事業承継やM&Aにかかる専門家への費用は、決して小さくありません。東京都内の中小企業などを対象に、その費用の一部を助成する制度があります。東京都中小企業振興公社(以下「公社」)の「事業承継支援助成金」です。
こんにちは。中小企業診断士の木下綾子です。
令和8年度の第3回は、2026年10月13日(火)から申請受付が予定されています。 この記事では、4つのタイプの違い、申請の前に必要な準備、対象外になりやすい経費をまとめます。
※この記事の内容は、2026年9月29日(火)時点で公社の公式ページと令和8年度募集要項を確認したものです。申請の際は、必ず最新の公式情報をご確認ください。
東京都の事業承継支援助成金とは
事業承継支援助成金は、都内の中小企業が事業承継や経営改善に取り組む際に、外部の専門家などに委託する費用の一部を助成する制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成限度額 | 200万円(申請下限額20万円) |
| 助成率 | 助成対象経費の2/3以内 |
| 助成率の特例 | 小規模企業者がA・B・Dタイプで「企業価値や事業価値の算定」に取り組む経費は10/10以内 |
| 助成対象期間 | 交付決定日から8か月後の末日まで |
| 申請方法 | 電子申請システム「Jグランツ」のみ(GビズIDプライムが必要) |
小規模企業者とは、中小企業者のうち、基準日(第3回は2026年10月1日)時点で常時使用する従業員が、製造業・その他は20人以下、商業(卸売業・小売業)・サービス業は5人以下の事業者です。
4つのタイプと対象経費
申請できるのは、次の4タイプのうち1つだけです。同じタイプの中であれば、複数の経費をまとめて申請できます。
Aタイプ(後継者未定):第三者への承継(M&A等)
譲渡する側(売り手)だけが対象です。
- 自社株式の評価、財務・税務・法務・労務などのセルフ・デューデリジェンスなど、企業価値や事業価値を算定するための委託費
- 後継者候補を確保するための、人材紹介会社のサービス利用費
- ファイナンシャルアドバイザー(FA)やM&A仲介業者との契約にかかる費用(初期費用、中間金、成功報酬等)
FA・M&A仲介業者の費用は、公社の「短期支援」を受けた場合に限り申請できます。また、委託先はM&A支援機関登録制度の登録機関に限られます。この費用の申請は一企業につき一回までで、「地域金融機関による事業承継ネットワーク構築支援事業」で第三者承継支援を受けておらず、今後も受ける予定がないことも条件です。短期支援は、個別相談のあと公社担当者が月1回程度訪問し、6か月程度かけて実施されます。
Bタイプ(親族内又は従業員承継):後継者への承継
- 自社株式の評価やセルフ・デューデリジェンスなど、企業価値や事業価値を算定するための委託費
- 株式譲渡や相続手続きなどにかかる外部専門家への委託費
- 将来の経営を担う中核人材(幹部社員)を確保・育成するための、人材紹介会社の利用や研修の委託費(採用時に課長級以上の社員が目安)
申請には事業承継計画書の作成が必要です。法人版事業承継税制(特例措置)に関連した経費で申請する場合は、成果物(都道府県発行の確認書など)の受領と支払いまでを、助成対象期間内に完了する必要があります。
Cタイプ(企業継続支援)
令和7年度に公社の「企業継続支援」を受けた事業者が、事業承継に向けた経営改善に取り組む場合のタイプです。中核人材の確保・育成、社内の管理システムの構築、組織・人事体制の整備、市場調査、ホームページやパンフレットの作成などの委託費が対象です。
Dタイプ(譲受支援):事業や株式を譲り受ける側
M&Aで譲り受ける側(買い手)が使えるタイプです。
- 財務・税務・法務・労務などのデューデリジェンスなど、企業価値や事業価値を算定するための委託費
- 契約書の作成やレビューのための委託費
- 事業統合(PMI)計画の策定のための委託費
ただし、対象となる取引には条件があります。たとえば株式の譲受の場合は、譲り受ける側が議決権の過半数以上を取得することが必要です。親族間の事業承継に相当するものや、物品・不動産のみの売買に相当するものなどは対象外です。また、公社の現地診断を受ける必要があります。
第3回のスケジュール
募集要項に記載された第3回の日程は次のとおりです。
| 項目 | 第3回 |
|---|---|
| 基準日 | 2026年10月1日(木) |
| 現地診断の実施期間 | 2026年10月13日(火)〜12月8日(火) |
| 申請前面談 | 申請日の前日までに受ける(面談の申込みは10月13日から予定) |
| 申請受付 | 2026年10月13日(火)〜12月15日(火)17時 |
| 交付決定日(予定) | 2027年3月1日(月) |
| 助成対象期間 | 2027年3月1日〜2027年10月31日(8か月間) |
| 実績報告 | 事業完了後15日以内 |
助成対象期間は交付決定日から始まるため、第3回で申請する場合、委託契約は交付決定日(2027年3月1日予定)以降になります。M&Aの進み具合と、どの回で申請するかを合わせて考える必要があります。
申請できる事業者
基準日時点で、主に次の要件を満たす必要があります。
- 中小企業者であること(大企業が実質的に経営に参画していないこと)
- 都内に登記簿上の本店または支店があること(個人事業者は、納税地・主たる事業所等が都内にあることを開業届の写しで確認できること)
- 引き続き2年以上、都内で実質的に事業を行っていること(Dタイプは、公社の「TOKYO版創業・承継マッチング支援事業」を利用している創業2年未満の事業者なども対象)
A・Bタイプでは、さらに次の点も要件になります。
- 今後10年以内に事業承継を予定していること
- 基準日時点で承継が済んでいないこと(代表権がまだ引き継がれていないこと)
- M&Aに取り組む場合は、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」に沿って進めること(Dタイプも同様)
このほか、税金の滞納がないこと、同一年度に本助成金で採択されていないこと、同じ内容で他の助成を受けていないことなども要件です。詳細は募集要項をご確認ください。
申請の前に必要な「支援」と「面談」
この助成金の大きな特徴は、申請の前に、決められた支援機関の支援を受けているか、公社の面談を受ける必要があることです。
A・Bタイプでは、基準日の前年同日(第3回は2025年10月1日)から申請日の前日までに、次のいずれかの支援を受けている必要があります。
- 公社の「事業承継・再生支援事業」(個別相談、短期支援、TOKYO版創業・承継マッチング支援事業。企業継続支援は令和7年度に受けたもの)
- 東京商工会議所・町田商工会議所・東京都商工会連合会等の「地域持続化支援事業」
- 東京都信用金庫協会・東京都信用組合協会の事業承継に関する事業
- 東京信用保証協会の「専門家派遣事業」
- 東京都中小企業団体中央会の事業承継に関する事業
支援によって対象となる期間が異なるものがあります。詳細は募集要項をご確認ください。
まだ支援を受けていない場合は、申請前に公社の「申請前面談(個別相談)」を受ければ申請できます。公社以外の支援を受けた場合や、Dタイプで申請する場合は、公社による「現地診断」を期間内に受ける必要があります。
締切間際は面談が混み合うと募集要項にも書かれています。申請前面談・現地診断の申込みは10月13日から開始の予定です。第3回で申請する予定なら、早めに申し込むことをおすすめします。
対象外になりやすい経費
募集要項では、対象外の経費として次のようなものが挙げられています。
- 契約から支払までが助成対象期間内に行われていないもの(第3回では、2027年3月1日より前の契約が該当)
- 通常発生している顧問料
- 親会社・子会社、代表者の三親等以内の親族が経営する会社など、関連会社との取引
- 弁護士・税理士・行政書士などの有資格者にしか認められていない業務を、資格のない業者に委託した経費
- 委託業務のすべてを第三者に再委託した経費
- 消費税、振込手数料などの間接経費
とくに、日ごろ支払っている顧問料(通常発生している顧問料)は対象外です。また、通常業務・取引と混合して支払っている経費も対象外とされています。
国にも、事業承継やM&Aの専門家費用を補助する制度があります。国の制度については、事業承継・M&A補助金とは?4つの枠と使い方を中小企業診断士が解説をご覧ください。
よくある質問
Q. すでに後継者に代表を交代しました。申請できますか?
A・Bタイプでは、基準日時点で承継が済んでいないこと(代表権が引き継がれていないこと)が要件です。すでに先代が代表を退任し、後継者が単独で代表を務めている場合は対象外とされています。
Q. 会社を買う側でも使えますか?
使える可能性があります。Dタイプ(譲受支援)は、事業や株式を譲り受ける側のためのタイプです。ただし、株式の場合は議決権の過半数以上を取得することなど、対象となる取引に条件があります。また、公社の現地診断を受ける必要があります。デューデリジェンス、契約書の作成・レビュー、PMI計画の策定などの委託費が対象です。
Q. M&A仲介会社の手数料は対象になりますか?
Aタイプ(譲渡側)で、公社の短期支援を受けた場合に限り、FAやM&A仲介業者との契約にかかる費用(初期費用、中間金、成功報酬等)が対象になります。委託先はM&A支援機関登録制度の登録機関に限られます。なお、この費用の申請は一企業につき一回までです。短期支援は個別相談のあと6か月程度かけて実施されるため、スケジュールには余裕を持つ必要があります。
まとめ
事業承継支援助成金は、売り手・買い手・親族内承継のそれぞれに対応するタイプがある、東京都内の中小企業向けの制度です。上限200万円、助成率2/3以内で、小規模企業者が企業価値の算定に取り組む場合は10/10以内まで助成されます。
一方で、申請の前に支援機関の支援や公社の面談が必要です。交付決定前に契約した経費は対象外になるなど、段取りを誤ると使えなくなる点にも注意が必要です。第3回の受付開始(2026年10月13日)に向けて、早めに準備を始めましょう。
M&A仲介手数料が補助金の対象になる場合の仕組みについては、M&A仲介手数料も補助金対象に?専門家活用枠の仕組みと申請の注意点もあわせてご覧ください。
参考(公式情報)
- 事業承継支援助成金(公益財団法人東京都中小企業振興公社)
- 申請・問い合わせ先:公社 総合支援課 事業承継・再生支援事業事務局(電話 03-3251-7885)
執筆・監修
中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。
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