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中小M&Aにおける「利用者保護」とは

1前文 専門機関の登録開始について

2021年8月2日、経済産業省より「M&A支援機関に係る登録制度の創設について」が公表されました。この登録制度は2021年4月28日に中小M&Aを推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組を取りまとめた「中小M&A推進計画」に基づいて、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために創設されたものです。

今回は、M&A支援機関が遵守すべき事項として「M&A支援機関登録制度公募要領」(2021年8月24日中小企業庁公表/以下、「公募要領」という。)の中に示された「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目に着目し、M&A支援機関が遵守すべき事項について、解説したいと思います。

 

1.中小M&Aにおける「利用者保護」

今般の「M&A支援機関登録制度」創設のポイントは、M&A支援機関に対する規制という以上に、「中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤構築」のための措置といった性格が強いものです。つまり、利用者保護を徹底しM&A支援機関に対する信頼感を醸成することによって中小企業のM&A活用を推進しようということです。

事業承継をはじめとして中小企業におけるM&Aニーズは高いにも関わらず、中小企業がM&Aの活用を躊躇する原因の1つは、適切なM&A支援機関の判別が困難なことにあるといわれています。

こうした背景から、中小企業のM&Aに対する不信感を払拭するために「中小M&Aガイドライン」(2020年2月中小企業庁策定/以下、「ガイドライン」)では、M&A支援機関に対する行動指針やM&A支援機関に関して問題となり得る主な事項などが提示されました。具体的には、①売手と買手双方の1者による仲介は「利益相反」となり得ることや不利益情報(両者から手数料を徴収している等)の開示の徹底等によりリスクを最小化する措置を講じること、②他のM&A支援機関へのセカンド・オピニオンを求めることを許容すること、③契約期間終了後も手数料を取得する契約内容(テール条項)を限定的な運用とするといった事項です。

実は、これらの中で示されたエッセンスが「公募要領」の「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目に示されています。

 

 

2.「中小M&Aガイドライン遵守宣誓」の15項目

登録申請する際に、M&A支援機関は、M&Aの仲介やFAを行う際に次のような項目を遵守することが求められています(「公募要領」より要約)。

これらはM&A支援機関にとっての遵守すべき事項であると同時に、利用者側にとってみれば、M&A支援機関の信頼性を検証するチェックポイントにもなります。

 

【仲介契約・FA契約の締結】

(1)締結する仲介契約・FA契約が業務形態の実態に合致していること

(2)仲介契約・FA契約締結前の重要事項の説明および利用者の納得を得ること

 

【最終契約の締結】

(3)最終契約の締結時に利用者に契約内容に漏れがないよう利用者に対して再度の確認を促すこと

 

【クロージング】

(4)クロージングに向けた具体的な段取り、および、当日には譲渡対価が入金されたことの確認

 

【専任条項(並行して他のM&A専門業者への依頼を行うことを禁止する条項)】

(5)利用者が他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることの許容

(6)専任条項を設ける場合、契約期間を最長6か月~1年以内を目安とすること

(7)利用者の仲介契約・FA契約に係る中途解約権の規定

 

【テール条項(契約期間終了後もM&A支援機関が手数料を取得できる権利規定)】

(8)テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とすること

(9)テール条項の対象を当該M&A専門業者が関与・接触し、売手に紹介した買手のみに限定すること

 

【仲介業務を行う場合の特則】

(10)仲介契約締結前に、仲介者であるということを売手・買手両当事者に伝えること

(11)利益相反懸念があることの事前説明

(12)仲介者が確定的なバリュエーションを実施しないこと

(13)仲介者が参考資料として自ら簡易評価した場合、確定的な評価でないことを説明すること

(14)DDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定しないこと

※(10)~(14)の共通事項として必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう促すこと

 

【その他】

(15)M&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を併せて示す」こと

 

3.M&A支援機関登録制度の発足後について

 

今般、「公募要領」にもとづき申請したM&A支援機関については、9月下旬ごろに中小企業庁のHPで登録仲介・FA業者のリストが公表される予定となっています。

一方、9月6日までに申請したM&A支援機関については、中間結果が9月13日に公表されており、次のような内訳になっています。

 

登録件数:493件(うち法人405件、個人事業主88件)

<M&A支援機関の種類別(上位5種)>

①M&A専門業者(仲介)154件

②M&A専門業者(FA)117件

③税理士61件

④公認会計士43件

⑤地方銀行26件

 

中小企業庁は、登録支援機関について「M&A支援に係る品質を保証するものではない」としている一方、登録支援機関の中小M&A支援費用が事業承継引継ぎ補助金(専門家活用型)の補助対象となることが予定されているほか、登録支援機関が取組む中小M&A支援に関する苦情等については、中小企業庁から委託を受けた「情報提供受付窓口」において受け付け、その情報を端緒として登録の取消しを行うなどのケースも想定しているようです。

こうした施策が一体として推進されることで、M&A支援機関に対する信頼感の醸成が図られていくことになるのです。

 

<まとめ>

2021年はM&A支援機関にとってまさに「事業承継制度改革元年」ともいうべき大きな変革の年といえそうです。

中小企業庁は、M&A支援機関の登録制度のスタートと並行して、9月1日に「事業承継ガイドライン改訂検討会」を設置し、さらに、その下に「中小PMI(Post Merger Integrationの略称。)ガイドライン(仮称)策定小委員会」を設置することを公表しました。

 

中小企業の事業承継支援に資する施策を適時適切に活用できるよう、今後も法令・制度の動向をタイムリーにお届けしていきたいと思います。

 

中小企業診断士 伊藤一彦