「もう限界かもしれない」
そう考え始めた経営者の方に、最初にお伝えしたいことがあります。
破産や廃業を決める前に、事業譲渡という選択肢を検討してください。
会社は畳むしかないと思い込んでいたが、実際には事業を引き継いでくれる相手がいた——というケースは決して珍しくありません。
この記事では、破産・廃業と事業譲渡の違い、そして「いつ動くべきか」を整理します。
結論:会社を清算しても、事業は残せることがある
多くの方が混同されるのですが、「会社をたたむ」ことと「事業をやめる」ことは別です。
事業に価値があれば、会社の法的整理とは切り離して、事業だけを他社に引き継ぐことができます。
| 選択肢 | 事業 | 従業員の雇用 | 経営者の手元 |
|---|---|---|---|
| 廃業(自主的に清算) | なくなる | 全員が職を失う | 資産を売却し債務を返済。残れば手元に |
| 破産 | 原則なくなる | 全員が職を失う | 原則として残らない |
| 事業譲渡 | 続く | 引き継がれる可能性が高い | 譲渡代金が入る |
同じ「会社をやめる」でも、結果はまったく違います。
なぜ事業譲渡のほうが良い結果になりやすいのか
① 従業員の雇用が続く
廃業・破産では全員が職を失います。事業譲渡なら、買い手のもとで働き続けられる可能性があります。
長年一緒にやってきた従業員に「明日から来なくていい」と伝えずに済む。これは経営者にとって、金額以上に大きな意味を持ちます。
事業譲渡での雇用の扱いはM&Aで従業員はどうなる?で詳しく解説しています。
② 取引先・顧客に迷惑をかけずに済む
突然の廃業は、仕入先にも販売先にも打撃を与えます。事業が続けば、取引関係も維持されます。
③ 経営者の手元にお金が残る可能性がある
廃業にはお金がかかります。在庫の処分費、設備の撤去費、店舗の原状回復費、登記費用——。「やめるだけ」でも数百万円が必要になることは珍しくありません。
一方、事業譲渡なら対価を受け取れます。その資金を債務の返済に充てられれば、着地はまったく変わります。
④ 廃業では消えてしまう「のれん」を換金できる
長年築いた顧客基盤、技術、ブランド、立地。これらは決算書に載りませんが、買い手にとっては価値です。廃業すれば1円にもなりませんが、譲渡すれば評価されます。
破産手続の中でも事業譲渡はできる
「もう破産するしかない」という段階でも、道が閉ざされるわけではありません。
破産手続に入った後でも、破産管財人の判断により、価値ある事業が第三者へ譲渡されることがあります。事業を止めずに引き継げれば、従業員や取引先への影響を小さくできるためです。
ただし、この段階では選択肢も交渉力も大きく減ります。やはり早い段階で動くほうが有利です。
「いつ動くか」がすべてを決める
事業再生の相談を受けていて、最も強く感じることです。
手元資金があるうちなら、打てる手は多い。
| 状況 | 選べる手段 |
|---|---|
| 資金に余裕がある | 事業譲渡・M&A・第二会社方式・条件変更(リスケ)・自主再建 |
| 支払いが遅れ始めた | 事業譲渡・私的整理・特定調停 |
| 支払いが止まった | 法的整理(破産・民事再生)が中心に |
買い手を探すにも時間がかかります。相手を見つけ、交渉し、契約に至るまで数ヶ月は必要です。資金が尽きてからでは、その時間が確保できません。
「まだ何とかなる」と思えるうちの相談が、結果的に最も多くを残します。
検討したい3つの手法
① 事業譲渡
価値のある事業だけを譲り渡す方法です。債務は原則として引き継がれないため、買い手も検討しやすい形です。
ただし進め方を誤ると「債務逃れ」と見られるリスクがあります。詳しくは債務超過でも事業譲渡はできる?をご覧ください。
② 第二会社方式
収益力のある事業を新会社に移し、残った債務は旧会社で整理する手法です。中小企業の再生で確立された方法で、金融機関を交えて進めます。
詳細は第二会社方式を活用した事業再生を検討してみませんか?で解説しています。
③ 特定調停・私的整理
裁判所や第三者機関の関与のもとで、債務の返済条件を見直す手法です。事業を続けながら再建を目指せます。
事業再生にも使える特定調停もあわせてご参照ください。
まず相談すべき窓口
一人で抱えないでください。無料で相談できる公的な窓口があります。
- 中小企業活性化協議会:各都道府県に設置。資金繰りの改善から本格的な事業再生まで対応
- 事業承継・引継ぎ支援センター:事業の引き継ぎ相手探しを含めて相談可能
- 取引金融機関:隠さず現状を伝えることが第一歩。事業を残す話であれば協力を得られることが多い
よくある質問
赤字・債務超過でも買い手は見つかりますか?
見つかることがあります。買い手が見ているのは過去の決算ではなく、将来その事業が生む価値です。技術・顧客・立地・人材のいずれかに強みがあれば、検討する買い手はいます。
従業員に知られずに進められますか?
正式に決まるまでは、限られた関係者のみで進めるのが原則です。ただしクロージング前後には必ず説明が必要になります。伝え方とタイミングの設計が重要です。
廃業を決めた後でも間に合いますか?
まだ事業を動かしている段階なら間に合う可能性があります。ただし設備を処分したり従業員が退職したりした後では、譲渡できる「事業」自体が失われます。動きを止める前にご相談ください。
まとめ
- 「会社をたたむ」ことと「事業をやめる」ことは別。事業だけ残せることがある
- 事業譲渡なら、雇用が続き、取引先も守られ、経営者の手元に対価が残る可能性がある
- 廃業にも費用がかかる。何もしないことが最も損になる場合もある
- 破産手続の中でも事業譲渡はありうるが、早く動くほど選択肢が多い
- まずは中小企業活性化協議会や金融機関へ。一人で抱えないこと
経営者にとって、会社を手放す判断は簡単ではありません。それでも、従業員の雇用と築いてきた事業を残せる道があるなら、検討する価値があります。
当社では、中小企業診断士が事業再生とM&Aの両面から相談に対応しています。「まだ決めたわけではないが、話だけ聞きたい」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の事案については弁護士等の専門家にご確認ください。
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執筆・監修
木下 綾子
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
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