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M&A取引において売り手に説明義務はあるか

取引としてのM&Aに存在する買い手のリスク

M&Aにおいては、さまざまなリスクがあります。このうち、M&Aを取引としてみた場合は、「M&Aの対象となる事業(以下本稿において「対象事業」といいます。)が想定していた内容と違った」・「対象事業におけるそのような事情は聴いていなかった」というのが買い手にとってもっとも典型的なリスクではないでしょうか。

もちろん、買い手は、対象事業について、事業面、財務面、法務面等の各側面からデューディリジェンスを行うなどして対象事業の内容の把握に努めるのが一般的です。しかしながら、デューディリジェンスが極めて短期間で行われるものであることなどから、買い手が対象事業の内容を完全に把握することが容易でないことも少なくありません。

 

売り手が買主に対して負う説明義務の内容

この点について、しばしば「売り手から十分な説明がなかったために、想定外の不利益な内容が含まれる契約をしてしまった。」という相談を受けます。

例えば、不動産取引において、宅建業者が不動産を売却する際には、法律上説明義務を負っています(宅建業法第35条参照)。では、M&Aにおいて売り手は買い手に対して、対象事業に関する説明義務を負うのでしょうか。

この点について参考となるのが、売り手が真実は債務超過であったにもかかわらず、不当に高い価格で株式を買い取らせたとして買い手が売り手に対して株式購入代金に相当する額の損害賠償を請求した事案です(大阪地判平成20年7月11日判時2017号154頁)。

この判決の事案では、売り手に「売買契約において、売主が買主に対し、目的物の性状や価値について虚偽の説明をしてはならず、その意味における説明義務(消極的な説明義務)を負う」としました。

しかし、消極的な説明義務のほか、買い手の判断に影響を及ぼすと考えられる目的物についての情報を自ら積極的に開示すべき義務(積極的な説明義務)については、「購入の是非や条件を判断するのに必要な目的物に関する情報の内容や、買主が当該情報を自ら保有し又は調査によって獲得することが可能かなどの諸事情を考慮して、契約の類型ごとに判断すべきものと解される」として、常に負うわけではないとしました。

そして、買い手は「事前に、被買収企業の法的問題点、資産価値や収益力、将来性等を評価した上で、当該会社を買収することが自らにとって利益となるか否かや、買収のために拠出する資金の額等を判断することが必要であり、その交渉においては、買収企業による被買収企業についての調査が当然予定されている」としました。

そのうえで、買い手が「東証一部に上場する企業であり、…財務状況等の調査を行うだけの十分な能力を備えていた」ことを根拠に買い手が積極的な説明義務を負うことを否定し、損害賠償請求も認容されませんでした。

このほか企業買収において資本・業務提携契約が締結される場合、企業は相互に対等な当事者として契約を締結するのが通常であるから、特段の事情がない限り、相手方に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないとした裁判例もあります(東京地判平成19年9月27日判タ1255号313頁)。

このように、裁判例では、原則として売り手には積極的な説明義務を負うことはないと考えられていることがうかがえます(なお、裁判例のなかには売り手に積極的な説明義務があり、当該義務に違反したとしたものがあります(東京地判平成15年1月17日判時1823号82頁)。これは、売り手の説明により買い手に事実と異なる認識を生じさせたにも関わらず、これを是正しなかったというもので、やや特殊な事案であるといえます。)。

 

買い手にはどのような対応が求められるか

裁判例で売り手に積極的な説明義務がないとされるのは、M&A取引が企業同士という、いわば対等な当事者間の取引であるというところにあると思われます。

具体的には、売り手は買い手の調査に誠実に対応し、求められた事項について正確な情報を開示するなど可能な限り買い手の調査に協力すべき義務を負い、かつそれで足りる一方で、買い手としても売り手が調査に協力しなかったり、調査の結果問題が判明したりする場合には、M&Aをやめるという選択肢があることです。要するにM&Aには、私的自治の原則が広く妥当するということなのでしょう。

買い手としては、売り手の説明を鵜呑みにするのではなく、常に「その説明の根拠は何か」、「その説明に矛盾点はないか」と多面的に検討することが求められるだけでなく、限られた時間であっても、丁寧なデューディリジェンスを行うことやデューディリジェンスでカバーできないところは表明保証を行うなどの対応をすることがリスクマネジメントとして望ましいのではないでしょうか(なお、表明保証が万能ではないことについては、拙稿「本当はこわい表明保証条項」(https://stella-consulting.jp/archives/577)もご参照ください。)。

また、訴訟となった場合、契約書に書いてあることと異なる内容の合意があったことや契約書に規定していないことについて合意があったことを立証することは、非常に困難であることが通例です。したがって、買い手と売り手の交渉の際に売り手から口頭で提示があった取引の条件についても、口頭で済ませるのではなく、契約書に特約として明確に規定しておくということも重要であると考えます。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久

デューデリジェンスを成功させるポイント その6(人事DD)

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。今回は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

ツナグ:今回は、人事DDのお話だけど。ここが一番やっかいというか、たいへんだなって感じているんだ。だって、「企業は人なり」っていう有名な格言があるくらいだから。慎重にしなきゃいけないでしょ?苦手なんだよね・・・。

 

人事DDの留意点

確かに、ツナグさんの言う通りですね。とても重大なフェーズであることは間違いありません。なぜなら、これまでの買収先の業績を支えてきた、大切な人材ですからね。そして、これから私たちと一緒に、これまで以上の力を発揮していただきたいわけですから。

ただ、一方で、人事DDは非常に広範なため、優先順位を設定して、範囲を限定しリスクをとる姿勢も大切になります。たとえば、他のDD結果の分析などから発生確率が高いと思われる分野かつハイリスクなテーマや合併の戦略的目標に直結するテーマに焦点を当てて、優先的に取り組むことが考えられます。逆に言うと、調査コストとリスクの大きさを比較検討した上で調査範囲を決定することも必要と言えます。
また、全ての情報を一度に集めようとするのではなく、段階を踏んで情報を収集します。初期段階での高レベルの分析から始め、必要に応じてさらに詳細な調査に進むという方法です。

 

人事DDの代表的な調査テーマ

人事DDの一般的な範囲は、以下の通りですが、特に、将来の業績見通しに直結するような賃金制度、残業代や社会保険料未払い分の支払いなど、臨時の支出発生など財務面には十分注意してください。また、労働関連法規や契約違反、契約不備など法的なリスクについては、法令違反、罰金、賠償、ブランド毀損などの恐れがありますので、見落とさないよう、優先度を上げた対応が必要です。

 

・人員構成や人件費

部門ごとの従業員の人数、年齢、性別、勤続年数、職務内容、労働条件を詳細に把握します。給与については、その内訳や水準、支給ルールについて調査します。退職金制度や福利厚生(健康保険組合、厚生年金基金を含む)などの給与以外についてももれなく行います。また、役員退職慰労金制度や役員の生命保険加入状況、残業代の未払いやパートの社会保険未加入問題などへの注意が必要です。
特に、労働条件については、経営統合後の調整業務が避けて通れないテーマになる可能性が大きいテーマですので、その違いの把握はしっかり行いましょう。

・組織構造と職務権限について

組織構造、各組織の職務権限、職務分掌について確認します。組織図と実際の業務運営が一致していないケースも見受けられますので、直接ヒアリングなども必要に応じて実施します。例えば、小さな組織では、指揮命令系統や職務分担があいまいなことも多く、改善作業が必要になることがあります。
さらに、統合作業や統合後のシナジーの実現にかかわるキーパーソンについては、特に把握しておきたいポイントです。売り手企業の従業員さんのモチベーションや退職意向など、本人はもとより、周辺からの聞き取りなども慎重に行うようにしましょう。

・労使関係

労働組合の有無や加入状況はもとより、過去の労使交渉の記録など。統合作業中、統合後の経営への影響を把握してください。また、労働協約や労使問協定についても漏らさず確認しましょう。

 

専門家やITの活用

人事DDについては、他のDDに比べて、いろいろな面で専門性が高く、繊細なテーマですので、専門家との連携は不可欠とお考え下さい。例えば、労働関連法規に関する内容については、労働分野を専門とする弁護士や社会保険労務士が適任でしょう。また、給与、退職金、年金などの計算については、社会保険労務士や会計士へ依頼することが検討できます。

加えて、従業員数が多いケースでは、クラウドサービスなどを活用することも検討してください。情報の一元化および、迅速な分析が可能になります。現状の把握だけではなく、今後の人件費推移などの予測にも非常に役立つサービスが提供されています。もし、自社で活用しているサービスがなければ、これを機会に導入することも検討すべきです。

 

まとめ

今回は、人事DDに絞ってツナグと一緒に学びました。人事DDでは、上述の通り、内容によっては、一定程度過去に遡ることも、未来を予測することも必要なため、その調査・分析範囲は膨大です。ポイントは、優先度の高いところから、順に調査すること、そして、許容できるリスクの大きさや種類について、あらかじめ、検討・設定しておくことです。
なんらかのリスクが見つかった場合の対応策については、次回、ツナグも交えて、一緒に学びたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

デューデリジェンスを成功させるポイント その5(ビジネスDD)

デューデリジェンス(DD)は、M&A取引において非常に重要な手続きで、取引の成否を左右する要素です。M&Aではリスクの大半を買い手が負担することになるため、DDを通じて対象企業のリスクを正確に評価することが極めて重要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、それぞれの分野ごとの留意点について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

ツナグ:やっとビジネスDDまで来たね。ビジネスDDは、最初の着手提案(事業計画を始める際の初期提案)の際にまとめたものがあるからもういらないよね?

着手提案の際は、あくまで、オープンデータをもとに仮設した内容に沿った大まかな計画でしたよね。ここでは、詳細な顧客データを基にした、既存事業と同程度中継計画を策定する必要があります。なぜなら、これは、追加投資のタイミングや総額、それによるリターン(いつ、いくらで発生するか)や投資回収の完了時期など、詳細な情報が経営判断に不可欠だからです。

さらには、下振れリスク(成果が予想を下回ってしまうリスク))と下振れした場合の数値、加えて下振れリスクへの対策案などなど。シナジーが見込まれる関連事業部のメンバーも計画書策定に参画してもらいましょう。

 

外部環境分析

着手提案で行った内容とほぼ同じになりますが、以下のような視点が必要となります。
・市場規模の推移および将来の見通し
・競合他社のシェアや動向
・市場(ユーザーや価格)の動向
・仕入先の動向や原材料価格の推移
・代替品、新規参入の動向
・その他(法的規制、技術開発など)
これらが、買収する事業運営にどのような影響を及ぼすのかについて定量的・定性的にまとめましょう。

 

内部環境分析

内部環境分析では、主に、買収によるメリット、デメリット、デメリットへの対策などの視点で分析を行います。これにはビジネスモデル、研究開発、調達、生産、物流、販売、サービス、経営管理、人的資源、技術・ノウハウ、ネットワークなどの情報資産、設備などの物的資産などが含まれます。これらの要素について、その特徴、強み、問題点、課題などが分析すべき視点です。

 

事例紹介

私が、過去に携わったビジネスDDの事例では、売り手から提示された数値計画とは別に、買い手サイドで数値計画を立案したことがありました。そのために必要な、過去の社内会議資料や顧客データベースなどの情報提供と、担当者のヒアリングに協力をお願いしました。決して、売り手側の計画に不信感を持っていたわけではありません。この一見、無駄な作業のように感じられることを行うことで、売り手のビジネスモデルや連携先などを深く知るとともに、買収後の営業活動計画について、準備を始めることができ、結果として、早期に成長軌道に乗せることに成功しました。

 

シナジー効果の試算

自社の既存事業や既存の経営資源とのシナジー効果を分析は、バリューチェーン分析を活用すればよいでしょう。
バリューチェーン分析とは、企業が、製品やサービスを消費者に届けるまでの全活動について、それぞれどのように価値を生み出しているかを分析する手法です。シナジー効果を試算するためには、買収事業についても、バリューチェーン分析の切り口で分析を行い並記します。これにより、各活動でどのようなシナジーがあるのかについて明らかにします。

具体的には、研究開発や商品企画、仕入れ、仕入れ物流、生産・加工、製品物流・配送、営業販促、サービスに加えて、ヒト・モノ・カネ・情報の視点をとりれることで抜けもれのない分析が可能になります。また、自社既存事業で発生するメリット、既存事業が買収事業へ寄与できること、重複活動を削減するメリットなどを分析します。必ず、売上アップに関するシナジーとコストダウンによるシナジーの両面から検討しましょう。

ここで明らかになったシナジー効果は、定量的に表現することで数値計画に反映することができます。その結果、投資回収期間の試算を通じて、買収価格の検討材料とすることができます。

 

まとめ

今回は、ビジネスDDに絞ってツナグと一緒に学びました。ビジネスDDでは、着手提案の段階で仮説していたことの検証作業、あるいは疑問点などの解消を通じて、買収戦略を評価する作業だと捉えてください。社内提案など、ここまですでにいろいろな労力が発生していると思いますが、それらはいったん脇に置き、すでに自社の事業であるとの認識に立ち、正しい経営判断に必要な精緻な計画を立案を目指しましょう。

 

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中小企業診断士 山本哲也

ちょっと待って!M&Aに潜む労務リスク

1.M&A後に顕在化する労務問題

2023年8月、親会社であるセブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武の米国投資ファンドへの売却について、そごう・西武の労働組合が会社売却に反対してストライキを行ったのは記憶に新しいでしょう。M&Aの際の労務管理がいかに重要であるかがクローズアップされた事件でした。

しかし、M&Aにおける労務面の課題は労働組合対策ばかりではありません。

むしろ、中小M&Aでは、上場会社のように会計監査や情報開示が不徹底な分、M&A後に顕在化する課題が多くあるのです。

今回は、買い手企業の立場から、M&Aの際に留意すべき労務課題について考察していきたいと思います。

 

2.M&A手法によって異なる労務リスク

中小M&Aではどのような労務リスクが課題となっているのでしょうか。件数の多い株式譲渡と事業譲渡を中心に、会社法上の組織再編行為によるM&Aについて労務リスクの特徴を見ていきましょう。

 

(1)株式譲渡

株式譲渡によるM&Aの場合、売り手企業(労働契約の主体である使用者)と従業員の間の権利義務関係に変更はないため、M&A前の労働契約は、原則としてそのまま継続します。

そのため、雇用関係の視点では直ちに問題が発生することはありませんが、M&A前に、未払い賃金(含む残業代)などの偶発債務や、従業員からの訴訟による損害賠償請求などがあった場合には、買い手企業は買収した企業を経由して、その関係を承継してしまうことになるのです。

 

(2)事業譲渡

事業譲渡によるM&Aの場合、労働契約の承継に従業員の個別の「承諾」が必要になります。つまり、売り手企業の経営陣と合意したからといって従業員も自動的に承継できるわけではないのです。事業に従事してもらう必要がある従業員に対して、M&A後の労働条件について事前に十分に説明し納得してもらう必要があるのです。

また、一方、売り手企業との間で労働問題があったとしても、原則、売り手企業との間で処理してもらうことになるため、労務リスクについて、十分事前調査を行えない場合には、有力なM&A手法になります。

 

(3)会社分割・合併(組織再編)の場合

会社分割によるM&Aの場合、「労働契約承継法」が定める手続に従って対応する必要があります。同法により、売り手企業の事業に係る権利義務(全部または一部)が買い手企業に包括的に承継されるため、M&A前の労働条件もそのまま買い手企業に承継されます。

したがって、株式譲渡の場合と同様に、未払い賃金や訴訟による損害賠償などの偶発債務が買い手企業に承継されてしまうことに留意が必要です。また、M&A後に買い手企業が労働条件を変更しようとする場合、労働条件の不利益変更とならないよう注意することも必要です。(*厚労省の指針を参照ください)

*「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000141999.pdf

 

合併によるM&Aの場合も、売り手企業の権利義務の全部が買い手企業に包括的に承継されるため、会社分割の場合と同様にM&A前の労働条件もそのまま買い手企業に承継されます。

偶発債務の問題や労働条件の不利益変更に該当するリスクなど留意することが必要です。

 

3.労務DD(Due Diligence)や表明保証条項等によるリスクヘッジの重要性

このように、M&Aの形態により留意すべき労務リスクは異なりますが、予防的な対策をとることが何より重要です。M&A後に、労務課題は発覚してからでは打てる対策が限られてしまいます。代表的なものとして、次のようなリスクヘッジ手法があります。

 

(1)労務DDによるリスクヘッジ

M&A前の交渉段階で、人事・労務に関する問題点がないかDDを実施します。内容としては以下のような観点での調査をします。

①人事・労務関係の法令遵守等

②人事・労務関係の内部規程類等の整備状況やその内容の適正性

③従業員との個別の労働契約関係等の適正性

ポイントは、労務DDは買い手企業側だけが実施するのではなく、最も社内の事情を把握しうる立場にある売り手企業自身にも実施してもらうことです。

時間外勤務時間の計算間違いなどは、売り手企業自身が把握していないこともあり、M&Aを実施することになってはじめて発覚するということが珍しくありません。

但し、中小企業の場合、人事・労務の専門家が社内にいることはまれですので、社会保険労務士や弁護士に調査を依頼することも選択肢です。DD費用の負担が難しい場合には、法務DDの一部として実施してもらったり、報告書面の作成は省略して報告会などを開催してもらったりする方法もあります。

 

(2)表明保証条項によるリスクヘッジ

M&Aが株式譲渡や事業譲渡の形態で実施される場合、売り手企業と買い手企業の間で株式譲渡契約や事業譲渡契約(以下、「M&A契約」という)を締結します。

M&A契約にはM&Aを実行する前提条件として「表明保証条項」が規定されます。

主な内容として、次の3つがあります。

①M&A実行前に表明保証違反があった場合のM&Aの不実行および契約の解除

②表明保証違反により買い手企業に損害が発生した場合の売り手企業等による補償

③M&A実行後に表明保証違反があった場合の譲渡した株式や譲渡資産の買取り

 

但し、表明保証条項があったからといって万全ではありません。売り手企業の表明保証違反があり、買い手企業が売り手企業に損害賠償請求したとしても、M&A後数か月経過しているような場合、既に売り手企業は、譲渡代金を使ってしまっており、損害賠償を負担する資力がない場合があります。

また、表明保証条項には「知りうる限り」とか「知る限り」といった表明保証をする売り手企業の義務を限定する文言があります。「知る限り、未払い賃金等がない」となっている場合、時間外勤務の賃金を正しく計算し直せば従業員に対する未払い賃金があったとしても、M&A実行時に売り手企業自身が知らなければ免責される可能性が高いことになります。

表明保証条項を設けることによりM&Aにおける労務DD負担を軽減することはできますが、カバーできないリスクもあることを理解しておく必要があります。

 

(3)表明保証保険によるリスクヘッジ

表明保証保険とは、表明保証違反により当事者が被る損害をカバーする保険です。上記(2)に記載した通り、万が一、表明保証条項違反が発覚しても、売り手企業の経済的状況によっては損害賠償が実施なされない可能性があります。こうしたリスクをヘッジするのが表明保証保険です。表明保証保険加入により、被った金銭的被害を補うことが可能です。

但し、買い手企業に保険料負担が生じるため、中小M&Aのように買収代金自体が少額の取引の場合、十分に採算性を考慮して検討する必要があります。

 

4.経営統合の鍵は労務管理

M&Aにおける、人事・労務課題は、M&A実行時においてのみ留意すべきことではありません。買い手企業の視点では、M&A後のPMI(Post Merger Integration:経営統合プロセス)の段階において、より重要性が高くなります。

次回では、PMIにおける労務リスクと対策について取り上げたいと思います。

 

 

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)

 

デューデリジェンスを成功させるポイント その1

デューデリジェンス(DD)は、M&Aの際の最も重要な手続きの一つで、買い手にとっては案件の成否を決める要因となります。基本的に、M&Aのリスクは買い手が背負うことになりますので、DDの過程で買収対象企業のリスクを正確に把握することが必要です。本日は、M&Aの山場である”デューデリジェンス(DD)”について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

 

デューデリジェンスとは?

ツナグ:やっとデューデリジェンスまで来たね。これまでも相手先から資料を提供してもらって分析もしたし、追加の質問にも回答をもらっているし・・。今さらこれ以上のことを調べたって時間と費用の無駄じゃないのかなぁ・・。

そうですね。DDの目的は、相手先のリスク分析や価値算出だけではありませんよ。

ツナグ:ほかにはどんな目的があるのかな?

DDの目的は、大きく2つです。

まず、買収対象会社が抱えるリスクの抽出と続いて、買収後の経営統合の準備があります。リスクの抽出については、対象会社の規模にもよりますが、社内だけではなく社外の専門家(会計士や弁護士など)による入念な精査をした方がよいでしょう。買収価格が安いからと言って見えないリスクを抱えることには賛成できません。買収後にその分以上のコストや労力を支払うことになりかねませんから。

続いて、DDでは、基本合意や機密保持契約を締結したあとに行いますので、相手先から詳細な経営情報の提示を受けることができます。そのため、再度、この情報を元に精査することも重要なのですが、買収後の統合計画策定に役立てることも買収を成功だったと評価するために非常に重要なお仕事です。

ツナグ:なるほど!スタートダッシュのための準備は大切だよね!

 

DDには誰に依頼すべき?

DDと言えば、基本的には、お金に関することを調べる財務DD、契約や権利関係などに関することを調べる法務DD、ビジネスモデルや今後の市場性や収益性などを調べるビジネスDDに分けられます。これら以外にも人事DDやITDDなども加えて細分化して行う場合もあります。

財務DDでは、財務、会計、税務の面から過去の損益を調査し、現在と将来の損益予測の基盤を確かめる調査です。ただの会計ミスや簿外債務の確認だけでなく、将来の事業計画の妥当性を検証することが重要です。この妥当性は、買収価格や統合計画にも影響するため、ビジネスDDとの関連性も深く、財務DDはビジネスDDの数値的な裏付けとしての役割も果たします。実施は、監査法人や会計事務所、税理士法人、財務系コンサルティング会社に依頼することが多いです。

法務DDでは、法的リスクを特定し、リスクに見合った対策を講じるための調査です。例えば、金額に換算できるものは買収価格に反映させたり、リスクが現れた際に売り手がコストを負担するよう求めるなどの対策が取られます。特に、ビジネスの継続性が疑われるような重大な法令違反の可能性が検出された場合、買収を中止することも検討します。法務DDは必須の手続きで、通常は法律事務所や弁護士に依頼します。

ビジネスDDでは、ここまでに調査したビジネス性やシナジー効果について評価するための調査です。それぞれ、将来シミュレーションを行い、見通しが変わるようであれば、財務DDと総合的に判断し、買収価格に反映する必要があります。実施は、買い手企業自らが行うか、経営コンサルティング会社に委託することが多いです。

 

ケースバイケースで実施すべきDD

人事DDは、人事・労務の側面から統合効果やリスクを評価する調査です。経営統合によって従業員のモチベーションが低下し、期待した業績が達成できない事例が過去にたくさんあります。シナジーの視点でも、人件費の削減やスキルの移転による能力の向上などの可能性も調査しておきたいところです。実施は、人事コンサルティング会社や社会保険労務士に依頼することが多いです。

ITDDは、対象会社が活用している情報システムについて統合の可能性やその方法について明確にするための調査です。近年、業務プロセスとITは密接に関連しているため、統合によるシナジー効果や統合後のIT投資について事前に計画することがM&A成功の重要なポイントと言えます。特に、対象会社が親会社にIT面を依存していることは、よくある事例であり、統合後の大きな課題となります。実施は、自社のIT担当部門主導で、ITコンサルティング会社に依頼することが一般的です。

 

まとめ

今回は、M&Aの成否に大きく影響のある”デューデリジェンス”について、まずは概要部分をツナグと一緒に学びました。重要なことは、これまでの調査や交渉に費やした労力・コストとは、いったん切り離した調査と捉えて実施し、M&Aによるリスクやシナジーについてしっかり評価することです。くれぐれも「ここまで進めてきたから・・」などと考え、DD本来の目的を見失わないように留意ください。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

デューデリジェンスへ進む前にやっておくべきこととは?

売り手と買い手の間で重要な論点について話がまとまったら、基本合意の締結へと進みます。基本合意とは、M&Aについて売り手と買い手とが基本的な合意をしたことを、最終契約の前に文書にしておくものです。つまり、「この先、大きな行き違いがない限り、これでM&Aを実行しましょう」と言う意味を持ちます。
本日は、M&Aの大きな節目となる”基本合意”について、いつものとおり、M&A新任担当者のツナグと一緒に学んでいきたいと思います。

 

基本合意とは?

ツナグ:基本合意?DD(デューデリジェンス)もまだだし、仮契約みたいな感じかな?
そうですね。仮契約とは違いますが「これから、M&Aの取引成立に向けて、売り手と買い手とでお互い誠実に、前向きに、交渉を進めていきましょうね。そのための前提条件はこれらですよね」という感じですね。

 

ツナグ:「ふーむ。一般的な営業現場ではあまりない交渉スタイルだね」

確かに、あまり頻繁にはないと思いますが、巨大建造物やビッグイベントなどの大きな案件でも同様に、仮契約を締結することはあると思います。おそらく、売り手側は準備や提案のコストの回収を確定させ、買い手側は、案件の実行に道筋をつけられる。という双方のメリットを実現することが目的ではないでしょうか?一方で、M&Aの基本合意は、特に買い手にとって大きな節目になり、いくつかのメリットが発生します。

ツナグ:M&Aでは、買い手側にメリットが大きいんだね。なんとなく、買い物する側は、いつでも交渉から降りられるから、常に強い立場にあるイメージだけど・・・どんなメリットがあるんだろう?

 

買い手側にとっての基本合意のメリット

まずは、大枠ながら合意形成を文書にするわけですので、それによって「この取引はおそらく成立する、成立させなくてはならない」といった心理的拘束力が双方に期待できます。そして、先述のとおり、基本合意書には、「何ごともなければこのまま進めましょう」と言う意味合いがありますので、買収価格や譲渡スキームなど重要な論点の合意を盛り込みます。
基本合意書締結後は、DDへと進むのですが、DD終了後に大きな問題がなければこの基本合意で仮約束された金額で取引することが一般的ですから、買い手側は、ここまでに知り得た情報に不確定要素や不安要素があるようであれば、買収価格ではなく価格レンジ幅を持ったものを提示して合意することでリスクを最小限にします。また、スケジュールを設定することになりますので、特に、売り手側の意思決定が遅いと感じている場合など、買い手にとっては大きなメリットとなるはずです。
そして、最大のメリットは、独占交渉権が得られることです。一般的には、買い手側に独占交渉権(排他的交渉権)が付与されます。これによって。買い手は競合の動きを気にせず交渉に専念できます。
補足になりますが、もし、双方いずれかが、上場企業の場合は、基本合意後に適時開示により公表されることが一般的です。つまり、もしこのM&Aが成立しなかった場合、「DDで何か大きな問題が発覚したのか?!」と言う様々な憶測が投資家の間に飛び交うことになります。そのため、双方ともに、なんとか交渉を進めて、無事に取引を成就させたいというインセンティブが働きます。

 

基本合意に盛り込まれる主な事項とは?

ツナグ:なるほど。基本合意ってすごい大きな意味があるんだね?!

基本合意では、大きく分けて二つのことについて合意します。一つは取引条件、そして、もう一つは当事者同士の義務など基本的な約束事です。

ツナグ:買い手としては、”金額”、”M&Aの形態”、”スケジュール”なんかが決まっていれば、動きやすそうだね。

そうですね。まず、もっとも大切なことは、買収スキームと取引価格についてです。取引価格については、これまでの交渉を通じておおむね合意していると思いますので、その金額を明示しておきます。一方で、スキームについては、株主などの同意が必要な場合も多いため、この段階で確定することはできませんが、少なくとも最低取得株式数あたりは明記しておきたいところです。また、先述のとおり買収金額に幅を持たせて合意する場合がありますが、売り手側は、どうしても上限金額に意識がいきがちです。安易に金額の幅を決定することはせず、しっかりと自社内のコンセンサスを得ている金額を上限金額とするようにしましょう。

そして、次に従業員や役員などの引き継ぎ条件についてです。具体的には、従業員の雇用条件の維持や、変更に関しては、重要な基本合意事項になります。一般的な労働者は、法律によって保護されていますが、それに加えて、通常1~2年程度は大きな変更をしないということを合意しておきましょう。一方で、役員については任期もあり、法的な保護はないため、退職慰労金などしっかりと合意しておくことが必要です。
また、M&A後の経営統合作業や、業績改善に集中したいため、許認可や重要な取引先との契約、人員整理や不採算事業からの撤退などは、クロージングの前提条件として売り手側の責任で対応を済ませてもらうことを基本合意にしておくことが重要です。

 

基本合意は守られてこそ

ツナグ:なるほど。買い手にとっては、大きな買い物だし、M&Aが成立してからが本番だっていうこともあるし、不確定要素はできるだけ排除しておきたいですよね!なんだかワクワクしてきた!

そうですね。そのためにも、具体的な基本合意の前提条件についても同意が必要です。
まずは、DDの実施日程や調査範囲などとともに基本合意後速やかに実施することへの合意を確認します。独占交渉権についても同様です。これは、売り手は買い手(当社)以外とM&Aについて交渉を行うことを禁止する条項です。ただし、売り手にとってさらに魅力的な買収提案を受けた場合のために別途協議すると言う項目を入れたり、反故にする場合の罰則規定等も決めることがあります。M&Aが盛んなアメリカでは、すでに違約金の相場もあるようです。
これら以外にも秘密保持や善管注意義務に関すること、有効期限、法的拘束力項目について明確にします。

 

▼まとめ

今回は、M&Aの大きな節目となる”基本合意”について、買い手側の視点に立ってツナグと一緒に学びました。しかしながら、売り手側にとっても「計画通りに譲渡を実現する」という点において、大きなメリットがあるフェーズです。一方で、このフェーズでもっとも大切なことは「対象企業を利用してくださっている顧客や、業務に従事している従業員・役員にとってのメリットをどのように実現するか?」でもあります。くれぐれも本来の目的を見失わないように留意ください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。
中小企業診断士 山本哲也

トップから「少し進めてみようか?」と指示を受けたらまずやるべきこと 続編

今年は、例年になく毎週のように大きな台風が日本列島にやってきていますが、みなさまご無事でしょうか?

前回に引き続き、トップから「この案件、よさそうじゃないか?少し進めてみようか?」と、指示を受けた買い手側のM&A推進担当者が、まずは何から、どのように進めればよいのか?について一緒に考えてみましょう。

 

資料の提供を受けたら、さっそく分析を始めましょう。

依頼した資料が揃い次第、内容の確認及び分析をスタートさせましょう。

分析の切り口は、3つです。まずは、財務面からこれまでの事業運営状態や将来性を明らかにする財務分析。続いて、当社とのシナジーや経営統合によって得られるリソースについて明らかにする事業分析。最後に経営統合後に当社が引き受けることになるリスクの種類や、大きさ、発生可能性などについて明らかにするリスク分析があります。

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財務分析は、損益計算書と貸借対照表をもとにして、過去を紐解く。

損益計算書は、複数年分をエクセルなどに置き換えることから始めます。勘定科目ごとに数年間の平均値と比較したイレギュラーに着目し、その要因を質問項目としてピックアップします。

具体的には、売上や原価については、件数と単価に分解して確認します。単に、増えた・減ったでは、事実確認の論点がぼやけてしまいます。

続いて、費用に関する勘定科目について、変動費と固定費とに分類します。変動費は、売上に連動して増減するものですから、その対売上比率に異常値がないかどうかを確認します。また、固定費は、経年での変化に着目し、増減があれば、その理由を質問項目とします。減価償却費や給与などは、台帳や貸借対照表と突き合わせることで、その要因や背景を明らかにします。

 

貸借対照表も同様に数年分をチェックすることで、イレギュラーを発見するようにします。流動資産や流動負債に大きな変動があるようなら、台帳を確認し、取引先ごとの推移を把握します。決算書の調整に使われやすい以下の項目も同じように台帳を確認します。棚卸資産、仮勘定、貸付金、投資有価証券、関係会社株式、借入金、未収金、未払金など。場合によっては、固定資産の実物も確認するようにします。

 

加えて財務指標分析も行います。それによって、マクロの視点も取り入れることができ、多面的なチェックができるようになります。主なものとしては、収益面や事業性という観点では、売上高営業利益率、ROE(自己資本利益率)やROA(総資本利益率)。安全性の観点では、自己資本利益率や流動比率、効率性の面では、固定比率や有形固定資産回転率などです。過去からの推移だけでなく、同規模の同業者や自社との比較から始めてみましょう。

 

事業分析は、仮説の検証の視点で行います。

事業分析では、3つの切り口で行います。

まず、事業全体を把握するために、原材料仕入れから売上計上に至るまで、どのような取引先とどのような商材をやり取りしているのか?について売上カテゴリごとに整理します。

続いて、SWOT分析です。強み、弱み、機会、脅威といった観点で、自社の内部環境と外部環境の将来変化を加味した上で、作成します。

最後に、この2つの分析結果に自社の内容を書き加えることによって、どのようなシナジーが期待できそうか整理します。例えば、相手先の強みを自社の顧客に提供することによる売上機会の発見や、自社工場や物流などを相手先に提供することによる、コスト削減策の発見などが考えられます。

 

おそらく、資本提携の話題が持ち上がる時点で大まかなシナジーは描いているはずですので、ここでは、さらに定量的に明らかにしたり、あらたなシナジー効果を発見したりすることができればなおよしです。

 

リスク分析は、客観的視点を意識して行いましょう。

ここまでの分析で、手応えを感じて経営統合に対する期待感が高まってしまうと、リスクを過小評価しがちです。その点に留意して、あくまでも客観的に、少しでもリスク要因があれば、いったん洗い出して評価することが重要です。主な観点は以下のとおりです。

 

・業績の先行き見通しはどうなっているか?

・資金繰りの状態はどうか?:経営統合後にすぐに大きな資金需要があるならば、事前に準備しておくことが必要ですし、価値評価(バリュエーション)にその金額も加味する必要があります。

・過去の組織再編について:過去にも経営統合や分社化などの組織変更を行っているか?行っていれば、組織変更に至った背景や結果評価について明らかにします。

・取引先との関係性:今後も継続取引が可能な相手先か?当社との関係性に問題はないか?現状通りの内容で継続取引が可能な契約か?

・在庫に異常値がないか?:急な増減がないか?そもそも実在庫の有無や商品価値があるかなどの観点で状態確認を行ってください。このあたりは、財務分析と併せて行います。

・固定資産の確認:不動産や設備が実在するか?固定資産台帳の評価と齟齬がないか?更新投資の時期の見通しなどについて確認します。

・顧客からのクレーム:訴訟に至っているような重大案件の有無や、日常的な発生頻度などを明らかにします。

・訴訟リスク:未払い残業代やセクハラ・パワハラといった労働者とのトラブルがないか?未払いや前払い、簿外債務など取引先との金銭トラブルの可能性がないか?

・売手に親会社があれば、そちらが担当している業務がないか?親会社との関係がなくなれば、その業務は当社か対象会社で行う必要があり、コストアップの要因になります。

これら以外にもまだまだ、業種や業態、企業規模によって分析すべきテーマは多くあります。大型の案件や対象会社が自社と離れた領域にある場合は、各方面の専門家も交えた分析を行うことも検討してください。

 

初期分析が終わったら次にすること

社内での初期分析では、相手先への追加確認リストと経営層へのレポートの作成をゴールとします。分析が完了したら、さっそく経営層に対して現状段階での提案と追加確認リスト及びその確認結果が提案にどのように影響を与えるのか?について報告をします。そして、次のステップに進むかどうかの決裁を仰ぎます。

 

判断軸は2つあります。まず、資本業務提携の魅力度(メリット、デメリット)とリスク(発生可能性と重大性、未知のリスクの潜在可能性)でマトリックスを作成し、結論付けます。

1.積極的に進めるケース:提携魅力度が高く、リスクが低いと見立てたケース

2.徹底したデューデリジェンスと慎重な意思決定を要するケース:提携魅力度が高いが、リスクの重要度または、発生可能性が高い、潜在リスクが不透明などと見立てたケース

3.必要性を十分に検討した上での意思決定を要するケース:提携魅力度は高くはないが、リスクも顕在化しており、重要度も低いと見立てたケース

4.提携を断念するケース:提携魅力度が高くはなく、リスクが高い、または不透明と見立てたケース

 

M&Aに限らず、事業活動の評価は、企業、経営者、成長ステップなどによってケースバイケースです。しかし、事業成長のチャンスは、私たちの判断をじっくり待ってはくれません。スピードある判断を下すために、私たちにできることは、チームメンバーや経営層とともに自社の判断基準を事前にリスト化しておくことです。

どんなシナジーを求めているのか?どのようなリスクを避けたいのか?安定性か成長性か?など案件発生前にリスト化しておくことで各案件を定量的に分析し、結論付けることが可能になります。これは、提携先候補の洗い出しにも必要になる考え方です。社内の意思統一にも役立ちますので、早めに取り組むことをお勧めします。

 

まとめ

前回と今回では、M&A推進担当者の初動における留意点について、一緒に考えてみました。案件が商談に進む前から費用をかけて専門家に依頼することは難しいでしょうから、M&A推進担当には、M&Aに関する専門知識の他にも、経営全般にかかわる広範な知識が求められます。

そのためにも、経営全般に関する知見を獲得するよう、地道な学習に取り組んでください。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本哲也

トップから「少しすすめてみようか?」と指示を受けたらまずやるべきこと

みなさまこんにちは。ようやくマスク生活が終わると予想していたところの第7波。それに加え、連日の猛暑ですから、すでに夏バテ気味という方も多いのではないでしょうか?

本日は、トップから「この案件、よさそうじゃないか?少し進めてみようか?」と、指示を受けた買い手側のM&A推進担当者が、まずは何から、どのように進めればよいのか?について一緒に考えていきましょう。

なにはともあれ、自社の戦略の方向性との整合性を確認しましょう。

トップからの指示があるということは、イコール、社内コンセンサスが取れているM&A戦略に沿っている、または、自分たちのビジネスの方向性に適合しているのだと考えられます。しかし、実際には、経営者が長年鍛えてきた“勘”のようなものが働くことも多いものです。ですから、担当者として、まずはどのような観点からGOサインが出たのかについて分析し、買収を検討する目的について明確にする必要があります。もし、可能であれば、早い段階で直接トップに確認しておきましょう。

トップの判断基準を知ることは、対象企業の初期分析のポイントを絞ることに繋がり、メリハリとスピード感のある報告が可能になるからです。さもなければ、360度、全方位に神経を使った情報収集をする羽目になるでしょう。

方向性を確認したら、対象企業及び所属している業界の情報収集をしましょう。

業界の情報収集は、同業界であれば、自社の関係部署へのヒアリングや資料の共有を依頼すれば良いのですが、異業種・異業界の場合は、オープンデータに当たる必要があります。専門書やネットを活用したり、取引金融機関に相談したり、同業界に取引先があれば、そこへ相談する方法もあるでしょう。スピードを優先して、それぞれ同時並行で進めましょう。

ただし、社外はもちろんのこと社内においても情報漏洩のないよう、慎重に進めることが重要です。

しかしながら、この時点で把握できる内容は初歩的なことに限定されています。まずは、業界の概要を理解するために、一般的なサプライチェーンやバリューチェーンについて、他社と対象企業との違いを中心に理解を進めるようにします。

また、業界全体のトレンドについても把握します。具体的には、景況感や課題感、法的規制や市場の変化などについて、国内だけでなく海外についても同時に情報収集しましょう。それによって、対象企業の置かれた外部環境の実情への理解が進みます。

相手先への接触は慎重に

対象企業の外部環境が把握できたら、さっそく相手先へ接触し、先方の個別具体的な情報の収集に取り組みます。

具体的なアプローチ方法には以下のような方法が考えられます。

まず第1に、対象企業への直接アプローチです。この場合は、必ず自社のトップの承認を得た上で最低でも経営層に動いてもらうようにしましょう。最重要経営課題ですから経営層自らが動くのが当たり前ですし、初動段階とはいえ中間管理職レベルの人間が接触したのでは、相手先からすると「軽んじられている」と心情を害すようなことになりかねません。そんなことでは、案件の成功は見通せないでしょう。

続いて、FAなど専門家を仲介者として採用するケースがあります。その場合のメリットは、自社の社名を出さずに対象企業の感触を知ることができる点にあります。その場合でも必ずトップの決裁は取り付けておくことが重要です。なぜなら、案件が一定程度進んだ段階で、「トップが乗り気ではなく・・」なんてことが起きたら、自社の信用問題に発展し、今後のM&A活動に大きなマイナスの影響が発生するからです。金融機関やM&A仲介会社などから相手にされなくなってしまいます。彼らは、意外に横の繋がりを持っており、情報共有もさかんに行っていますので、注意が必要です。

そして、金融機関などの専門家を仲介者として採用するケースです。その場合のメリットは、2つ考えられます。まずは、対象企業のメインバンクを通じることができれば、高いプライオリティをもって真剣に検討をしてもらえる可能性が高まるでしょう。次に、こちらのメインバンクに動いてもらった場合には、買収資金の相談を兼ねることができますし、業界情報や対象企業以外の売り手企業についての提案を受けることが期待できるでしょう。

一方でデメリットとしては、金融機関が検討の場に参画することで、彼らの思惑を含んだ助言が想定されるため、良きにつけ悪しきにつけその影響を受けることが想定されます。また、自社のメインバンクと対象企業のメインバンクとの関係性など、自社に全く関係のない登場人物に翻弄される可能性も出てきてしまいます。

最後に、スモールM&Aでは多いのですが、対象企業の関係者(先方が信頼をおいている人物や組織)を通じて交渉するケースが考えられます。具体的には、対象企業のOB、業界団体や地元経済団体の重鎮などです。

これらの組み合わせを駆使することで、初回のトップ会談をいかにスピーディーに行うかが、案件の成否に大きく影響することは間違いありません。

対象企業へのアプローチにはどんな準備が必要か?

さて、首尾よく対象企業との接触の機会を得たら、さっそく準備を進めましょう。

まずは、会談のロケーションですが、対象企業に打診することになりますが、できれば、仲介者のオフィスやホテル、レストランの個室など目立たない場所が良いでしょう。

次に提案書です。提案書では、当社がなぜその案件を企画したのかについて双方のメリット(経営課題の解決)をまとめる必要があります。

具体的には、①案件を提案した自社の目的、②業界環境及び対象企業に対する当社の認識、③買収後の経営方針、④期待しているシナジーと双方のメリット、⑤事業計画や実現したいビジョン、⑥買収スキームや条件面、⑦両社だけでなく両社のステークホルダーのメリット、などが一般的な項目です。

いずれの項目においても、自社都合ではなく、相手先企業とwin-winの関係を目指していることが伝わるようにまとめることがポイントです。

デューデリジェンス前の初期調査

最終的には、法務・財務・ビジネスについてのデューデリジェンス(以下DD)をそれぞれの専門家を通して行うわけですが、その案件についてDDを行うかどうかの判断は、担当者レベルの初期調査で行います。

具体的には、①企業概要、②事業概要、③組織構造、④人的資源、⑤サプライチェーン、⑥財務面などについて、可能な範囲で情報提供を依頼します。もちろん、事前にNDA(機密保持契約)の締結を行っておくことは言うまでもありません。

それぞれの項目の留意点は、以下のとおりです。

①企業概要:法人登記や、ホームページ、会社案内などで確認できるでしょうから、特に情報提供を受ける必要はないでしょう。

②事業概要:定量的なものは、財務諸表の提供を受けて分析することとして、それ以外のオープンになっていない経営計画など定性面での情報提供を依頼しましょう。

③組織構造:よほど大きな組織でなければ、人名の入った組織図や各部門の職務分掌などを依頼します。また、関連会社やその業務内容、過去の組織再編などについても開示を依頼しましょう。

④人的資源:労働契約形態別の人数、年齢・性別などの概要。労働組合があれば組合との関係性や過去の経緯、退職金や残業代の現状などが主なところでしょう。個人情報が含まれる可能性もありますので、慎重な取り扱いが求められます。

⑤サプライチェーン:事前に調査したものをベースに、取引先・取引内容や規模などを確認します。また、組織再編によって取引に影響がでるような取引先の有無についても確認します。

⑥財務面:財務諸表について、できれば10年程度の提供を受け、分析を行います。分析の観点は、収益性、効率性、安全性の3つです。加えて、業界標準との違いや経年での変化などに着目します。特に貸借対照表では、引当や繰り延べ税金資産、固定資産の実態などについて概略だけでも確認したいところです。

一方で、この段階では、あまり突っ込んだ質問や追加の資料提供をお願いするわけにはいきませんので、事前に調査していた内容との整合性や、DDに向けた確認リストを作ることが目的です。そして、初期調査が完了したら、経営層へのレポートを行い、次のステップに進むかどうかの決裁を仰ぎます。

まとめ

今回は、M&A推進担当者の初動における留意点について、一緒に考えてみました。案件が商談に進む前から費用をかけて専門家に依頼することは難しいでしょうから、M&A推進担当には、M&Aに関する専門知識の他にも、経営全般にかかわる広範な知識が求められます。

そのためにも、経営全般に関する知見を獲得するよう、地道な学習に取り組んでください。

本日も最後までお読みいただきありがとうございます。次は、あなたのビジネスにご一緒させてください。

中小企業診断士 山本 哲也

M&Aの目的を達成するための事業DD②

事業DDの続き

今回は、前回に引き続き事業DDとは具体的にどのようなことを行うのかについて説明をしていきたいと思います。

 

内部環境分析について

事業DDでもっとも重要なのが、内部環境分析です。売り手が業績不振を背景にM&Aを希望する場合、内部環境に何らかの問題を抱えていることが少なくないからです。

内部環境分析際は、おおむね以下の観点から検討を加えていきます。

1 企業の経営理念とこれに基づく経営戦略

2 経営戦略を実行する組織の体制と従業員

3 営業活動

4 財務状況

 

企業の経営理念とこれに基づく経営戦略

経営理念とは、経営者が考える当該企業の存在意義をいいます。経営理念は抽象的なものであり、それ自体に何か問題があるということは少ないといえます。しかし、経営理念は、経営戦略の方向性を決定するものです。

経営戦略とは、企業がどの事業領域(ドメイン)を設定し、その中で限られた経営資源を活用していかに持続的競争優位性を確保していくかの具体的な指針です。企業の経営戦略の中には、単に外部環境に対するその場しのぎの対応となっており、一貫性を欠くものがあります。経営理念と関連付けることで、一貫した経営戦略を立てることができるといえます。事業DDでは、このような問題がないかを確認していきます。

 

経営戦略を実行する組織の体制と従業員

『組織は戦略に従う』(チャンドラー)との指摘もあるように、一貫した経営戦略を立てていたとしても、戦略に対応した組織体制になっていないことがあります。例えば、経営戦略としては、現場重視でボトムアップ型の意思決定や柔軟な対応を志向しているにもかかわらず、実際の組織体制は、社長に権限が集中しており、トップダウン型の意思決定になっていたり、現場に権限がなく画一的な対応しかできなくなっていたりしているといったようなものを上げることができます。仮に経営戦略に合わない組織体制となっている場合は、どうすれば組織の改善ができるかも併せて検討していきます。

そして、組織を構成する従業員に関する検討も内部環境分では欠かすことができません。従業員の属性(年齢・役職・勤務年数)のバランスは適切か、業務に必要なスキルを有している従業員を確保できているか、人材の育成体制(特にOJT)は整っているか、公正な給与体系や人事評価になっているかなどを確認していきます。

 

営業活動

いうまでもなく、営業とは製品やサービスを売るための活動です。事業DDでは、売れるための仕組みをどのようにして作っているかを確認していきます。その際に用いる分析の枠組みとして4Pと呼ばれるものがあります。4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通・販路(Place)、販促(Promotion)の4つをいいます(いずれも「P」で始まることから4Pといわれています。)

これらの切り口に着目して、市場、ニーズの把握は適切か、自社の強みが発揮できているか、競合との差別化・優位性が確保できているか等について確認していきます。このほか、具体的な業務の流れに着目し、無駄な作業がないかなどを確認していきます。そして、問題があるようであればその原因と改善の方向性も併せて検討していきます。

 

財務状況

決算書を用いて、財務状況を分析します。分析の際は主に、収益性、効率性、安全性の3つの観点から分析をします。

収益性とは、会社が利益を獲得する能力をどの程度保有しているかを示すものです。ここにいう「利益を獲得する能力」とは、具体的には売上げに対して、どの程度利益を上げることができるかを意味します。したがって、収益性は、「売上高営業利益率」などのように、売上高に占める利益の割合が指標として用いられます。

効率性とは、事業に用いるために投下された資産による売上への貢献がどの程度あるかを示すものです。ここにいう「投下された資産」とは、棚卸資産(在庫商品)や固定資産等を意味します。効率性は、「固定資産回転率」などのように、主に売上を事業に要する資産で除したものを指標として用います。

安全性とは、会社が負担している債務についてどの程度弁済能力があるのかを示すものです。安全性は、短期の債務の支払能力に関する短期安全性(流動比率など)や会社の長期にわたる資金調達の健全性に関する長期安全性(自己資本比率など)があります。

前回のコラムでも述べましたが、事業DDにおいて重要なのは、指標という数字そのものではなく、「なぜそのような数字となっているのか」・「どうすればその数字は改善できるのか」をこれまで行ってきた経営戦略、組織、営業に関する検討の結果を踏まえながら具体的に分析していくことです。定量的な分析と定性的な分析とが合わさることによって深みのある分析が可能となります。

SWOT分析と事業の評価について

SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)に分けて4象限の表を用いて分析するものです。SWOT分析の表は一覧性に優れているので、これまでの分析のまとめとして用います。

そして、SWOT分析を踏まえて、当該企業がM&Aの売り手の抱える問題点と改善の方向性・可能性のほか、買い手にとって当該企業のM&Aがどのようなメリットをもたらすかについても分析していきます。

 

M&A後を見据えて

本稿では、2回にわたり事業DDの概要について解説しました。特に買い手にとって、M&Aはゴールではなく、新たな事業展開のスタートであるといえます。とはいえ、M&Aの交渉を行っているとどうしてもM&Aを成立させることに注視してしまいがちです。その意味で、M&A後を見据えた検討を行うためにも、事業DDは有効なといえるのではないでしょうか。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 

M&Aの目的を達成するための事業DD①

財務DDだけがDDではない!

いうまでもなく、M&Aを行ううえでデューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は不可欠なものです。

とはいえ、小規模なM&Aの場合、財務DDしか行っていないということも少なくないと思います(なお、M&Aの規模が小さい一方、DDに要する費用が高額であるとして、財務DDすらしない場合があると聞いたことがありますが、これは極めて危険な行為というほかありません)。

しかし、財務DDだけがDDではありません。そこで、今回は、財務DD以外のDDのうち、事業DDについて説明します。

 

買い手のM&Aを用いた戦略を進めるうえで重要となる事業DD

事業DDとは、売り手が行う事業の将来性や買い手が行う事業とのシナジー効果等について評価するものです。

そもそも、買い手がM&Aを検討しているのは、自社の事業が有していない新たな分野への進出を図ることや自社の既存事業と売り手の事業との相乗効果を図ることなどの何らかの目的があるためです。この点に関し、事業DDは、買い手がM&Aをすることによって目的を達成することができるかどうかを確認するものであるといえます。また、事業DDを行うことでM&Aを行う目的がより具体的になってくることもあり得ます。

このように、実は、事業DDは買い手のM&Aを用いた経営戦略を進めるうえで極めて重要なものであるといえます。

 

売り手が再生を要する場合にも重要となる事業DD

このほか、売り手が再生を要する場合にも事業DDは欠かせないものといえます。再生を要する売り手の場合、収益状況や財務状態に何らかの問題を抱えています。M&Aののち、買い手が売り手の収益状況や財務状況を改善して再生することができるのかを見極めるためにも、事業DDを行うことが重要であるといえます。

このようなことをいうと、収益性などは財務DDで確認できるので事業DDは不要ではないかと考える方もいるのではないかと思います。しかし、財務DDはあくまで貸借対照表や損益計算書などをもととした『数字の分析』が中心となります。その一方で、事業DDでは経営指標等の『定量的要因』を考慮しつつ、売り手が有する強み・弱みといった内部環境や機会・脅威といった外部環境などの『定性的要因』と併せて総合的に検討して、売り手が抱える問題点は何かを特定し、改善のための方向性などを提案していきます。この点で、事業DDと財務DDとは一部において重複する部分もありますが、その本質は大きく異なるものであるといえます。

 

事業DDでは具体的にはどのような内容を取り扱うのか

事業DDでは、おおむね以下の内容について取り扱います。

① 会社概要

② 外部環境分析

③ 内部環境分析

④ SWOT分析

⑤ 事業に関する評価

これらのうち、会社概要とは、その企業の概要、株主構成、組織概要、事業の構造などの一般的な事項についてのものですので、実質的には外部環境分析及び内部環境分析並びにこれらに基づくSWOT分析と事業に関する評価が中心となります。

 

外部環境分析について

外部環境とは、企業を取り巻く環境のうち、自社ではコントロールすることができないものをいいます。

事業DDにおいて外部環境を分析するのは、現在買い手が行う事業が抱える問題点の原因とともに、今後の事業展開における機会や脅威となる要因を明らかにすることによって、問題が解決する可能性の検討を行い、当該事業の評価を行うためです。

外部環境を分析する際に着目すべき要素を体系化したものとして、PEST分析と5(ファイブ)フォース分析があります。

PEST分析とは、P(Politics(政治))、E(Economy(経済))、S(Society(社会))、T(Technology(技術))の要素に着目して外部環境を分析するもので、主にマクロな視点で外部環境を分析するものです。

5フォース分析とは、競合各社や業界全体の状況などの企業を取り巻く5つの脅威に注目し、事業の利益の上げやすさを分析するものです。その意味でPEST分析と異なり、ミクロな視点で外部環境を分析するものといえます。

5つの脅威とは具体的には以下のものを指します。

① 新規参入の脅威

参入障壁が低い業界・市場の場合は、新規参入により競争が激化し、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

② 競合の脅威

新規参入のみならず現在既に存在する競合企業との競争が激しい場合も、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

③ 代替品の脅威

自社の製品に代わる新しい製品が出現する可能性が高い場合は、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

④ 買い手の交渉力

顧客が競合の製品を購入しやすい場合は買い手の交渉力が強いといえ、利益を上げるための価格で製品を販売しにくくなることから自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

⑤ 売り手の交渉力

自社の事業に必要な原材料などが特殊で、仕入先(売り手)が自社よりも優位な立場にある場合は売り手の交渉力が強いといえ、仕入の価格が高くなりがちになることから、自社の事業が利益を上げることが困難となる可能性があります。

 

次回の予告

次回は、今回の続編として内部環境分析の具体的な内容と外部環境分析・内部環境分析に基づくSWOT分析と事業に関する評価について説明します。

 

弁護士・中小企業診断士 武田 宗久