ブログ 月: 2023年4月

スモールビジネスでの活用が考えられる破産による事業再生②

破産手続開始決定後に事業譲渡を行う場合

前回は破産手続開始決定前に事業譲渡を行う場合について解説をしましたが、今回は、破産手続開始決定後に事業譲渡を行う場合について解説します。

破産手続は、清算手続ですので、破産者の事業は廃止されるのが原則です。しかし、事業を継続することについて特別の利益がある場合は、破産管財人は裁判所の許可を得て事業を継続することができます(破産法第36条)。ここにいう「特別の利益」とは、基本的には、事業の継続をした方が破産財団にとって利益となる場合を指します。したがって、事業譲渡をすることにより破産財団が増殖することが見込め、そのためには事業を継続することが必要であるといえることが必要となってきます。このほか、破産管財人が事業譲渡を行う場合も裁判所の許可が必要となります(破産法第78条第2項第3号)。

すなわち、破産管財人は、事業を継続することを第一に考えるのではなく、いかに破産した企業の財産を高額に換価するかということを最優先するのです。したがって、破産管財人が事業を継続したうえで事業譲渡を行うかどうかは例えば以下のような視点で検討をしていくことになります。

① 当該事業が黒字になるか。

事業を継続する目的が破産財団の増殖にある以上、当該事業が黒字であるかどうかは、事業継続の基本的な判断要素となります。

また、事業継続に伴う債務が財団債権となる(破産法第148条第1項第2号)となるため、当該事業が赤字になる場合は、その分破産財団を構成する財産が少なくなります。したがって、当該事業が赤字になる場合は、事業を継続しがたく、事業譲渡もしがたいでしょう。

② 当該事業が事業譲渡までのあいだ現金取引に耐えることができるか。

当然のことながら、破産手続中は信用取引ができないので、すべて現金取引で行うことになります。当該事業を継続する場合は現金取引に耐えることができるかどうかも事業継続の判断要素となります。

③ 当該事業の事業遂行上のリスクがあるか。

例えば、業務中に重大な労災事故が発生することが想定されるような事業であれば、その賠償により破産財団が減少してしまうおそれがあります。

④ 事業を行う人材が確保できるか。

破産した企業が事業を継続する場合、その主体は破産管財人となります。しかし、破産管財人が事業を実際に行うことは事実上不可能であるため、事業に専念できる信頼のおける者がいるかどうかも、事業譲渡を行う考慮要素となります。

 

どのような場合に破産手続開始決定後の事業譲渡を行うのか

これまでに述べてきたことからも明らかなように、破産手続開始決定後に破産管財人が自らの判断で事業を継続することを決めたうえで、事業譲渡をするというのは容易ではないと考えます。

他方で、破産手続開始決定後に破産管財人による事業譲渡を行うことができれば、当然のことながら否認権の行使のリスクはありません。その点で、破産手続開始決定後に事業譲渡を行うメリットがあるといえます。

破産管財人による事業譲渡を容易にするために、次のようなスキームが想定されます。

① 破産する企業が、自己破産申立てをする前の段階で、あらかじめ事業譲渡先を確保する。

② 事業譲渡先となるべき企業と譲渡対価、従業員の承継・その条件、税金・社会保険料および取引債務の承継等の諸条件について事業譲渡先から内諾を得ておき、あとは事業譲渡契約書を作成するだけの状態にしておく。

③ 自己破産申立てを行い、破産手続開始決定後のあとで破産管財人が事業譲渡先と契約を締結する。

このスキームを用いる場合、いかにして短期間で事業譲渡先を見つけ、条件面で内諾を得るかが重要になってくるといえます。また、譲渡先の企業が裁判所や破産管財人が納得できる(すなわち、適正な事業譲渡の対価を支払うだけの体力のある)ものであることを説明できるかどうかも重要なポイントといえるでしょう。

 

今後の活用が期待される破産による事業再生

これまで破産による事業再生はあまり活用されていなかったと思われます。確かに、破産による事業再生には、破産手続開始決定前の破産管財人による否認権行使のリスクや破産手続開始決定後の破産管財人が事業譲渡を行う判断をしないリスクなどがありますが、それよりもやはり破産した企業から事業を譲り受けるというマイナスのイメージが原因となっているようにも思われます。

しかし、民事再生と比較し、短時間で行うことができること、裁判所への予納金等の費用も安価にすることができること、どの事業を事業譲渡の対象とするかについて比較的融通が利くことからすれば、破産による事業再生は、条件さえ整えば検討すべき手法であるとも思います。今後の活用が期待されるところです。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 

海外企業とのスモールM&Aで“うっかり法令違反”

M&A専門会社のレコフデータの発表によると、2022年の日本企業が関連したM&A件数は、21年の4,280件を24件上回る4,304件となり、2年連続で過去最多を更新しました。

事業承継ニーズは引き続き高いため、中小企業のM&Aを活用した第三者承継も当面は高水準で推移すると思われます。

今回は、国内企業同士のM&Aではなく、海外企業を買い手としたM&Aに着目し、“今どき”の国際情勢を反映した留意点についてご説明したいと思います。

1.円安で押し寄せる外資の波

 

2022年10月、円相場は一時1ドル=150円台まで値下がりし、1990年8月以来およそ32年ぶりの円安水準を更新しました。円安は輸入する原燃料や食料品等の値上がりの要因となりましたが、「外資の日本買い」を促進する要因にもなっています。

円安は、外国人観光客の購買意欲回復など、プラスの効果として捉えられる面もありますが、日本の都市部や観光地の不動産買占めなど、マイナス効果として捉えられる報道も少なくありません。

M&A Onlineによると2022年(1-12月期)の日本企業が関与するM&A公表案件は前年比19.5%減少ながら、海外企業が日本企業を買収するOUT-IN案件は17%増加と拡大しています。

2.経済安全保障と海外企業の国内企業向け投資

 

2023年3月経済産業省国際投資管理室は、「外国投資家から投資を受ける上での留意点について」を公表しました。これは、近年、国際情勢の複雑化する中、経済安全保障が国家として対応すべき課題となってきたことに対応したものです。

主な内容は、次のとおりです。

・海外企業による国内企業への投資(以下、対内直接投資といいます)は優れた技術やノウハウをもたらし、我が国経済の成長に資するもの

・政府としては投資活動の自由を確保したいが、安全保障に対処するため、政府が指定する業種に対して海外企業が投資する場合は、所管省庁による事前審査が必要

・審査のため事前届け出が義務付けられるが、海外企業が経営に関与しない場合かつ指定業種以外への投資の場合は事後報告でよい

これらの制度自体は2019年の外為法改正時にすでに構築済のものです。しかし、多くの中小企業は外為法等の知識や対応するリソースが不足しています。2022年12月に「安全保障貿易管理ガイダンス」をリリースし、輸出取引における注意喚起をしたのに続き、本件公表により海外企業からの投資を受ける際の注意喚起をしたようです。

3.改正外為法案に抗議したスタートアップ企業

 

財務省が公表した「対内直接投資等に関する事前届出件数等について」(2022年6月)によると、2021年度中に海外企業が日本企業に投資をするために政府に届け出た件数は、上場会社183件に対し、非上場会社は1,222件でした。前年度は上場会社164件に対し、非上場会社は1,117件であり上場・非上場企業とも増加しています。

また、非上場会社の届出件数のうち7割(851件)は経営関与のある投資内容であることが大きな特徴です。非上場会社の多くは中小企業であると推察されますが、相手が中小企業であっても海外企業の多くは“モノ言う株主”であるということです。

ところで、2019年に外為法が改正される際に、海外からの資金調達を進めていた日本のスタートアップ企業は、外為法の当初改正案に反対した経緯があります。

当初改正案が、規制に軸足を置いていたため、先端技術の開発や、新しいビジネスモデルの展開のために海外投資家から資金調達を拡大しようとしていたスタートアップ企業にとっては、足かせとなるものと受け止められたからです。

当時は、2018年に株式上場したメルカリやSansanなど、スタートアップ企業が株式上場前に海外企業から巨額の資金調達をして、成長を加速していた時代背景がありました。

しかし、当初改正案では事前届出が必要な指定業種には「受託開発ソフトウェア業」、②「組込みソフトウェア業」、「パッケージソフトウェア業」、「情報処理サービス業」、「インターネット利用サポート業」などが含められることになりスタートアップ企業が海外企業から投資を受ける際に、事前届出を求められるケースが大幅に増加し、機動的な資金調達が阻害される可能性があったのです。

日本ベンチャーキャピタル協会やスタートアップを支援する弁護士等が、パブリックコメントに際して規制緩和を訴えたことを受けて、以下の条件を前提として事前届け出が免除されるなど、規制が一部緩和されました。

①外国投資家自ら又はその密接関係者(※)が役員に就任しない

②指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しない

③指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報にアクセスしない

④コア業種に属する事業に関し、重要な意思決定権限を有する委員会に自ら参加しない

⑤コア業種に属する事業に関し、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めて書面で提案を行わない

(※)外為法上の用語。過半数の議決権を有する法人や親族など

4.事前届出といっても「審査」がある~経済安全保障の壁

外為法の事前届出は、「届出」といっても所管官庁による「審査」が実施されます。

届出後30日以内に審査結果が出ますが、国の安全に問題がある場合は中止等の命令がなされ、M&A自体が成立しないことになります。

また、事前届出せずに出資やM&Aを実行した場合や命令に従わない場合は罰則が規定されています。

「外国投資家から投資を受ける上での留意点について」では、問題のある取引として次のようなケースを紹介しています。

①技術の軍事転用:A国が、軍事転用が可能な機械部品を製造する日本の工作機械メーカーB社を買収し、B社の有する機械部品の設計製造技術がA国に流出した。

②供給の途絶:A国のファンドが防衛装備品を製造している日本のB社を買収。A国のファンドはA国政府の支配下にあり、卸先を日本国内ではなく、A国への優先供給に切り替え、国内への供給が絶たれた。

③基盤技術の流出:A国が、日本の製造業の基盤となる半導体製造技術を保有するB社を買収し、当該技術が流出。A国は当該技術を使って、同等製品を安価に製造可能となり、日本の製品が売れなくなった。

 

事前審査の対象となる業種は、上記の軍事技術のように明らかに問題のある分野ばかりではありません。

「航空」「原子力」「宇宙」「医薬品・医療機器」など高度に専門性の高い分野の他、「電気業、ガス業、熱供給業」「水道業「通信事業、放送事業」「鉄道業、旅客運送業」などのインフラ関連、「集積回路製造業」「半導体メモリメディア製造業」「情報処理サービス業」「ソフトウェア業」などのサイバーセキュリティに関する業種など、実は幅広い業種・業界が対象となっており、うっかりすると「自分の会社は関係ないと思っていたのに」ということになりかねません。

 

まとめ

海外企業を買い手とするM&Aは、外為法や経済安全保障上の規制など、国内M&Aにはない規制があり、知らずに着手すると“うっかり”法令違反となってしまうこともあります。

また、今回ご説明したような、法令・規制上の課題はもちろんのこと、海外企業に買収された場合の、買収後の組織文化の融合など、様々な検討課題があります。

海外企業が買い手のM&Aについては、海外企業とのM&Aに知見のある専門家に相談し、海外企業特有のリスクを十分に加味した上で、慎重に検討しましょう。

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)

自社の目的にもっともフィットするM&A手法の選びかたは? その2

みなさま、こんにちは!
前回のお話の続きです。「自社の経営課題を解決するためにもっとも適したM&Aの手法」を選ぶために検討すべきことについて新任担当者のツナグと一緒に考えていきたいと思います。
まずは、簡単に前回の振り返りをしましょう。

前回は、そもそも、「M&A」と一口にいってもそのスキームにはどんなものがあり、それぞれどんな特徴があるのか?について一緒にみてきました。自社にとってベストの手法を選択するためには、M&Aに取り組む自社の目的や様々なステークホルダーの要望など、多角的に検討する必要があるというお話でした。

今回は、具体的にどのようなことを検討する必要があるのか?の5つの着眼点について考えていきましょう。
前回同様に広い意味でのM&Aには、業務資本提携のようなアライアンスも含むと言われていますが、本コラムの読者層を踏まえて、それらを除いた残りのスキームを念頭においてお話しします。

 

M&Aのスキームを選択する際に検討すべき5つのポイント

ツナグ:えーっ!5つも考えなきゃならないの?!

そんなに驚かなくても大丈夫ですよ。逆に、5つに整理することで、それぞれの手法を選択した場合のメリットとデメリットを整理できれば、それが、自然とステークホルダーの意思統一に繋がり、折衝や検討の時間短縮に繋がります。

まず、担当者としては、経営統合作業の進めやすさと経営統合の目的であるシナジーを発揮しやすいかどうかを検討する必要があります。シナジーとは、「複数のものがお互いに作用し合い、効果や機能を高めること」という意味ですが、つまりは「相手の組織と組むことによる自社のメリット」と同じような意味で捉えていただければ大丈夫です。

組織内外からのさまざまな圧力があり、統合作業を慎重に進めたいケースや、買収対象企業をそのまま存続させたいケースなどは、株式譲渡や株式交換、株式交付を利用するのが良いでしょう。統合作業をじっくり進められるためリスクは小さくできるものの、逆に言うとシナジー効果が発揮されるまでに時間のかかることが多いようです。
逆に、買収対象企業の存続が危ういため統合作業を急ぐ必要がある場合や、早急にシナジー効果を得たいと考える場合、リスクは少々高くなりますが、思い切って組織を速やかに一体化させることを検討しましょう。“合併”もしくは場合によっては、“事業譲渡”が適していると思われます。ただし、給与体系などの人事制度や情報システムにどの程度の違いがあり、統合によって発生しそうなトラブルについて十分な検討と対策を準備しておく必要があります。
ツナグ:事業譲渡は、事業譲渡の範囲を狭くすれば、素早くできる可能性が高まりそうだね。

次に検討すべき項目としては、相手の会社を子会社化するのか、それとも、対等な立場で統合するのか?があります。これは、両社の株主や取引先、顧客などのステークホルダーの意見を取り入れた上で検討してください。単純に子会社化するだけであれば、株式交換、株式交付、株式譲渡、新株引受なども考えられます。一方で、対等な立場での経営統合であると言うことを世間や従業員にアピールしたい場合などは、株式移転を活用した持ち株会社制度や合併が考えられます。
例えば、新たな会社を新しく設立し、そこに両方の会社を参画させるホールディング会社制度であったり、2社が合併して、両者の会社名を並べて新会社名にしたり、などがよくあるケースですね。
ツナグ:金融機関でよく見るタイプだね。

そして、支配権を取得する相手先企業がどれくらい健全な状態か?についても検討すべき項目になります。なぜなら、経営を統合するわけですから、不健全な経営を自社に取り込むことになるからです。具体例としては、相手先が長期かつ大きく債務超過をしているケースや帳簿に載っていない大きな借入金があったり、などは、会社丸ごとではなく、その事業だけを“事業譲渡”の手法で取り入れることを検討しましょう。予見できないリスクを排除できます。
ただし、事業譲渡の場合、どこまでが譲渡を受けた範囲なのか?であったり、競業避止義務の期間や範囲など、取り決めるべきことが広範に渡ったりするため、担当者の業務負荷が大きくなることになります。

ツナグ:業務が増えるのだけはヤダ!だけど、こうして聞くと、どれも当然のことだけど、本当にいろいろな視点で検討する必要があるんだね。

 

自社の都合だけでは決められない買収スキーム

M&Aにおいては、買収企業以外にも様々なステークホルダーがいます。その中でも最も大きなステークホルダーは、買収対象企業のオーナーや株主になります。
例えば、買収対象企業の株主が現金を希望するのであれば、株式交換ではなく、株式譲渡となります。一方で、買収対象企業の株主が買い手企業の株式を対価として望んでいる場合は、株式交換、株式交付、合併、吸収分割なども考えられます。ただし、一般的には、買い手企業が上場会社でなければ、これらのスキームが選択されることはないでしょう。
逆に、買い手に資金がたくさんあれば、現金を対価とした買収は可能ですが、資金調達余力に乏しい場合は、株式交換や合併といった株式を対価としたスキームを中心に検討することになります。ただし、買い手が上場企業の場合または近い将来に上場の計画をしている場合に限られます。

まとめ

今回は、さまざまなM&A手法の中から自社の目的にフィットする方法を選ぶために検討すべき内容を一緒に考えてきました。

1.経営統合作業をスムーズに行えるか否か?
2.経営統合の目的であるシナジーを発揮できる手法は?
3.相手の会社を子会社化するのか?それとも対等な立場で統合するのか?
4.支配権を取得する相手先企業の経営の健全性はどれくらいか?
5.買収対象企業の株主の希望は、現金か株式化か?

これ以外の切り口として、経営資源活用の観点から4つ分けることもできます。いずれにしても、“手段の目的化”を防止するためには、前提条件をステークホルダー間で共有しておくことが重要です。
また、M&Aの場面では、ステークホルダーそれぞれの思惑が複雑に絡み合うため、時には妥協することもしばしばです。今回の5つの観点がお互いに絡み合っているのはそのためです。

なお、本コラムは、初めてのMA&担当となられた方にもわかりやすくお伝えするために説明を一部簡略化しています。ご承知おきください。実際の運用については、専門家の助言をもとに取り組むことをお勧めします。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士  山本哲也