債務不履行責任を追及されたりするリスクが生じることとなります。

また,買い手が,ある事業を展開させることを念頭に売り手の株式ないし支配権を取得した場合において,当該事業が甲の事業と競業してしまうと,上記の条項に違反することとなります。すなわち,買収後の売り手に当該事業を展開させることができなくなってしまい,M&Aをする意味がなくなってしまうのです。

そこで,仮に競業禁止条項が法務DDで発見された場合,COC条項と同様に,買い手としては,売り手と契約を締結している相手方に対して,事前に競業を行うことを承諾する余地があるか確認する必要があります。その結果を持って、M&Aを行うかどうかを判断する必要があります。

 

その他の契約書の注意点

上記のほかにも,法務DDにおいては,違約金・保証金条項や損害賠償額の制限条項等を確認し,売り手が契約上どのような責任を負うこととなっているのか,または契約の相手方にどのような責任を追及できるのかを確認します。

また,什器備品等の売買契約では,所有権留保に関する条項がないかどうかも見逃せないところです。売り手が所有する物のように見えても第三者に所有権がある場合もあり,売り手の企業価値の算定に影響が出るからです。

 

そもそも契約書がない場合

これまで,法務DDの際には契約書のどのような条項に注意すればよいかについて述べてきました。しかし,実際には,何らかの契約がされていることは分かるものの,そもそも契約書が存在しない場合も往々にしてあります(なお,民法第522条第2項では,「契約の成立には,法令に特別の定めがある場合を除き,書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」と規定されており,口約束でも当事者間で合意があれば原則として契約は成立します。)。特に中小企業間の取引では契約書がなく,当事者である企業間ないし担当者間の信頼関係や慣習で取引が行われているという場合も散見されます。

だからといって、契約書がない取引について法務DDの際に検討の対象から外すことは非常にリスクがあります。なぜならば,契約書がない取引こそ取引の内容や規律が不明瞭なため,これまでは当事者間の信頼関係等で問題なく行われていたとしても,M&Aにより担当者が変わること等によって,トラブルが発生することが想定されるからです。

では,どのようにして契約書がない取引について法務DDを進めていくのでしょうか。基本的には,担当者からの聞き取りやメール,伝票などから取引の内容や規律を認定していくしかありません。そして,買い手としては,売り手に対し,遅くともM&Aを実施するまでには,契約書を作成することを求めるべきでしょう。

 

専門家によるDDを行うことが重要

契約に関する法務DDについては,まだまだ注意すべき点があります。費用がかかるからといって,十分な法務DDを行わないとM&A実施後に思わぬリスクと遭遇してしまうおそれがあります。

弁護士や中小企業診断士などの専門家に是非ご相談ください。

 

弁護士・中小企業診断士 武田宗久