神奈川県事業承継補助金とは?買い手・売り手の支援と申請の注意点

神奈川県事業承継補助金とは?買い手・売り手の支援と申請の注意点

神奈川県内の中小企業が事業承継やM&Aに取り組むとき、専門家への費用や、引き継いだ従業員の人件費の一部を補助する制度があります。神奈川県の「事業承継補助金」です。

こんにちは。中小企業診断士の木下綾子です。株式会社ステラコンサルティングは川崎市に本社を置き、M&Aや事業承継のご相談も受けております。

この補助金は、会社を譲り受ける側(買い手)と譲り渡す側(売り手)の両方に支援区分があります。令和8年度の募集は2027年1月29日(金)までですが、予算がなくなり次第締め切られます。この記事では、支援区分ごとの内容と、申請前に知っておきたい注意点をまとめます。

※この記事の内容は、2026年9月29日(火)時点で神奈川県の公式ページ(同日更新)と令和8年度公募要領を確認したものです。申請の際は、必ず最新の公式情報をご確認ください。

神奈川県事業承継補助金とは

神奈川県事業承継補助金は、物価高騰や人手不足などの影響で事業の継続に課題を抱える県内中小企業の事業承継を後押しし、経営資源や雇用が失われるのを防ぐことを目的とした県の制度です。

補助対象は、中小企業支援法上の中小企業者です(大企業が一定割合を出資している、または役員を派遣している「みなし大企業」などは対象外)。

結論からいうと、第三者承継は買い手・売り手それぞれ最大100万円、親族承継の株価算定は最大20万円が補助されます。支援は「親族承継枠」と「第三者承継枠」に分かれています。

支援枠 支援区分 内容 補助率 補助上限額
親族承継枠 株価算定支援 親族への事業承継を目的とした、専門家等と連携する株価の算定 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) 20万円
第三者承継枠 買い手支援A 譲渡者の従業員だった人を、引き続き県内で雇用する取組(人件費) 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) 100万円
第三者承継枠 買い手支援B 第三者への事業承継に係る、専門家等と連携する取組(デューデリジェンス費用等) 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) 100万円
第三者承継枠 売り手支援 第三者への事業承継に係る、専門家等と連携する取組(企業価値の算定費用等) 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) 100万円

小規模事業者とは、常時使用する従業員が、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は5人以下、宿泊業・娯楽業と製造業その他は20人以下の事業者です。

第三者承継枠では、異なる2つの支援区分を併用して申請することもできます。その場合、上限は1区分につき100万円、合計200万円までです。

第三者承継枠の3つの支援区分

買い手支援A:引き継いだ従業員の人件費

M&Aで事業を譲り受けたあと、譲渡者の常時使用する従業員だった人を、引き続き県内で雇用する場合の人件費を補助します。

  • 対象は基本給に限られます(通勤手当、賞与、残業手当、役職手当などの各種手当は対象外)
  • 1人あたり月額40万円(小規模事業者は30万円)が上限で、3か月分まで
  • 事業承継は、2025年4月1日から2027年3月15日までの期間に行った、または行うものであること
  • 補助対象とした従業員を、補助事業が完了した年度の翌年度末(2028年3月31日)まで引き続き雇用すること(定年退職、死亡、自己都合退職など、やむを得ない場合を除く)

雇用を維持しなかった場合は、補助金を返還することになると公募要領に書かれています。なお、県の「経営資源引継・事業再編事業費補助金」の交付を受けた事業者は、買い手支援Aに申請できません。

買い手支援B:譲り受ける側の専門家費用

M&Aで譲り受ける側が、専門家と連携して進める取組の費用を補助します。

  • 特定の売り手と、事業承継に向けて交渉を始めていること
  • 事業承継(基本合意を含む)が、交付決定日より前に行われていないこと

売り手支援:譲り渡す側の専門家費用

譲り渡す側の、専門家と連携する取組の費用を補助します。

  • 事業の譲渡に向けて、専門家等と具体的に相談していること
  • 事業承継(基本合意を含む)が、交付決定日より前に行われていないこと

株式譲渡の場合は、株式を発行している会社と、議決権の過半数を持つ支配株主または株主代表が共同で申請します。

買い手支援B・売り手支援で対象になる経費

買い手支援Bと売り手支援では、謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料が対象です。公募要領では、委託費の例として次のものが挙げられています。

  • FA(ファイナンシャル・アドバイザー)・仲介費用
  • 企業価値・事業価値・株式価値などの価値算定費用
  • デューデリジェンス費用
  • 最終契約書などの作成・レビューを弁護士に委任した費用

このほか、M&Aマッチングプラットフォームの登録料・利用料や、表明保証保険の保険料も対象になります。ただし、交付決定前にプラットフォームへ登録している場合、登録料と成約手数料以外の利用料は対象外です(成約手数料は、交付決定後に成約した場合に限り対象)。バーチャルデータルームなどの使用料も対象外です。

謝金や委託費の支払先となる「専門家等」は、事業承継の支援実績があり、次のいずれかに当てはまる者です(このほか、環境調査を行う者の区分もあります)。

  • 認定支援機関(経営革新等支援機関)に登録している者
  • 弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士などの国家資格の有資格者
  • M&A支援機関登録制度に登録している者
  • その他、知事が特に必要と認める者

対象になる取引・ならない取引

第三者承継枠の対象は、親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)以外の第三者への事業承継です。従業員への承継も含まれます。

株式譲渡や事業譲渡など、経営権や事業の移転を伴う取引が対象です。対象外となる代表的なものは次のとおりです。

  • 業務提携など、経営権や事業の移転を伴わないもの
  • 株式の取引で、譲り受ける側が議決権の過半数以上を取得しないもの
  • 事業譲渡で、設備・従業員・顧客などの経営資源が一体として引き継がれないもの。設備だけ、営業権などの無形資産だけの譲渡・譲受は、原則として要件を満たしません(公募要領では、飲食店の居抜き物件などによる設備のみの譲渡や、ECサイトの運営権と商品の譲渡が例として挙げられています)
  • 事業の一部の譲渡や会社分割で、重要な一部(譲渡者の総資産額の5分の1または売上高の10分の1)に当たらないもの
  • グループ内の事業再編と判断されるもの

このほか、資産保有型会社・資産運用型会社に関するものも原則として対象外です。詳しくは公募要領でご確認ください。また、県内の中小企業が持つ経営資源を、引き続き県内で活用するものであることが要件です。

親族承継枠(株価算定支援)

親族への事業承継を目的として、専門家等に株価の算定を委託する費用を補助します。上限は20万円です。株価の算定以外の費用や、不動産の評価だけを行う費用は対象外です。

申請前に知っておきたい注意点

申請の前に県への事前相談が必要

公募要領では、交付申請の前に必ず県に事前相談をするよう求めています。問い合わせと事前相談は電話のみの対応です。最初の相談から交付決定まで、書類のやり取りを含めて通常2〜3週間かかるとされています。

交付決定より前に始めたものは対象外

補助の対象は、交付決定日から2027年3月15日(月)までに実施した事業です。買い手支援B・売り手支援・親族承継枠では、交付決定日より前に着手(発注、契約、登録、申込など)した経費は対象になりません。買い手支援Aは、交付決定日以降に支払う賃金の計算期間の初日が着手日とされ、交付決定日より前に支払った人件費は対象になりません。

ただし、委託費のうちFA・仲介業務の成功報酬(中間報酬を含む)は、交付決定前に委託契約を結んでいても、補助事業期間中に特定の相手と交渉を始め、交付決定後に基本合意・最終契約を結び、それに基づいて交付決定後に支払ったものは対象になります。その場合、FA・仲介業者の支援を受けて特定の相手と交渉を始めたことがわかる書類と、成果物(契約書等)の提出が必要です。基本合意・最終契約を補助事業の開始前に結んでいた場合や、成功報酬の支払いが補助事業期間を過ぎた場合は対象外です。

補助金の申請書類の作成代行費用は対象外

謝金の対象外の例として、「本補助金に関する書類作成代行費用」が明記されています。そのほか、FA・仲介契約を結ぶ前のコンサルティング費用、事業承継に伴う債務整理(法的整理・私的整理)の費用、経営資源の引き継ぎを伴わない不動産売買の費用も対象外です。

現金払いは対象外、補助金は後払い

買い手支援B・売り手支援・親族承継枠では、現金で支払った経費は対象になりません。支払いは金融機関への振込みが原則です(親族承継枠は振込みに限られます)。消費税などの公租公課や振込手数料も対象外です。補助金は、事業の完了後に実績報告書類の審査を経て支払われます。

他の制度との重複は不可

国・県・市町村などの他の制度で同じ内容の事業を実施している場合は、交付決定されません。

国にも、事業承継やM&Aの専門家費用を補助する制度があります。国の制度については、事業承継・M&A補助金とは?4つの枠と使い方を中小企業診断士が解説をご覧ください。

よくある質問

Q. 個人事業主でも申請できますか?

第三者承継枠は、神奈川県の個人事業税または法人県民税の対象となる事業者であれば、対象になり得ます。親族承継枠(株価算定支援)は法人県民税の対象となる事業者が対象のため、個人事業主は対象外です。いずれも中小企業者であることなどの要件があるため、事前相談で確認してください。

Q. いつまでに申請すればよいですか?

募集期間は2027年1月29日(金)までですが、予算がなくなり次第締め切られます。事前相談から交付決定まで通常2〜3週間かかるため、早めの相談をおすすめします。

Q. M&A仲介会社への手数料は対象になりますか?

買い手支援B・売り手支援の委託費として、FA・仲介費用が対象経費の例に挙げられています。支払先は、上で紹介した「専門家等」に当てはまる必要があります。

まとめ

神奈川県事業承継補助金は、買い手・売り手のどちらにも支援区分があり、引き継いだ従業員の人件費を対象とする区分もある県の制度です。

一方で、申請前の電話による事前相談が必要なこと、交付決定前に着手した経費は対象外になることなど、段取りを誤ると使えなくなる点もあります。M&Aの交渉のどの段階で申請するかを、早めに考えておくことが大切です。

M&A仲介手数料と補助金の関係については、M&A仲介手数料も補助金対象に?専門家活用枠の仕組みと申請の注意点もあわせてご覧ください。

参考(公式情報)

執筆・監修

木下 綾子

中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。


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