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法務DDでの必須ポイント!②(ヒト・モノ編)

法務DDにおける経営資源別のチェックポイント

先日,契約に関する法務DDで確認すべき点についてコラムを書かせていただきました。今回は,いわゆる経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の観点から法務DDの際に注意すべき点についてお伝えしたいと思います。(なお,以下に述べる点以外にも注意すべき点は多数存在しますので,ご了解ください)

 

「ヒト」に関する法務DD①:未払いの賃金債務など

売り手の従業員など「ヒト」に関する法務においては,まず,未払の賃金債務がないかが重要なポイントになります。

未払の賃金債務とは,本来支払われるべき残業代が支払われていないことが典型的事例です。意外と思われるかもしれませんが,法的には支払われるべき残業代が支払われていないことは,,一般の企業でもままあります。例えば,法的には管理監督者(労働基準法第41条第2号)にあたらないのにこれにあたるとして,残業代を一切支払っていないケースや,支払っていても,残業時間にかかわらず固定額であるため不当に安い額しか払っていないケースが想定されます。個々の従業員の未払いの残業代が少額であっても,適切に支払われていない従業員が多数に上る場合は,買い手にとって,簿外債務という形で大きなリスクとなります。

未払い残業代を把握するためには,まずタイムカード等から労働時間を確認することが必要になります。中小企業では,十分な労働時間の管理が行われていないこともしばしばあります。そのような場合,パソコンのログや個々の従業員への聞き取りにより労働時間を把握することになるのですが,あまりに厳格に調査をすると,売り手との関係が悪化するおそれれもあるため,どこまで調査するかは悩ましい問題です。労働時間を把握する期間は3か月を一応のめどとしますが,季節により繁閑があるような業種であれば,期間を長くします。

次に就業規則や賃金規程等を確認し,何が残業代の算定の基礎となっているのかについて把握します。その後,本来支払われるべき残業代の額を計算していきます。なお,これまでは,未払残業代の消滅時効は2年でしたが,法改正があったため,令和2年4月1日以降に生じた残業代については,3年となりますので注意が必要です。

なお,アルバイトやパートの多い中小企業では,実労働時間をもとに計算した時給が最低賃金を下回っていないかどうかも注意しておく必要があります。

このほか,賃金債務ではないですが,社会保険料を滞納していないかどうかも必ず確認しておく必要があります。

仮に,未払いの債務が明らかになった場合は,売り手に対し,当該従業員と交渉し,解決させることを求めたり,未払賃金債務の額を譲渡価格に反映させたりするなどの方法が考えられます。また,未払いの賃金債務が確認できなかった場合でも,表明保証条項を入れておく方が無難でしょう。

 

ヒトに関する法務DD②:コンプライアンス

コンプライアンスも,ヒトに関する法務DDで重要な事項となります。

36協定の作成・届出がない。適切な休憩時間を付与していない。変形労働時間制を採用しているのに必要な手続を行っていない。など,労働時間に関する基本的な規律違反がないかといった点や,期間の定めのある従業員についての更新・無期転換の可能性があるかといった点は必ず確認しておく必要があります。また,業務委託先となっている者が偽装請負になっていないかどうかも気になるところです。これらは就業規則や契約書だけではなく,少なくとも人事担当者からの聞き取りをすることで確認をしていきます。

加えて,労働組合(合同労組含む)との間で紛争となっている事案はないか,労働基準監督署から指摘を受けたことがないかといった点も確認しておくとよいでしょう。

 

モノに関する法務DD①:不動産

売り手は事業を営んでいる以上,多数の不動産や動産を保有しているのが通常です。これらの不動産や動産について法的なリスクがないかを把握するのがモノに関する法務DDです。

不動産について,まずは登記簿謄本,固定資産課税台帳,売買契約書等の書面を検討します。そして,当該不動産が売り手の単独所有なのか共有なのか。共有の場合は共有者との関係はどのようなものか。M&A実行の際に単独所有にする余地があるか。建物の場合は使用権原は何か。担保権の設定はないか。各種の法令上の制限はないかなどを確認していきます。書面による確認だけではなく,現地調査もする必要があります。土地の境界に争いはないか。近隣の住民との間でトラブルはないか。建物に重大な瑕疵はないかなどの書面だけでは発見が困難な法的リスクの発見につながるからです。

中小企業の場合,自社ビルを社長や社長が経営する関連会社に使用貸借している場合もあります。そのような場合は,M&Aに際しては,使用貸借を賃貸借に切り替えるなどの措置を講じる必要があります。

このほか,売り手が賃借をしている場合は,賃貸借契約の違反がないか,賃料の滞納などにより賃貸人とトラブルになっていないかなどを確認します。

 

モノに関する法務DD②:動産

動産については,数が多い一方,それぞれの価値が低廉な場合も多いのでどこまで法務DDを行うかは悩ましいところです。少なくともリースや賃借をしている動産についてはその権利関係を確認すること。自社の製品に譲渡担保等の設定(対抗要件の具備を含む)がないかなどは確認しておく必要があるでしょう。

 

次回の予告

本稿では,ヒトとモノに関する法務DDで注意すべき点についてご紹介いたしました。次回は,カネと情報に関する法務DDで注意すべき点についてご紹介しますのでご期待ください。

 

弁護士・中小企業診断士 武田宗久