デューデリジェンスを成功させるポイント その3
デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において最も重要な手続きの一つで、買い手にとっては案件の成否を決める要因となります。基本的に、M&Aのリスクは買い手が背負うことになりますので、DDの過程で買収対象企業のリスクを正確に把握することが必要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点についていつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。
DDスタート
ツナグ:社外の専門家と社内から関係部門の人たちの顔合わせも終わったし、あとは、報告会を待つのみだ!
そんな無責任なことでいいんですか?私たちは、M&Aの統括部門ですよね?であれば、DDの進捗管理や調査の抜けもれがないかなど、専門家チームと常に情報共有する必要があるのではないでしょうか?
ツナグ:なるほど・・・。確かに、責任部署として役員会で説明するときに困るのは、結局僕たちになるのか!?やばい!
僕も営業部門が長かったから、組織管理や営業数値の管理とか、気になるところもあるしな。でも他の領域は全然わからないや。どうしよう。
各領域別のチェックポイント
今回は、財務DDについて、どのような視点を持っておけばよいのかについて少しご説明しますね。
- 売上高:当たり前ですが、事業別、商品別、顧客別、月別等の売上推移を確認します。過去の傾向と違う動きをしているところに着眼し、その要因を数量要因と単価要因に分けて把握します。また、売上計上時期の操作や関係会社等との循環取引の有無など、特に年度末に注意してチェックしましょう。
- 売上原価・製造原価:原価率、在庫などの推移をみてイレギュラーが発生していないか?をチェックし、もし気になるような動きがあれば、その要因を調査します。また、仕入先の集中度合いや仕入価格の推移についても気になるところです。
- 販売管理費(人件費):事業特性上、大きな割合を占めている費用やその他経費や雑費など、支出目的が分かりづらいものなどを中心にチェックします。イレギュラー値については、業界平均値や過去決算との比較分析によって判断します。
また、営業外損益や特別損益についても、その発生原因の確認や、その内容が販管費に含めるべきものかどうかなども精査が必要です。つまり、その内容が、企業価値判断に含めるべきものかどうかの視点で確認しましょう。
- 売上債権(受取手形・売掛金):売上債権の増減と回転期間の推移などから、イレギュラーがないか確認します。もし、異常値を感知した場合は、その要因を調査します。また、相手先ごとの変化についても気になるところです。特に、債権の回収期間が長くなっている場合など、不良債権の有無や貸倒引当金の妥当性、与信管理の運用状況を確認することも重要です。
- 棚卸資産(製品・半製品・原材料含む)や固定資産:棚卸資産については、その評価方法が、自社基準と比較して妥当かどうかについて、自社の担当部門と協議する必要があります。その上で、実際に帳簿通りに存在するのか?長期間放置されて資産性ゼロのものがないかなどを確認します。これらを精査したうえで、資産価値を自社の基準で計算しておきます。
固定資産(有形・無形・投資有価証券など)についても同様に、まずは、台帳通りに存在するのか?また、その評価額の妥当性などを精査します。加えて、事業引継ぎ後、どれくらいの期間で追加の設備投資が必要なのかどうかについても併せて報告できるよう準備します。
- 仕入債務:買掛金と同様の調査を行うことに加えて、未計上の仕入れ債務がないかなども確認しておきます。
- 借入金:金融機関ごとの借入金額、残高、返済期限、金利、返済計画を確認しましょう。また、財務制限条項(コベナンツ)等の特別な契約条件が付されていないか?契約内容を確認しておきます。特に金融機関以外の借入先がある場合は、その借入が行われた背景、金利の妥当性や返済状況についても明らかにします。
- 退職給付引当金:従業員の退職給付債務に関わる簿外債務がないか?を確認しておきます。また、役員退職慰労金規程をもとに役員退職慰労金の引当不足額を確認しましょう。
- 未払税金・繰延税金資産:未払税金などは、その内容の妥当性の検証に加えて、税務上のリスクや追徴または還付の可能性について検討しておきます。また、繰越欠損金の利用可能性や繰延税金資産の回収可能性についても検討しましょう。特に、大きな金額が計上されている場合、資産性が認められないと純資産額が大きく減少することに繋がりますので、専門家も交えて慎重な検討が必要です。
まとめ
今回は、”デューデリジェンス”にあたって、全体を統括する担当者として、最低限知っておきたいポイントについて財務DDの観点からツナグと一緒に学びました。重要なことは、これまでの労力・コストとは、いったん切り離して考え、M&Aによるリスクやシナジー効果についてしっかり評価することです。決して、問題を先送りしたり、勝手に過小評価することのないよう、専門家チームとの緊密な連携をとって進めてまいりましょう。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。