つまずきやすいパターンの整理と、買収後100日でやるべきことはM&A後の失敗はここで起きる|PMIでつまずく5つのパターンにまとめています。
「PMIとは、買収後の経営統合のこと」と、その1・その2でもお伝えしてきました。そして、数年後に「あのM&Aは成功だった」と評価されるために、PMIは最も重要なフェーズです。しかし、売り手経営者との基本合意が取れた後の作業を軽視する買い手経営者が多いと感じています。具体的には、担当者任せにし、時折進捗報告を求めて叱咤激励や思いつきの助言をするケースが散見されます。
もちろん、経営者が本来の業務や他の案件発掘に時間を費やしたいという考えは理解できます。しかし、M&Aの目的は経営課題の解決であり、統合によるシナジー効果の創出がその本質です。
本日は、私が実際に目にした事例をご紹介します。いずれも「そんなことが本当に?」と思えるような話ですが、実はよく耳にする事例です。ご自身の周りで同じようなことが起きていないか、ぜひアンテナを立ててお読みください。
失敗事例1:計画立案が遅れ、準備不足によって新たな問題を生み出したケース
あるケースでは、経営者がM&A交渉に全力を注ぎすぎて、買収後の経営統合方針の立案を後回しにしてしまったことが問題の原因でした。「どの程度のシナジーを求めるか」といった意思決定が全くなされていなかったのです。
経営統合の方針は、「吸収型統合」で買収先を完全にコントロールするのか、それとも「連邦型統合」で相手の独自性や自立性を尊重するのか、といった重要な意思決定です。しかし、この大きな方針が決まっていないと、経営統合の担当者は業務の各項目で都度経営層の意思決定を仰がなければなりません。担当者側からすると、精神的にも、時間的にも、業務量的にも非常に大きな労力が必要になります。
例えば、従業員の処遇や人事制度、システム統合の有無、取引先や金融機関への対応など、さまざまな意思決定が後手に回りました。結果として、買収先の企業も業務に支障をきたし、特に大きなプロジェクトや広告活動などの判断が遅れ、次第に取引の失注が増え、業績が大幅に低迷しました。
文章では「多少の準備不足くらいすぐに巻き返せるだろう」と考えるかもしれませんが、現実はそう甘くありません。M&Aの現場は常に動いており、大きな方針を後から策定しながら進めるのは非常に困難です。なぜなら、統合過程で新たな情報や短期的な利益・損失など、意思決定を妨げる要素が次々と現れるからです。
繰り返しになりますが「事前準備は入念に」という基本原則が再認識させられる事例です。
失敗事例2:情報共有の遅れが従業員の不安を引き起こしたケース
次に、統合後のコミュニケーション不足が原因で、買収先の従業員に不安や不信感を与え、結果的に重要な人材を失ったケースです。
このケースでは、統合計画自体はしっかりと立案されていたものの、「新たな情報が入れば柔軟に対応しよう」と、コミュニケーションの量や質および共有範囲を制限しました。その結果、計画の共有が遅れ、相手企業の従業員に不安感を抱かせることになりました。やがて、それは不満や反抗心を引き起こすことに繋がり、やがて、双方の関係がぎくしゃくするまでに発展してしまいました。
さらに、悪いことに、M&A交渉を担当していた相手側責任者(売り手)が買い手側と売り手側の間で板挟みになり、最終的に精神的なダメージを負って退職する事態にまで発展しました。自分が長年所属してきた売り手側の組織からは。「おまえは、どっちの味方なんだ?」と詰められ、買い手側からは、「どうしてそんな風になっているんだ?どうにかならないのか?」と責めよられたのです。
コミュニケーションや情報共有は、組織運営の基本です。誠意を持って、オープンかつ迅速に情報を共有することが重要です。特にPMIの初期段階では、従業員の不安を取り除くために積極的な情報共有が不可欠です。自分たちが統合したいと考えた相手先企業のこと、その企業の従業員を全面的に信頼しましょう。
PMIの失敗に共通する3つの原因
ここまでの2つの事例は、業種も規模も違いますが、つまずいた原因はよく似ています。PMIの失敗事例を並べていくと、次の3点に集約されることが多くあります。
1.統合方針を決めないまま走り出す
「吸収型で統合するのか、連邦型で相手の自立性を残すのか」という一番大きな方針が決まっていないと、現場は個別の論点ごとに経営判断を仰ぐことになります。人事制度、システム、取引先への説明——どれも単独では決められない論点ばかりで、決裁待ちの時間が積み上がります。方針は精緻でなくても構いません。決めた時点で現場が動けるようになることに意味があります。
2.情報共有の範囲を絞り込んでしまう
「確定してから伝えよう」という配慮が、買収された側の従業員には「何かを隠している」と映ります。事例2のように、不安が不信に変わってからでは説明の効果が落ちます。決まっていない段階でも「いま何を検討しているか」「いつ頃決まるか」を伝えるだけで、受け取り方は変わります。
3.買い手経営者が担当者に任せきりにする
M&Aの交渉には経営者自身が出るのに、統合の段階になると担当者に委ねてしまうケースがあります。しかし統合の局面で必要なのは、実務の細部よりも「どちらを優先するか」を決める判断です。ここを空席にすると、担当者は決められないまま板挟みになります。
小規模なM&AほどPMIの失敗が業績に直結する
従業員数十名以下の会社では、一人ひとりが担っている役割が大きく、キーマンが1人抜けるだけで売上や現場が回らなくなることがあります。大企業のM&Aであれば人員の厚みで吸収できる失敗が、小規模なM&Aでは直接業績に出ます。買収前のデューデリジェンスと同じくらい、買収後の100日をどう設計するかが重要になる理由はここにあります。
中小企業庁も2022年3月に「中小PMIガイドライン」を公表し、中小企業のM&Aにおける統合作業の進め方を整理しています。統合の型や、優先して着手すべき領域の考え方が示されているため、初めて買い手側に立つ場合は目を通しておくと判断の軸をつくりやすくなります。
個人や小規模事業者が買い手となるスモールM&Aの全体像は、個人がスモールM&Aで会社を買うには?探し方から成約までの流れを解説で解説しています。
よくある質問
PMIの失敗はいつ頃わかりますか?
多くは統合開始から数か月後に、離職・受注の失注・現場の停滞といった形で表面化します。ただし原因が生まれているのは、その前の「方針を決めなかった時期」「情報を出さなかった時期」です。表面化してから対処すると、すでに人が辞めた後ということが少なくありません。
小規模なM&AでもPMIは必要ですか?
必要です。むしろ規模が小さいほど一人あたりの影響が大きいため、統合方針と従業員への説明はより丁寧に設計する必要があります。
PMIの費用に使える公的な支援はありますか?
「事業承継・M&A補助金」にPMI推進枠が設けられており、M&A後の統合に関する経費が対象になります。公募回ごとに要件・対象経費・補助率が変わるため、申請を検討する際は必ず最新の公募要領を確認してください。
まとめ
今回は、M&A後の統合作業における失敗事例を交えて、重要なポイントを解説しました。M&Aは、売り手企業の従業員だけでなく、買い手企業の従業員にとっても大きな変化を伴います。そのため、早めの情報共有によって不安を取り除き、信頼関係を築くことが重要です。
うまく進めることができれば、関係者のモチベーションを高め、さらに副次的な効果も期待できる優れた経営戦略です。慎重かつ大胆な経営判断が求められ、経営者としての手腕が試される場でもあります。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。
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