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ご存じですか?!国がスモールM&Aを補助金で支援してくれます。

事業承継が新しい創業の形として根付くか?!

中小企業白書によると、日本の開業廃業率は、2000年代に入り緩やかな上昇傾向で推移してきましたが、足元では再び低下傾向となっています。直近データ(2019年度)によりますと、開業率が4.2%、廃業率が3.4%となっており諸外国と比べて相当低い値となっています。コロナ禍の先行きがある程度見通せるようになり、国の各種の支援策が止ストップされた段階で、廃業を決断する事業者が増えるのではないかと考えられています。

一方で、国は、これまで、女性や若者、高齢者による起業を様々な制度で支援をしてきましたが、これらの類型以外にも既存事業者の黒字廃業を防ぐための支援をスタートさせました。その代表的な施策が、本記事で紹介する「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)」です。本補助金には、【Ⅰ型】創業支援型、【Ⅱ型】経営者交代型、【Ⅲ型】M&A型の3種類があります。類型ごとに補助上限額や内容が異なりますので、ご自身の事業計画がどの申請類型に該当するのか?本制度を利用できるのか?ご確認ください。

 

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)には3つの類型があります。

ツナグ:なんとなくその名前から内容は想像ができるけど・・・。Ⅰ型からⅢ型に向けてより大きな取り組みのイメージだね。ぼくの場合は、経営者交代型が適している気がする。

 

そうですね。3つの類型を比較しつつ事例も紹介していきましょう。

【Ⅰ型】創業支援型

まずは、【Ⅰ型】創業支援型には、以下の2つの要件いずれかを満たす必要があります。

 

  1. 創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者であること。
  2. 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者であること。

 

つまり、低迷していた事業を引継ぎ、革新的な投資を行い、事業を活性化させること。(例えば、事業再構築補助金で支援されるような取り組み)具体的には、近年創業した人が、設備とともに顧客や従業員を引き受け、事業改革を行ってスケールさせていくイメージです。ですから、設備や店舗だけを譲り受けるようなものや賃貸用不動産は認められません。

 

【Ⅱ型】経営者交代型

【Ⅱ型】経営者交代型では、以下の3つの要件をすべて満たすことが求められます。

 

  1. 事業承継を契機として、経営革新等に取り組む者であること。
  2. 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者であること。
  3. 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者であること。

 

つまり、経営者として3年以上経っていること、または引き継ぐ業種での実務経験が6年以上あることや創業・承継に関する指定講習を受講した経営者なども条件があり、創業者支援型よりも専門性が求められています。つまり、【Ⅱ型】経営者交代型は、地域経済への影響がある一定以上の規模の革新的な取り組みが想定されているといえます。革新的な取組みとは、先述した事業再構築補助金の類型にあるような、新しい売り方や製造方法、新規事業や飛び地への参入などをイメージしてください。

 

 

【Ⅲ型】M&A型

【Ⅲ型】M&A型では、以下の3つの要件をすべて満たすことが求められます。

  1. 事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む者であること。
  2. 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者であること。
  3. 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等事業承継を契機として、経営革新等に取り組む者であること。

つまり、Ⅱ型のように経営者が変更とならないM&A(組織再編)がこちらに該当します。それ以外の要件については、Ⅱ型と同様で、引き継いだ事業を成功に導くことができそうな経験や実績を持っていることが条件となっています。

 

ツナグ:なるほど、そういえば補助経費はどれも一緒なのかな?

 

補助金の最大は1,000万円、補助経費は幅広く認められています。

まず、共通点からお話します。

本補助金の補助率は3分の2、補助下限額は100万円、引き継ぐ事業者が廃業する場合の経費の一部に対して200万円以内となっています。廃業に関する経費ついては、各類型で少しずつ違いがありますのでご注意ください。

また、補助経費の内容は、人件費、店舗等借入費、設備費、試供品やサンプル製作のための原材料費、産業財産権等関連経費(特許など)、専門家向けの謝金、販路開拓などの旅費、マーケティング調査費、広報費、説明会などの会場借料費、外注費、委託費など事業革新に必要となりそうな経費が、幅広く認められています。

各類型における違いは、その補助上限額にあります。Ⅰ型とⅡ型については、上限が400万円以内となっていますが、Ⅲ型はその取り組み規模に見合うようにⅠ型やⅡ型の2倍の800万円以内となっています。この記載以外にも細かな規定がたくさんありますので、まずは公募要領を確認いただき、不明点は、専門家に相談してみることをお勧めします。

事業承継・引継ぎ補助金WEBサイト:https://jsh.go.jp/r2h/business-innovation/

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

M&Aの目的を達成するための事業DD①

財務DDだけがDDではない!

いうまでもなく、M&Aを行ううえでデューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は不可欠なものです。

とはいえ、小規模なM&Aの場合、財務DDしか行っていないということも少なくないと思います(なお、M&Aの規模が小さい一方、DDに要する費用が高額であるとして、財務DDすらしない場合があると聞いたことがありますが、これは極めて危険な行為というほかありません)。

しかし、財務DDだけがDDではありません。そこで、今回は、財務DD以外のDDのうち、事業DDについて説明します。

 

買い手のM&Aを用いた戦略を進めるうえで重要となる事業DD

事業DDとは、売り手が行う事業の将来性や買い手が行う事業とのシナジー効果等について評価するものです。

そもそも、買い手がM&Aを検討しているのは、自社の事業が有していない新たな分野への進出を図ることや自社の既存事業と売り手の事業との相乗効果を図ることなどの何らかの目的があるためです。この点に関し、事業DDは、買い手がM&Aをすることによって目的を達成することができるかどうかを確認するものであるといえます。また、事業DDを行うことでM&Aを行う目的がより具体的になってくることもあり得ます。

このように、実は、事業DDは買い手のM&Aを用いた経営戦略を進めるうえで極めて重要なものであるといえます。

 

売り手が再生を要する場合にも重要となる事業DD

このほか、売り手が再生を要する場合にも事業DDは欠かせないものといえます。再生を要する売り手の場合、収益状況や財務状態に何らかの問題を抱えています。M&Aののち、買い手が売り手の収益状況や財務状況を改善して再生することができるのかを見極めるためにも、事業DDを行うことが重要であるといえます。

このようなことをいうと、収益性などは財務DDで確認できるので事業DDは不要ではないかと考える方もいるのではないかと思います。しかし、財務DDはあくまで貸借対照表や損益計算書などをもととした『数字の分析』が中心となります。その一方で、事業DDでは経営指標等の『定量的要因』を考慮しつつ、売り手が有する強み・弱みといった内部環境や機会・脅威といった外部環境などの『定性的要因』と併せて総合的に検討して、売り手が抱える問題点は何かを特定し、改善のための方向性などを提案していきます。この点で、事業DDと財務DDとは一部において重複する部分もありますが、その本質は大きく異なるものであるといえます。

 

事業DDでは具体的にはどのような内容を取り扱うのか

事業DDでは、おおむね以下の内容について取り扱います。

① 会社概要

② 外部環境分析

③ 内部環境分析

④ SWOT分析

⑤ 事業に関する評価

これらのうち、会社概要とは、その企業の概要、株主構成、組織概要、事業の構造などの一般的な事項についてのものですので、実質的には外部環境分析及び内部環境分析並びにこれらに基づくSWOT分析と事業に関する評価が中心となります。

 

外部環境分析について

外部環境とは、企業を取り巻く環境のうち、自社ではコントロールすることができないものをいいます。

事業DDにおいて外部環境を分析するのは、現在買い手が行う事業が抱える問題点の原因とともに、今後の事業展開における機会や脅威となる要因を明らかにすることによって、問題が解決する可能性の検討を行い、当該事業の評価を行うためです。

外部環境を分析する際に着目すべき要素を体系化したものとして、PEST分析と5(ファイブ)フォース分析があります。

PEST分析とは、P(Politics(政治))、E(Economy(経済))、S(Society(社会))、T(Technology(技術))の要素に着目して外部環境を分析するもので、主にマクロな視点で外部環境を分析するものです。

5フォース分析とは、競合各社や業界全体の状況などの企業を取り巻く5つの脅威に注目し、事業の利益の上げやすさを分析するものです。その意味でPEST分析と異なり、ミクロな視点で外部環境を分析するものといえます。

5つの脅威とは具体的には以下のものを指します。

① 新規参入の脅威

参入障壁が低い業界・市場の場合は、新規参入により競争が激化し、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

② 競合の脅威

新規参入のみならず現在既に存在する競合企業との競争が激しい場合も、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

③ 代替品の脅威

自社の製品に代わる新しい製品が出現する可能性が高い場合は、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

④ 買い手の交渉力

顧客が競合の製品を購入しやすい場合は買い手の交渉力が強いといえ、利益を上げるための価格で製品を販売しにくくなることから自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

⑤ 売り手の交渉力

自社の事業に必要な原材料などが特殊で、仕入先(売り手)が自社よりも優位な立場にある場合は売り手の交渉力が強いといえ、仕入の価格が高くなりがちになることから、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

 

次回の予告

次回は、今回の続編として内部環境分析の具体的な内容と外部環境分析・内部環境分析に基づくSWOT分析と事業に関する評価について説明します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

中小M&Aにおける「利用者保護」とは

1前文 専門機関の登録開始について

2021年8月2日、経済産業省より「M&A支援機関に係る登録制度の創設について」が公表されました。この登録制度は2021年4月28日に中小M&Aを推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組を取りまとめた「中小M&A推進計画」に基づいて、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために創設されたものです。

今回は、M&A支援機関が遵守すべき事項として「M&A支援機関登録制度公募要領」(2021年8月24日中小企業庁公表/以下、「公募要領」という。)の中に示された「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目に着目し、M&A支援機関が遵守すべき事項について、解説したいと思います。

 

1.中小M&Aにおける「利用者保護」

今般の「M&A支援機関登録制度」創設のポイントは、M&A支援機関に対する規制という以上に、「中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤構築」のための措置といった性格が強いものです。つまり、利用者保護を徹底しM&A支援機関に対する信頼感を醸成することによって中小企業のM&A活用を推進しようということです。

事業承継をはじめとして中小企業におけるM&Aニーズは高いにも関わらず、中小企業がM&Aの活用を躊躇する原因の1つは、適切なM&A支援機関の判別が困難なことにあるといわれています。

こうした背景から、中小企業のM&Aに対する不信感を払拭するために「中小M&Aガイドライン」(2020年2月中小企業庁策定/以下、「ガイドライン」)では、M&A支援機関に対する行動指針やM&A支援機関に関して問題となり得る主な事項などが提示されました。具体的には、①売手と買手双方の1者による仲介は「利益相反」となり得ることや不利益情報(両者から手数料を徴収している等)の開示の徹底等によりリスクを最小化する措置を講じること、②他のM&A支援機関へのセカンド・オピニオンを求めることを許容すること、③契約期間終了後も手数料を取得する契約内容(テール条項)を限定的な運用とするといった事項です。

実は、これらの中で示されたエッセンスが「公募要領」の「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目に示されています。

 

 

2.「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目

登録申請する際に、M&A支援機関は、M&Aの仲介やFAを行う際に次のような項目を遵守することが求められています(「公募要領」より要約)。

これらはM&A支援機関にとっての遵守すべき事項であると同時に、利用者側にとってみれば、M&A支援機関の信頼性を検証するチェックポイントにもなります。

 

【仲介契約・FA契約の締結】

(1)締結する仲介契約・FA契約が業務形態の実態に合致していること

(2)仲介契約・FA契約締結前の重要事項の説明および利用者の納得を得ること

 

【最終契約の締結】

(3)最終契約の締結時に利用者に契約内容に漏れがないよう利用者に対して再度の確認を促すこと

 

【クロージング】

(4)クロージングに向けた具体的な段取り、および、当日には譲渡対価が入金されたことの確認

 

【専任条項(並行して他のM&A専門業者への依頼を行うことを禁止する条項)】

(5)利用者が他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることの許容

(6)専任条項を設ける場合、契約期間を最長6か月~1年以内を目安とすること

(7)利用者の仲介契約・FA契約に係る中途解約権の規定

 

【テール条項(契約期間終了後もM&A支援機関が手数料を取得できる権利規定)】

(8)テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とすること

(9)テール条項の対象を当該M&A専門業者が関与・接触し、売手に紹介した買手のみに限定すること

 

【仲介業務を行う場合の特則】

(10)仲介契約締結前に、仲介者であるということを売手・買手両当事者に伝えること

(11)利益相反懸念があることの事前説明

(12)仲介者が確定的なバリュエーションを実施しないこと

(13)仲介者が参考資料として自ら簡易評価した場合、確定的な評価でないことを説明すること

(14)DDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定しないこと

※(10)~(14)の共通事項として必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう促すこと

 

【その他】

(15)M&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を併せて示す」こと

 

3.M&A支援機関登録制度の発足後について

 

今般、「公募要領」にもとづき申請したM&A支援機関については、9月下旬ごろに中小企業庁のHPで登録仲介・FA業者のリストが公表される予定となっています。

一方、9月6日までに申請したM&A支援機関については、中間結果が9月13日に公表されており、次のような内訳になっています。

 

登録件数:493件(うち法人405件、個人事業主88件)

<M&A支援機関の種類別(上位5種)>

①M&A専門業者(仲介)154件

②M&A専門業者(FA)117件

③税理士61件

④公認会計士43件

⑤地方銀行26件

 

中小企業庁は、登録支援機関について「M&A支援に係る品質を保証するものではない」としている一方、登録支援機関の中小M&A支援費用が事業承継引継ぎ補助金(専門家活用型)の補助対象となることが予定されているほか、登録支援機関が取組む中小M&A支援に関する苦情等については、中小企業庁から委託を受けた「情報提供受付窓口」において受け付け、その情報を端緒として登録の取消しを行うなどのケースも想定しているようです。

こうした施策が一体として推進されることで、M&A支援機関に対する信頼感の醸成が図られていくことになるのです。

 

<まとめ>

2021年はM&A支援機関にとってまさに「事業承継制度改革元年」ともいうべき大きな変革の年といえそうです。

中小企業庁は、M&A支援機関の登録制度のスタートと並行して、9月1日に「事業承継ガイドライン改訂検討会」を設置し、さらに、その下に「中小PMI(Post Merger Integrationの略称。)ガイドライン(仮称)策定小委員会」を設置することを公表しました。

 

中小企業の事業承継支援に資する施策を適時適切に活用できるよう、今後も法令・制度の動向をタイムリーにお届けしていきたいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

ご存じですか?!国がスモールM&Aを検討段階から補助金で支援してくれます。その1

諸外国と比べて遅れる企業の新陳代謝

中小企業白書によりますと、日本の開業廃業率は、2000年代に入り緩やかな上昇傾向で推移してきましたが、足元では再び低下傾向となっています。直近データ(2019年度)によりますと、開業率が4.2%、廃業率が3.4%となっており諸外国と比べて相当低い値となっています。二つの数値ともにコロナ禍の先行きがある程度見通せ、対策予算が止まった段階で廃業率が上昇すると考えられています。

 

廃業費用への支援もあり、売り手と買い手のwin-winを実現

国は、我が国の大切な経営資源が消滅してしまわないよう全力で支援する方針です。その代表的な施策が、本記事で紹介する「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)」です。本補助金には、【Ⅰ型】買い手支援型、【Ⅱ型】売り手交代型の2種類があり、これまでの常識では、考えられなかった経費まで補助の対象として認められるようになっています。また、買い手側だけではなく、売り手側の廃業費用といったそもそも投資ではないものにまで補助事業として認められているところに、国の本気度が感じられます。

 

ツナグ:買い手と売り手のどちら側になっても支援が受けられるんだね。といっても誰でも受

けられるわけじゃないみたいだ。僕のアイデアは対象になるのかな?

 

そうですね。スモールM&Aならなんでもよいというわけではありません。

【Ⅰ型】買い手支援型の条件としては・・・

「事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること。事業再編・事業統合等に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。」と概要欄に書かれています。つまり、単なる不動産や財産の売買ではなく、事業承継によって経営資源を譲り受けることで既存事業とのシナジーがあり、相当程度の成長が見込め、地域雇用や地域経済の発展に寄与することが求められています。

【Ⅱ型】売り手支援型の条件としては・・・

「事業再編・事業統合等に伴い自社が有する経営資源を譲り渡す予定の中小企業者等であり、以下の要件をみたすこと。地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。」と概要欄に書かれています。つまり、開店休業状態の事業の譲り渡しは対象外となっていると理解できそうです。国として次世代に引き継ぐべき経営資源に限定した支援策ということでしょう。

 

M&Aマッチングシステムの利用料から補助してもらえる!

ツナグ:なるほど、このあたりは、計画書作成の時のポイントになりそうだな。ところで、肝心の補助してもらえる経費はどうなってるんだろう?

 

補助対象経費には、買い手・売り手の共通経費としては、専門家への謝金や旅費、外注費、委託費などの外部支援に加えて、バトンズなどの事業承継支援システムの利用料まで含まれています。つまり、情報収集から相手先との交渉やDDまで含めて支援を受けられる可能性があるということです。

また、売り手側には、これらに加え、廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費などもカバーされています。これまでなら、手元のキャッシュがないために廃業や譲渡ができなかった事業者に対しても実態に沿った手厚い支援が用意されていると言えるでしょう。

いずれも、補助金額は、50万円~400万円となっており、補助対象経費の3分の2となっています。加えて、売り手側には、追加で200万円の上乗せが認められています。これが、在庫処分や物件解約に伴う原状回復費用など廃業費用となります。ただし、この廃業費用への上乗せ補助は、補助事業期間内に事業承継が終わらなかった場合は、補助対象外となりますので、注意が必要です。

 

専門家ってどこにいる!?

ツナグ:専門家への相談費用も補助されるんだ?!どころで専門家って誰?M&Aアドバイザーさん?ぼくは一体どこへ相談に行けばいいんだろ?

 

M&Aを専門に活動されている専門家は、たくさんいますので、ネット検索で見つけることもできますし、商工会議所やよろず支援拠点などに相談することもできます。ただし、探し始めるとたくさんの専門家がいたり、専門家とのトラブルの情報に触れたりして不安になることもあると思います。そんなツナグさんのような方向けの施策として、国は、今秋にM&A専門家の登録制度と支援に関する相談窓口を新設することにしています。ここで紹介している補助金も、次回の募集からは、この新しい制度に登録している専門家への相談にしか補助が出ませんので特に注意が必要です。専門家へ相談する際は、かならずこの新しい制度に登録しているかどうかを事前確認してください。

 

採択率は、他の補助金と比較して高め!?

ツナグ:つまり、M&A関連事業費としては75万円~600万円(廃業費用の上乗せとして300万円)が上限金額というわけか…。タイミングさえ合えばぜひ活用してみたい補助金だね。でもこんな手厚い補助金だと採択率が低くて、狭き門になっているんじゃないのかな?

 

2020年度とは、制度が若干変更になっていますので一概に比較はできませんが、採択率は、以下の通りでした。

事業承継補助金の採択率(2020年)

・Ⅰ型 後継者承継支援型:77%(申請455件、採択350件)

・Ⅱ型 事業再編・事業統合支援型:61%(申請194件、採択118件)

 

経営資源引継ぎ補助金の採択率(2020年)

・1次採択結果:79%(申請1,373件、採択1,089件)

・2次採択結果:80%(申請690件、採択550件)

 

すぐにできることは3つ!

ツナグ:ほかの補助金と比べても採択率が高い印象だね。それだけ国も力を入れているってことかな。さっそく僕も取り掛かりたいけど・・いったい何から手を付ければいいんだろ。

 

売り手側、買い手側、どちらもまずはじめにやっていただきたいことは3つあります。

1つは、電子申請が必須となっていますので、gBizIDプライムの取得です。ほかの補助金もどんどん電子申請に一本化される傾向にありますし、これを機会に取得だけでも先に進めておいてください。ただし、取得まで2~3週間程度かかる時期もありますのでご注意ください。

次に、M&A支援サイトへの登録や専門家などへの相談を活用した情報収集をスタートさせることです。近年、M&A市場は、どんどん拡大し、活性化していますが、マイカーやマイホームと比較しても流動的でクローズドな一面もある市場です。まずは、情報収集から始めてください。

最後に、公募要領の熟読です。自社の取り組みが補助金の交付ルールに合致しているのかどうか、どのような手順で進めなければならないのか?など確認をしながら進めてください。

 

ツナグ:なるほど、昨年よりもパワーアップしたようだし、なんとかうまく活用して僕のビジネスをスケールさせる絶好のチャンスにするぞー!!

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

【僕たちのM&A】 そのM&Aちょっと待って!買い手が思考すべきこと

はじめに

大阪府堺市でみなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。

スモールM&Aに関しての情報収集をしていると、数字中心の情報や“事業にかける想い”などすごく抽象化された短い言葉ばかりで、現状分析があまり書かれていません。売り手側は、隠すつもりはなくても難しい話(当事者でないと理解しづらい話)や業界の人だと当たり前すぎる話は積極的にはしてくれません。すべての情報に意味があり、引き継ぎ後の経営上、必要がある情報なのですが・・・。

精魂込めて作り上げた仕事を人事異動で後任に引継ぎするあの感覚です。後任と人間関係ができていたり、波長(M&Aの場面では経営理念が近いかもしれません)が合っていたりすれば、お互い大切にしているポイントが似ていてスムーズな引継ぎができますが、どちらか一つでも欠けていたらどうでしょう。気持ちの良い引継ぎは難しいのではないでしょうか。

 

投資家の視点と経営者の視点

今回、ツナグは、ショッピングセンターにテナントで入っているジューススタンドのオーナーとの面談に臨みましたが・・・。
オーナー「ツナグさん、初めまして。今日はよろしくお願いします。早速ですが、ツナグさんはなぜ当社に声をかけてくださったんですか?また、この小さなジューススタンドをどのように運営していかれるおつもりですか?」
ツナグ:「・・・」

ごあいさつもそこそこに、突然、核心に迫る質問をされて、ツナグはたじろいでしまいました。こんなことが起きないようにしっかり準備して臨みましょう。

個人によるスモールM&Aでは、事業をお金で買うということにとどまらず、誰かが生み育てた事業にお金とあなたという経営資源を投入し、大きく育てることとも言えます。
つまり、自分の持っているあらゆるリソースを投入する投資案件ですから、投資家だけではなく経営者の視点で事業全体を見渡すことも大切です。つまり、最初に確認すべきは、経営理念なのです。

ツナグ:「私は、これまで○〇や△△ということをしてきましたが、そこには、××という問題があると常々考えています。その解決には、私がこれまで培った〇△というスキルを活かして御社の事業の運営を・・・」

同じ価値観の経営者とうまく出会えることが、もっとも安全安心なM&Aを進めるコツと言えます。なぜなら、同じような価値観の経営者であれば、ビジネスモデルを構築する場面において、何を重視するかの判断軸が近くなり、結果として自分が目指すビジネスに近いモデルになっている可能性が高いからです。。

 

現場責任者の視点

もう1つの視点は、現場責任者の視点です。

いくら考え方が共有できたことによって重大なリスクがないとしてもクロージングが終わった瞬間から事業運営のすべての責任は、あなたにかかってきます。腕の良い番頭さん(事業責任者)がいらっしゃればよいのですが、小さな案件になればなるほど、社長が陣頭指揮をとっている可能性が高くなります。指揮者が突然交代してもオーケストラの演奏が止まらないための工夫が必要です。

具体的なお話を、経営資源の視点で見ると・・。

① 売上を左右する要素は何か?明日、来月の売上確保は見えているか?
例えば、立地や天候など外部環境に売上の大半が左右される事業であれば、中長期的な視点で見ると不安要素としても捉えられますが、M&A後の短期的視点でみると安心材料となります。

② 顧客の分析はできているか?ポイントカードや会員制度があるか?
中長期的な視点から自力でいくらの売上を作れるのか?もし、顧客接点確保の仕組みがなければ、追加的な投資が必要になると見込んでおく必要があります。

③ コストが正確に計上されているか?
例えば、本来その事業の経費であるものが、別事業に計上されていたり、逆に他の事業のものを負担していたりすることがないか。同じように業務内容や担当者がきちんと切り分けられているか?過去の決算書から異常値があれば、その内容については必ず確認しておきましょう。

④ 資金繰り計画があるか?
ジューススタンドの場合は、問題なさそうですが、季節ごとに大きな仕入れが発生するようなビジネスや従業員のボーナスなど、年に数回の大きな資金需要がすぐに控えていないかは確認しましょう。大切な引継ぎ期間に必要な運転資金の確保のために時間を奪われたり、投資回収計画に狂いがでたりすることにつながります。

⑤ 在庫や設備などの資産は、時価とどれくらい離れた金額で計上されているか?
M&A代金をどのような方法で設定するにしても、対価の一部として引き受けるわけですから、当然、どこに所在して、ボリュームや状態はどうなっているのか?一つ一つ確認するのが普通ではないでしょうか?今回のようにショッピングセンター内にあるテナントですと、大家に預けいている敷金やFC事業ですと本部へ預けている保証金などもしっかり確認しておきましょう。

⑥ お金以外のところで言うと、取引先との契約関係も非常に重要な資産と言えます。
事業譲渡によるFC加盟店の権利移動を認めていないFC本部がほとんどです。大家も同様です。どちらも取引相手としての適性を審査した上でないと契約をしないことがほとんどです。このようにお金で解決できない取引関係があると、そこで商談が頓挫してしまいますので、事前の調査が重要です。

 

まとめ

売り手側には往々にして支援者がいます。一方でサラリーマンM&AのようなスモールM&Aでは、必要に応じて専門家を探す場合がほとんどです。今回見てきたようなチェックポイントや最終譲渡契約書の内容が一方的に不利になっていないかなど買い手側も独自で専門家にお金を支払ってでも確認すべきです。弁護士や中小企業診断士、会計士などのうちM&A実務経験のある専門家を探すようにしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

M&A後も円滑な資金調達を続けるには ~金融機関や投資家の目線で対策を講じよう(その2)

前回は、M&Aにおける「お金」の関係で留意すべき点として、金融機関と取引がある中小企業のケースについてご説明しました。今回は、スタートアップ企業のように株式発行等による資金調達(エクイティファイナンス)を行っていて、金融機関との与信取引がない企業のケースについて解説したいと思います。

 

スタートアップのM&Aの場合

(1)スタートアップのM&Aで留意すべきポイント

金融機関から借入金のある企業がM&Aで買収の対象になる場合、M&Aが引き金となって返済期限を待たずに金融機関に借入金を返済しなければならなくなることがあることを前回のコラムでお話しました。

一方、スタートアップは、主にベンチャーキャピタル(以下、「VC」)やエンジェル投資家から第三者割当増資により資金調達しており、借入金がない企業も少なからず存在します。

しかし、「無借金なのだからM&Aをする際に、金融機関との契約に規定されている『期限の利益喪失条項』のようなCOC条項は存在せず、問題は発生しないだろうと判断してはいけません。

 

(2)投資家との契約におけるCOC条項

スタートアップは、創業間もない段階ではエンジェル投資家、創業後はVCなどの投資家から増資により資金調達します。借入金ではないため返済不要の資金ですが、これらの投資家との間で出資を受ける際に「創業者株主間契約」や「株主間契約」など(以下、「投資契約」)を締結しています。

経営者は本業に忙しく、管理部門が未整備な段階では「投資契約」の内容について十分理解されずに契約が締結されてしまう場合も少なくありません。しかし、「投資契約」には、M&Aに影響を及ぼす重要な条項がいくつか規定されています。その中でも特に「事前承認条項」「買取請求条項」「Drag-Along条項」「みなし清算条項」の4つの条項は非常に重要な条項です。

なお、「投資契約」は様々な様式があるため、ここでは経産省が日本ベンチャーキャピタル協会などに委託して作成した「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(以下、「留意事項」)をベースに解説します。

 

①事前承認条項

事前承認条項とは、売手企業がM&Aを行う際には、売手企業の経営者は、所定の事項について、多数の株式を保有するVCなどから事前に承認を得ることが必要となる条項をいいます。

「留意事項」では、投資契約において承認を得ることが必要な事項として、「発行会社の株式等の譲渡等に対する承認」「合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡又は事業譲受」をする場合、「発行会社(=売手企業)及び創業株主(=株主である経営者)は、投資家から事前に承認を得ること」などが例示されています。事前承認を要する事項について承認なく行った場合は、契約違反となります。

 

②買取請求条項

買取請求条項とは、重大な契約違反(①の事前承認違反も含む)があった場合、投資家は売手企業や株主である経営者に対して、保有する株式を時価で買い取るよう請求することができる旨の条項を言います。

買い取る際の株式の価額は時価となるため、出資を受けた金額と同額とは限りません。この点で、株式の買い取りは、借入金の返済とは異なるものの、売手企業や経営者に資金負担が生じるという点では見逃せないポイントです。

 

③Drag-Along条項

Drag-Along条項とは、多数の投資家の賛成等、契約上任意に設定された一定要件を満たした場合、売手企業、株主である経営者、契約当事者である全ての株主に対してM&Aに応じて保有株式の売却に応じるよう請求することができる旨の条項です。(Drag-Alongとは強制売却権や同時売却請求権のことを意味します。)

この条項は、投資家に対して株式売却の機会を設ける趣旨のものです。この条項により経営者の意に反して第三者に事業譲渡をせざるを得ないこともあるため、通常はM&Aする際の売却代金に下限金額を設定したり、「株式保有期間が5年以上経過した後」など行使期間を制限したりすることが多いようです。

 

④みなし清算条項

みなし清算条項とは、M&Aが行われた場合の売却代金の分配方法もこの定款規定に準じて優先株主に優先的に分配することを契約上に規定する条項です。この条項は、売手企業が優先株式を発行していて定款に会社を清算した際には優先株主に残余財産の優先的に分配する規定がなされていることを前提としています。

売却代金が売手企業の払込資本合計(通常は、資本金と資本剰余金の合計額)を下回る場合には、優先株主(通常はVCなどの外部投資家)が優先して売却代金を受領するため、普通株主(譲渡代金の分配を受ける権利面では劣後株主)である経営者は自分で出資した金額を回収できないことになるので、経営者はあらかじめ損益分岐となる株価をよく理解した上で交渉に臨む必要があります。

 

(3)投資契約で失敗しないための留意点

金融機関による融資と投資家による出資とは、会社が資金調達するという点では一見同じような行為にも思えます。しかし、資金の出し手の視点みると融資は元本を回収することを前提として金利収入を得ることが目的ですが、投資は資金の出し手の立場によってさまざまな目的があります。

こうした、投資目的に応じて投資家とコミュニケーションすることが「投資契約」による制約を受けずにM&Aを成功させるポイントになります。

では、投資家にはどのような目的があるのでしょうか。目的に応じて対応することこそが留意点となります。

 

①VCなどのキャピタルゲインを目的とした投資家の場合

VCは自分自身の株主や、VCが運営するファンドの投資家の利益になるように行動します。したがって、会社が将来IPO(株式公開)したり、M&Aしたりすることによって保有する株式をVCが出資した時よりも高い株価で売却できるかどうかがポイントになります。ですから、買手企業との株価交渉においてVCなどの株主の保有簿価以上の株価で株式譲渡が見込めるようなM&Aの提案については、まず、承認されないことはありません。

もちろん、第三者からさらに高い株価での買取オファーがあればVCは当該第三者への譲渡を勧め、会社のM&Aの提案を承認しないこともあります。しかし、その場合には、経営者である株主もキャピタルゲインを得るという点でVCと利害が一致するため、交渉の余地は十分にあると思われます。

最も交渉が難航するのは、会社の業績が低迷し、VCが投資した時点より低い株価で株式譲渡することが見込まれるM&Aの場合です。VCはキャピタルロスが発生するためM&Aの提案を受けにくい立場にあります。しかし、そのままだと業績がさらに悪化して株価が二束三文になってしまうことが想定される場合には“損切り”のためにM&Aの提案に応じる方が合理的と判断されることもあるのです。

つまり、VCが投資家の場合には、VC自身の株主や、VCが運営するファンドの投資家に対して合理的な説明ができる売却条件であるか否かに留意することが必要になります。

 

②大企業や投資子会社コーポレートベンチャーキャピタル(以下「CVC」)などの事業シナジーの発揮を目的とした投資家

大企業やCVCが投資するのは、主に自社の新製品・新サービス開発力などを資本提携により強化することを目的としていることが多いようです。特に近年はプロダクトライフサイクルの短期化に対応するため大企業のオープンイノベーション化の動きが活発化しています。

投資家である大企業やCVCがM&Aに反対するのは、自社と競合する先に出資先の経営権が移転することです。もちろん、VCと同様に売却損が発生するような株式譲渡には賛成しませんが、譲渡損益と同等以上に本業に与える影響を重視します。

大企業が投資家として株主にいる場合には、第三者への株式譲渡によるM&Aを検討する前に、既存の株主である大企業が株式を引受ける可能性がないか、まず、そこから検討を開始するのが正攻法です。

 

いずれの場合も、投資家の出資目的を把握し、M&Aにより投資家にどのような影響が及ぶのか理解することによって、「投資契約」に基づく投資家の権利行使を回避することが可能になります。

 

まとめ

「借入契約」も「投資契約」もM&Aによる経営者交代に対してCOC条項で一定の歯止めをかけていますが、取引金融機関(債権者)や投資家(株主)の権利が脅かされない限り安易に行使されるものではありません。

取引金融機関や投資家など「お金」に関係するステークホルダーの視点に立って対応することで、「お金」をかけずに円滑にM&Aを進めることができます。

契約書の条文をひも解くのと並行して、ステークホルダーとの関係性をひも解くことが重要です。こうした観点で専門家のノウハウを活用するのは売手企業・買手企業にとって賢い選択かもしれません。

 

中小企業診断士 伊藤一彦

 

(注)関連コラム

「M&A後も円滑な資金調達を続けるには ~金融機関や投資家の目線で対策を講じよう」(中小企業診断士 伊藤一彦 著)

「法務DDでの必須ポイント!③(カネ・情報編)」(弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 著)

交渉過程で、買い手がうっかり忘れてまうこと

みなさま、こんにちは、新型コロナウイルス感染症もワクチン接種が始まりましたが、我々が接種してもらえるのはずいぶん先になりそうです。我々ビジネスパーソンは、外部環境の変化に抵抗しても何も得るものはありません。変化を味方につけて社会に価値を生み出してまいりましょう。あなたのちょっとした変化を応援しています、山本哲也です。

 

いつものように、M&Aで社長を目指す“若手ビジネスパーソン”ツナグの独り言からお聞きください。

 

ツナグ:「M&Aの仕組みを利用して新しいビジネスを始めたい」と思い立ったものの売り手のどん

なところを見ればよいんだろう・・・?

 

今日は、かなり大きなテーマになってしまいそうですので、基本的なところを考えるヒントになればと思っています。

 

どのような業種がよいのか

もちろん、業界のことを理解できているような身近な業種業態や、自分の経験が活かせる業界、地縁血縁を持っている業界などが第一候補となると思います。しかし、ツナグのように若いビジネスパーソンで新しい世界にチャレンジしたい方や未経験でもIT業界に関心の高い方もおられると思います。

一般論にはなってしまいますが、リスクの少ない業界やリスクの少ないポジションの企業があるのも事実です。例えば・・

“固定客があり、毎月一定の売上が見通せるストック型のビジネス”

当たり前ですが、この不確実性の高い社会では、ある日突然ビジネスモデルが通用しなくなることが発生してもおかしくはありません。今回のコロナ禍においても大きなダメージを受けた業種業態がありました。感染拡大初期段階では、スポーツクラブやカラオケ。その後、緊急事態宣言の発令を受けて、飲食店や観光業へと波及し、人の行動パターンや意思決定ロジックといった生活様式が変化したことで、美容関連やアパレルにまでその影響は拡がりました。

万一、このような大きな環境変化が発生しても、会員のような固定客があれば、その環境変化に合わせて顧客からの要望を受けて、業種業態の変更、提供価値の変更は不可能ではありません。

 

“規模のメリットが働く業種や小商圏の規模の小さな企業が集まっている業界”

これは、地元密着のスモールビジネスがこれに当てはまります。つまり、すでに行っているビジネスで同業他社を取り込んだり、顧客だけを譲り受けたりするイメージです。規模の拡大により増加する固定費が小さく、限界利益の増加分をそのまま営業利益として取り入れることができるケースです。

 

社内体制の特徴からみると・・・

“ワンマン社長ではなく、権限移譲が進んでおり組織で会社が回っていること”

ワンマン社長を避けたい理由は、2つあります。まず、成功ノウハウを社長だけが理解しており、暗黙知になっており、うまく引き継げないことが考えられます。また、社長がトップ営業マンとして長年活動しており顧客とつながっているため、社長の退職と同時に顧客が離れてしまうリスクが考えられます。最後に従業員がM&Aを機会に退職してしまうことも考えられます。

 

財務面で見ると・・・

“売上利益が安定しており、わずかでも黒字になっていること”
当たり前の話ですが、M&Aによりあらゆる面で不確実性が増します。買収で資金的な余裕も失われた状態で、毎月のようにキャッシュアウトしていくような企業は、避けたいですね。財務面だけでなく精神面も相当タフでなくては、事業を好転させることは難しくなるでしょう。まずは、自分の役員報酬を確保した上で少しの黒字がでるくらいで十分ですが、実質黒字にはこだわりたいところです。

また、“借入金が年商の30%以下程度であること”赤字でも会社は倒産しませんが、資金返済が滞れば突然倒産ということは十分にあり得ます。もちろん借入金は少なければ、安心感はありますが、一方で金融機関からの信用というものも大切な経営資源です。借入金があっても、短期的な運転資金や返済のめどがたっているものであれば、かえってあったほうがよいと考えるべきです。

 

交渉の過程では・・・

“売り手側が質問に対して誠実かつ迅速に対応してくれること”や“交渉を急がせてこないこと”などビジネスパートナーとして信用できるかどうかも大きな取引だけに重視したいポイントです。後で後悔することのないよう、落ち着いて判断したいところです。

 

いかがでしたでしょうか。

今回も、いつも以上に当たり前のことばかりをお伝えしました。しかし、案件が進んでくるとどうしても「せっかくここまで進めのだから・・」「相手も乗り気だし・・」などという心理が働きます。交渉が進むごとに当初描いていたゴールイメージとの乖離を確認しつつ、商談を進めるようにしてください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

中小企業診断士 山本哲也

債務超過の企業がM&Aを行う際の注意点

債務超過の企業は「売れない」企業ではない

離婚の際の財産分与では,オーバーローン状態の土地建物は,無価値として扱われます。このことと同様に,債務超過(ここでいう債務超過とは,貸借対照表の簿価上の債務超過ではなく,資産・負債の時価評価を踏まえた実態貸借対照表上の債務超過をいうとご理解ください。)の企業は,価値がないということになり,M&Aの売り手となることはできないのでしょうか。

結論から言えば,債務超過企業であってもM&Aを実行できる可能性はあります。ただし,債務超過企業がM&Aを行うためにはさまざまな工夫が必要となります。本稿では,債務超過企業がM&Aを行う際の注意点についてご説明いたします。

 

M&Aが整うまでの資金繰りを確保する

まず,債務超過企業がM&Aを行うために検討すべきことは,M&Aが実行するまでの間,資金繰りが確保できるかどうかということです。債務超過企業でなくとも,売り手としてM&Aを行う場合,買い手が見つかり,かつ基本合意から最終契約までに至るプロセスには相当の時間を要します。このため,資金繰りに余裕がないことが多い債務超過企業においては,そもそもM&Aを完了できるまでの期間資金が持ちこたえられるのかどうかを検討する必要があるのです。

 

M&Aのための債務整理―まずは私的整理

債務超過企業がM&Aを行う際に検討しなければならないのは債務整理です。このことにより,少しでも債務の弁済に余裕がある状態になれば,買い手が見つかりやすくなるからです。

債務整理というと破産や民事再生といった法的整理が思い浮かぶ方も多いかもしれません。しかし,まず考えるべきは裁判所の関与のもとで行う法的整理ではなく,私的整理となります。なぜならば,私的整理は,法的整理とは異なり,官報等により公表されることがないので,事業に関する信用の毀損を回避しやすいからです。

 

私的整理はどのように進められるのか

私的整理は,債務者と債権者とが話し合いで債務を整理する方法ですので,特にそのやり方が法律に定められているわけではありません。一般的には,メインバンクが中心となって債権者委員会を設置し,弁護士や公認会計士が委員長となって手続を進めていくこととなります。

具体的な私的整理の手続きとしては,現在の経営者の退任などの経営責任,従業員のリストラ,不要資産の売却などを行うことで企業の経営の改善を図っていきます。このことと併せて,債務の弁済の猶予(リスケ),一部免除(債権放棄),DDS,DES等といった債務の整理を行うことを盛り込んだ再建計画を策定し,債権者の了解を得ていくということになります。

私的整理は,その内容が公表されないこと,法的整理に比べ柔軟かつ迅速に手続が行われるというメリットがあります。他方,私的整理は,一般に金融債権のみが対象となり取引債権が対象外となることが多いこと,すべての債権者の合意が得られなければ再建計画が成立しないことといったデメリットがあります。

 

債権放棄の際の債務免除益に注意

私的整理において,債権者である金融機関に債権放棄をしてもらうためには,現経営者が退任したり,私財を提供したりするなど,厳しい条件が課せられることが通例です。

さらに,仮に金融機関から債権放棄が得られたとしても,注意することがあります。それは,債務免除益を相殺するに足りる欠損金がなく,債権放棄による債務免除益が生じてしまい,これに課税されるおそれがあるということです。

 

事業譲渡の際の注意点

債務超過企業が売り手となってM&Aをしようとする際に,収益性が低い事業を事業譲渡することを検討することがあります。収益性が低い事業を処分することで経営のスリム化を図り,買い手にとって魅力的な企業となることができるからです。

事業譲渡を行う際には注意をしなければならないことがあります。それは,事業譲渡の際の対価が適正なものでなければ,当該事業譲渡が不当な財産流出であるとして,債権者が事業譲渡について詐害行為取消権(民法第424条)を行使し,当該事業譲渡の効力を否定してしまうことです。

ここでいう「適正な対価」とは,少なくとも清算価値を相当程度超えるものである必要があります。清算価値とは,仮に現時点で企業が破産したと仮定した場合の企業価値のことをいいます。要するに,債権者が『破産した場合にもらえる金額よりは多いな』と思うくらいの価格でなければ,債権者に事業譲渡を否定されてしまうリスクがあるということです。

なお,詐害行為取消権は,債権者が債務者に対して有する債権を保全するために行使するものです。したがって,金融機関などの大口債権者は特に詐害行為取消権を行使するおそれが高いので,事前に事業譲渡について説明を行い,了解を得ておくとよいでしょう。

 

必須となる専門家との連携

これまで,債務超過企業がM&Aを行う際の注意点についてご説明をしてきました。これらの注意点はいずれも極めて専門性の高いものです,中小企業診断士,弁護士,公認会計士,税理士などの専門家と連携しながら進めていく必要があります。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久