「PMI補助金」という名前の補助金はありません
M&Aで会社を譲り受けたものの、統合作業にかかる費用が想定より重い——そんな相談をよく受けます。
その際に「PMI補助金は使えますか」と聞かれることがあるのですが、「PMI補助金」という名称の制度は存在しません。
正しくは、事業承継・M&A補助金(正式名称は中小企業生産性革命推進事業 事業承継・M&A補助金)に設けられた 「PMI推進枠」 です。
名称の話に思えるかもしれませんが、これは実務上けっこう重要です。
というのも、PMI推進枠には性格のまったく違う2つの類型があり、「PMI補助金」という一つの制度だと思ったまま調べ始めると、自社が使えない側の要件を読んでしまうからです。
この記事では、2つの類型の違い、対象になる経費とならない経費、そして申請前に必ず確認しておくべき要件を、中小企業診断士の視点で整理します。
なお、制度全体の枠組みについては事業承継・M&A補助金とは?4つの枠と使い方を中小企業診断士が解説にまとめています。
PMI推進枠には2つの類型がある
まず、ここを取り違えないことがすべての出発点です。
| PMI専門家活用類型 | 事業統合投資類型 | |
|---|---|---|
| 何に使うか | PMIを支援する専門家への費用 | 統合のための設備投資・システム導入など |
| 補助対象経費 | 謝金・旅費・委託費 | 設備費・外注費・委託費 |
| 補助率 | 1/2以内 | 2/3以内(小規模事業者等)または1/2以内 |
| 補助下限額 | 50万円 | 100万円 |
| 補助上限額 | 150万円 | 800万円(賃上げ要件を満たせば1,000万円) |
※上記は15次公募(2026年5月公表)の公募要領によるものです。金額・要件は公募回ごとに変わるため、申請時は必ず最新の公募要領をご確認ください。
ざっくり言えば、人に払うなら専門家活用類型、モノに払うなら事業統合投資類型です。
「PMI計画を専門家に作ってもらいたい」なら専門家活用類型。
「統合に合わせて基幹システムを入れ替えたい」「工場のラインを統合したい」なら事業統合投資類型になります。
専門家活用類型で言う「専門家」とは
公募要領では、金融機関(関連会社を含む)、弁護士、会計士、税理士、中小企業診断士、経営コンサルタント等とされています。
実績の有無は問われません。
事業統合投資類型の実施例
公募要領には次のような例が挙がっています。
- 工場、製造ライン、物流などサプライチェーンの統合に係る設備導入と、そのための工事
- 業務統合・効率化を目的としたシステムの導入・最適化
- 販路の拡大・開拓に向けたコンサルティング、ロゴデザインの統一、看板の制作
対象にならない経費に注意
ここが実務で最もつまずくところです。
事業統合投資類型では、士業等の専門家を活用したPMIの実施は補助対象外と明記されています。
さらに委託費のうち、M&A仲介手数料・DD(デューデリジェンス)費用・M&Aコンサルティング費用・PMI専門家への手数料は対象外です。
つまり「統合方針の策定を専門家に頼む費用」を事業統合投資類型で申請することはできません。それは専門家活用類型の側の話です。
M&A自体にかかった仲介手数料やDD費用を補助してほしい場合は、PMI推進枠ではなく専門家活用枠を検討することになります。
DDそのものの進め方については失敗しないM&Aのデューデリジェンス入門(買い手の視点)もあわせてご覧ください。
申請の前提になるM&Aの要件
PMI推進枠は、M&Aが実際に行われていることが大前提です。ただし「M&Aであれば何でもよい」わけではありません。
公募要領で対象外とされている主なケースを挙げます。
- グループ内の事業再編に相当する場合
- 親族間の事業承継に相当する場合
- 物品・不動産等のみの売買に相当する場合
- 譲受け後に議決権が過半数にならない場合(吸収分割・事業譲渡は除く)
- 事業譲渡で有機的一体な経営資源(設備・従業員・顧客等)の引継ぎが行われていない場合
- 休眠会社や事業の実態がない会社のM&A
原則として、常時使用する従業員1名以上の引継ぎが求められる点にも注意が必要です。
また、時期の制限もあります。公募申請期日の時点で、M&Aのクロージング日から3年以内の取組であることが要件です。
申請するのは原則として承継者(買い手)側です。
譲り受けた子会社が費用を負担する場合は、親会社との共同申請になります。
M&A後の従業員の扱いについてはM&Aで従業員はどうなる?雇用・待遇・説明のタイミングで詳しく解説しています。
実務でつまずきやすい3つのポイント
診断士として相談を受けていて、特に注意が必要だと感じる点を3つ挙げます。
1. 交付決定の前に発注すると対象外になる
これが最も多い失敗です。
補助対象になるのは、交付決定日以降かつ補助事業期間内に契約・発注し、支払いまで完了した経費に限られます。
「採択されたから」と先に発注してしまうと、その経費は落ちます。
検収(納品物が発注内容に合っているか検査する行為)も補助事業期間内に済ませる必要があります。
2. GビズIDプライムの取得に時間がかかる
申請はJグランツ(デジタル庁が運営する電子申請システム)からのみ受け付けられ、GビズIDプライムアカウントが必須です。
このアカウントの発行には1〜2週間、混雑時は3週間程度かかります。
公募が始まってから取得を始めると、間に合わないことがあります。M&Aを検討し始めた段階で取っておくのが安全です。
3. 事業統合投資類型には生産性向上要件がある
事業統合投資類型では、補助事業期間を含む5年間の事業計画において、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)または1人当たり付加価値額の伸び率が年3%以上となる計画であることが求められます。
補助金をもらって終わりではなく、その後の数字を報告する義務があるということです。
計画づくりの前提として、統合でどこにシナジーが出るのかを詰めておく必要があります。
PMIでつまずきやすい論点はM&A後の失敗はここで起きる|PMIでつまずく5つのパターンにまとめました。
よくある質問
「PMI補助金」で検索しても情報が出てこないのはなぜですか?
そういう名称の補助金が存在しないためです。
事業承継・M&A補助金の「PMI推進枠」で検索すると、中小企業庁および事務局の公式情報にたどり着けます。
2つの類型は同時に使えますか?
類型ごとに公募要領が分かれており、申請は原則1申請のみとされています。
一方で、PMI専門家活用類型は専門家活用枠(買い手支援類型Ⅰ型)との同時申請が可能とされており、仲介手数料とPMI費用の両方をカバーする組み立ては現実的な選択肢です。
どの組み合わせが可能かは公募回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。
廃業する事業がある場合はどうなりますか?
廃業・再チャレンジ枠との併用申請が可能で、廃業費として300万円以内が上乗せされます。
併用する場合、廃業・再チャレンジ枠へ別途申請する必要はありません。
スモールM&Aでも対象になりますか?
小規模な譲り受けでも、要件を満たしていれば対象になり得ます。
ただし前述のとおり、親族内承継やグループ内再編、実態のない会社のM&Aは除かれます。従業員の引継ぎがあるかどうかも確認してください。
スモールM&A全般の進め方については個人がスモールM&Aで会社を買うには?探し方から成約までの流れを解説をご覧ください。
PMIはいつから考え始めるべきですか?
交渉段階からです。
前述のGビズIDの準備もそうですが、統合で何を実現したいのかが定まっていないと、事業計画も専門家への依頼内容も書けません。
成約後に慌てて考えるより、負担も費用も抑えられます。
まとめ
- 「PMI補助金」という制度は存在しない。正しくは事業承継・M&A補助金の「PMI推進枠」
- PMI推進枠にはPMI専門家活用類型(人に払う・上限150万円)と事業統合投資類型(モノに払う・上限800万円、賃上げ要件達成で1,000万円)の2類型がある
- 事業統合投資類型では、士業等の専門家によるPMI実施費用やM&A仲介手数料・DD費用は対象外
- M&Aのクロージングから3年以内、従業員1名以上の引継ぎ、グループ内・親族内は対象外といった前提要件がある
- 交付決定前の発注は補助対象外。GビズIDプライムの取得にも1〜3週間かかる
金額・要件・公募期間は公募回ごとに変わります。申請にあたっては必ず事業承継・M&A補助金の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。
弊社では中小企業診断士がM&A前後の実務をサポートしています。どの類型が自社に合うのか、統合計画をどう立てるのかでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
執筆・監修
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。
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