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M&Aを活用した事業承継も経営者保証が不要に

今回は、事業承継の大きな阻害要因となっている「経営者保証」を不要とする新たな信用保証制度である「事業承継特別保証制度」と活用メリットについて取り上げたいと思います。

 

過去の融資の9割は経営者保証付きのまま

経営者保証ガイドライン策定後、経営者保証のない新規融資は徐々に増加しています。しかし、依然として融資全体の約9割は引き続き経営者保証付きのままです。

一方、中小企業庁によると2025年には国内の中小企業経営者381万人のうち245万人が70歳以上となり、その約半数の127万人が後継者未定と推定しています。ところが、その22.7%は後継者候補がいるにも関わらず事業承継を拒否しているのです。その最大の理由は個人保証であり、全体の59.8%にものぼります。

 

事業承継時に経営者保証が不要となる制度をご存知ですか?

政府は事業承継を円滑化するため、既存の経営者保証付き融資の水準を適正化するため、更に踏み込んだ対策に乗り出しました。

2019年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」において経営者保証を不要とする新たな信用保証制度が創設されたのです。

この信用保証制度を「事業承継特別保証制度」といい2020年4月より運用が開始されています。

 

「事業承継特別保証制度」3つの特徴

この保証制度には次のような特徴があります。

①事業承継時に経営者保証が不要

②専門家による確認を受けた場合、信用保証料率が大幅に軽減される

③経営者保証付きの既存の借入金であっても、この制度を活用して経営者保証不要の借入に借換が可能

 

この保証制度は、全国の信用保証協会で取り扱われていますが、原則、金融機関からの事前相談が必要になっている場合が多いようです。

一見すると、良いこと尽くめの制度のようですが、利用するためには、①資産超過、②返済緩和債権なし、③一定の返済能力(EBITDA有利子負債倍率10倍以内※)等の一定の要件を満たす企業が対象になります。

 

※EBITDA有利子負債倍率 =(借入金・社債-現預金) ÷(営業利益+減価償却費)であらわされ、実質的な借入金をキャッシュフローにより何年で返済できるのかを表す指標です。

 

専門家「経営者保証コーディネーター」を活用しよう

3つの特徴で触れた専門家のことを「経営者保証コーディネーター」といいます。経済産業省の委託またはその再委託を受けて事業の承継に対する支援を行う機関である「事業承継ネットワーク地域事務局」が雇用する専門家です。東京都事業承継ネットワーク事務局の場合、「経営者保証コーディネーター」は、中小企業診断士あるいは公認会計士資格の保有者が担当しています。

「経営者保証コーディネーター」は、所定のチェックシートを使用した3つの要件を満たしているかどうかを所定のチェックや、金融機関との面談に同席してチェックシートの充足について説明を行う等の支援を行っています。

融資を受けようとする企業が「経営者保証コーディネーター」による確認を受けた場合、保証料が最大でゼロになるまで軽減されるという特典もあり、政府は積極的な利用を期待しているようです。

 

金融機関も積極的に取組みうる現実的な施策

事業承継特別保証制度では、原則禁止されている金融機関の既往の融資を信用保証協会の保証付き融資に借換へすることを例外的に認められており、経営者保証解除に伴う金融機関のリスクを保証協会が分担することになっています。金融機関にも配慮した設計となっており、金融機関の現場でも取り組みやすい制度になっているのではないでしょうか。

 

 

「中小企業成長促進法」の施行でスモールM&Aも促進される?

2020年10月に「中小企業成長促進法」(中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律)が施行され、既に運用が始まっている「事業承継特別保証制度」(保証限度額2億8,000万円)ではカバーできない融資に対して、さらに特別枠が創設されました。

これを受けて、全国信用保証協会連合会のHPでは経営者等のニーズに応じてきめ細かく細分化されたメニューを公表しています。

 

例)

「経営承継準備関連保証」

⇒ M&Aによる事業承継に必要な株式等や事業用資産の取得資金に利用できる

「特定経営承継関連保証」

⇒ 従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による

事業承継に必要な資金に利用できる

「経営承継借換関連保証」

⇒ 経営者保証付きの金融機関からの借入債務を経営者保証が不要とする融資に借り換えるために利用できる

 

<むすび>

2020年12月8日、政府は「国民の命とくらしを守る安心と希望のための総合経済対策」を閣議決定しました。コロナ禍による環境変化に対応しようとする中堅・中小企業による新規事業進出や事業転換等の取組に対する「事業再構築補助金」「税制優遇措置」等の創設などの支援策の策定が予定されています。これらの大型のコロナ禍対策も相俟って、新年は中小企業の「事業承継」だけでなく「事業転換」も進展しそうです。様々な支援制度を賢く活用して「事業転換」を進めたいですね。

 

中小企業診断士 伊藤一彦