「そろそろ引退を考えたいが、継いでくれる人がいない」。
そんな悩みを、誰にも相談できないまま何年も抱えている経営者は少なくありません。
家族に継ぐ意思はなく、社内にも適任者が見当たらない。かといって、いきなりM&Aの仲介会社に電話するのは気が引ける。
この記事では、そんなときの相談先として「中小企業診断士」という選択肢を紹介します。
診断士に事業承継を相談するメリット、実際にどんな支援メニューがあるのか、相談すべきタイミング、そして注意点までを順にお伝えします。
中小企業診断士に事業承継を相談するメリットは「選択肢を絞らずに考えられる」こと
結論から書きます。
中小企業診断士に事業承継を相談する最大のメリットは、特定の手法に誘導されず、自社にとって最適な出口を一緒に考えられることです。
中小企業診断士とは、国が認めた唯一の経営コンサルタントの国家資格です。財務・人事・営業・生産といった経営全体を横断して見るのが仕事です。
事業承継の出口は、大きく分けて3つあります。
親族に継がせる「親族内承継」、役員や従業員に継がせる「社内承継」、そして第三者に譲る「M&A」です。
M&A仲介会社に相談すれば、当然ながらM&Aが前提になります。それが悪いわけではありませんが、本当は社内に候補者がいたかもしれません。
診断士は成約手数料で稼ぐ立場ではないため、「まだ承継の前に磨き上げが必要ですね」「社内承継のほうが向いていますよ」といった、結論ありきでない助言ができます。
後継者不足の実態と、中小企業診断士が入る意味
後継者不足は、いま多くの中小企業に共通する課題です。
経営者の高齢化が進む一方で、子どもは別の道を歩んでおり、社内の幹部も「借金の保証まで背負うのは……」と尻込みする。
その結果、業績は黒字なのに廃業を選ぶ会社が出てきます。いわゆる「黒字廃業」です。
ここで問題なのは、後継者がいないこと自体よりも、対策を先送りしてしまうことです。
経営者が体調を崩してから慌てて動くと、選択肢はほぼ廃業しか残りません。
中小企業診断士が入る意味は、この「先送り」を止めることにあります。
現状を数字で整理し、あと何年で何を決めなければならないかを可視化する。それが最初の一歩になります。
中小企業診断士の事業承継支援メニュー4つ
実際に診断士が提供する支援は、おおむね次の4つに整理できます。
① 現状分析と企業価値の見える化
まず、自社が「継ぐ価値のある会社か」「いくらで売れる会社か」を客観的に把握します。
財務データだけでなく、取引先との関係、技術、従業員の定着率といった数字に出ない強みも棚卸しします。
ローカルベンチマークなど、国が用意した診断ツールを使うこともあります。詳しくは企業の価値の見える化を実現する「ローカルベンチマーク」をご覧ください。
② 事業承継計画の策定
いつ、誰に、何を、どう引き継ぐかを年表形式に落とし込みます。
株式の移転、役職の交代、取引先へのあいさつ回りまで、5年〜10年単位のロードマップを描きます。
計画があると、金融機関や取引先への説明もしやすくなります。
③ 磨き上げ(企業価値向上)支援
承継やM&Aの前に、会社の状態を良くしておく工程です。
不採算部門の整理、社長個人と会社のお金の分離、属人化した業務の仕組み化などを進めます。
ここは診断士の本業である経営改善そのもので、腕の見せどころでもあります。
④ M&A・社内承継の実行支援
第三者への譲渡を選ぶ場合は、相手探しから条件交渉、契約、引き継ぎまで伴走します。
社内承継の場合は、後継者の資金調達や経営者保証の解除がテーマになります。この点は事業承継のボトルネック「経営者保証」対策は事業承継保証の活用でで詳しく解説しています。
中小企業診断士と他の専門家の違い
「税理士や銀行にも相談できるのでは」と思われるかもしれません。
もちろん可能です。それぞれ得意分野が違います。
税理士は株価評価や相続・贈与の税務が得意です。
弁護士は契約書やトラブル対応が得意です。
金融機関やM&A仲介会社は、買い手探しのネットワークを持っています。
これに対して中小企業診断士は、経営全体を見て「そもそもどう進めるか」を設計する役割です。
いわば、家を建てるときの設計士に近い立場といえます。実際の工事は各分野の専門家が担い、診断士が全体をつなぎます。
なお、多くの診断士は「認定支援機関」(国が認定した中小企業の支援機関)にも登録しており、公的支援制度の申請サポートも可能です。
相談するときの注意点
いくつか、あらかじめ知っておいていただきたいことがあります。
第一に、早めに動くこと。 承継の準備には5年〜10年かかることも珍しくありません。「まだ元気だから」は、実は最も動きやすいタイミングです。
第二に、診断士にも専門分野があること。 補助金が得意な人、店舗支援が得意な人、M&Aの実務経験が豊富な人と、それぞれ違います。事業承継の実績があるかどうかは、最初に確認してください。
第三に、社内への情報管理に注意すること。 「社長が会社を売るらしい」という話が漏れると、従業員の動揺や取引先の離反を招きます。守秘義務のある専門家に限定して相談を始めるのが鉄則です。
第四に、公的支援の活用を検討すること。 事業承継やM&Aを対象とした国の補助金・支援制度も用意されています。ただし内容は改定されるため、必ず最新の公募要領をご確認ください。
よくある質問
相談する前に、何を準備すればよいですか
決算書3期分があれば十分です。
それ以外の資料は、話をしながら必要なものを一緒に整理していきます。
「まだ何も決まっていない」段階での相談がむしろ理想的です。方向性が固まる前のほうが、選べる選択肢が多いためです。
後継者がいない場合、必ずM&Aになりますか
いいえ、そうとは限りません。
役員や従業員への承継(社内承継)という道もあります。
また、外部から経営人材を招いて育てるという選択肢もあります。会社を買いたい個人も増えており、こちらは個人がスモールM&Aで会社を買うにはで解説しています。
赤字や債務超過でも相談できますか
できます。
むしろ早く相談すべきケースです。
事業そのものに価値があれば、財務を立て直したうえで承継につなげる道があります。この場合は、事業再生と事業承継を並行して進めることになります。
まとめ|まずは現状を「見える化」するところから
後継者不足は、経営者ひとりで抱え込んでも答えの出ない問題です。
中小企業診断士に相談するメリットは、手法ありきではなく、自社の状況から最適な出口を一緒に設計できることにあります。
支援メニューは、①現状分析と企業価値の見える化、②事業承継計画の策定、③磨き上げ、④M&A・社内承継の実行支援の4つです。
そして最大のポイントは、元気なうちに動き出すこと。
株式会社ステラコンサルティングでは、中小企業診断士が事業承継のご相談を承っています。
「まだ具体的には決めていない」という段階でも構いません。まずは現状の見える化から、ご一緒に始めましょう。
執筆・監修
木下 綾子
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。東京都中小企業診断士協会 城南支部 副支部長。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。
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