スモールM&Aの相場はどう決まる?
「会社を買いたいけれど、いくら用意すればいいのか分からない」。
そう感じている方は多いのではないでしょうか。
スモールM&A(比較的小規模な会社・事業の売買)の世界には、上場企業のような公開された取引価格がありません。
そのため相場が見えにくく、最初の一歩を踏み出しづらいという声をよく聞きます。
この記事では、類似案件で使われている年商・利益の「倍率」という考え方をもとに、会社を買う費用の目安と、相場を鵜呑みにしてはいけない理由を解説します。
結論から言うと、スモールM&Aの相場は「年商の何倍」「利益の何倍」という倍率の目安はあるものの、最終的な金額は個別の事情で大きく変動します。
相場の考え方:年商・利益の「倍率」で見る
スモールM&Aの現場では、会社の値段を次のような考え方で見立てることが一般的です。
- 純資産(会社の資産から負債を引いた金額)に、利益の数年分を上乗せする
- 営業利益やEBITDA(税引前利益に利払い・減価償却を足し戻した指標)の3〜5倍程度を目安にする
- 年商(年間売上高)に対して一定の倍率をかける業種もある
どの指標を使うかは業種や案件によって異なります。
在庫や設備が少ないサービス業では利益倍率が重視され、店舗や設備を持つ業態では純資産の重みが増す傾向があります。
いずれも「絶対的な正解」ではなく、売り手と買い手が交渉する際の出発点にすぎません。
スモールM&Aで「年買法」が使われる理由
上に挙げた考え方のうち、スモールM&Aで最もよく使われるのが年買法(ねんがいほう)です。
時価純資産+営業利益×2〜5年分——これが基本形です。
「今ある財産(純資産)」に「これから稼ぐであろう利益の数年分(=のれん)」を上乗せする、という単純な足し算です。なぜこの方法が主流なのか、理由は4つあります。
① 中小企業の決算書は「将来予測」に使いにくい
大企業のM&AではDCF法(将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引く方法)が本流です。
しかし中小企業では、そもそも精度の高い事業計画がないことがほとんどです。売上は社長個人の営業力に左右され、役員報酬の額次第で利益はいくらでも変わります。
根拠のない将来予測を精緻に割り引いても、答えは正しくなりません。 それなら「今の利益が数年続くと考える」ほうが、まだ実態に近いという判断です。
② 上場企業のような「比較対象」が存在しない
類似会社比較法(似た上場企業の株価倍率と比べる方法)も、中小企業には使いづらい方法です。
年商数千万円の個人商店と、上場企業を同じ物差しで測ることには無理があります。地域性・規模・属人性——比較できる条件が揃いません。
③ 売り手・買い手の双方が理解できる
これが実務上、最も大きな理由かもしれません。
DCF法の計算結果を提示されても、多くの経営者は「なぜその金額なのか」を自分の言葉で説明できません。
一方、年買法なら「手元に残る財産がこれだけ、利益の3年分を足してこの金額」と、双方が納得のうえで交渉できます。当事者が理解できない評価方法は、交渉のテーブルで機能しません。
④ 買い手にとって「投資回収年数」と直結する
営業利益の3年分で買うということは、利益がそのまま続けば3年で投資を回収できるという意味です。
買い手にとっては極めて分かりやすい判断基準になります。「何年で回収できるか」——スモールM&Aの買い手が最も気にする点と、評価方法が一致しているわけです。
ただし、年買法にも弱点はある
万能ではありません。次の点には注意が必要です。
- 将来の変化を織り込めない:市場が縮小していても、大型の設備投資が必要でも、数字には表れない
- 「何年分」に明確な根拠がない:2年か5年かは交渉次第。ここが価格差の最大の要因になる
- 利益の質を見ていない:一時的な特需による利益も、安定した常連客による利益も、同じ「利益」として扱われてしまう
だからこそ、倍率の数字そのものより「なぜその利益が出ているのか」を確かめることが重要になります。
会社の値段の決まり方は意外とシンプルな会社の値段の決まり方でも解説しています。
具体例で見る相場感
たとえば年商5,000万円、営業利益500万円の小さな会社があるとします。
利益倍率を3倍とすると、事業価値の目安は1,500万円程度になります。
ここに純資産(現預金や不動産などから借入を引いたもの)を足し引きして、最終的な譲渡価格の交渉材料とするのが一般的な流れです。
同じ年商・利益でも、独自の顧客基盤や許認可、立地のよさといった要素があれば倍率は上振れしますし、逆に特定の人物に依存した属人的な事業であれば下振れします。
数字の背景にある「なぜその利益が出ているのか」を見ずに倍率だけで判断すると、相場から大きく外れた高値づかみをしてしまうことがあります。
相場より重要な個別要因
相場の考え方を知っておくことは大切ですが、実際の価格を決めるのは以下のような個別要因です。
- 売上・利益が今後も続く見込みがあるか(顧客が特定の担当者に依存していないか)
- 簿外債務(帳簿に表れていない借入や未払い債務)がないか
- 経営者保証や個人保証がどう扱われるか
- 従業員の雇用継続や取引先との契約がそのまま引き継げるか
これらはデューデリジェンス(買収前の調査)を通じて確認するものであり、相場の倍率だけでは見抜けません。
相場はあくまで「話を始めるための目安」と捉え、最終的な価格は個別の調査結果をもとに交渉するという姿勢が欠かせません。
注意点
相場の倍率をそのまま鵜呑みにすると、次のような失敗につながりやすいので注意が必要です。
- 一時的に利益が良かった年だけを見て倍率を計算してしまう
- 債務超過(負債が資産を上回る状態)の会社に通常の倍率をあてはめてしまう
- 相場より大幅に安い案件を「お得」と判断し、その理由を確認しない
安すぎる案件には、簿外債務や取引先の離反リスクなど、価格に反映されていない理由が隠れていることが少なくありません。
なお、スモールM&Aを進める際にかかる仲介手数料や専門家への依頼費用は、案件の規模や内容により異なるため個別にお見積りとなります。
よくある質問
スモールM&Aの相場に決まった計算式はありますか?
決まった計算式はありません。
利益倍率や年商倍率はあくまで目安であり、業種や案件ごとに使う指標や倍率の水準は変わります。
最終的な価格は、個別要因を踏まえた交渉で決まります。
相場より高く見える案件は避けるべきですか?
一概には言えません。
独自の顧客基盤や許認可、立地など、数字に表れにくい強みがあれば、相場より高い倍率でも妥当な場合があります。
大切なのは、倍率の高さそのものではなく、その根拠を確認することです。
まとめ
スモールM&Aの相場は、年商や利益の倍率という考え方で目安をつかむことができます。
ただし最終的な価格は、事業の継続性や簿外債務の有無といった個別要因によって大きく変わるため、相場の数字だけを見て判断するのは危険です。
会社を買う費用の目安を知りたい方は、まず倍率の考え方を押さえたうえで、個別の調査に進むことをおすすめします。
スモールM&Aの全体の流れについては、個人がスモールM&Aで会社を買うには?探し方から成約までの流れを解説もあわせてご覧ください。
また、会社の値段の決まり方をより詳しく知りたい方は、意外とシンプルな会社の値段の決まり方 その1も参考になります。
相場の考え方だけでは判断しきれない部分は、中小企業診断士のような第三者の専門家に相談することで見えてくることもあります。
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執筆・監修
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
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