債務超過でも事業譲渡はできる?「債務逃れ」と言われないための注意点

債務超過でも事業譲渡はできる?「債務逃れ」と言われないための注意点

「うちは債務超過だから、もう売れないですよね」

そう諦めてしまう経営者の方は少なくありません。

しかし、債務超過の会社でも事業譲渡はできます。 実際、赤字や債務超過の企業が事業を譲渡し、従業員の雇用と取引先を守った事例は数多くあります。

一方で、進め方を誤ると「債務逃れ」とみなされ、後から譲渡そのものを取り消される危険があります。

この記事では、債務超過の状態で事業譲渡を検討する際に、何に気をつけるべきかを整理します。

結論:譲渡はできる。ただし「価格」と「手順」で決まる

大前提として、債務超過であっても事業を売買すること自体は制限されていません。

買い手が見ているのは、貸借対照表の数字ではなく「その事業が今後お金を生むか」だからです。

  • 技術力や許認可がある
  • 常連客・取引先との関係が生きている
  • 立地や設備に価値がある
  • 人材が定着している

こうした要素があれば、債務超過でも買い手はつきます。

問題は、残された債権者から見て公正な取引だったかです。ここを外すと、後述する法的リスクが現実になります。

「債務逃れ」とみなされると何が起きるのか

会社に借金を残したまま、価値ある事業だけを安く別会社に移す——。

これを法律は見逃しません。主に次の3つの規定が関係します。

① 詐害事業譲渡(会社法23条の2)

残された債権者を害することを知りながら事業譲渡をした場合、債権者は買い手に対しても、引き継いだ財産の価額を限度に支払いを請求できます

つまり買い手も巻き込まれます。買い手が慎重になる理由がここにあります。

② 詐害行為取消権(民法424条)

債権者は、自分を害する行為として、その譲渡自体の取消しを裁判所に求めることができます。

③ 破産手続における否認権

譲渡後に売り手が破産した場合、破産管財人が「不当に安く売った」として、その取引の効力を否定できる場合があります。

いずれも共通するのは「不当に安い価格」「債権者に隠して進めた」ことが引き金になる点です。

「債務逃れ」と言われないための5つの実務

裏を返せば、以下を守れば正当な事業再生の手段として進められます。

1. 適正な価格で譲渡する

これが最重要です。

「知人に格安で譲る」「身内の別会社に簿価で移す」といった進め方が、最も疑われます。

譲渡価格の根拠を、第三者が見て説明できる形にしておいてください。専門家による評価書を取得する、複数の買い手候補から提示を受ける、といった方法があります。

企業価値の考え方は意外とシンプルな会社の値段の決まり方もご参照ください。

2. 譲渡代金を債務の返済に充てる

受け取った代金を債権者への返済に回すこと。これが「債権者を害していない」最大の証明になります。

代金の使途を明確にし、記録を残しておきましょう。

3. 金融機関に事前に相談する

隠して進めることが、最も危険です。

借入がある以上、事業用資産に担保が設定されているケースがほとんどです。担保付きの資産は、金融機関の同意なしに譲渡できません。

順序が逆になりがちですが、買い手を探す前に、まず取引金融機関に相談してください。 事業を残して返済につなげる話であれば、金融機関も協力的なことが多いのが実情です。

4. 公的機関の枠組みを使う

自力で進めるより、公的な枠組みに乗るほうが、透明性の面でも進めやすさの面でも有利です。

  • 中小企業活性化協議会:各都道府県にあり、資金繰りの改善から本格的な事業再生まで相談できます
  • 事業承継・引継ぎ支援センター:M&Aの相手探しを含めて相談できます

第三者が関与する形にすることで、「債権者に隠れて進めた」との疑いを避けられます。

5. 第二会社方式など、確立された手法を検討する

収益力のある事業を新会社に移し、残った債務は旧会社で整理する「第二会社方式」は、中小企業の再生で確立された手法です。

ただし、これも進め方を誤れば詐害行為と見られます。金融機関・専門家を交えた枠組みの中で進めることが前提です。

詳しくは第二会社方式を活用した事業再生を検討してみませんか?をご覧ください。

買い手側が確認すべきこと

債務超過企業からの事業譲受を検討する場合、買い手も次の点を確認してください。

  • 譲渡価格が適正か(安すぎる案件はむしろ危険信号)
  • 売り手が金融機関と話をつけているか
  • 譲渡代金の使途が明確か
  • 商号(屋号)を引き継ぐ場合、免責の手続きをとるか(事業譲渡で債務はどうなる?参照)
  • 簿外債務・未払い残業代の有無

「破格に安い」という話には、必ず理由があります。

早く動くほど選択肢は多い

債務超過の企業を数多く見てきて、はっきり言えることがあります。

相談が早いほど、選べる手段は多い。

資金がまだ回っているうちなら、事業譲渡・第二会社方式・条件変更(リスケ)など複数の道があります。しかし資金が尽き、支払いが滞ってからでは、選べるのは法的整理だけになりがちです。

「まだ大丈夫」と思える段階での相談が、結果的に従業員と取引先を守ります。

事業承継で債務超過の会社を引き継ぐときは何が違うか

ここまでは事業譲渡の話をしてきました。

ただ、実際のご相談では「息子に継がせたいが債務超過なので迷っている」という事業承継の形で持ち込まれることも多くあります。

両者は引き継ぐ範囲がまったく違います。

株式を引き継ぐ承継は、負債も丸ごと引き継ぐ

親族内承継や従業員承継は、原則として会社の株式をそのまま引き継ぐ形です。

会社という器ごと動くため、資産も負債も選べません。債務超過であれば、後継者はマイナスの純資産を抱えた状態から経営を始めることになります。

一方の事業譲渡は、引き継ぐ資産と負債を個別に決められます。

債務超過の局面で事業譲渡が選ばれやすいのは、この「選べる」という性質があるからです。

後継者に個人保証が回ってくるかどうかが最大の論点

債務超過の会社を株式で承継する場合、金融機関から後継者に経営者保証を求められることがあります。

この点については「経営者保証に関するガイドライン」の事業承継時の特則(2019年12月公表・2020年4月適用)があり、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることは原則としないという考え方が示されています。

ただし、これは法律ではなく自主的なルールです。

実務では、財務の改善見込みや事業計画の説得力によって金融機関の判断が分かれます。承継の話を進める前に、保証をどう扱うかを必ず金融機関と詰めておく必要があります。

個人保証の引き継がれ方については、事業承継で借金と個人保証はどうなる?引き継がれる範囲と外し方で詳しく整理しています。

債務超過が解消できないなら、承継の形を変える選択もある

後継者候補が家族の場合、債務超過のまま承継すると、負担が家族全体に及ぶおそれがあります。

そのときは無理に親族内で承継せず、第三者への承継(M&A)や、本記事で説明した事業譲渡・第二会社方式に切り替えるほうが、事業と雇用を残せることがあります。

「継がせる」ことが目的ではなく、「事業を残す」ことが目的だと整理すると、選べる手段は増えます。

よくある質問

債務超過だと買い手はつきませんか?

つきます。買い手は将来の収益力を見ています。ただし、財務が悪い分だけ譲渡価格は抑えられ、条件交渉もシビアになる傾向があります。

社長の個人保証は事業譲渡で消えますか?

自動的には消えません。借入が旧会社に残る以上、保証も残ります。ただし「経営者保証に関するガイドライン」に沿った整理で、保証の取扱いを協議できる場合があります。

従業員はどうなりますか?

事業譲渡では転籍にあたるため、一人ひとりの同意が必要です。詳しくはM&Aで従業員はどうなる?をご覧ください。

債務超過の会社でも事業承継はできますか?

できます。ただし株式をそのまま引き継ぐ形では負債も丸ごと引き継ぐことになり、後継者に経営者保証が求められる場合があります。債務超過の解消見込みが立たないときは、事業譲渡や第三者への承継(M&A)も含めて手段を比較してください。

まとめ

  • 債務超過でも事業譲渡はできる。買い手は将来の収益力を見ている
  • ただし不当に安い価格・債権者に隠しての譲渡は、詐害事業譲渡(会社法23条の2)や詐害行為取消、破産時の否認の対象になりうる
  • 守るべきは①適正価格②代金を返済に充てる③金融機関への事前相談④公的機関の活用⑤確立された手法を選ぶ、の5点
  • 相談は早いほど選択肢が多い

債務超過は「終わり」ではなく、打ち手を選ぶ局面です。事業に価値があるなら、残す方法があります。

当社では、中小企業診断士が事業再生とM&Aの両面から、経営者の相談に対応しています。金融機関や公的機関との進め方を含めて、まずはお気軽にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の事案については弁護士等の専門家にご確認ください。


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木下 綾子

中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
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