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「事業再構築」とM&A ~事業再編による再構築に注目

1.長期化するコロナ禍の影響と「事業再構築」の取組み

(1)長期化するコロナ禍の影響

2年以上にわたる新型コロナウイルス感染の影響により、多くの企業は活動の停滞を余儀なくされています。2022年4月20日に東京商工リサーチが公表した調査結果「第21回『新型コロナウイルスに関するアンケート』調査」によると大企業・中小企業ともに約70%の企業が「影響が継続している」と回答しています。依然として企業がコロナ禍の影響を受けていることが浮き彫りとなったわけですが、手をこまねいているばかりではありません。政府や金融機関の支援を受けながら、激変する環境変化に対応する動きが広がっています。

 

(2)中小企業の「事業再構築」の取組み状況

同調査によると、ウィズコロナ、ポストコロナを見据えて政府が取り組みを支援する「事業再構築」について「既に行っている」と回答した企業は14.0%。前年同期の調査結果対比3.2ポイント増加しています。また、今後の「事業再構築」(新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編など)の意向については、「今後1、 2年で事業再構築を行うことを考えている」と回答した企業が44.4%を占めています。

特に、映画館や劇場、フィットネスクラブなどの「娯楽業」の84.6%を筆頭に、2位は「飲食店」の69.6%と、コロナ禍の影響を大きく受けている業種ほど「事業再構築」にかける意欲が高いようです。

一方、これらの「既に行っている」「今後1、 2年で事業再構築を行うことを考えている」と回答した企業に対して、「事業再構築」をどのように行ったか(含む、行う予定か)という問いに対しては、①「コロナ禍の状況にとらわれず、新たなビジネス領域への進出」49.2%、②「ウィズコロナに対応できる事業形態への転換」28.8%、③「危機的状況でも企業が存続できるよう事業の多角化」28.1%など、新事業分野への進出や事業多角化が多数を占めています。

 

2.今後の中小企業による「事業再構築」の取組み

(1)「事業再構築」にM&Aは活用できるの?

従来、M&Aは新事業分野への進出や事業多角化の手法として幅広く活用されていますが、「事業再構築」の手段としてM&Aを活用することは認められているのでしょうか。

 

中小企業庁の事業再構築補助金のサイトには、「活用イメージ集」という形でモデルケースが例示されています。「新分野展開編」「事業転換編」「業種転換編」「業態転換編」「事業再編編」「グリーン成長枠の想定事例」の6分野あり、そのうち「事業再編編」はM&Aによる事業再構築を想定したものとなっています。

 

具体的には、次のような事例が示されています。

 

①【新分野展開】のため会社法上の組織再編行為「吸収分割」を活用

⇒コロナの影響に伴うテレワークの増加により売上が低迷しているオフィス街で営業する弁当屋が「吸収分割」を行い、新たに病院向けの給食などの施設給食業に着手する事例

 

②【事業転換】のため会社法上の組織再編行為「新設合併」を活用

⇒コロナの影響により需要が低迷しているパルプ装置・製紙機械製造事業者が「新設合併」を行い、新たにマスクなどの衛生製品の製造業を開始する事例

 

③【業種転換】のため会社法上の組織再編行為「事業譲渡」を活用

⇒コロナの影響で地域催事等の中止が相次ぎ業績が悪化している食料品製造会社が、食料品製造事業を他社に「事業譲渡」し、新たに化粧品販売事業を開始する事例

 

④【業態転換】のため会社法上の組織再編行為「株式交換」を活用

⇒コロナ禍で観客数が大幅に減少している演劇公演等のイベントを行っていた芸能プロダクション会社が「株式交換」を行い、新たにオンライン演劇部門を構築する事例

 

このように「事業再構築」における事業再編とは、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うことを想定しています。

つまり、事業再構築補助金の支援の対象となる「事業再構築」は、「新分野展開」、「事業転換」、「業種転換」、「業態転換」、「事業再編」のいずれかに該当するものであると同時に、会社法上の組織再編行為に該当するものであることを事業計画において示す必要があるのです。

 

(2)会社法上の組織再編行為とは

一般的には、会社法第五編に規定されている「組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」を指し、広義には、事業譲渡を加えたものを指すこともあります。これら組織再編はM&Aの重要な手段となっています。

ただし、組織再編行為は、株主に重大な影響を与えるため株主総会の特別決議が必要であり、組織再編当事会社が債権者の利害に影響を及ぼす可能性のある場合には、事前に官報に公告、個別に催告し、債権者が異議を述べることができる一定の期間を確保するなどの債権者保護手続きが必要とされます。従って、組織再編行為によるM&Aを活用して「事業再構築」を実施する場合には、新事業の計画に加えて、組織再編に係る綿密な計画も必要となります。

 

3.「事業再構築」にM&Aを活用する上での課題

(1)補助対象経費

M&A実施後については、新事業に係る経費は、他の類型の「事業再構築」と同様に、補助事業に要する経費を補助対象として計上することが可能です。

しかし、M&Aを実施するには様々な費用が必要となります。仲介手数料、専門家によって行われる法務・財務等のデューデリジェンスなどの調査費用をはじめ、登記費用などがかかります。しかしながら、補助対象経費の専門家経費とは「本事業遂行のために依頼した専門家に支払われる経費」、つまり、新事業の遂行に関わる専門家経費である必要があるため、補助対象経費として認められる可能性は低いでしょう。従って、これらのコストは自社負担として織り込んだ計画を立てることが必要です。

 

(2)組織再編要件の範囲

中小M&Aでは事業譲渡と共に重要な手段として活用されている「株式譲渡」は、会社法上の組織再編行為ではありません。事業再構築補助金の組織再編要件を充足しないだけでなく、「株式の購入費」は補助対象経費でない旨、明記されています。M&Aの選択肢として「株式譲渡」を除外しなければならない点は留意が必要です。

 

3.まとめ

「事業再構築」の手段としてM&Aは大きな可能性を秘めていますが、法務・会計などの専門的人材が不足する中小企業がM&Aを活用するためには、乗り越えるべき課題が少なくありません。

しかし、M&Aは、新事業に必要となる買収対象先の顧客基盤、技術・ノウハウ、優秀な人材などの経営資源をスピーディに獲得できる点で大きなメリットがあります。また、売上向上・コストダウンなどの効果だけでなく、場合によっては、従業員の士気向上・企業の認知度向上などの副次効果を狙ったM&Aを実行することも可能です。

専門家を上手に活用し、「事業再構築」に向けてM&Aの活用も選択肢として検討してはいかがでしょうか。

 

【ご参考】

□東京商工リサーチ 第21回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220420_01.html

□活用イメージ集 事業再編
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/jigyousaihen.pdf

□採択事例にみる業態転換
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/01_jireishiryou.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

 

「良い案件があったら教えて」という前に担当者がすべきこと

みなさまこんにちは、突然暑くなったり、はたまた寒くなったり・・。日本の春はどこへ行ってしまったんでしょう。本日は、初めてM&Aの担当を任された担当者がどのような手順で案件を探索すればよいのか?について一緒に考えてみましょう。

 

戦略の合意が取れたら対象企業を捜しましょう。

M&A戦略についての社内合意、または、個人M&Aであれば、ご自身の考えがまとまったら、さっそく情報収集をスタートしましょう。戦略立案の重要性については、過去のコラムをご参照ください。(https://stella-consulting.jp/archives/875

“情報収集をスタートしましょう”と言っても、戦略策定のフェーズで並行して行っているケースがほとんどでしょう。しかし、戦略が決まる前と決まった後では、同じ情報でもその受け取り方がずいぶんと変化していることに気づくはずです。なぜなら、業種や業態、企業規模、金額、所在エリアなどの条件面はすでに戦略上で絞られていますので、もうあれやこれやと迷うことが格段に減っているはずです。

これによって節約できた労力を今までより掘り下げた研究に振り向けることもできますし、情報収集の幅を広げることもできるはずです。

例えば、情報のメインソースは、マッチングサイトだと思いますが、条件面の具体化ができていれば、金融機関に資金面の支援を含めた相談をすることもできます。また、地元の同業者組合や自治体などが主催する展示会イベントなどに参加し、探索する業界の企業の強みや技術力、社員さんなどと接触することも可能になります。取引先候補として接触できるので、技術面やサービス面など具体的な情報が聞き出せる絶好の機会です。

 

まずは、リストアップ

情報収集を進める過程で自社の戦略に合致するM&A候補先があれば、リストに概要や気づきをまとめていきます。最初の段階では、できるだけたくさんリストアップすることに注力しましょう。マッチングサイトであれば、相手先もある程度売却の意思が固まっているでしょうから、交渉は進みやすいのですが、単に事業承継に課題を持っている程度の企業では、いくらこちらがその気になったからといっても交渉をスタートさせることすらできないからです。

ある程度の件数のリストが完成したら、社内での検討会議を行います。チームメンバーが持ち寄った案件が自社の戦略にマッチしているかどうか、最低限の確認作業を行います。

ここでよくあるのが、戦略にマッチはしないにもかかわらず、メンバー間の評価が高い案件の存在です。なぜこんなことが起きるのでしょうか?考えられる原因は、2つです。

ひとつは、戦略の理解が浅いメンバーが存在することです。これは、この会議を通じて理解を深めてもらい、チーム内の意思統一を図るよい機会としましょう。

次に、戦略が自社の現実からずれてしまっているケースです。会議室では、往々にして現実離れした理想論が語られ、現実的な意見が言いづらい空気が充満し、物事が決まってしまうことがあります。いわゆるグループシンクと呼ばれている、「集団で話し合うと浅はかな結論を導き出してしまう」という人間の習性です。このケースでは、戦略の方を修正することになります。戦略は、このように修正を繰り返し筋の良いものになっていくものと割り切って随時手直しを続けましょう。

 

対象企業を評価する。

対象企業候補リストが完成したら、次に評価を行い、優先順位を決定します。評価軸は、自社の戦略に叶っているかどうかの1点になりますが、その中に大きな要素が3つあります。

ひとつは、事業上のシナジーをどの程度見込むことができるか?です。

代表的なケースは、相手先企業の持つノウハウ、技術、設備、スタッフ、取引先などを自社に取り込むことで既存事業に対するプラスのインパクトが期待できるケースです。このケースでは、社内討議が行いやすいように3~5年程度の将来にわたって発生するであろう収益を試算します。この際、算定条件なども併せて示すことで判断が容易になります。また、これとは逆に、自社の持つ経営資源を相手先に提供することで、相手先の業績向上が期待できるケースです。こちらは、収益の資産が少々困難ですが、合併後の事業運営が順調なケースと不調なケースなど複数案を検討することで、試算の精度を上げることは可能です。

次に、財務健全性はどの程度か?です。

こちらは、情報ソースが金融機関であれば、ある程度提供してもらえるかもしれませんが、それも難しければ、信用調査会社から購入する方法を検討しましょう。

最後に、実現可能性の検討です。

こちらも、この段階で入手できる情報から判断することは到底できませんが、中小企業の場合、経営者の年齢や後継者の存在から検討することができます。また、業績や設備投資の程度などから、先行きに不安があるのかどうかくらいは判断ができそうです。後継者が社内におり、積極的な設備投資の形跡がみられるようであれば、商談にすら持ち込めない可能性が高いため、調査の優先度は下げる。といった評価ができそうです。

 

持ち込み案件への対応

情報収集活動を進めている過程で、金融機関などからM&A案件が持ち込まれることも増えてきます。一般的には、ノンネームシートと呼ばれるA4用紙1枚の案件概要が提示されます。当然、対象企業名はなく、簡単な情報しかないため、情報提供者に対してヒアリングを行う必要があります。彼らも「良い案件」であると考えて提案したことから考えても、シートには書けないが有益な情報も持っており、それをきっと話したいはずです。

この段階で確認したい項目は、リストアップ先の評価軸と共通する点がほとんどです。具体的には、対象企業の強みや弱み、売却の背景、自社に提案してきた理由、金額などの条件面、他社との交渉状況、回答期限など。

M&Aは比較的クローズな市場であるため、例え口頭でもこのような情報が入手できるよう、日頃から金融機関などとよい関係を築いておくこともポイントです。

 

まとめ

今回は、自社の戦略に沿ったM&Aを実現するための手順についてお話しました。「M&Aは相手がないと始まらない」とばかりに「何かよい案件があったら教えて」と金融機関や外部関係者に依頼する人を時々見かけますが、こういった依頼の方法では対応しづらいのが金融機関側の本音のようです。まずは、情報収集を進めながらでもよいので、自社の方向性を具体化させることが必要です。特にM&Aは、計画通りに進まないことが大半ではありますが、大きな投資を伴う事業です。まずは、計画立案から進めることをお勧めします。この記事に出会ったことを良い機会に、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

 

中小企業診断士 山本 哲也

自社の事業を見直す経営改善計画②

実抜計画と合実計画

前回のコラムでも解説したように、経営改善計画には、実抜計画と合実計画の2つがあります。

実抜計画とは、「実」現可能性の高い「抜」本的な経営再建計画をいいます。ここにいう「実現可能性の高い」とは、

① 計画の実現に必要な関係者との同意が得られていること。

② 計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が必要と見込まれる状況でないこと。

③ 計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものとなっていること

「抜本的な」とは、具体的には、計画策定後おおむね3年後に債務者の区分が正常先となることを言います。

他方、合実計画とは、「合」理的かつ「実」現可能性の高い経営改善計画をいいます。ここにいう「合理的」とは、計画期間が5年以内(中小企業の場合は5年を超えおおむね10年以内)で、計画終了後に債務者の区分が正常先となるものをいいます(金融機関の支援を要することなく自助努力で事業継続が可能なときは要注意先でも差し支えありません)。

認定支援機関は主に中小企業の支援を行います。中小企業において合実計画は実抜計画とみなすとされていることから、認定支援機関は合実計画の策定に関与することが多いといえます。

 

経営改善計画にはどのような内容が記載されているのか

中小企業庁『認定支援機関による経営改善計画策定支援事業に関する手引き』では、経営改善計画策定支援事業の対象となる経営改善計画にはおおむね以下の内容の記載が想定されています。

① 債務者概況表

債務者概況表には、企業の事業内容、株主構成、役員構成、直近の決算書の概要、主たる債権者及び債権の額などが記載されます。いわばこの表をみれば企業の概況をおおむね理解することができるものです。

② ビジネスモデル俯瞰図

企業のビジネススキームを簡単にまとめた図で、企業が抱える問題点などの把握をすることができます。

③ 企業集団の状況

企業集団の状況とは、企業の資本関係(誰がいくら出資しているか)、金融取引関係(どの金融機関がいくら貸し付けているか)を図で記載したものです。

企業集団の状況からは、金融支援の対象となる企業の範囲、支援対象金融機関の範囲、窮状の責任がある関係者の特定などが明らかになります。

④ 資金実績表

直近1期と今期の資金状況(売上、借入、返済など)を月ごとに表にまとめたもので、企業の資金繰りの概要を把握することができます。

⑤ 経営改善施策(アクションプラン)及びモニタリング計画

債務超過・過重債務の解消を図るため、事業内容、業務内容、財務構造の見直しをするための施策とその実施時期について記載します。後述する計数計画は定量的なものであるのに対し、経営改善施策は、例えば、「人員整理による販管費の削減」といったように、定性的なものとなります。

また、計画策定後、経営改善計画の進捗・実行状況を把握し、計画と実績に乖離がないか、乖離がある場合は計画の修正の必要がないかなどのモニタリングを行います。このようなモニタリングを行う計画についても記載します。

⑥ 計数計画

計数計画とは、経営改善施策による改善効果を数値化した計画のことであり、施策実施後の借入金返済予定額を把握するために策定されます。

計数計画は、基本的には「損益計画(P/L)」、「貸借対照表計画(B/S)」、「キャッシュフロー計画(CF)」の財務3表を策定します(例外的に所定の場合は損益計画と簡易キャッシュフロー計画などを策定すれば足りる場合もあります。)。具体的には直近1~2期と各計画期における各種財務3表の数字の推移を記載することとなります。

計数計画によって企業による借入金の返済がどの程度可能かが判断されることとなります。したがって、計数計画の内容いかんによっては、合実計画・実抜計画の要件を充足しないこともありうるため、合理的な根拠に基づきつつも相当な計画を策定しなければなりません。なお、計数計画には、金融機関による支援も記載します。

⑦ 資産保全状況

資産保全状況とは、各金融機関が、企業の資産について設定している担保(抵当権など)の状況をまとめたもので、企業の資産がどの程度担保に供されているのかなどがあきらかになるものです。

⑧ 清算配当見込率

仮に現段階で企業が破産・清算した場合、各債権者に対してどれほどの配当が見込めるのかを記したものです。破産・清算の場合よりも経営改善による事業継続の方がより多くの返済が見込めるというのであれば、当該経営改善計画は、金融機関にとって合理的なものであるといえるため、支援が期待できることとなります。

 

認定支援機関による経営改善計画策定の支援

上記のように、経営改善計画に記載する内容は多岐にわたり、企業が自社の力だけで作成するのは容易ではありません。そこで、専門的、客観的な視点から認定支援機関による経営改善計画の策定の支援が必要になる場合があります。そして、支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業)。なお、認定支援機関は、計画策定だけでなく、モニタリングの支援も行います。)。

 

次回の予告

次回は、金融機関による支援の具体的な内容、金融機関に経営改善計画を承認してもらうためのバンクミーティング、計画策定後のモニタリング等について解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

事業承継はM&Aの後工程が重要 ~M&Aは終わりが始まり「PMIの活用策」に注目

中小企業経営者の高齢化がすすんでいます。東京商工リサーチが公表した「全国社長の年齢調査」(2021年8月4日)によると全国の経営者の平均年齢は62.49歳と前年より0.33歳高齢化し、また、経営者の10歳ごとの年齢分布では、70代以上の構成比が31.8%で最多レンジとなるなど事業承継の深刻化が懸念されています。

一方、帝国データバンクが公表した「全国企業後継者不在率動向調査」(2021 年11月22日)(以下、「TDB動向調査」)によると全国・全業種約26.6万社における後継者動向では、後継者が「いない」または「未定」とした企業が16万社に上り後継者不在率は61.5%と高水準ながらも、2020年対比では3.6pt改善、2018年以降4年連続で不在率が低下しました。

これは調査を開始した2011年以降で最低水準であり、コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢の経営者による後継者決定の動きが強まった結果ではないかといわれています。

 

1.事業承継先の変化 ~第三者承継の拡大

経営者の高齢化が深刻化するものの後継者難に改善の兆しが見えつつあるのには、どのような背景があるのでしょうか。

「TDB動向調査」では事業承継の方法について①同族承継、②内部昇格、③M&Aほか、④外部招聘などに項目分けして集計しています。全体で見るとまだまだ「同族承継」が38.3%と最も高くなっていますが、2017年以降5年間の変化で見ると、「同族承継」は3.3pt減少と緩やかに減少しつつあります。一方、③M&Aほかは17.4%ながら1.5pt増加するなど第三者承継は着実に増加しつつある傾向にあります。

地域金融機関による事業承継に対するプッシュ型のアプローチの推進、M&A支援機関やM&Aプラットフォーマーによる第三者承継の進展など民間の取組に加えて、政府による事業承継税制や「事業承継・引継ぎ補助金」などの支援策が拡充されたことが後継者問題解決・改善の前進に大きく寄与したものと考えられます。

 

2.事業承継後の課題の顕在化

M&Aなどの第三者承継が拡大するにしたがって、事業承継に係る課題も事業承継の実施自体から事業承継後の取組に重心がシフトしつつあります。

東京商工会議所が公表した「事業承継の取り組みと課題に関する実態アンケート報告書」(2021年2月26日)によると、買収における当初目的・期待効果の達成度について、「概ね達成した」という回答は46.3%ながら「一部達成」「ほとんど達成していない」を合わせると50.0%となっており、M&Aした後の期待効果に不満な経営者は少なくないことがわかります。当初目的・期待効果が達成できなかった理由(複数回答可)については①相手先の経営・組織体制が脆弱だった(25.7%)、②相乗効果が出なかった(18.9%)、③相手先の従業員が退職してしまった(10.8%)が上位3項目となっており、M&A後から事業承継後にかけての問題が顕在化していることがわかります。

 

 

3.中小M&Aで重要性を増すPMIと政府の支援策

こうしたM&A後に顕在化する課題解決のために、大企業では従来よりPMI(Post Merger Integration)の取組が重視されてきました。

PMIとは、M&A成立後に行われる統合作業であり、M&Aの目的を実現させ統合の効果を最大化するために必要なプロセスとされています。

しかし、中小企業のM&Aについてはマッチング等のM&Aの成立に向けた取組に関心が集まる一方で、M&Aによって引き継いだ事業の継続・成長に向けた統合やすり合わせ等の取組については、その重要性や取組についての中小企業の理解だけでなく、PMIを行う専門家等の人材や資金も不足している状況です。

こうした状況を受けて、政府は、中小企業におけるPMIの普及に向けて2022年3月17日に「中小PMI支援メニュー」を公表しました。

同支援メニューは、(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙、(2)PMIの実践機会の提供、(3)PMI支援を行う専門家の育成等の3つのメニューで構成されています。

 

(1)中小PMIの「型」の提示、普及啓蒙

①「中小PMIガイドライン」の策定

・中小企業におけるPMIの重要性や必要な取組に係る理解が不足している現状を踏まえ、事業を引き継ぐ譲受側がM&A後のPMIの取組を適切に進めるための手引き。中小企業向けに譲受側・譲渡側の会社規模等、個社の状況に応じて参照しやすいよう、PMIの取組を【基礎編】と【発展編】に整理。

・支援機関が、支援先の企業が円滑に事業を引継ぎ、M&Aの目的やシナジー効果等を実現するために必要な助言をするために参照することも想定した構成となっている。

②PMIに関するセミナーや研修等の実施

・2022年度から中小企業や支援機関向けのPMIに関するセミナーや、事業承継・引継ぎ支援センターにおける譲受側向けPMI研修等を実施

 

(2)PMIの実践機会の提供(PMIに係る人材や資金等の確保に向けた支援策)

①事業承継・引継ぎ補助金等による支援 (2022年度から実施)

事業承継・引継ぎ補助金(2021年度補正予算)においてPMIに係る費用への補助を開始。更に、専門家による伴走支援等を検討。

②経営資源集約化税制による支援

経営力向上計画に基づいてM&Aを実施した場合、その後の設備投資に係る減税措置、簿外債務等のリスクに備えた準備金措置(損金算入)により支援を実施。

 

(3)PMI支援を行う専門家の育成等

①士業等専門家との連携(順次実施。今回第一弾を措置)

PMI支援について中小企業庁と士業等専門家との連携を強化。その第一弾として、中小企業診断協会と連携協定を締結し、PMI支援人材の育成や、事業承継・引継ぎ支援センターへの支援人材の紹介等を実施。

② 中小企業診断士に対するガイドライン理解促進の枠組みの導入

2022年度より中小企業診断士に対して中小PMIガイドラインの理解を促すための枠組み(試験、研修等)を検討し、結論を得られ次第速やかに実施。

 

なお、士業等の専門家の活用については、「事業承継ガイドライン」で会計士による財務デューデリジェンス、弁護士による法務デューデリジェンスなどの活用が例示されていましたが、PMIにおける士業連携の第一弾として経営コンサルタントの国家資格であり、事業計画策定や組織・人事、マーケティング、財務改善などに知見のある中小企業診断士の活用に踏みだしたのは新しい動きといえるでしょう。

 

 

3.まとめ

いうまでもなくM&Aは事業承継の一つの手段であり目的ではありません。やって終わりではなく、その成果こそ大切なのは言うまでもないでしょう。

事業承継(第二の創業)を実りあるものにするために、「中小PMI支援メニュー」をはじめとする各種支援策や中小企業診断士等の士業専門家の活用、など新たな動きに注目していきたいと思います。

 

【ご参考】

□中小PMI支援メニュー

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-1.pdf

□中小PMIガイドライン

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

□令和4年3月17日「中小企業の事業承継・引継ぎ支援に向けた中小企業庁と一般社団法人中小企業診断協会の連携について」

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220317005/20220317005-2.pdf

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

 

令和3年度補正予算 小規模事業者持続化補助金の公募が始まりました

こんにちは。ステラコンサルティング 木下です。

令和3年度補正予算 小規模事業者持続化補助金(一般型)の公募がスタートしたのでご案内します。

商工会議所管轄の方はこちら:https://r3.jizokukahojokin.info/
商工会の管轄の方はこちら:https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/

弊社でも申請のご支援が可能ですので、ご希望の方はお問い合わせください。

 

事業概要

小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更等に対応するために取り組む販路開拓 等の取組の経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と 持続的発展を図ることを目的とします。

本補助金事業は、持続的な経営に向けた経営計画に基づく、地道な販 路開拓等の取組や、その取組と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組を支援するため、それに要する経 費の一部を補助するものです。

〇補助上限:
[通常枠] 50万円 [卒業枠]200万円 [創業枠]200万円
[賃金引上げ枠]200万円  [後継者支援枠]200万円  [インボイス枠]100万円

〇補 助 率:2/3(賃金引上げ枠のうち赤字事業者については3/4)

〇対象経費:
機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談会等を含む)、
旅費、開発費、資料購入費、雑役務費、借料、設備処分費、委託・外注費

 

公募要領

公開:2022年3月22日(火)

申請受付開始:2022年3月29日(火)

申請受付締切: ※予定は変更する場合があります。
第 8 回:2022年6月3日(金)
第 9 回:2022年9月中旬
第10回:2022年12月上旬
第11回:2023年2月下旬

M&Aの第一歩!やっぱり戦略的な取り組みが一番大切

みなさまこんにちは、花粉症持ちには一番つらい季節が始まりました。全国の花粉症のみなさまいかがお過ごしでしょうか?コロナのおかげですっかりマスクが習慣化したので、症状が軽いうちに終わってくれればうれしいのですが・・・

 

M&Aが難しい理由

一般的に、私たちがM&Aに難しさを感じる要因には、さまざまあると思いますが、以下のようなことはみなさまも思い当たるふしがあるのではないでしょうか?

まず、相手があり、かつ、その相手がいつでも誰とでも取引する準備が整ったウエルカムな状態にないことです。また、その相手の経営状態に一つとして同じケースがなく、常にケースバイケースであることです。そして、相手の経営状態やスペックの評価がしづらいことです。

しかし、そんなM&Aにも成功法則があります。それは、「鉄は熱いうちに打て」です。案件が発生したら、素早く決断をし、素早く動くことが重要です。

そのために役立つのが基本戦略です。

上司からの指示で社内提案をしたところ、「そんな格好のいい戦略をいくら作っても、取引相手がいなきゃ何も始まらないじゃないか!早く案件を持ってこい!」と一蹴されたことのある方は多いのではないでしょうか?

上司の方の意見は、ある意味で正解なのですが・・・。私の経験から言うと、このような組織でいくら案件を提案しても、社内で意見がまとまらず時間切れの破談となることが多いです。新規事業の開発現場でも同じことがよく起きています。

なぜなのでしょう。

 

戦略は、判断基準

長期安定経営をしてきた企業であれば、長年の間に社風や社内文化がしっかり醸成され、経営に関する判断基準が社内共有できているかもしれません。

しかし、M&Aのような新たな取り組みを行う際には、やはりまずは戦略を立て、共有することが非常に大切で有用な第一歩なのです。

なぜなら、戦略は、組織にとって旅行でいう旅程や目的地を示すものだからです。経営の目的地やルートを決めてしまえば、採るべき方法はおのずと限定されるはずです。行先の決まった旅行ならば、乗るべき乗り物や行先はある程度限定されるのと似ています。例えば、近所のコンビニに行くのは車か自転車と相場は決まっていて、飛行機を使うなんてありえないですよね。

 

戦略というと難しく聞こえますが・・

戦略というと難しく聞こえますが、経営学では以下の4つに分類されています。M&Aは、これらの戦略を実現するための考え方で、旅行でいうところの乗り物の役割になります。M&Aを実行することで効率的にゴールに近づくかどうかで取り組むべき案件かどうかが、誰にでも判断できるようになりますので、社内の決裁スピードが格段にアップします。

 

1.市場浸透戦略

既存の製品・サービスにて既存市場を深堀し、成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと競合や自社よりも小さな規模の同業者を吸収合併するイメージです。

これによって、今と同程度の規模で取引量を増やすことができるため経営効率のアップに繋がったり、競合が減るため、競争環境が緩和されたりすることことが期待できます。

 

2.新製品開発戦略

既存のお客さまに対して新しい製品・サービスを提供して成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと他社ごと新製品を取り込んで開発の手間を回避する手法です。回転寿司店が焼き肉店を統合してカテゴリを拡張したり、魚屋さんを統合して品揃えの拡張や新鮮な食材の調達によって差別化を図ったりが考えられます。

開発に必要な時間を短縮し、失敗のリスクを減少するという経営上のメリットが生まれると考えられます。

 

3.新市場開拓戦略

既存の製品・サービスを活用して新しい市場を獲得することで成長を実現する戦略です。

M&Aでいうと地理的に商圏が重なっていない同業者や、顧客層の違う同業者を統合することで経営効率を高めるパターンが考えられます。

これによって、取引量の拡大による原材料調達コストをさげたり、物流効率をアップさせたりすることが期待できます。

 

4.多角化戦略

その名の通り、新しい製品・サービスで、新しい市場を開拓することで会社全体を変革していくような大胆な戦略です。中小企業では、少し検討しづらい戦略です。

M&Aでいうとここまでのどれにも分類できないものがこの戦略になります。例えば、自社の既存事業との関連がありつつも業界も顧客も違うような企業を統合することで、競合との取引も実現してしまうような大胆な戦略です。事例の紹介も複雑になりますのでここでは、割愛します。

 

まとめ

こうやって改めて自社の成長戦略について考えようとすると、第一歩めは「自社は何を持っていて、何が不足しているのか?」を明らかにする必要が生まれます。つまり最初にすべきは、他社ではなく自社のDD(デューデリジェンス)ということですね。

今回は、なかなかM&Aが進まず、頭を抱えているご担当者向けに、必殺の解決策をお伝えしたつもりです。経営の現場では、M&Aに限らず「手段の目的化」が昔から起きやすい環境にあります。特に昨今の不確実性の高い経済情勢では、人は短期志向となり手段の目的化はとても起きやすい環境だと言えます。

そんな環境下だからこそ、「M&Aは、あくまでも手段であって、目的ではない」ということを強く意識していただくだけで成功に一歩近づくはずです。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。きっと、戦略策定のための情報提供をしてくださることと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

 

自社の事業を見直す経営改善計画①

認定支援機関が行う経営改善計画策定

認定支援機関が行う企業に対する支援の一つに経営改善計画の策定があります。経営改善計画とは、何となく「経営を改善する計画」というイメージを持つことはできるかもしれません。しかし、経営改善計画の策定の目的、計画の具体的な内容などは意外と専門的な要素も少なくありません。そこで、今回と次回は、経営改善計画について解説したいと思います。

 

金融機関は企業からの支援の求めがあっても当然に応じるわけではない

企業が事業を行うなかで、資金繰りに苦しむことがあります。資金繰りに苦しむ原因の一つに事業が不振で金融機関からの借入の返済資金を捻出できないことが考えられます。また、事業を好転させ、売上増加を目指すためには、設備投資などのために資金調達が必要となることもあり得ます。

このようなことから、資金繰りに苦しむ企業が資金繰りの改善を行うため、金融機関に対し、現在の借入の条件の変更や新たな借入などの支援を求めることとなります。

しかし、金融機関の立場からすれば企業から支援を求められたとしても、当然にこれに応じるわけにはいきません。なぜならば、金融機関としても、倒産のおそれがある企業に新たに貸付を行ってしまうと、貸倒のリスクが生じるからです。

 

金融機関による債務者の区分

金融機関は、通常、債務者をその財務状況、資金繰り、収益力等により返済能力に応じておおむね以下のような区分をしています。

① 正常先

業況が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいいます。

 

② 要注意先

金利減免を行っていたり、元本や利息の支払いが事実上延滞していたりする、債務の履行状況に問題がある債務者のほか、事業の状況や財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意を要する債務者をいいます。要注意先はさらに、その他注意先と要管理先に区分されます。

このうち、要管理先とは、債務者に対する債権に「貸出条件緩和債権」又は「3か月以上延滞債権」が含まれる債務者をいいます。そして、その他注意先とは、要管理先以外の要注意先の債務者をいいます。

 

③ 破綻懸念先

現状、経営破綻とまではいえないにしても経営難の状態にあり、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいいます。

 

④ 実質破綻先

破産や手形の不渡りなど法律上又は事実上の経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態で再建のめどが立たず、実質的に経営破綻に陥っている債務者をいいます。

 

⑤ 破綻先

破産や手形の不渡りなど、法律上又は事実上の経営破綻の事実が発生している債務者をいいます。

 

分水嶺となる「その他注意先」と「要管理先」

上記の債務者の区分のなかで、特に重要となるのが、その他注意先と要管理先です。なぜならば、要管理先の債務者に対して有する債権は不良債権と位置付けられるからです。

金融機関としても、不良債権に対しては貸倒引当金などを用意しておく必要があります。貸倒引当金が多いとそれだけ銀行の自己資本が少なくなり、自己資本比率も悪化します。この意味で、不良債権を抱えることは、金融機関の経営の健全性にも重大な影響を及ぼしかねません。

したがって、金融機関にとって、要管理先である債務者に対する支援を行うことは躊躇せざるを得ないといえます。

 

経営改善計画があれば「その他注意先」への『昇格』が可能

しかし、そもそも企業は、資金繰りが苦しいからこそ金融機関に支援を求めるのです。したがって、現状は資金繰りが厳しく、事業が窮状にあったとしても、将来的に改善が可能である企業に対しては金融機関による支援がなされるべきであるともいえます。

そこで、債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性があると考えられる企業に対しては、債務者区分を破綻懸念先・要管理先から、その他要注意先とすることができることとされたのです。

ここにいう「債務者たる企業が将来的に事業の改善が可能である蓋然性」を示すものが経営改善計画となります。このため、経営改善計画の内容は、事業の改善が可能であることがうかがえるものである必要があります。

以上のことからも明らかなように、経営改善計画は、金融機関からの支援を得るための説得の材料となるものということができます。

 

実抜計画と合実計画

経営改善計画は、具体的には実抜計画と合実計画の2つがあります。このうち、実抜計画のほうが要件が厳しいものとなっています(詳細は次回のコラムで解説します。)。

① 実抜計画:「実」現可能性の高い「抜」本的な経営再建計画

⇒要注意先に該当しなくなり、その他注意先となる。

② 合実計画:「合」理的かつ「実」現可能性の高い経営改善計画

⇒破綻懸念先に該当しなくなり、要注意先となる。

ただし、債務者が中小企業の場合は、合実計画が策定されている場合には、当該計画を実抜計画とみなして差し支えないとされています。

したがって、中小企業においては、合実計画を策定すれば、その他要注意先に区分されることとなります。

 

次回の予告

次回は、実抜計画と合実計画の意義について説明を行ったうえで、経営改善計画の具体的な内容などについて解説します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

スモールM&Aの契約リスク ~公取委が警鐘 その契約大丈夫ですか?

事業承継と並んでM&A の活用進んでいるのがスタートアップにおけるM&Aです。

近年は、オープンイノベーション推進のため大企業・中堅企業を中心に外部リソースを活用して新製品や新サービスの開発を行う動きが広がり、積極的にスタートアップの株式を第三者割当増資や株式譲渡を通じて取得するようになりました。

M&Aでは株式取得を検討する段階での秘密保持契約(以下、NDAという)をはじめ、クロージングする段階での株式譲渡契約及び出資契約等の契約書を締結します。ところがスタートアップのM&A拡大に伴い、契約内容について「買手優位」を反映した様々な問題が指摘されるようになってきました。

 

1.スタートアップのM&Aに広がる「優越的地位の濫用」問題

(1)背景

一般的にスタートアップのM&Aでは、買手企業は企業規模が売手企業より大きく、組織面・資金面が充実しており、M&Aの経験も豊富であることが少なくありません。

一方、M&Aといっても、事業シナジーを発揮することが目的となるため、経営権が移転する取引ばかりでなく資本提携やジョイントベンチャーなど経営権を残したままで事業再編を行う「広義のM&A」も多用されています。

こうした中、M&Aを検討する段階で締結するNDAや資本提携のために締結する出資契約を悪用して、買手が売手に対して「優越的地位を濫用」する事例が頻発しているのです。

 

(2)問題点

スタートアップのM&Aにおける「優越的地位の濫用」について、公正取引委員会が実態調査に乗り出しました。2020年11月に公表された「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下、報告書という)によると、出資者との取引・契約の中で次のような問題が発生していると指摘されています。

①営業秘密の開示:NDAを締結しないまま、営業秘密の無償での開示を要請された

②NDA違反:NDAに違反して営業秘密を他の出資先に漏洩し、当該他の出資先が競合する商品等を販売するようになった。

③無償作業:契約において定められていない無償での作業を要請された。

④委託業務の費用負担:出資者が第三者に委託して実施した業務に係る費用の全ての負担を要請された。

⑤不要な商品・役務の購入:他の出資先を含む出資者が指定する事業者からの不要な商品等の購入を要請された。

⑥株式の買取請求権:知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を受け、その要請に応じない場合には買取請求権を行使すると示唆された。スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。

⑦研究開発活動の制限: 新たな商品等の研究開発活動を禁止された。

⑧取引先の制限: 他の事業者との連携その他の取引を制限されたり、他の出資者からの出資を制限されたりした。

⑨最恵待遇条件:最恵待遇条件(出資者の取引条件を他の出資者の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定された。

 

単に公正さを欠く契約を締結するということに止まらず、契約締結後の取引関係においても問題が発生しているようです。報告書によると、これらの問題が生じるのは、「i.スタートアップ側の法的リテラシーの不足」、「ⅱ.オープンイノベーションに関するリテラシーの不足」、「ⅲ.対等な立場を前提としたオープンイノベーションを推進する上で望ましくない慣習の存在」の3つが主な要因となっていると指摘しています。

 

 

2.問題への対応策

こうした問題に対応するため、政府は「成長戦略実行計画」(2021年6月閣議決定)において「スタートアップ企業と出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定する」としました。

これを受け、公正取引委員会と経済産業省の連名でスタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(以下「指針(案)」という)を策定し①独占禁止法上の考え方及び問題となり得る事例等、②問題の背景及び解決の方向性が整理されました。

その中で特に、事業承継等のスモールM&Aでも幅広く締結されているNDAに関する問題点と解決の方向性について考察することとしましょう。

 

(1)営業秘密の開示とNDAに関する問題点

①営業秘密の開示

正当な理由がないのに、NDAを締結しないままスタートアップの営業秘密が開示された場合には、営業秘密が連携事業者によって使用されて第三者に流出して使用されてしまうおそれがあります。

具体的には、「NDAの締結無しに情報を開示するリスクの認識がないままに情報を開示してしまう」、「プロジェクトの開始時点ではNDAが締結されず、プロジェクトが終了した頃にNDAが締結される」等の事例でこうした営業秘密の流出が発生しているようです。

②片務的なNDAの締結について

片務的なNDAとは、スタートアップが、連携事業者から、スタートアップ側にのみ秘密保持・開示義務が課されている契約内容であったり、契約期間が非常に短く自動更新されなかったりといった内容のものを指します。こうしたNDAではNDA期間内であっても、スタートアップの営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがあります。また、非常に契約期間の短い場合には、営業秘密が陳腐化する前に、営業秘密が連携事業者に使用されたり、第三者に流用されたりするリスクが高くなります。

 

(2)解決の方向性

これらの問題を解決する方策として「指針(案)」では以下のような方法が提示されています。

①出資する側・出資されるスタートアップ双方で共通認識を持つ

まず双方が秘密情報の社内管理を厳格化し、お互いが開示しようとする秘密情報の使用目的・対象・範囲について共通認識を持つことが必要です。その上で、双方が管理可能な方法でNDAを締結することが重要になります。NDAを締結しても実効性が無い契約内容では秘密情報は管理できません。

②社内での秘密情報の取扱いに関する認識を共有する

事業担当者と知財・法務担当者で秘密情報の扱いに関する見解が異なる場合もあります。事業担当者と知財・法務担当者間でコミュニケーションの場を設定しましょう。

③NDAモデル契約書等を活用しリテラシー不足を補い片務的契約になることを回避する

秘密保持リテラシー向上のためには、モデル契約書等を活用することも有効です。

これらを活用し連携事業者の提案する「ヒナ型」を丸のみして片務的な契約となることを回避します。

 

【ご参考】

□研究開発型スタートアップと連携事業者のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture.html

□知財を使った企業連携4つのポイント

https://ipbase.go.jp/public/point.pdf

□秘密情報の保護ハンドブックのてびき

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/170607_hbtebiki.pdf

 

 

3.まとめ

スタートアップのM&Aは勿論、事業承継においてもNDAを締結することは基本的なプロセスとなっています。

意図的に片務的なNDAを締結するのは論外ですが、スタートアップと連携事業者、事業承継における売手企業と買手企業の間には、どうしても情報の非対称性があるため「優越的な地位の濫用」に該当してしまうリスクをはらんでいるという面があります。

公正取引委員会と経済産業省によって2021年12月に「『スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(案)』に対する意見募集について」というパブリックコメントの募集が行われました。今後については、関係者の意見を踏まえて「指針」が正式に策定され、出資時の契約における留意点が明確化されることになりそうです。

ますます広く活用されることが期待されるM&Aですが、意図せず優越的地位の濫用に陥ることのないよう、「指針」に留意しつつ対応することも必要ではないでしょうか。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

企業に寄り添う認定支援機関

企業の経営において課題が生じたときに誰に相談するか

企業の経営においては、資金計画のほか、新製品開発、新規事業立上げ、売上拡大などさまざまな課題が日々発生します。これらの経営課題に対しては、自社だけで立ち向かうよりも、他の企業の取組事例や専門的知識が豊富な外部の専門家等による支援を得ることで、よりよい成果を上げることができます。

そこで、今回は、企業の経営課題の解決を支援するための制度である認定経営革新等支援機関(以下「認定支援機関」といいます。)について解説します。

 

認定支援機関とは何か?

認定支援機関とは、経営革新等支援業務を行うために必要な専門的知識や実務経験等を有しているとして国によって認定された個人・法人をいいます(中小企業等経営強化法第31条第1項)。

ここでいう「経営革新等支援業務」とは、以下の業務を言います。

① 経営革新を行おうとする中小企業又は経営力向上を行おうとする中小企業等の経営資源の内容、財務内容その他経営の状況の分析

② 経営革新のための事業又は経営力向上に係る事業の計画の策定に係る指導及び助言並びに当該計画に従って行われる事業の実施に関し必要な指導及び助言

すなわち、認定支援機関とは、企業の経営課題解決に必要な財務・税務などの専門的知識や実務経験が一定の水準以上であることを国が認定し、企業が安心して支援を受けることができるようにすることを企図した制度です。

 

認定支援機関に認定されているのはどのような機関か

平成31年3月31日時点で、2万4158機関が認定支援機関として認定を受けています。

認定を受けているのは、税理士・税理士法人が多数を占めていますが、公認会計士、中小企業診断士、弁護士なども認定を受けています。また、銀行や信用金庫といった金融機関や商工会議所・商工会も認定を受けています。個人・法人や業種を問わずさまざまな属性を持つ機関が認定支援機関として認定されており、それぞれが持つ強みを活かして企業の支援をしていくことが可能となっています。

なお、税理士や中小企業診断士などの資格を保有しているからといって、当然に認定支援機関に認定されるわけではなく、一定の実務経験又はこれに代わる研修・試験の合格が必要とされています。このほか、近時の制度改正により認定支援機関の認定は5年の有効期間があり、期間満了時に改めて業務遂行能力の検証が行われることになりました。

 

認定支援機関はどのようにして探せばよいか

既に述べたように、さまざまな機関が認定支援機関に認定されているため、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていることも少なくないと思います。

また、顧問税理士やメインバンクが認定支援機関に認定されていない場合や、第三者的な視点での支援を受けたい場合などは、中小企業庁のウェブサイトにある認定支援機関検索システム(https://www.ninteishien.go.jp/NSK_CertificationArea)を使うことで全国の認定支援機関を検索することができます。この検索システムでは、各認定支援機関の属性のほか、これまで行ってきた支援の実績なども確認することができます。

 

認定支援機関はどのような支援を行うか

では、認定支援機関は具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

認定支援機関が企業に対して行う典型的な支援として経営改善計画の策定をあげることができます。

金融機関からの借り入れの返済など資金繰り上の課題を抱える企業が、経営改善計画を策定することによって、収益性の改善や借入の返済の見直しを行うため、経営改善計画を策定します。経営改善計画の策定においては、当該企業の現状や課題を分析し、いかなる次期にどのような取り組みによって課題を解決していくかを検討していきます。その際、認定支援機関が助言や計画案の作成などの支援を行います。また、当該経営改善計画が策定されたのちも、計画どおりに取り組むことができているかのモニタリングについても認定支援機関が行います。

そして、これらの支援に要する費用のうち3分の2については、公費による助成を受けることができます(経営改善計画策定支援事業(通称405事業))。

このほか、事業再構築補助金を申請する際には、認定支援機関が企業による事業計画書の策定に関与し、当該事業計画が事業再構築指針に沿った内容であること確認することや、事業者の事業遂行や成果目標の達成に関する支援に取り組むことを誓約することが必要となっています。このように補助金などの施策を利用する際には、認定支援機関の支援が必須となっている場合もあります。

 

まとめ

最初は「補助金の申請をする際に必要とされているから」などと比較的消極的な理由で認定支援機関による支援を受けるという企業もあるかもしれません。

しかし、外部の専門家などから新たな視点での助言や考え方を得ることが、悩ましい経営課題を解決するために第一歩となるかもしれません。

本稿が企業による認定支援機関の利用のきっかけとなれば幸いです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

 

M&A初めの第一歩!まずは専門家に相談してみよう!

みなさま新年あけましておめでとうございます。といっても、早いもので2月ですね。また、おめでたい気分に水を差すように世界中で新しい変異株が急激に広がっています。幸い重症化率は低いようですが・・・。しっかり栄養をとって、手洗い・うがいには特に気を配りましょう。

堺なかもず経営支援センター山本哲也です。大阪府堺市であなたのちょっとした変化を応援しています。

 

M&Aについていろいろなセミナーに顔を出したり書籍を読んだりしてインプットをしても「M&Aは、ケースバイケース」という結論が多く、自分たちのアクションにつながりづらいというお悩みをよく聞きます。

いつものように、M&Aを活用してさらなる目指す若手経営者ツナグの独り言からお聞きください。

 

僕は、ツナグ。友人と始めた会社も少しずつ軌道に乗ってきたので、これからさらに大きく成長させて行く上で、いろいろな方法を検討し始めた。

先輩たちの事業を研究しているうちに、会社を丸ごと買い取って自分たちにない強みを手に入れたり、廃業する企業から顧客を引き受けたりするM&Aがどんどん増えているようだ。ネットでも調べてみたし、何冊も専門の書籍も読んでみた。でも、どれも一般論で、自分たちが具体的に何からやればいいのか教えてくれる本には出会えなかった。

「僕たちが何からやればいいのか?!今のうちからちょっとしたことでも相談に乗ってくれる先生がいたらなぁ」

 

身近な専門家

経営について相談できる身近な専門家と言えば、税理士を挙げる人が多いのではないでしょうか?それもそのはず、税理士は、全国におよそ8万人います。これは、全国の小学校校区内に4名以上の税理士がいる計算になっています。人口密度の高い都会では、この数値よりも多いと考えられますので、身近な存在と言えそうです。

まずは情報収集程度であれば、自社のことをよく知ってくれている身近な専門家に相談するところから始めるのがお勧めです。

しかし、具体的な検討段階に進むのであれば、M&Aに関する実績が何件くらいあるのか、専門的な支援が期待できるスキルを持っているのか、なども確認した上で相談するようにしてください

経営の専門家たちにも、専門分野や得意分野があるためです。

また、M&Aは会社や事業の売買のため、その事業内容や規模によっては税理士だけなく多様な専門家の支援が必要となります。専門家のネットワークを持っているかどうかも確認しておきたいところです。

税理士:税金に関する相談

弁護士:株式譲渡契約や労働契約、買収企業と取引先との契約など

社会保険労務士:社会保険や労働者の移籍に関する相談

弁理士:買収先が所有する特許の移転などに関する相談

中小企業診断士:M&A戦略の立案、買収先リストアップや経営状況の確認、経営統合後の戦略策定、各専門家のコーディネートなど

 

無料で相談できる公的機関

身近にM&Aに関して相談でいる専門家が見つからない場合は、公的機関も積極的に活用してみましょう。経営者の高齢化が進むわが国では、事業承継は大きな社会課題として国も注力している分野のため、全国に専門の相談窓口が用意されています。また、専門家の紹介を受けることも可能です。

 

・事業承継・引継ぎ支援センター(https://shoukei.sMrj.go.jp/#support_detAil)
各都道府県に1か所以上設置されています。一般的なM&Aの相談だけでなく、親族や従業員への承継支援、後継者探しなどまで幅広い相談に対応してくれます。また、承継の際に問題となることの多い経営者保証解除に向けた支援もしてくれます。まずは、こちらに出向くのが得策です。

 

・各地域の商工会及び商工会議所

        さらに身近な相談窓口としては、自社の活動エリアにある商工会や商工会議所ではないでしょうか?商工会・商工会議所は、地元企業の集まりですので、幅広い相談に対応が可能ですし、各士業専門家とのつながりも深く、自社の課題や規模などによって適切な専門家とつないでもらうことが期待できます。また、各自治体や金融機関との連携も密に取っていますので、幅広い支援を受けることが可能です。もし、あなたが会員でなくても、まずは、相談だけでもしてみることをお勧めします。

 

とめ

今回は、M&Aに関心を持ち始めた初心者の方向けに、気がるに相談できる窓口についてご紹介しました。まずは、公的機関で相談することで、あなたにあった専門家と出会える可能性が高まります。また、誰かに相談することであなたの頭の中にあるM&A戦略も整理が進み、より具体化することも期待できます。ために支援者

以前にご紹介しましたが、M&Aを成功させている経営者の多くが「案件が発生する前から計画的に準備を行うこと」を実践しています。この記事に出会ったことを良い機会として、身近な専門家や公的機関の無料相談を活用してみましょう。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也