「女性診断士」と呼ばれる違和感|女性起業家支援という枠について考えた

「女性診断士の木下さんです」

そう紹介されるたびに、ほんの少し、座りの悪さを感じてきました。

ありがたい場であることは分かっています。悪意がないことも分かっています。それでも引っかかる。

長く言葉にできずにいましたが、最近ようやく整理がつきました。同じ感覚を持つ方が少なくないと思うので、率直に書きます。

同じ試験を通った資格に、なぜ注釈がつくのか

中小企業診断士は国家資格です。男女で試験問題が違うわけでも、合格基準が違うわけでもありません。 同じ問題を解き、同じ基準で合格した人だけが登録されています。

それなのに「女性診断士」という呼び方が存在します。

確認方法は簡単です。「男性診断士の〇〇さんです」という紹介を、聞いたことがあるでしょうか。

ありません。男性の場合は「診断士の〇〇さん」「M&Aが専門の〇〇さん」——資格名か専門分野が、そのまま肩書きになります

背景には数字があります。女性の中小企業診断士は全体の5%程度と言われています。20人に1人です(試験の合格者ベースで見ても1割に届きません。同程度の難易度とされる社会保険労務士では、女性が4割近くを占めます)。

少数派だから目立つ。目立つから注釈がつく。理屈は分かります。

分かるのですが、その注釈は、私が何をやっている診断士なのかを一切説明していません。

そして「女性診断士だから」で仕事が割り当てられる

もっと引っかかるのは、その次に起きることです。

「女性診断士だから、女性起業家支援を担当してほしい」

実際に、こう言われたことがあります。女性活躍推進のセミナーに登壇してほしい、という依頼も届きます。

このつながりが、あまりに自然に発生します。

私の専門はM&A・事業承継・経営改善です。実際に会社を買って経営もしています(診断士としての歩みは中小企業診断士として独立するには?独立前に整えておきたい準備と心構えにも書きました)。専門分野で選ばれたのではなく、性別で役割が割り当てられている。 ここに、はっきりとした違和感があります。

もちろん、女性起業家の支援は意義のある仕事です。担当することが嫌なのではありません。選ばれた理由が専門性ではなかったことに引っかかるのです。

ここから、「女性起業家支援」という枠そのものへの違和感に話がつながっていきます。

違和感①:性別が先に来ると、事業が後ろに下がる

「女性起業家」と紹介されるとき、聞き手の頭に最初に入るのは性別です。何をやっている会社なのか、どんな価値を提供しているのかは、その次になります。

診断士のときと同じ構造です。経営者の標準形は男性であり、女性は「女性」という注釈が必要な存在。悪意なく、ごく自然に、そう運用されています。

違和感②:「支援」という言葉が含んでいるもの

支援とは、本来自力では難しい人に対して行うものです。だから「女性起業家支援」という言葉には、女性起業家は支援を必要とする存在である、という前提が最初から含まれています。

「女性活躍推進」も同じです。推進する主体は誰なのか。 活躍する当人ではなく、活躍「させる」側が主語になっている。自分の意思で事業を営んでいる人間が、施策の客体に置かれる。

支援を受けること自体が悪いのではありません。支援対象という位置に固定されることが引っかかるのです。

違和感③:数合わせの頭数として数えられる

委員会、審議会、登壇者リスト。「女性を1名入れたい」という理由で声がかかることがあります。

依頼する側に悪気はありません。比率の目標があり、それを満たす必要がある。事情は理解できます。

しかしその瞬間、求められているのは私の専門性ではなく、私の属性です。「あなたに来てほしい」ではなく「女性が必要」。この二つは、受け取る側からするとまったく違います。

そして厄介なのは、断りにくいこと。断れば「だから女性が集まらない」と言われかねない。引き受ければ数合わせに加担する。どちらを選んでも据わりが悪い構造になっています。

違和感④:支援メニューが「小さくやる前提」になっている

これが個人的には最も引っかかる点です。

女性向けの起業支援メニューを見てみてください。起業のはじめかた、ロールモデルとの交流会、両立セミナー、マルシェ出店——このあたりが並びます。

一方で、資金調達、M&Aによる事業拡大、事業承継、資本政策といったテーマが女性向け支援に登場することは、ほとんどありません。

つまり無意識のうちに、女性の事業は「小さく、無理なく、自分らしく」やるものという前提が置かれている。

言い方を変えれば、規模を扱う話から静かに外されているということです。事業を伸ばしたい、会社を買いたい、資本を入れたいという女性経営者は、そもそも想定されていません。

この前提は、単なる失礼では済みません。実際に、事業機会と資金へのアクセスの差になって返ってきます。

違和感⑤:期待される物語と、称賛という名の値引き

女性経営者として登壇すると、求められる話の型がだいたい決まっています。育児と両立しながら、共感を大切に、自分らしく。

その物語が本当である方もいます。素晴らしいことです。しかし当てはまらない人が語る場所は用意されていない。多様性を掲げる枠組みが、逆に同質性を要求してくるという皮肉が起きています。

そしてもう一つ。「女性なのにすごいですね」。

この言葉は、女性の標準値を低く見積もっていることを、言外に含んでいます。褒めているつもりで、比較の物差しを下げている。称賛の形をした値引きです。

それでも、この構造はなくせない

ここからは、診断士として冷静に見ます。

私はこの構造が当面はなくせないと考えています。

制度は対象を定義しないと設計できません。格差を是正しようとすれば「どの層に」という線引きが必ず要る。だから属性で括ることになり、括られた側は特別扱いの座りの悪さを引き受けることになります。

そして、統計上の格差は実在します。診断士の女性比率5%もそうですし、融資の受けやすさ、意思決定層の比率、家庭内の負担配分もそうです。個人の実感がどうであれ、全体としては差がある。 その是正を目指す制度設計そのものを、私は否定しません。

これは制度が間違っているという話ではなく、制度と個人の間に必ず生じる摩擦の話です。

それでも、当社はえるぼし認定を取りました

当社は2024年に厚生労働省の「えるぼし」認定を取得しています。女性活躍推進に取り組む企業の認定制度です。

ここまで違和感を書いておいて矛盾しているように見えるかもしれません。でも、これが私の答えです。

違和感は違和感として持っておく。制度は実利で判断して使う。

認定があれば公共調達で加点されることがあります。採用の場面で信頼の材料になります。何より、自社の労働環境を客観的な基準で点検する機会になりました。使う価値があるから使った。それだけです。

「気持ち悪いから関わらない」という態度は、筋が通っているようで、実際には自社の選択肢を狭めているだけです。経営判断としては、賢くありません。

違和感を持つことと、制度を使わないことは、別の話です。

経営者として、私が決めていること

1. 呼ばれ方は選べなくても、話す中身は選べる

「女性診断士として」と振られても、私が話すのは事業の話です。M&Aの実務、数字の見方、失敗したこと。属性で呼ばれても、中身で記憶してもらう。そこは自分でコントロールできます。

2. 支援は「受ける」ものではなく「使う」もの

主語を自分に戻すだけで、位置づけが変わります。補助金も認定制度も、経営資源のひとつ。支援される側ではなく、制度を使う側。 この意識の差は、実際の交渉態度にも表れます。

3. 小さくやることを前提にしない

④で書いた「小さくやる前提」に、自分から乗らないこと。事業を伸ばす、会社を買う、資本政策を考える。個人が実際に会社を買う手順は個人がスモールM&Aで会社を買うには?探し方から成約までの流れにまとめています。用意されたメニューの外側にある話を、自分で取りにいく。

女性向け支援に載っていないからやらない、では前提を追認するだけです。

まとめ

  • 同じ試験を通った資格なのに「女性診断士」という注釈がつく(女性は全体の5%程度)。そしてその注釈は、何を専門とする診断士なのかを何も説明していない
  • さらに「女性診断士だから女性起業家支援を」と、専門性ではなく属性で役割が割り当てられる
  • 「支援」「推進」という語には、支援される側・活躍させられる側という位置づけが埋め込まれている
  • 数合わせの頭数として扱われ、断ることも受けることも据わりが悪い
  • 女性向け支援メニューは「小さくやる前提」で設計されがちで、規模を扱う話から静かに外されている
  • ただし制度は対象を定義しないと作れず、統計上の格差も実在する。制度が間違っているわけではない
  • 違和感は持ったまま、制度は実利で使う。 当社がえるぼし認定を取ったのはそのため

「女性診断士」「女性起業家」という言葉が要らなくなる日が来るとすれば、それは制度がなくなるからではなく、わざわざ注釈をつける必要がなくなるからです。

そのためには、括られることを嫌がって黙るより、括られた場で結果を出すほうが早い。そう考えています。

当社では、中小企業診断士がM&A・事業承継・経営改善の実務支援を行っています。「事業を伸ばす側」のご相談を、規模や属性を問わずお受けしています。

執筆・監修

木下 綾子

中小企業診断士/株式会社ステラコンサルティング 代表取締役
『個人でできるスモールM&A実践録―銀座のネイルサロンを買収した中小企業診断士』著者。M&A・事業承継・経営改善の実務支援を行う。


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