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事業再生にも使える特定調停①

法律の条文においてしばしば使われる「特定〇〇」

法律の条文でよく使われる言葉に「特定〇〇」というものがあります。これは、「〇〇のうち特別な規律が妥当するもの」といったニュアンスで用いられます。例えば「特定個人情報」(いわゆるマイナンバー)という言葉があります。個人情報保護法では、あらゆる個人情報を保護の対象としていますが、個人情報のうち、特定個人情報については、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆるマイナンバー法)という特別な規律が適用されます。

今回取り上げる特定調停もまた、民事調停のうち特別な規律が妥当する手続きです。

 

特定調停とは

調停という言葉になじみがない方もいるかもしれませんが、「公平中立な第三者(調停委員会)のもとで話し合いを行う」というイメージを持っておけばさしあたりは十分でしょう。

民事調停とは、「民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図る」(民事調停法第1条)というもので、要するに紛争を解決するために裁判所で話し合いを行うというものです。そして、特定調停とは、民事調停にいうところの「民事に関する紛争」のうち、「支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、…このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的」として行われる調停をいいます(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調停法」といいます。)第1条)。

すなわち、特定調停とは債務整理に特化した調停である一方、「債務者等の経済的再生」を企図する点で倒産手続の一つに位置づけられるものです。特定調停法上、特定調停は、個人・企業のいずれもが利用できる制度となっています。

個人の特定調停の利用例としては、新型コロナウイルスの影響での失業や、収入・売上が減少したことなどによって、債務の返済が困難になった個人が弁護士の支援のもとで特定調停を申立て、債務の大幅な減額を行う(いわゆるコロナ版ローン減免制度)というスキームもあります。

しかし、最近企業の事業再生にこの特定調停を利用するスキームの活用が進められています。今回からは、この特定調停を使用した企業の事業再生スキームについて解説をしていきたいと思います。

 

特定調停とバンクミーティング

「話し合いをするのであれば、わざわざ裁判所に行かなくてもバンクミーティングをすれば足りるのではないか」、このように考える方もいると思います。

確かに、特定調停は、バンクミーティングと同様に、金融債権(金融機関が債権者である債権をいいます。)を対象とするものです。また、特定調停は倒産手続に位置づけられるものの破産や民事再生とは異なり、特定調停を申し立てたという事実が官報に掲載されることはなく、非公開で行われます。そして、特定調停はあくまで「話し合い」であるため、債権者と債務者との間で合意が整わなければ調停が不成立となり、結局債務の整理ができないままとなります。これらの点からすれば、特定調停は私的整理の側面があり、バンクミーティングとあまり変わらないともいえます。

しかし、特定調停はバンクミーティングとは異なり、裁判所という公平中立な機関による調整が期待できることのほか、一定の強制的な要素もあります。まず、債権者が判決等の債務名義を有している場合であっても、「特定調停の成立を不能もしくは著しく困難にするおそれがあるとき、または特定調停の円滑な進行を妨げるおそれのあるとき」は強制執行の停止ができるとされており(特定調停法第7条第1項)、債務者たる企業としては安心して調停を進めていくことができます。

そして、当事者間である程度の合意ができているものの細部が煮詰まらないときや、特定の債権者が合意に応じない場合などは、裁判所(調停委員会)が、職権で、案件の解決のために必要と考える決定をして、調停条項に代わる内容を提示することができます(特定調停に代わる決定ないし17条決定といいます。特定調停法第17条。なお、当事者間で合意が整い、調停にて決定された内容を調停条項といいます。)。

特定調停に代わる決定は、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てればその効力を失いますが、実務上、積極的な同意よりも、「異議を出さない」という消極的な同意の方が債権者としても受け入れやすい傾向があるため、活用されています。

調停条項や特定調停に代わる決定は、判決と同一の効力を有し、債権者による強制執行が可能となりますが(民事調停法第16条参照)、債権者からすれば判決と同様の効力があるから債務者が弁済をするであろうと考えるでしょうし、債務者からすれば強制執行をされるプレッシャーのもとで弁済に向けた堅実な経営を行っていく動機づけになるともいえます。

 

次回以降の予告

次回以降では、特定調停の具体的な流れや大阪地方裁判所での特定調停の運用、日弁連スキーム等について解説を行います。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久