ブログ 月: 2024年2月

デューデリジェンスを成功させるポイント その4(法務DD)

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。M&Aのリスクは主に買い手が負うため、DDを通じて買収対象企業のリスクを正確に把握することが不可欠です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

ツナグ:僕は、ずっと営業畑だったから、さすがに法務DDの内容を把握したり、管理することはできないよ。まさに、専門家に一任するしかないよね?

法務DDの目的は、M&A取引に関連する潜在的なリスクや問題を明らかにし、評価することなのです。法律の専門家に実態の調査はお願いできますが、重要な法的、契約的、および規制上の問題を理解し、適切に対処できるようにするのは、私たち企業担当者の責任ですよ。しっかりしてください。

大まかには、既存の契約が適切に管理され、遵守されているか?対象企業が関連するすべての法律、規則、業界基準に準拠しているか?などが確認事項です。万一、非遵守が発見された場合、それによって生じる可能性のある罰金や制裁や対応策を検討し、実行に必要なコストを理解することになります。

なお、この記事は読みやすさを優先して平易な言葉を使用しているため、一部表現が簡略化されています。実際の場面では、法律の専門家のアドバイスを受けるようにしてください。

法務DDにおける着眼点

  1. 株式の権利内容
    株式譲渡の場合、取得を予定している株式の権利に問題がないかを確認します。株式とは、株主の地位・権利を証明する有価証券ですから、これに問題があると、正式な株主になることはできません。具体的には、株式が正式に発行されたものか?過去の譲渡の手続きがきちんと行われていたか?株券発行会社にもかかわらず株券を発行せずに株式譲渡が行われている場合は無効という判例もありますので注意が必要です。また、種類株式などの発行状況も確認してください。
  2. 重要な契約上のリスク
    取引基本契約、外注契約、ライセンス契約、賃貸契約、債務保証契約、業務提携契約、代理店契約、業務委託契約、消費貸借契約など,重要な契約の現状について確認します。例えば、M&Aが契約解除事由に該当するというチェンジ・オブ・コントロール条項があるケースがあります。

    発生事例が多いのは、顧客や取引先との契約書が保存されていない、または、口頭契約で文書が交わされていないケースです。経営者や株主が変わることで利害関係に変化が生じ、これまで通りの取引が継続できなることも想定できます。M&Aの成立前に、相手先に対して必要な契約書の締結をお願いしたり、取引の継続に対する評価を行っておきましょう。

    また、過去にM&Aを行っている場合、表明・保証を行っているケースもありますので、こちらにも注意が必要です。

  3. 知的財産権
    特許権、商標権など知的財産権の有効期限などについても確認します。また、対象企業が他社の知的財産権の侵害がないかなども確認しましょう。
  4. 従業員・役員
    人事DDを行わない場合は、法務DDの中に含めて調査する必要が発生します。
    監督官庁からの指摘事項や未払い賃金の有無、労働者とのトラブルなどがないか?についての確認は重要です。例えば、労働条件や労使関係でのトラブルや未解決の労災事故の有無などが想定できます。また、組織構造や職務分掌、内部通報制度などの有無や実態や役員・従業員が、法的トラブルを抱えていないか?なども把握しておきたいところです。
    人材については、統合後への影響が多いため、しっかり実態を把握した上で対応策の検討に活かしたい領域です。人事DDについては、次の機会にさらに補足したいと思います。
  5. 許認可
    事業上必要な許認可の有効性、先述のとおり、M&A後も維持が可能か?を確認しておきます。人的用件のある許認可も多いため留意が必要です。
  6. 環境汚染
    工場などがある場合、土壌汚染や排水、産業廃棄物処理等の環境汚染問題についても調査する必要があります。過去に官公庁から受けた指導勧告や周辺住民からの苦情等の有無を確認します。
  7. 不動産
    登記簿謄本を確認し、所有権や担保権などの状況を確認します。例えば、隣地との境界トラブルなどを慢性的に抱えており、統合後にトラブルが再燃するケースもあります。
  8. コンプライアンスなど
    企業の組織構造、経営チーム、および内部通報制度などガバナンスの実態を理解することで、潜在的な管理上の問題を確認します。

ツナグ:こうやっていろいろとレクチャーを受けると、「なるほどなぁ」ってなるね。といっても一番難しいと感じたのは、新たに発覚した事実をどう評価してどのように計画を修正するか?だよね。「もう大詰めだ」って思ってたけど、まだまだ先は長いんだね・・・。ふーっ。

まとめ

今回は、法務DDの観点に絞ってツナグと一緒に学びました。法務DDでは、全てを調査することは困難です。自社が許容できないリスクを検討し、その範囲に絞って専門家の協力を仰ぐことが重要です。本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

『経営保証に関するガイドライン』で考える中小企業の廃業

廃業時にネックとなる経営者保証

中小企業は財務基盤が脆弱なことが多く、金融機関から行った借入の債務について、経営者個人が保証債務を負担していること(すなわち、経営者が保証人となっていること。以下「経営者保証」といいます。)が少なくありません。

経営者保証は、中小企業の財務基盤を補う反面、廃業の際に大きな問題となることもあります。例えば企業が破産する場合には、個人保証をしている経営者もまた破産することとなります。このため、企業の資金繰りが悪化しても、自らの破産を避けるために無理な事業運営を続けることは、その企業にとってはもちろんのこと、取引先や従業員など多くの関係者に迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。

この点について、以前にもこのコラムでも取り上げましたが、経営者保証における合理的な保証契約のありかた等の準則として、平成25年12月に『経営者保証に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」といいます。)が策定され、平成26年2月から運用が開始されています。

このガイドラインについて、中小企業の廃業時に焦点を当てて趣旨・内容を明確化し、保証債務整理の進め方を整理したものもあります。それが、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(令和4年3月 経営者保証に関するガイドライン研究会。以下「考え方」といいます。)です。

 

廃業時にガイドラインはどのように機能するか

廃業時にはガイドラインは主として経営者が負う保証債務履行の範囲を画するものとして機能します。

すなわち、主債務者たる企業や保証人からガイドラインによる保証債務の申出を受けた場合、金融機関等の対象債権者は、主に以下のような対応をすることになります。

① 破産時の自由財産(99万円)は、原則として経営者の手元に残す。

② 金融機関は、自由財産に加え、一定期間の生活費(雇用保険の考え方を参考に、年齢等に応じて約100万円~360万円)を経営者に残すことを検討する。

③ 金融機関は、「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討する。

④ 保証債務履行時点の資産で返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除する。

上記のうち、①と④については、経営者個人が破産した場合でもほぼ同じ効果を得ることができます。

しかし、②、③といった事業清算後の新たな事業の開始等のための生活費ないし生活基盤の確保という効果は破産では得ることができません。ここに経営者がガイドラインにより保証債務の整理をするメリットがあります(もちろん、破産をしたという事実が残らないので、信用情報においてもメリットがあります。)。

もっとも、②と③については、企業が廃業する場合に、当該手続に早期に着手したことによる保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額について合理的に見積もりが可能な場合は、当該回収見込額の増加額をその上限とするとされています。

つまり、上記の②と③は、経営者が自らの破産を避けるために無理な事業運営を続けることなく、早期に廃業を決断した場合のインセンティブとして機能するものであるということができます。

ただし、保証人たる経営者は、弁済計画案の策定に当たり、誠実かつ丁寧に表明保証を行うとともに、対象債権者からの情報開示の要請に対して正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を可能な限り早期に開示・説明することが求められます。すなわち、ガイドラインによる保証債務の整理を行った際に、保証人たる経営者には、残すことを認められる以外の財産をすべて保証債務の履行にあてており、いわば隠し財産などはないということを明確にする必要があるといえます。

 

保証債務の整理において求められる専門家とは

考え方では、主たる債務者である企業がやむを得ず破産手続による事業清算を行うに至った場合であっても、専門家は、保証人に、破産手続を安易に勧めるのではなく、対象債権者の経済合理性、固有債権者の有無や多寡、保証人の生計維持、事業継続等の可能性なども考慮したうえで、保証人の意向を踏まえて、ガイドラインに基づく保証債務の整理の可能性を検討することとされています。

もちろん、ガイドラインに基づく保証債務の整理により経営者が破産を回避し、より多くの財産を残すことができればそれに越したことはありません。

他方で、ガイドラインに基づく保証債務の整理を行うためには、主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できることや、保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないことといった専門的な知見による検討が必要な要件もあります。

経営者の方が置かれている状況を総合的に踏まえ、ベストの方法を提案できる専門家が求められているのだといえるでしょう。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久