「会社を買う」と聞くと、大企業や投資ファンドの話に聞こえるかもしれません。
しかし近年は、後継者不在の中小企業や小規模店舗を、個人が数百万円規模で買収する「スモールM&A」が広がっています。
本記事では、個人がスモールM&Aに取り組む際の基本的な流れを、実際にネイルサロンを買収した中小企業診断士の視点から解説します。
スモールM&Aとは
スモールM&Aに厳密な定義はありませんが、一般に譲渡金額が数百万円〜数千万円程度の小規模なM&Aを指します。
対象となるのは、飲食店、美容室・ネイルサロン、EC事業、小規模な製造業や卸売業など、オーナー1人と数名のスタッフで回っている事業が中心です。
背景にあるのは深刻な後継者不足です。黒字であっても「継ぐ人がいない」という理由で廃業を選ぶ経営者は少なくありません。
事業を買いたい個人と、事業を残したい経営者。両者をつなぐ手段としてスモールM&Aが注目されています。
案件の探し方
主な入口は次の3つです。
- M&Aマッチングサイト:売り案件がネット上に公開されており、個人でも登録して交渉を申し込める。案件数が多く、スモールM&Aの主戦場
- 事業承継・引継ぎ支援センター:各都道府県に設置された公的機関。相談は無料
- 知人・取引先からの紹介:条件面で柔軟にまとまりやすい一方、出会いは偶然に左右される
まずはマッチングサイトに登録し、自分の予算・経験・関心に合う案件を継続的にウォッチすることをおすすめします。
成約までの基本的な流れ
1. 案件検索・交渉申込:気になる案件に問い合わせ、秘密保持契約(NDA)を締結して詳細情報を入手
2. トップ面談:売主と直接会い、事業の実態や譲渡理由を確認
3. 意向表明・基本合意:金額や条件の大枠を合意(LOI・基本合意書)。価格の考え方は「意外とシンプルな会社の値段の決まり方」も参考にしてください
4. デューデリジェンス(DD):財務・法務・労務などの実態調査。スモールM&Aでも省略は禁物です(詳しくは「失敗しないM&Aのデューデリジェンス入門」)
5. 最終契約・決済:株式譲渡契約や事業譲渡契約を締結し、対価を支払って引き継ぎ
失敗しないための3つの注意点
1. 「安いから」で選ばない。
譲渡価格が安い案件には理由があります。売上の実態、簿外債務、キーパーソンの退職リスクなどを必ず確認しましょう。
2. デューデリジェンスを省略しない。
費用を惜しんでDDを飛ばすと、引き継いだ後に想定外の債務や契約トラブルが発覚することがあります。
規模に応じた簡易なDDでも、やるとやらないでは大違いです。
3. 買った後の姿を具体的に描く。
M&Aはゴールではなくスタートです。引き継いだ事業を誰が運営し、既存スタッフや顧客とどう関係を築くか。
買収前から統合後の計画(PMI)を考えておくことが、成功の最大の条件です。
個人が会社を買うとき、特有の3つの論点
法人による買収と違い、個人がスモールM&Aに取り組むときには固有の課題があります。ここを整理しておくと、進め方が具体的になります。
① 資金はどう用意するか
自己資金だけで買う方も多いですが、融資を使うという選択肢もあります。
日本政策金融公庫をはじめとする公的融資では、事業承継やM&Aによる開業を対象とした制度が用意されています。事業計画と自己資金の準備があれば、個人でも借入は不可能ではありません。
ただし譲渡代金だけでなく、運転資金の余力が要ります。買収直後は売上が不安定になりやすく、ここで資金が尽きると打つ手がなくなります。
詳しくは個人M&Aを後押しする資金調達方法をご覧ください。
② 会社員のまま買えるのか(兼業でできるか)
結論として、兼業で買うこと自体は可能です。ただし現実には次の見極めが要ります。
- 現場に入れない分、任せられる人が残るか(キーパーソンの見極めが決定的に重要)
- 勤務先の副業規程に抵触しないか
- 緊急時に対応できる体制があるか
「自分が現場に立てない」なら、属人性の低い事業を選ぶ——これが兼業で買う場合の鉄則です。
③ 個人事業として買うか、法人を作るか
事業譲渡で買い受ける場合、個人事業主として受けることも、法人を設立して受けることもできます。
判断の分かれ目は、許認可の要件・取引先との契約・税負担・将来の売却可能性です。特に許認可が必要な業種では、法人でなければ引き継げないケースもあります。案件を決める前に確認しておくべき点です。
個人が買いやすい案件の特徴
すべての案件が個人向きというわけではありません。次の条件が揃うほど、個人でも扱いやすくなります。
| 見るポイント | 個人が扱いやすい | 難易度が高い |
|---|---|---|
| 事業規模 | 従業員が少なく、業務がシンプル | 多店舗・多部門で管理が複雑 |
| 属人性 | 仕組みで回っている | 前オーナーの人脈・技術に依存 |
| 必要資金 | 設備投資が当面不要 | 老朽化した設備の更新が必要 |
| 許認可 | 個人でも取得・承継できる | 法人格や実務経験年数が必須 |
| 立地・商圏 | 自分が通える範囲 | 遠方で頻繁に行けない |
「安いから」ではなく「自分が運営できるか」で選ぶ——これが個人のスモールM&Aで最も大切な基準です。
よくある質問
自己資金はいくら必要ですか?
案件によって大きく異なるため一概には言えませんが、譲渡代金に加えて運転資金の余力が必要という点は共通します。融資を使う場合も、一定の自己資金は求められるのが一般的です。金額の目安は案件ごとに変わるため、具体的な検討段階で試算されることをおすすめします。
経営の経験がなくても買えますか?
買えます。実際、経営未経験から事業を引き継いだ方は少なくありません。ただし前オーナーからの引き継ぎ期間を契約で確保すること、そして現場のスタッフに残ってもらうことが前提になります。未経験であるほど、この2点の重要度が上がります。
買った後、すぐに黒字にできますか?
多くの場合、買収直後は一時的に売上が落ちます。オーナー交代による顧客の様子見や、業務の混乱が起きるためです。まずは現状維持を目標にし、改善は信頼を得てからというのが現実的な進め方です。詳しくはM&A後の失敗はここで起きる|PMIでつまずく5つのパターンをご覧ください。
まとめ
スモールM&Aは、ゼロから起業するよりも早く、既に顧客と売上のある事業を手に入れられる選択肢です。
資金面でも個人M&Aを後押しする融資制度が整ってきています。
一方で、調査不足のまま進めると大きな失敗につながります。専門家のサポートを受けながら、一つずつ手順を踏んで進めましょう。
当社では、中小企業診断士によるスモールM&Aの相談・支援を行っています。案件の見極めからデューデリジェンス、買収後の経営改善までお気軽にご相談ください。
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『個人でできるスモールM&A実践録—銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』
スモールM&Aの実践プロセスを、実体験に基づいて解説しています。
執筆・監修
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。
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